佐藤俊斗 × ポートレートvol.6|空間と光

佐藤俊斗
佐藤俊斗 × ポートレートvol.6|空間と光

はじめに

こんにちは。写真家の佐藤俊斗です。
最近は急に肌寒くなり、秋から冬への季節の移り変わりを感じますね。

連載第6回目は「空間と光」をテーマにお話ししていきます。
これまで「光の捉え方」や「光と影の表現方法」など光をテーマとした内容は何度かテーマ分けしてご紹介してきました。そんな中で今回は、私が実際に撮影で実践している光の選び方や空間とのバランスについて具体的にお話ししていきたいと思います。まさに実践編になりますのでぜひ最後までご覧ください。

今回はカフェと街撮りの2パターンで撮影を行っています。限られた空間でのカフェ撮影と、抜け感や光の角度を調整しやすい街撮りの撮影。どちらも、その時その瞬間にしかない光の種類を見極めながら撮影を行う必要があります。皆さんならどのように撮影をするか考えながら記事を読んでいただけたら嬉しいです。

 

空間の見極め方

皆さんは撮影の際に「空間」を意識した事がありますか?
私は撮影する時はどんな場所でも、必ず空間を意識して撮影に臨みます。空間とは?と、思われる方もいらっしゃるかと思いますが、空間を意識することは奥行きや背景のバランス、写真の完成度を上げる為の必須項目になります。そして、その次に光を意識することでさらに被写体の魅力を引き出すことができ、安定した撮影が行えるようになります。

最初はカフェでの撮影ポイントを解説していきます。
スタジオとは違い撮影環境が整っていないカフェで撮影を行う場合は、店内全体の空間の見極めと抜け感を作れる場所を見定める必要があります。

下の写真をご覧下さい。

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/4 1/250秒 ISO250 焦点距離65mm
■モデル:藤田みりあ

狭い店内で抜け感が作りづらい環境だったので、まずは人混みを避けて撮影のできる場所を選びシンプルに切り取ってみました。モデルさんが素敵な方だったのですでに魅力的な写真といえるでしょう。カフェでふらっと撮るような普段の撮影において、この画角での一枚で十分だと満足する人が多いのではないでしょうか。

それでは、先ほどの写真の右端をよくみてみてください。同系色の服で分かりづらいですが、少しだけ写り込んでいる人がいるのがわかります。これを避けるために、次の一枚では向かって右側に首を傾けてもらうようモデルさんに指示をして、少し寄った画角で切り取ってみました。

次の写真をご覧ください。

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/4 1/200秒 ISO250 焦点距離68mm
■モデル:藤田みりあ

いかがでしょうか?
背景に写り込んでいた人も隠れ、先程よりもさらにモデルさんの目に光が入り込んだり、動きがあることによってより魅力的に写っているかと思います。

さて、ここで大事なポイントは首を右側に傾けてもらった以外にもう一つ大事なポイントがあるのですが、皆さんはお分かりになりますでしょうか?
実は、首を傾けてもらうことで人を隠すのと同時に、写真の左上に”空間”を作っているんです。これが上記で説明した空間を見極める、ということです。

当然のことながら、撮影を行う上で大事なことはプラスの要素とマイナスな要素を把握しながら、その場で解決しながら切り取っていくこと。撮影時の視点が、背景や余白を気にせずに被写体を写す事ばかりにいってしまうと、いわゆる「彼女感」のような要素が前に出過ぎる写真になってしまいます。

どんなに限られた空間であったとしても、周りに複数人がいる場合は、しっかりと空間を見極め、奥行きや、いわゆる抜け感などにも意識を持つ事が必要になります。それにより距離感が可視化され、より洗練された写真を撮る事ができるでしょう。

カフェ撮影などのラフな撮影こそ、構図はシンプルながら、いかに細かな拘りを持って切り取れるかで写真のクオリティは大きく変わってくるので、ぜひ実践してみてください。

 

光の種類と表現

ここからは本記事の本題でもある、僕が普段の仕事の撮影でも実践している光表現と具体的なアプローチの方法についてそれぞれ解説していきます。光の種類といっても、皆さんご存じの通りさまざまな種類の光が存在しています。

まず、先程のカフェで撮影した写真を用いて、「順光」で切り取ったそれぞれの写真を項目分けしてテクニックを解説していきます。

(1)顔全体に光を当てた写真
(2)顔の中央に光を当てた写真
(3)光のラインを意識して表現した写真
(4)影を作り、作品要素を表現した写真

 

(1)顔全体に光を当てた写真

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/4 1/1000秒 ISO250 焦点距離66mm
■モデル:藤田みりあ

撮影時間は15時半~16時頃。
夕陽に変わる手前の光で撮影しました。
光のバランスを見るために、モデルさんが座る位置や角度を調整しながら顔全体的に光が当たる位置を探り切り取りました。光を全体的に当てながらも、顔の角度をつけてもらい影を作ることで、ライティングをしたような立体感のある写真。

 

(2)顔の中央に光を当てた写真

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/4 1/1000秒 ISO250 焦点距離70mm
■モデル:藤田みりあ

こちらの写真は、上で解説した「(1)顔全体に光を当てた写真」とほぼ同じ時間帯に撮影した写真なのですが、少しだけテクニックを使っています。どのようなテクニックかお分かりになりますでしょうか?

先程の写真と比べて見ると少し寄りの写真になり、光の当たる位置が顔中央にワンポイントで当たっていますよね。これは、モデルさんの座席を少し下げて光の当たる位置を調整しながらズームレンズで引き寄せて撮影しています。

上記でも軽く説明をしましたが、これも作品における”距離感”の表現になります。
また、顔の右側に影を作りながらもアイキャッチを入れることで暗すぎない印象を与えています。光や距離感の表現に加え、被写体の魅力も引き立てた一枚です。

 

(3)光のラインを意識して表現した写真

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/4 1/500秒 ISO250 焦点距離52mm
■モデル:藤田みりあ

続いて解説する写真は、私の写真らしい特徴的な光の使い方ですね。撮影時間は16時半頃。先程よりもオレンジ色の夕日が強く差し込み綺麗な光でした。

まず、テーマに掲げた光のラインとはどのようなものだと思われますか?
光が強ければ強いほど、影も強く出ますよね。その原理を利用した一つの表現として、私自身が動き影を作ることで、夕日の木漏れ日として綺麗な縦の光をモデルさんの顔に演出しました。

そして、この写真にはもう一つ隠されたテクニックがあります。
恐らく気が付かない方も多いかと思います。
見るべきポイントはモデルさんの服の色味にあります。

強い夕日、それによる強い影、そしてモデルさんの白い服。
もうお分かりになりましたでしょうか?

正解は、左手を顔に添えてもらうことで、レフ板代わりとして影をナチュラルにし、それと同時にポージングも加えた動きのある写真を表現しました。この写真は「自ら影を作り、影をなくす」といったようなその場のフィーリングで切り取った写真ですが、このように細かな視点と拘りポイントを知っておくと、あらゆる撮影シーンに活かせるのでぜひ使ってみてください。

 

(4)影を作り、作品要素を表現した写真

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/4 1/400秒 ISO250 焦点距離54mm
■モデル:藤田みりあ

最後の写真は影の要素を取り入れた写真です。
先程解説した3枚と比べ少し重みのある写真に見えますが、実はこの写真にも色々な意図があります。それは「綺麗過ぎない写真」をテーマに光と影が入り混じるような、人間の心情的な部分を写真で表現した作品です。

顔を少しだけ正面に向けてもらい、顔立ちに影を作り立体感を出しながら、右目には光、左目にはあえてヘアスタイルを崩して影を作ることで、アンニュイな雰囲気の写真に仕上げました。
この手法は、雑誌の誌面撮影でも使われるようなテクニックで、曖昧な表現と被写体の魅力を同時に引き出すような撮影方法です。

難しい内容に聞こえてしまうかもしれませんが、これも撮影を行う上での皆さんの引き出しとして持っておくと大変便利なテクニックですので、チャレンジしてみてください。

続いて、街撮りでの「逆光」を使った撮影テクニックを紹介していきます。
以下3枚を比較してご覧ください。

 

(A)「半逆光」で捉え、被写体に動きをつけた写真

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/4 1/50秒 ISO250 焦点距離70mm
■モデル:藤田みりあ

まず1枚目は、動きのある写真を撮影したいと考えこの構図で切り取ってみました。
動きのある写真とはどのような写真を想像しますか?

この写真の場合、光の向きの選択と同時に風向きも見極めて撮影することにより、髪の毛に動きをつけた躍動感のある写真になっています。

さらにここで大事なことが、「被写体の導線を空間で描く」ことです。冒頭でお話した「空間」を、この写真では左側に作ることでモデルさんの一瞬の動き、風向きとなびいた髪によって上手く表現されているかと思います。
被写体の表情や光の向きにプラスして、風向きや空間をマッチさせることで街撮りならではの写真表現ができる大事なポイントの一つなので、是非撮影の際に活用してみてください。

また、光の選択は被写体を綺麗に魅せることだけでなく、その時の温度感や時間帯も伝えることが出来ます。この写真では「半逆光」の光で髪の毛を照らすことで、夕方の優しい色味を表現してみました。

 

(B)逆光ならではのフレア表現

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/4 1/60秒 ISO250 焦点距離70mm
■モデル:藤田みりあ

この写真は、好みに個人差が出るのではないかと思います。
ご覧いただいて分かる通り、思いっきり逆光で撮影した写真なので個人的には光の取り込み過ぎによりコントラストが下がってしまい、光の主張が強く感じたためNGカットとしました。

では、この写真を元に同じ逆光で撮影したOKカットを次の写真でご紹介します。

 

(C)光に当たる位置を調整した逆光写真

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/4 1/60秒 ISO250 焦点距離66mm
■モデル:藤田みりあ

先程の写真と比べてみていかがでしょうか?
同じ逆光でも、光の当たる位置を少し変えて髪の毛に当たる光量を増やすことで、写真に光沢感が出てモデルさんの表情も綺麗に写っていますよね。

このシーンでは、髪の毛を持ち上げてもらい顔と腕の隙間からやさしい光が差し込むようなイメージで撮影しました。そして、写真全体的に抜け感を作る方法として、頭上と背景に見える道路を空間として捉えることで、シンプルかつ、まとまりのある写真になっているかと思います。

 

まとめ

今回はカフェ撮影と街撮りの両方で光を使った撮影テクニックを紹介してみましたが、いかがだったでしょうか。

特にカフェ撮影の内容を中心に解説しましたが、よくあるカフェの配置なので、すぐにでも挑戦できる内容かと思います。理想的な写真を撮影することにおいて、場所選びはそのイメージに対する手段であり目的ではないといえます。綺麗なカフェで撮影する事を目的としてそこまでで満足せず、どんな環境においても限られた条件をいかに味方に出来るかが大切だと思います。

室内やロケに限らず、自分が撮りたいと思うイメージを明確にし、空間とのバランスを把握しながらそれに基づいて一瞬のタイミングに合わせた光の種類や角度をその場で選択しなければなりません。
その為に沢山の場数を踏み、技術と共に感性も磨いていくことで個性を発揮することができるのだと私は考えています。

今後の撮影に是非活かしてみてください。

 

 

■モデル:藤田みりあ

■写真家:佐藤俊斗
1991年 東京都出身。幼少期から20年間打ち込んできた剣道を辞めて2019年1月 フリーランスフォトグラファーとして活動開始。唯一無二の質感と色彩感覚を得意とし、感覚的な思考と明確に感じ取る「距離感」から作り出す作品を強みに、アパレルや広告、TV番組の撮影などジャンルを問わず幅広く活動。Instagramではフォロワー数が10万人を超え、今年8月に開催された『私が撮りたかった女優展vol.4』では女優の川栄李奈さんを撮り下ろした作品を公開し、各方面から大きな反響を呼んだ。同年9月には、約4,250万作品の中から、年間延べ11億人超の評価データから選出される『東京カメラ部10選2021』として日本の写真家10選の称号を獲得。

 

 

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