佐藤俊斗 × ポートレートvol.5|光と影の表現方法

佐藤俊斗
佐藤俊斗 × ポートレートvol.5|光と影の表現方法

はじめに

こんにちは。写真家の佐藤俊斗です。
最近は、予想外の雨が降ったり急に寒くなったりと不安定な天候が続きますが、いかがお過ごしでしょうか。

連載第5回目は、光と影の表現方法についてお話ししていきます。
前回のスタジオ撮影では光についての拘りをお伝えしました。今回のハウススタジオでの撮影では、特に影にフォーカスしたテクニックを紹介していきますのでぜひ最後までご覧ください。

スタジオ撮影での背景の選び方

ハウススタジオのような様々なシチュエーションで撮影ができる場所では、背景選びが写真の質を左右します。

こちらの写真をご覧ください。

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/2.8 1/160秒 ISO1000 焦点距離46mm
■モデル:朝日ななみ

決して悪い構図というわけではないのですが、茶色の木の面を背景にすると、顔の色と同化していることが分かると思います。服の色も暖色系なので、背景、顔と服が同化してしまっているような平面的な写真に見えてしまいます。

では、この場合被写体の肌を綺麗に見せるにはどうしたらいいでしょうか?  

2枚目の写真をご覧ください。

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/2.8 1/125秒 ISO1000 焦点距離25mm
■モデル:朝日ななみ

同じ場所ですが、敢えてしゃがんでもらい、背景に白を取り入れて撮影しています。立った時の顔の位置は光が入らなかったのですが、しゃがんだ位置には柔らかい光も入っており、写真全体にコントラストがつき、顔自体も引き立っていることが分かりますよね。

足元にできた影や、被写体の背中に作られる影があることにより立体感が生まれてイキイキとした一枚になっています。
このように少し位置をずらすだけで、被写体を引き立てるのと同時に奥行きのある写真を撮影することができます。

次に、下の写真をご覧ください。

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/2.8 1/100秒 ISO1000 焦点距離46mm
■モデル:朝日ななみ
■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/2.8 1/100秒 ISO1000 焦点距離46mm
■モデル:朝日ななみ

こちらも光の向きをとらえた写真です。
スタジオの木の暖かさを表現したいけれど、先ほど述べた通り、顔の周りが木の茶色い模様に囲まれていると顔が暗く、さらにのっぺりとした印象になります。このような場合、たまたま木の棚に本がたくさん並べてあったので、背景の顔付近に本の白をわざと配置してみて、顔の明るさと奥行きを作っています。

のっぺりしがちな背景でも、立体感を作る撮影テクニックです。

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/2.8 1/80秒 ISO1000 焦点距離45mm
■モデル:朝日ななみ

3枚目の上の写真をご覧下さい。これも同じ場所で撮ったものです。

後ろには荷物が置いてあったり、顔が暗かったり、直すべきポイントが何点かありますね。ほんの少し撮る画角や構図に入れるもの、光の捉え方を意識するだけで写真の完成度は変わってくるということが分かっていただけたかと思います。

どこで撮影しようかと決める時に、このような知識や心得だったり、自分なりの拘りだったりを持っているとスムーズに撮影を進めることができるでしょう。時間が限られた中で撮影する際に、大きなメリットになるのでぜひ活用してみてください。

ブラインドの影を使った撮影

■撮影機材:ソニー α7R IV A
■撮影環境:f/1.8 1/800秒 ISO1000 焦点距離85mm
■モデル:朝日ななみ
■撮影機材:ソニー α7R IV A + ペンタックス Super Takumar 55mm F1.8
■撮影環境:f/2.8 1/640秒 ISO1000 焦点距離55mm
■モデル:朝日ななみ

次に、ブラインドの影を利用した写真を並べてみました。
まずは顔に影がしっかりと入っている2枚。

1枚目と2枚目で使用レンズを変えているのですが、お気付きになったでしょうか?
2枚目はオールドレンズを使って撮影しています。
コントラストが強めではっきりした陰影の1枚目と、ふんわりした質感の2枚目。このようにかなり印象が違ってきますね。
光の入る量、高さは時間毎に違い、この日は光の量が少なかったので被写体に寄って撮影してみました。

一般的な撮影でもよく使われるこのブラインドの影ですが、顔に模様を入れるためだけに使っている、という人が多いのではないでしょうか。もしも、撮影の際に影をどのように顔に入れるかを考えている人は、1度頭をリセットさせてみてください。

僕が撮影の時に意識していることは、ブラインドの影を顔に入れることが最終的な到達点、完成図ではなく、バランスのいい空間の中に影を作り出して、その中にモデルさんにどのように入ってもらうのかを考えます。

例えば今回はソファだったり、壁だったり、他の場所にどれくらい光が入るかを確認しながらセッティングして、そこに入ってもらい構図をコーディネートしていく。そして顔に入る影も、形や方向、量を調整しながら撮影していきます。

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/2.8 1/640秒 ISO1000 焦点距離70mm
■モデル:朝日ななみ
■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/2.8 1/640秒 ISO1000 焦点距離70mm
■モデル:朝日ななみ

先程も述べたとおり、日の高さによってブラインドの開き具合を変える必要があるので、少しテクニックが必要になってきます。

時間帯ごとに入る光の量が変わってくるので一概には言えないのですが、影の線を細くすると写真をよりお洒落に見せることができます。ですが、細くすればするほど扱いにくい影にはなってしまうので、様子を見ながら調整してみてください。

3、4枚目の写真は、逆にブラインドの影を顔に入れずに撮影した写真です。
このように、どれくらいの光を入れ撮影するかは自分次第です。
影を模様として入れることだけが正解でもないので、様々な入れかたを試して影遊びをしてみるのも良いですね。

(1) シャープの強いレンズを使用してコントラストをつけて撮影
(2) 顔に影を入れてふんわりとした質に
(3) ソファのみに影を入れ、被写体はナチュラルに撮影
(4) 影を入れず、被写体の魅力にフォーカスして撮影

皆さんは、どの写真が1番好きですか?

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/2.8 1/320秒 ISO1000 焦点距離33mm
■モデル:朝日ななみ

実は、先ほど撮影した場所を俯瞰して見てみるとこのような場所でした。
特にスタジオなどの限られた空間の中で撮影する上で、最適な場所をしっかりと作ることはとても大切になってきます。どのような場所においても、光がいつも同じ量、位置や向きである訳では無いので、どの位置が最適かを事前に確認して調整することが必要です。

撮影できる位置が制限された暗いスタジオの中で、光の入る量や高さ、向きをチェックしたり、それと同時にモデルさんが綺麗に映る角度を探しながらの撮影。この写真を見てもらうと分かるのですが、寄りで撮影した時は、この時よりもソファを窓側に寄せています。

このように微調整しながらいい光を捉えていくと、どんな環境でもイメージ通りの写真に近づけていくことができます。

影を使った撮影

■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/2.8 1/320秒 ISO320 焦点距離51mm
■モデル:朝日ななみ
■撮影機材:ソニー α7R IV A + シグマ 24-70mm F2.8 DG DN | Art
■撮影環境:f/2.8 1/400秒 ISO320 焦点距離70mm
■モデル:朝日ななみ

今回撮影したスタジオには2階に天窓がついているスペースがありました。
スタジオの魅力を最大限に表現したいと思い、天窓からの木漏れ日を使った写真も少し撮影してみました。

光と影をテーマに今回もお話ししてきましたが、そもそも写真の中で”影”はどのような役割を果たしてくれるのでしょうか。

影が出た部分は必然的に暗くなります。光の当たる先に影は存在していて、それにより明るい部分と暗い部分の境界線が生まれます。影のある写真を美しく撮ろうとした時に僕自身が気を付けている点はいくつかあります。

(1) 明るく見せたい部分と暗く見せたい部分を自分の中で明確化すること
(2) 目元や表情など、その人の魅力的なパーツを引き立てること
(3) 重すぎない衣装選び

スタジオ撮影の基本ではよく、ストロボを使うことで影を作らないように撮ることが一般的だと思います。影は不要なものとして敬遠されがちですが、真逆なものとして木漏れ日や窓から差し込む夕陽などは影があるからこそ明るい部分を引き立ててくれます。目の輝きや肌の艶感も同様に影によって際立つものです。

影を軽減するスタジオライティングとは異なり、影の中に光をどう見せるか、どういう光が入っているかを見極めて撮影していきます。どのように魅せたいのかを明確にすれば、ずっしりとした暗さの中に輝きがある印象的な写真を撮影することが出来ます。

また、モデルさんそれぞれに魅力的な仕草や表情、チャームポイントは異なります。もちろん不得意な角度もあるでしょう。その為、フォーカスポイントを見極めながら、どのように光を当て、逆にどこをカモフラージュするのかを意識するのが良いと思います。

そして今回の衣装は、綺麗な透け感を出すためにシアーのトップスを選んで撮影しました。
重くならない衣装を選ぶことも大切です。

インパクトがある1枚にする為には、細かな点まで拘りを持つことが重要であり、これは極めて重要なポイントです。

おわりに

光と影の表現方法といった今回のテーマはいかがだったでしょうか?
影との向き合い方次第で、光と影のバランスを見極めることができるようになります。光の先にある影こそ、自分自身の拘りを持って撮影することが大切であり写真上達への近道でしょう。

 

■モデル:朝日ななみ

■写真家:佐藤俊斗

 

 

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