映画の中の、あのカメラ|19 MINAMATA(2020) ミノルタ SR-T101

映画の中の、あのカメラ|19 MINAMATA(2020) ミノルタ SR-T101

はじめに

皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。唐突ですが、映画の小道具でカメラが出てくるとドキッとしてしまい、俳優さんではなくカメラを凝視してしまったという経験はありませんか? 本連載『映画の中の、あのカメラ』は、タイトルどおり古今東西の映画の中に登場した“気になるカメラ”を毎回1機種取り上げ、掘り下げていきます。

産業公害=社会の吐き出す毒と対峙する物語

今回取り上げるのは、アンドリュー・レビタス監督の映画『MINAMATA』です。熊本県水俣市にあるチッソ水俣工場が海に垂れ流す有害物質により環境が汚染され、凶悪な神経毒性を持つ有機水銀に冒された住民には恐るべき健康被害が生じていました。激化する抗議運動と、それを権力で蹂躙・懐柔する会社側(すなわち日本社会)。そんな光景に向き合い、小さくされた人々への心からの共感を持って撮影された一連の写真は、米国LIFE誌のフォトストーリーとして掲載されることに。本作は実話をベースに現在でも世界中で深刻な被害をもたらしている環境汚染へ警鐘を鳴らす珠玉の1本です。

伝説の写真家が水俣で手にしていたカメラ

劇中で、史上最も偉大なフォトジャーナリストと讃えられるユージン・スミス役を熱演するのはジョニー・デップ。スクリーンに映し出されたその姿はユージンそのもの。カメラマンの物語なので映画には数多くの種類のカメラが登場するのですが、その中でメインの機材となるのが今回ご紹介するミノルタSR-T101です。1971年から3年間、ユージン・スミスのアシスタントとして水俣で活動していた写真家の石川武志さんのコメントによると、実際にミノルタを使用していたとのこと。しかもそれはミノルタに申し出たところ快く提供してくれた機材で、ちなみにニコンにも同様のオファーをしたけれど断られてしまったそうです。

過不足ない仕様の丈夫な機械式一眼レフ

ミノルタSR-T101は、1966年に発売開始された35ミリ判のレンズ交換式一眼レフです。直線基調でデザインされた四角いボディと大ぶりなペンタプリズムカバーから受ける印象から“マッコウクジラ”とこのカメラを呼ぶ人もいました。オーソドックスな4軸機械式の横走り布幕フォーカルプレーンシャッターは1/1000秒から1秒で作動し、シャッターボタンと同軸に設けられたフィルム巻き上げレバーは小刻み操作も可能。セルフタイマーと絞込みレバー、ミラーアップ機構も内蔵された実用に充分な仕様を持つカメラでした。

世界初の分割測光CLCシステムを採用

この当時のミノルタのロゴは小文字です。その後のCI(コーポレート・アイデンティティ)ブームに煽られて変更した大文字のロゴよりも清楚な印象ですね。そのロゴの左下にCLCとあるのは、ミノルタ独自のコントラスト・ライト・コンペンセーターと呼ばれる測光システムを表しています。それはカメラを横位置に構えた際に画面の上半分(主に空・明るい部分)と下半分(地面や被写体など・暗い部分)の2箇所を測り、その平均値を算出するという分割測光の先駆けとなる方式です。このことからCds(硫化カドミウム)受光素子がペンタプリズムの稜線に沿って上下にレイアウトされているのでプリズムカバーが上に伸びて“マッコウクジラ”みたいな雰囲気を醸し出しているのです。ちなみに他社の一眼レフではペンタプリズムがアイピースと接する断面の左右に受光素子を置くのが定石でした。

露出計にはボタン型の水銀電池を使用

このカメラは機械式のシャッターなので作動させるのに特に電源は必要ありません。露出計にはMR-9型の水銀電池を使用します。1990年代に環境負荷への配慮ということで(それまでのことは特に触れないままで)水銀電池は販売が中止されたので、現在では同等のサイズで電圧が少し高いアルカリボタン電池を代用品とすればメーターを動かすことが可能です。ファインダーの視界右サイドにはシャッターダイヤルおよび絞りリングと機械的に連動する腕木があり、その先端の丸印を光に応じて動く指針に合わせることで適正露出となります。視界下端にはシャッター速度を示すスケールも用意されていて使い勝手は上々です。

開放測光に対応するMCロッコール

ミノルタSR-T101の発売と同時に、開放測光に対応するための連動機構を搭載したMCロッコール交換レンズがリリースされました。それ以前のレンズとバヨネットは同一です。ミノルタのMFシステムはMCロッコールの後には絞り優先・シャッター優先およびプログラムAEを搭載したミノルタXDに対応すべく、絞りの動特性を向上させたMDロッコールへと進化していきます。ちなみにMCロッコールには大きく2世代があり、ピントリングがローレット加工の金属製でエッジが銀色の前期型と、ピントリングに合成ゴムのブロックパターンが巻かれた真っ黒い後期型が存在します。

『MINAMATA』のポスタービジュアルで後期型のMCロッコールが使われているのは時代考証としては微妙に惜しい部分ですが、そのことが映画の素晴らしさを貶めることはありません。

改良機のSR-Tスーパーとの違い

ちなみに後期型のMCロッコールと時代的にマッチするのは、1973年に発売開始されたSR-T101のバージョンアップモデルにあたるSR-Tスーパーです。写真左の黒いボディがSR-Tスーパーで、主な改良点としてはシンクロケーブルを用いなくてもアクセサリーシューにフラッシュを装着するだけで発光させられるホットシューの接点が設けられたことやファインダースクリーンが改良されたことに加え、ファインダー内で絞り値が直読できるようになったこと。この光路を確保すべくプリズムカバーが前に迫り出してきたので“マッコウクジラ”感がマシマシになっています。7年かけてあまり進化していないように見えますが、これはSR-T101の基本仕様がしっかりしていたことの証とも言えます。大きな違いとしては使用されるネジがマイナスからプラスになり、組み立ての効率化が進んでいることぐらいです。

まとめ

映画のクライマックスでは、ユージン・スミスの代表作である重要なカットを撮影するシーンにも本機が登場します。ミノルタの機械式一眼レフを代表するモデルであるSR-T101は、丈夫で使い勝手にすぐれた実用機です。適切なメンテナンスを施すことで、まだまだ現役で使い続けることが可能なのは機械式カメラの美点です。とはいえ直径数ミリのプーリーと糸の引き回しで実現している露出計の連動機構はトリッキーな構造であり、そこを分解しない限りファインダースクリーン内の清掃ができなかったりシャッタードラムの軸に注油できなかったりしますので、整備は細心の注意を要するものです。このことから、中古品を求める際にはコンディションをよく確かめてから入手されると良いかと思います。

 

 

■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。企画、主筆を務めた「LEICA M11 Book」(玄光社)も発売中。

 

 

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