リコーGR III・GR IIIx レビュー|GRシリーズは小さな巨人

佐々木啓太
リコーGR III・GR IIIx レビュー|GRシリーズは小さな巨人

はじめに

今回紹介するのはリコーGR IIIとGR IIIxです。発売日はGR IIIが2019年春、GR IIIxが2021年秋で、ふたつの大きな違いはレンズです。ともに新設計レンズでGR IIIは18.3mm(35mm換算で約28mm相当)、GR IIIxは26.1mm(35mm換算で約40mm相当)です(細かい仕様は下記の表を参考にしてください)。

注目したいのはGR IIIxのレンズで、GRシリーズとしては初の標準レンズとなります。フィルム時代には21mmレンズのリコー GR21というモデルが存在しましたが、それ以外はフィルム時代からずっとレンズは28mm(35mm換算相当画角を含む)というのがGRの定番でした。

主な仕様

GR III GR IIIx
レンズ構成 4群6枚(非球面レンズ2枚) 5群7枚(非球面レンズ2枚)
焦点距離 18.3mm(35ミリ判換算で約28mm相当) 26.1mm(35ミリ判換算で約40mm相当)
撮影距離範囲(レンズ先端から) 標準:約0.1m~∞マクロモード:約0.06m~0.12m 標準:約0.2m~∞マクロモード:約0.12m~0.24m
クロップ(35mm判換算) 35mm、50mm、オフ 50mm、71mm、オフ
外形寸法(幅×高×厚) 約109.4×61.9×33.2mm 約109.4×61.9×35.2mm
質量 257g(バッテリー、SDメモリーカード含む) 約262g(バッテリー、SDメモリーカード含む)

ボディの厚みや質量の違いはレンズの違いからくるものです。使っているときはわかりづらいので、リングキャップの色を変えて分かりやすくしています。

上:GR IIIはダークグレーのリングキャップ
下:GR IIIxはブロンズのリングキャップ
細い紐(登山用のロープ)はストラップがわりでカメラの左側につけています。

GRからの進化

GRとGR IIのボディーサイズはほぼ同じで、GR IIIでボディーサイズが少し小さくなりました。特に横幅が小さくなってさらにサイズ感がよくなり、手のひらに収まるしっくり感が増しました。最も嬉しいのは手ぶれ補正機能とダスト除去機能の追加です。GRでは画質が良いために微ブレが気になることがあったので、手ぶれ補正機能のおかげで安心感が上がりました。

画素数はGRやGR IIの1620万画素から2424画素にアップしています。液晶モニターがタッチパネル式になったことも、AFの測距点を画面タッチで選べるのでとても便利です。あとはちょっと細かい話ですが、画像設定とエフェクトモードが統合されてイメージコントロールという名称になり、メニュー構成も変更されて初めてでも素直にダイレクト操作がしやすくなった印象があります。

※微ブレとは、カメラ内の小さな振動などでもおこるとても小さなブレです。

一度はGR IIIxを

GR IIIでもクロップ機能を使えば、35mm換算約35mm相当や約50mm相当の撮影はできます。しかし、実際の描写ではGR IIIxの方がよりしっとりとした優しさを感じます。これは焦点距離が長くなってボケやすくなっているというのも関係していると思います。

正月に初撮りしたしめ縄飾り、細かい像の分離とボケの優しさが特徴的です。
■撮影機材:GR IIIx
■撮影環境:シャッタースピード 1/100秒 絞り F2.8 露出補正 -0.3 ISO感度 AUTO(ISO 100)WB AWB イメージコントロール スタンダード
モノクロ撮影ではレンズの繊細さを感じやすく、自然の中でもボケは滑らかな印象があります。
■撮影機材:GR IIIx
■撮影環境:シャッタースピード 1/250秒 絞り F4.5 露出補正 -1.0 ISO感度 AUTO(ISO 100)WB AWB イメージコントロール モノトーン 
光が弱い条件でも雪のしっとりした感じを繊細に描写してくれます。40mm相当の画角はアングル選びで広がりを表現しやすい利点があります。
■撮影機材:GR IIIx
■撮影環境:シャッタースピード 1/125秒 絞り F2.8 露出補正 +0.7 ISO感度 AUTO(ISO 100)WB 太陽光 イメージコントロール モノトーン 
レンズのヌケも良く空の深みを感じやすいので、モノクロの夜景もおすすめです。それほど低速シャッターを使っていませんが手ぶれ補正機能が入った安心感があります。
■撮影機材:GR IIIx
■撮影環境:シャッタースピード 1/30秒 絞り F2.8 露出補正 -1.0 ISO感度 AUTO(ISO 800)WB AWB イメージコントロール モノトーン 
夕暮れのしっとりした雰囲気が再現されて、シャドー部分の質感の高さにレンズの素性の良さを感じます。
■撮影機材:GR IIIx
■撮影環境:シャッタースピード 1/50秒 絞り F2.8 露出補正 -1.0 ISO感度 AUTO(ISO 100)WB 太陽光 イメージコントロール スタンダード 

GRシリーズは上着のポケットに忍ばせておける気軽さがあって、連写できるというのも大きなポイントです。しかし、その速写ではカメラが安定していないことも多いので、そのときに嬉しいのが手ぶれ補正機能です。確かにISO感度をあげて高速シャッターになるようにすれば良いという考え方もありますが、個人的には撮影時には被写体に集中できるように、カメラの設定はできるだけプログラムオートやISO感度オートにしているので、手ぶれ補正機能の恩恵を感じています。

レンズの進化で優しさもプラス

GR IIIxの40mm相当の画角は使いこなしがいがありますが、気軽に瞬時に使うならGR IIIの28mm相当の画角の方がラフに使いやすいところがあります。そのレンズも進化していて、優しい感じのイメージコントロールとの相性が良くなっています。

柔らかなトーンの中に繊細さを感じるソフトモノトーンはちょっとオーバー気味で使いたくなります。
■撮影機材:GR III
■撮影環境:シャッタースピード 1/250秒 絞り F4.0 露出補正 +0.3 ISO感度 AUTO(ISO 200)WB 太陽光 イメージコントロール ソフトモノトーン 
しっとりとした雰囲気も作れるブリーチバイパスは自然の中で使うのもおすすめです。
■撮影機材:GR III
■撮影環境:シャッタースピード 1/125秒 絞り F3.2 露出補正 -1.0 ISO感度 AUTO(ISO 100)WB 曇天 M1A3 イメージコントロール ブリーチバイバス(彩度 +1 キー +3 コントラスト +3 コントラスト明 +3 コントラスト暗 -2 シェーディング -1 明瞭度 -3 に変更) 
霧の雰囲気をだしながら葉っぱなど森の繊細さも再現されているところにレンズ性能の高さを感じます。
■撮影機材:GR III
■撮影環境:シャッタースピード 1/100秒 絞り F2.8 露出補正 +0.7 ISO感度 AUTO(ISO 200)WB 曇天 M1A3 イメージコントロール ブリーチバイバス(彩度 +1 キー +3 コントラスト +3 コントラスト明 +3 コントラスト暗 -2 シェーディング -1 明瞭度 -3 に変更)
カラーの優しい雰囲気の代表格はレトロです。WBで色みを加えました。
■撮影機材:GR III
■撮影環境:シャッタースピード 1/500秒 絞り F5.6 露出補正 +1.3 ISO感度 AUTO(ISO 100)WB 日陰 M1A2 イメージコントロール レトロ(彩度 -1 色相 -2 シェーディング 1 に変更) 
イメージコントロールはデフォルトです。夕暮れどきの色合いが優しく再現されているのがレトロっぽさになっている気がします。
■撮影機材:GR IIIx
■撮影環境:シャッタースピード 1/50秒 絞り F2.8 露出補正 0 ISO感度 AUTO(ISO 200)WB 太陽光 イメージコントロール レトロ 
しっとりとした優しさを感じるレンズなので、ケイタ流クロスプロセスも優しい感じのバージョンを試したくなりました。
■撮影機材:GR IIIx
■撮影環境:シャッタースピード 1/3200秒 絞り F7.1 露出補正 -0.3 ISO感度 AUTO(ISO 200)WB 太陽光 イメージコントロール クロスプロセス(彩度 -1 色相 -3 キー -1 コントラスト 0 色調 Y シェーディング -1 に変更)

GR IIIとGR IIIxの進化はカラーバランスが安定したことも密かなポイントです。ソフトモノトーンにはあまり関係ないですが、柔らかい印象のイメージコントロールを使うときはその安定性がほのかな色の再現を助けてくれます。

最後は強さ

GRシリーズといえばハイコントラスト白黒と新たな強さハードモノトーンも外せません。ハードモノトーンは撮影条件によっては赤外フィルムを使ったような印象になります。ケイタ流クロスプロセスはちょっと印象が変わりましたが、これは先ほど書いたカラーバランスが安定したことも影響があると感じています。

細かい像の分離や繊細さはレンズが進化したことでより良くなっている印象があるので、ハイコントラスト白黒の強さの中に繊細さを感じます。
■撮影機材:GR III
■撮影環境:シャッタースピード 1/80秒 絞り F2.8 露出補正 -0.7 ISO感度 AUTO(ISO 200)WB 太陽光 イメージコントロール ハイコントラスト白黒 
レンズが違ってもイメージコントロールが同じなら似た雰囲気になるのがGRシリーズの良いところです。構図を傾けるのは強さならではのお約束です(笑)
■撮影機材:GR IIIx
■撮影環境:シャッタースピード 1/125秒 絞り F2.8 露出補正 -0.3 ISO感度 AUTO(ISO 200)WB 太陽光 イメージコントロール ハイコントラスト白黒
ハードモノトーン ードモノトーンは、空が真っ黒になってバスのボディーの白が際立つ擬似赤外的な雰囲気を楽しむことができました。
■撮影機材:GR III
■撮影環境:シャッタースピード 1/800秒 絞り F5.6 露出補正 +0.3 ISO感度 AUTO(ISO 200)WB 太陽光 イメージコントロール
新緑の葉っぱは白く輝いているように表現されて、トーンは強さだけでなくしっとり感じる深みがあります。
■撮影機材:GR III
■撮影環境:シャッタースピード 1/500秒 絞り F5.6 露出補正 +1.0 ISO感度 AUTO(ISO 200)WB 太陽光 イメージコントロール ハードモノトーン 
WBをケルビンで設定してアンバーを強調しました。色がおとなしくなった印象はカメラの正常進化だと思います。
■撮影機材:GR III
■撮影環境:シャッタースピード 1/80秒 絞り F2.8 露出補正 -0.3 ISO感度 AUTO(ISO 100)WB 10000K イメージコントロール クロスプロセス(彩度 2 色相 -3 キー -1 コントラスト 4 色調 Y シェーディング -1 に変更) 
画面全体のバランスが良く、ちょっと大人の雰囲気になった気がしているケイタ流クロスプロセスです。日は少し傾きかけていましたがWBの設定で黄金色を強調しました。
■撮影機材:GR III
■撮影環境:シャッタースピード 1/1250秒 絞り F5.6 露出補正 +0.7 ISO感度 AUTO(ISO 200)WB 日陰 M2A2 イメージコントロール クロスプロセス(彩度 2 色相 -3 キー -1 コントラスト 4 色調 Y シェーディング -1 に変更)

個人的な話ですが、GR IIIの発売当初はクロスプロセスの設定がなくとても残念な気持ちになったのを覚えています。それからはチャンスを見つけてはクロスプロセスの復活を嘆願しており、ファームウェアのアップデートでそれがかなったときの喜びはひとしおでした。

まとめ

気軽に持ちだせて強さを表現しやすいのがGRシリーズだと思います。そこに優しさを感じるソフトモノトーンやちょっと不思議なトーンを再現してくれるハードモノトーンなど新たな楽しみが増えました。そんなカメラシリーズは定番だけでなく自分なりの使い方も試してください。クロスプロセスの設定をブリーチバイパスとレトロに変更したケイタ流はそんな一例で、そのチャレンジを受け止めてくれるのが小さな巨人・GRシリーズの強みです。

 

 

以前作ったKeiチャンネル GR IIIxの紹介です。

 

 

写真家:佐々木啓太
1969年兵庫県生まれ。写真専門学校を卒業後、貸スタジオ勤務、写真家のアシスタント生活を経て独立。街角・森角(モリカド)・故郷(ふるさと)というテーマを元に作品制作を続けながら、「写真はモノクロ・オリジナルはプリント」というフィルム時代からの持論を貫いている。八乃塾とweb八乃塾を主宰しフォトウォークなども行い写真の学びを広めている。

 

 

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