映画の中の、あのカメラ|23 ロストワールド/ジュラシックパーク(1997) ニコン F5

映画の中の、あのカメラ|23 ロストワールド/ジュラシックパーク(1997) ニコン F5

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。唐突ですが、映画の小道具でカメラが出てくるとドキッとしてしまい、俳優さんではなくカメラを凝視してしまったという経験はありませんか? 本連載『映画の中の、あのカメラ』は、タイトルどおり古今東西の映画の中に登場した“気になるカメラ”を毎回1機種取り上げ、掘り下げていきます。

フルCGリアル恐竜映画の第2弾

今回取り上げるのは、スティーヴン・スピルバーグ監督の映画『ロストワールド/ジュラシックパーク』です。本編は、リアルなCGを用いて恐竜を動かしたことで映画史のマイルストーンとなった1993年公開の映画『ジュラシックパーク』の続編にあたる作品。ジュラシックパークでの惨劇から4年後、恐竜をクローン生産する拠点となっていたコスタリカの離れ小島“サイトB”に派遣された調査隊と、恐竜を島の外に持ち出すべく組織されたハンター集団のサバイバルを描いたアクション大作です。

ステゴサウルスの赤ちゃんに肉薄するニコン

前作から続投している一本気な古代生物学者サラ・ハーディング(ジュリアン・ムーア)は、恐竜の社会的な生態仮説を実証すべく単身“サイトB”へ。そこに合流してきた調査隊のカメラマン、ニックの持っていたニコン F5を『それ、ニコン?』(公開当時はこのセリフがありましたが、現在配信中の再編集版では『それ日本製?』に差し替え)と尋ねるや否やなかば奪うようにして発見したステゴサウルスの巣にズカズカと入り込み、赤ちゃんステゴサウルスの鼻に触れるほどの距離に肉薄してガツガツと写真撮影するというシーンが登場します。

1996年発売のAFフラッグシップ機

ニコンF5は、1996年に発売されたニコンのフラッグシップAF一眼レフです。映画の制作時期を鑑みると当時最新鋭の機材でニックは“サイトB”に向かったことになります。本機は前旗艦機F4で議論を巻き起こしたエンジニアリングプラスチック外装から転換して縦位置グリップ一体型のマグネシウム合金チクソモールディング製法による外装を持ち、最高速度秒間8コマの高速連写、5点測距AF、3D-RGBマルチパターン測光機能を搭載し、撮り逃しが許されないプロの撮影を支えるべく設計されたフィルムAF一眼レフの最高峰モデルです。

液晶モニターのない簡素な後ろ姿

20世紀の終わりに登場したニコンF5は、その後に発売されていくことになるニコンのデジタル一眼レフ旗艦機のご先祖さまのような姿をしています。とはいえ、後ろ姿を拝見するとフィルム機らしく極めてシンプルで、右手親指での操作を想定した4方向に動かせるカーソルがあるだけ。これは、より多くの撮影シーンで威力を発揮すべく新開発された5つのフォーカスエリアを指定するのに使うもの。ファインダーの視界には日の丸と同程度の比率で配置された円周に右、左、上、下、そして真ん中の5箇所フォーカスエリアがあり、液晶でインポーズされた箇所(視認性はいまひとつ)でAFが作動するというもの。裏蓋下部にはパカっと開く小さな蓋があり、ブラケティング露光などの設定をすることができます。

3D-RGBマルチパターン測光機能を搭載

20世紀の終わりにプロフェッショナルが用いるフィルムは、ネガフィルムよりも露出許容度の低いカラーポジフィルムが主流でした。このことから撮影時の適正露出による露光に対する要求は極めて厳しいものだったようです。ニコンF5は新機軸の3D-RGBマルチパターン測光機能を搭載。ボディに内蔵された1005分割のRGBセンサーで画面の明るさと色を細かく読み取り、測距された距離情報をカメラに伝達する機能を有するAFニッコールDタイプレンズとの併用で背景に引っ張られない適正露出を判断するという高度な測光システムでした。そんな複雑なことをされると逆に困るということでしたら、スポット測光やシンプルな中央重点測光に切り替えることもできます。

最高速度1/8000秒のシャッターを搭載

ニコンF5のシャッター最高速度は1/8000秒。これはフィルム縦方向に走行するシャッターブレードのスリットが生み出す物理的な露光時間です。おそらく本機の発売当時は日中に大口径レンズを開放絞りにしてボケの大きな写真を撮るのに高速シャッターが必要だというような趣味的な需要ではなく、たとえばブーメランでリンゴを真っ二つにする瞬間など、高速で動く被写体のブレを防ぐために求められていたと推測できます。ちなみに本機のシャッター耐久回数は公称15万回。36枚撮りフィルムで4000本を超えたあたりで挙動が怪しくなるかもしれないという計算ですから、かなりタフなメカニズムです。

電源は単3電池8本が基本の仕様

ニコンF5は秒間8コマもの高速連写が可能なだけに電気を食います。そんなわけでカメラの底面部分は電源ユニットで占められています。標準の装備は単3電池8本12Vの仕様。そんなに頑張らなくてもいい撮影のときでも、もれなく単3電池8本を本体に収めておく必要があります。撮影枚数の多いユーザー向けには純正の二次電池として、ニッケル水素電池MN-30を専用充電器MH-30でチャージして使うというオプションもありました。いずれにしてもカメラ本体は鈍器のようなサイズ感と重さです。そこで、カメラを持ち運ぶのが仕事みたいな状況が嫌な人に向けては、F5ジュニアというキャッチフレーズとともに単3電池4本で動くニコンF100という兄弟機が1998年に登場することになります。

ニコン旗艦機伝統の交換式ファインダー

1959年に登場して世界のプロフェッショナルがこぞって使うことになったニコンF以来、ニコンのフラッグシップ機はファインダーが交換できることを特長としていました。F5もその伝統を守り、視野率100%でファインダー倍率0.75倍のハイアイポイントファインダーDP-30を標準装備としながら、ヘルメットやゴーグルを装着したり航空写真などの撮影時に接眼部から目を大きく離しても全視野が見られるフォトミックアクションファインダーDA-30、ウエストレベルファインダーDW-30および高倍率ファインダーDW-31が用意されていました。これらの交換ファインダーにどの程度の需要があったのか不明ですが、ファインダーブロックを引き抜く瞬間には何かトキメキのようなものを感じます。電動で巻き戻しされるので使うかどうかわかりませんが、ニコンF5にはフィルム巻き戻しクランクも装備されています。

まとめ

もはや、絶滅危惧種の域を超えて絶滅してしまった35ミリ判フイルムAF一眼レフ。その進化の頂点に位置していたのがニコンF5であったのだと21世紀の現在では俯瞰することができる気がします。趣味の世界で使いこなすには大きく重く、溢れんばかりの過剰なスペックが満載されている本機ですが、その過剰さをあえて楽しむという趣向で使ってみるのも面白いかもしれません。今回セットした交換レンズはAI AFニッコール24mm F2.8Dですが、ステゴサウルスの赤ちゃんの鼻先40cmの間合いでナショナルグラフィック風のショットをものにするなら、このレンズの画角が好適ではないかと考えたからです。ちなみに映画本編で装着されているのは50mmの標準レンズで、最短撮影距離は45cm。あの状況で撮影すると、恐竜の鼻先はピンボケになってしまうと思います。

 

 

■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。企画、主筆を務めた「LEICA M11 Book」(玄光社)も発売中。

 

 

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