GR IIIを育てよう|ユーザー登録を使いこなせ いよいよ最終章へ!

内田ユキオ
GR IIIを育てよう|ユーザー登録を使いこなせ いよいよ最終章へ!

カスタマイズの落とし穴

ユーザー登録が楽しくなってくると、つい忘れてしまいがちなことがあります。

ひとつはデフォルトの意義。メーカーがカメラを作って設定を決めるとき、不特定多数の人たちが扱いやすく、そのカメラと仲良くしやすいように、いくらか意地悪な言い方をすれば「無難」にしてあるはず。

そのままで自分にピッタリということは難しいかもしれないけれど、初期設定の理由を見失わないようにしたいと思います。そのカメラを使う意味が薄れてしまうと勿体ない。

もうひとつはメインユーザーの設定。ユーザー登録は、特定の被写体や条件に合わせてチューニングするので呼び出すときに早くて便利な反面、なんでも撮れる万能の設定から遠ざかっていくことが多いです。スナップシューターであるGRが条件を選ぶようだと本末転倒。不意にチャンスが訪れ、事前に準備できないのがスナップの定義だから、基本はシーンタフネスに優れた設定にしておきたいところ。

これらを頭の隅に置いておき、GR IIIとGR IIIxで共用できる理想の設定を求めて、常にアップデートしたいと考えています。

ユーザー登録にまつわる夢

ここからは夢で、いつかその設定を外部ファイルに書き出せるようにして、世界のみんなとシェアできるようになったらと願っています。スウェーデンで雑貨を撮っている人が作った設定を使い、姉妹都市である愛知県岡崎でポートレートを撮るとか。あるいは旅先に合わせてインストールできたら楽しそう。

詳しくは前回の記事を読み直していただくとして、GR IIIxの3つの設定を振り返ると、U1がメモ感覚で素早く撮れるスクエア&クロスプロセス、U2はソフトモノクロ、U3はミックス光や都市夜景に合わせたスタイリッシュなトーンで、わりに作り込んだ変化球が中心になっています。

GR IIIは伝統的なGRの直系なので、広角レンズの魅力が活きるハイコントラストなモノクロは入れたいところ。でもこれはU2に回します。

U1はマイブームによって理想を探し求めて変化してきたので順に紹介します。

GR IIIのU1の変遷

第一形態

今はGR IIIxのU3に入れてあるレトロをベースにした設定は、もともとGR IIIから始めました。しばらく撮っているうちに狭い画角のほうが扱いやすいと思って移植したかたちです。

レトロは広い画角になってしまうと世界観を濁らせるものが入ってしまいがちで、28mmよりは40mmのほうが楽に使えると思います。

きっかけは「エモい、の流行へのGR的な解答」という気持ちから。28mmで使うならフレーミングはタイト気味にするほうがハマりやすいと思います。
シャドウに色づきがあるので、フィルムライクと呼ばれるトーンに似た印象があるかも。

 

第二形態

スマートフォンのプロセッサーはすごいですよね。強烈な逆光でもシャッターを押すだけ。それを見て「おっ、いいじゃん、せっかくだからGRでも」と持ち替えて、そのまま撮ったらまずまともに写りません。そこで「スマホ最強!おっきなカメラなんて時代遅れ!」と言われるようなら、反論したいことがあるので後ほど。

まずはHDRの効果を弱めて記念写真に使えるくらいにしたい。そこでレンジの広さだけを活かして作り込んだ設定がこんな感じ。

やっぱり不自然さは消えませんでした。使えるシーンが限定されてしまい、何も考えずじゃんじゃん撮れるという目標からは遠ざかってしまうことに。でも勿体ないので設定は残してあっていつでも呼び出せます。

 

第三形態

上に書いた逆の考えをすれば、スマートフォンは繊細な表現に向きません。1/3段の露出補正、100Kの色温度の違い、1度の画角の変化、そこで勝負できない。GRはせっかく「小さいのに高画質」をウリにしているんだから、短所を消すのではなく長所を伸ばそうと思い直します。

ポジフィルム調を追い込んで、シャドウ域のボリュームを広げつつ色調を好みに調整。しばらく使ってみて気に入ったので、メインユーザーの設定に昇格させました。いまのGR IIIの軸です。

どちらも逆光ですが露出補正しなくても、いちばん暗い部分が黒潰れしないような設定にしてあります。逆にハイライトは粘りすぎることなく、スッと抜けていく感じが好き。GR IIIxで使っても違和感がないです。

 

第四形態

メインユーザーに本格派の王道を入れたので、その対比として個性的で強いものを。映画「トゥモローワールド」を見直して思いついたはず。ブリーチバイパスほど極端じゃないけれど、現実味がなくて暗く、被写体とフィットしたとき重厚でカッコいいです。

GR III/GR IIIxはキー(明るさの基準値)を変えられるため、自分がよく撮る光に合わせて露出補正なしでビシッとハマるところを探しました。平均測光ではなくスポットや中央重点も試したのですがキーを変えるほうが安定していて使いやすかったです。ハイライトは硬くして暗いトーンのなかにアクセントができるよう狙っています。ジョニ・ミッチェルの曲から「Both Sides Now」と名付けました。物事の両面、光と影、悲しみと喜び、みたいな。

何を撮っても過剰なくらいドラマティックになる。とくに天気が崩れていく日の午後は最高。
これだけ暗めに撮っても空の明るいところが白飛びしつつあるので、ハイライトの硬さがわかりますね。おかげで右奥にうっすら天使の梯子(空から降り注ぐ光の筋)が、何もしなくても見えています。

U2はモノクロを

世界的なロックバンドU2のレコードジャケットは、アントン・コービンという写真家が撮っています。初期の頃は増感して粒子が荒れたモノクロがトレードマークになっていて、ソリッドなサウンドとアイルランド出身ならではの重い雰囲気とマッチ。とくに「Rattle and Hum / 魂の叫び」は、「おおっ、GRのハイコントラスト白黒みたい!」(本当は逆)と心躍るほどカッコいいですからサムネだけでも是非。

デフォルトが流石の安定感なのでそのままでもいいですが、感度を上げて絞り込んでパンフォーカス気味に撮れるようにしつつ、露出を細かく狙えるようスポット測光にしてみました。画像加工系アプリなどで提供されているものも含め、いろんなメーカーのハイコントラストなモノクロを使ってみて、GRは二階調じゃなく強いコントラストのなかに見えるグレーが美しいと感じたので、そこの狭い領域を活かしたいと思って微調整。

意外にグレーの部分が多いですよね。ここの美しさはGRの特徴だと思っています。

ほとんど無敵でじゃんじゃん撮れましたが、ときどき「これオレの写真かな・・・」と不安になりました。そこで設定は残しつつハードモノトーンをメインに。

最近のモノクロ映画で気に入った「Belfast」から名前をもらいました。銀塩の再現というよりはデジタルならではの良さを追求したトーンで、往年のスナップ写真のような構図、光の捕まえ方、カラーとミックスするセンス、もちろん映画としても、すごくよかったのでおすすめです。

ハイライトとシャドウが独立していてフィルムでは作りづらかったトーンでは。

U3には自転車のお供に

GR IIIは自転車で旅に出るとき持って行くことが多く、レンズが格納されて小さいからバッグどころかケースもキャップもいらず、上着のポケットに入れておけます。自転車にまたがったまま片手で起動してシャッターが切れるため快適。後で知ったのですが自転車乗り(ローディと呼びます)にはGRファンが多くてSNS用のタグもあるそう。

コンパクトカメラを一台だけポケットに入れて日帰りの旅をして、プリントされた写真をアルバムに貼っていく・・・そんな雰囲気を目指して設定を決めました。ポジフィルム調の彩度を上げてキーを下げています。

二枚目を撮ったとき、電車の窓ガラス越しだったせいでピントが合わず、でも「これはこれで悪くないな」と思いました。フォーカスが一発で合わなかったとき、どれくらいの距離に抜けるのがいいか考え直すきっかけになり、思い出の一枚です。16:9だけで撮って映画のように写真を並べるチャレンジも。

気に入っていたのに長く使いませんでした。コロナ禍のモヤモヤが染み付いていて、マスクを外すタイミングで何かを変えたかったんでしょうか。この気軽さがスタイルとエクリチュールの違い(前回の記事を参考に)で、スタイルを変えるには覚悟と時間が必要なのに、これなら服を着替えるように交換できるところが魅力です。

気分を変えてネガフィルム調にしました。GRのイベントで公開したので、そのときのものを載せておきます。名前は大好きな曲から。

白の表現を見直そうと思った時期。

自分だけのGRに育った、はずが・・・

GR IIIが発売されたとき、いろんなものの大きさと比べて、何がいちばん近いか探してみました。文庫本の横幅、トランプ・・・身近なものではカセットテープのケースが似ています。どうりでどこか懐かしさを感じるはずですね。

28mmと40mmはまるっきり個性が違うというほど遠くなくて、プライマリが28mmならサブは50mm、もし40mmがプライマリならサブは24mmのほうがバリエーションは豊かになるように思います。28mmと40mmは少しだけ重なっていて使い方次第ではかなり似せられる。

そのおかげでどちらかだけでも不満なく扱えるわけですが、二台あるならそれぞれのGR IIIの個性を引き出してやり、一台だけで持ち歩いているときにもいろんな写真が撮れるようにという狙いがあります。一台でも完結していて、でも二台が合わさると相乗効果が生まれる。

世界に一台だけ、理想のGRに仕上がったぞ!
これで究極の二台持ちができる~

と思っていたのに壊してしまい、リセットされて戻ってきました。この連載の初回を読み直してください。呆然として、こんなに悲しい思いをするくらいならデフォルトのまま使おうかと迷ったくらい。その失望が記事を書くきっかけになっています。

これで完結編ですから最初から通して読み直して、何か参考になれば嬉しいです。ぜひ自分だけのGRに育てて、楽しくスナップを撮ってください。何も設定を変えなくても手に馴染んできたら、それだって自分だけのGRに育ったということです。

 

 

■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist

 

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