GR III/GR IIIxが育ってゆく!もっと速くもっと楽しく使うため操作系を自分好みに

内田ユキオ
GR III/GR IIIxが育ってゆく!もっと速くもっと楽しく使うため操作系を自分好みに

戸惑いをなくすのが第一歩

初めて使った一眼レフはニコンで、五年後にキヤノンを買いました。フィルム時代のカメラなので操作はシンプルなものですが戸惑ったことがひとつあって、ピント合わせが逆方向だったこと。自分に向かって飛び出してくる犬を慌てて撮ろうとするとき、ピントリングを左に回すクセが抜けません。ゆっくりできること、考えながら動かせるところは問題ないのに、瞬時の対応が遅れます。

その記憶があったので、デジタルカメラのピントリングの方向がどちらにでも設定できると知ったとき、メーカーごとの操作系の違いによる戸惑いをかなりの部分で解消できると期待しました。

マイクロスリップと呼ぶらしいですが、考えなくてもできる単純な動作の繰り返しでも人には「行動のつまづき」があります。ぼくのGR IIIxが初期設定に戻ったとき、他人の家の台所で料理を作っているような気がしました。どこに何があるのか分からず、いちいち見て探す必要があります。ふだんは無意識に行なっていることに時間と手間がかかって不便。これは置き場所を決めておくだけでもずいぶんと違います。

とくにスナップでは最初の一枚までの速さが大切です。さらにGR III/IIIxの弱点であるバッテリーは起動している時間が長いほど消費が激しいため、スムーズに扱えることは重要になります。

シャッターボタンと露出補正だけでシンプルに撮り続けるのもいいですが、せっかくボタンに機能を割り当てられるのだから積極的に利用したいところ。

では扱いやすいボタン配置とはどのようなものでしょう?

GRの魅力は「一枚目までの速さ」に尽きると思う。そのために設定を追い込んでいる。速さは気軽さに繋がり、ふだんだったら撮りづらい状況―――荷物が多い豪雨での移動中でも、出会いを写真に残しておけた。

よく使う機能を扱いやすいボタンに

自分がよく使う機能に優先順位をつけて考えてみます。後ろに挙げている機能は例になります。

1. 最初に設定したら滅多に動かさないもの・・・ドライブモード、画像サイズ
2. 撮影日や場所によって変えることがあるもの・・・ISO感度、WB
3. ショットごとに変える可能性があるもの・・・露出補正、イメージコントロール

1はメニューから、2はショートカットが便利ですが押しづらい場所でも大丈夫、3はすぐ押せる位置でアクティブにしておくのがいいです。

クロップ、JPEGとJPEG+RAWの切り替え、マクロ、いずれも切り替えなのでボタンを押すだけでいいですが、イメージコントロールやWBは呼び出してから選択する必要があるため複数のコンビネーションが必要になります。

シャッターを切ったら絵作りまで完結したいと思っている。露出補正とイメージコントロールを扱いやすいポジションに置きたいのはそのため。

次にGRを持ってみて、ボタンの押しやすさに順番をつけます。カメラを握り直すことなくレリーズに指をかけたまま操作できるのが理想。ほとんどの人にとってFnボタン、十字キーの左と上、ADJは楽に操作できるでしょう。親指がスムーズに動きます。

前回に書いたようにGRは自然に握って指の位置が決まるため、バッグから抜いて電源ボタンを押しながら構えれば、起動したときにもう撮ることができます。単焦点なので画角で迷うこともない。

次に操作するとしたら絞りか露出補正でしょうか。どちらも見ないで扱える場所にあります。ではその次は? 

自分だけのGRに育てる

手の大きさや構え方、よく使う機能によって違いがあるので、参考としてぼくの設定と理由を紹介します。

Fnは押しやすい位置にあって誤操作のリスクが少ない形状ですが、選択には向かないのでクロップ。十字キーは押しやすさの順に左>上>下>右なので、よく使う順にイメージコントロール>マクロ>WB>ISO感度にしています。前回に書いたようにメイン機である富士フイルムXシリーズと操作感を近づける狙いもあります。

GR IIIがリリースされたばかりの頃、作例を撮る必要があってRAWの切り替えをよく使いました。ここで役に立ったのがボディ左側にあるボタン。Wi-Fiの切り替えなんて滅多に使わないですよね。バッテリーの消耗が早いGRで起動したまま時間がかかる操作は勿体ないと思ってます。たまにしか押さないけれど何かを切り替えるボタンとして、ここを活用するのはおすすめです。

カメラを握るまでの確実さと最初の一枚までの速さがスナップでは重要。被写体から目を離さずカメラを扱えるようにしたい。

基本設定とボタン配置を決めたら、いつでも持ち歩き、気になったものはなんでも撮っていくのが楽しいカメラです。 ナイフや筆記用具のようだと言いますが、シンプルな機能をちょっとした力の入れ具合や角度で使いこなしていくところがGRの魅力。

GRをシェアする

ここからは応用編になりますが、GRを使うのに積極的に活用したい機能があります。それがユーザー登録。似た機能は他メーカーにもありますが、ユーザー登録という名前から想像する使い方はこんな感じです。

GR IIIの持ち主がお父さんでモノクロのスナップが好きだとしましょう。たまに家族の写真をカラーで撮ります。これがメインユーザー。

これをお母さんが借りて、日課のようにランチの写真を撮ってInstagramにアップして「カメラのことは詳しくないけどスマホより綺麗だって評判なのよ」ということなら、画像サイズは軽く、クロップしてスクエアでマクロ、ポジフィルム調、WBオート、絞り優先AEでf4・・・というふうに撮りやすい設定を作ってU1に保存。名前をつけられるのでMotherでもLunchでもいいですね。メインユーザーの設定に影響を与えないため、お父さんに迷惑がかかりませんし、いちいち元の設定に戻す必要もないです。

娘さんは愛犬を撮るのが好きなので、こちらはプログラムAEでプログラムラインを開放優先にしてネガフィルム調で、まだカメラに慣れないから失敗もあってお父さんのアドバイスでRAW+JPEGにしてU2に登録。息子さんは時々しか使わないけれど趣味のプラモデルを撮るのにブリーチバイパスとマクロがお気に入りで、露出補正はマイナス2/3がベース、大きくプリントすることがあるから感度を低くしてU3に。

一台のパソコンを家族でシェアするとき、それぞれが扱いやすい状態にログインする感覚に近いです。

この機能の応用として、自分がよく撮る被写体に合わせて利用します。いつも似た被写体しか撮らないなら必要ありませんが、ぼくの考えとしては四人のパーティーを組んで旅している感じです。それぞれ得意分野が違うスペシャリスト。イメージコントロールを変えるだけでも変化はつきますが、さらに被写体に合わせて最適化できます。

モノクロならボケの効果は薄くノイズが気にならないので絞り込んで感度を上げよう、ポートレートはネガフィルム調が好きだから絞り開放で+2/3補正をベースにして低感度でスポット測光、夜景になったらポジフィルム調にしてWBを蛍光灯にしてNDを入れてスローシャッターで光の軌跡を・・・といった設定を登録しておけば瞬時に呼び出せます。

カメラの設定を変えすぎると元に戻すのに時間がかかり、ミスも増えるのでユーザー登録を使うわけです。
GR IIIとGR IIIxとでレンズが違って個性を変えられるので、2台持つなら8人のパーティーで歩いている感覚で使えます。ダイヤルに割り振ることができるのは3つですが、6つまで登録しておけますから幅広い撮影に対応可能。基本設定を同じにしておけば戸惑いもありません。次回はこの具体的な設定を紹介します。

コントラストは高いけれどタイルの模様が犠牲になっていないのはトーンをカスタムしているから。影はよく撮るモチーフなので、ボケは必要ない、逆光補正はどれくらいで・・・といったことを登録しておける。
コントラストがない部分にピントを合わせておくことは、動く主題にピントを合わせる以上に難しい。トーンとフォーカスの設定については次回以降に。

今週のGRあるある

前回に、フィルム時代のブラックボディのようにペイントが剥がれて真鍮が出てくるといったわけではないけれど育つカメラだと書きました。じつはGR IIIの取材をしたとき、金属部分は南部鉄器からインスパイアされており、凹凸や手触りにもこだわっていて使い込んでいくうちに鈍い輝きが増していくことを期待していると話してくれました。

とはいえ四年も使っていますがその気配はありません。ときどき磨いているからかも。南部鉄器は熱いうちに濡れ布巾で拭くといいそうで、GRをエイジングするのにも作法があるかもしれません。デジタルカメラにエイジングがあるというだけで心が躍ります。

 

 

■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist

 

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