XF16-55mmF2.8 R LM WRは、ふたたび発見された|写真がもっと楽しくなるX

内田ユキオ
XF16-55mmF2.8 R LM WRは、ふたたび発見された|写真がもっと楽しくなるX

いいレンズ=出番が多いレンズ?

性能に感心した記憶があるのに、出番が少なかったレンズがあります。
XシリーズだとXF23mmF1.4 Rはその代表。ほとんど神話のようなXF35mmF1.4 Rの魅力をそのまま23mmにして、ちょっとだけ弱点を取り去った素晴らしいレンズです。でも23mmだとX100系があったのと、スナップで常用するにはちょっと大きく重かったから使う機会が多くありませんでした。

いま使っても良いレンズだと思います。甘さと優しさがあって、破綻というほど描写が崩れません。II型のXF23mmF1.4 R LM WRが強烈で、ぼくが交換レンズとして23mmに求めるものはこっちのほうが合っていますが、旧型の描写が好きで愛用し続けている人たちの気持ちはわかります。

ズームレンズだと構図を追い込みすぎて、シャッターチャンスを逃してしまいがち。ある程度の構図を決めたら光とチャンスだけに専念して、思ったように撮ることができた。
ハレてないけれど柔らかさがあって光が感じられるのは、この世代のレンズの特徴。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF16-55mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/1400秒 絞りF4.5 ISO800
■フィルムシミュレーション:PRO Neg.Hi

今回ここで取り上げるXF16-55mmF2.8 R LM WRも、性能に感心したのに出番が少なかったレンズです。Xシリーズは16mmから56mmのあいだにいい単焦点があることや、APS-Cのおかげで小型軽量なのでレンズを数本持つことが苦にならず、ズームの恩恵が少ないように思えました。

このレンズはX-H1が出たときに評価がグッと上がりました。手ブレ補正がついてないことで不満が多かったのが、ボディ内手ブレ補正によって「これだけの性能でこのサイズというのはすごいんじゃないか」と見直されたからです。

X-H1はスルーして、そのあとX-Pro2からX-Pro3をメインにしていましたが、いまはボディ内手ブレ補正を搭載したX-T5も併用しています。この組み合わせだったらレッドバッジ(XFレンズの高性能ライン)のポテンシャルを最大限に引き出せるのではと期待がありました。

このレンズは2015年の発売なので、フィルムシミュレーションにアクロスがなかった時代に生まれたことになるが、アクロスの良さを十分に引き出せていると思う。
シャドウが豊かで深みが感じられる。フィルムのアクロスで、これくらいのプリントを焼くのにどれだけ苦労しただろうか。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF16-55mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/10秒 絞りF2.8 ISO800
■フィルムシミュレーション:ACROS

Xシリーズ最強の標準ズームはどれか

Xシリーズには自他(この場合の自って誰? メーカー? ユーザー?)ともに認める標準ズームがありません。
XF18-55mmF2.8-4 R LM OISは、価格と性能とサイズのバランスがいいですが、第四世代あたりからボディとの関係のなかで物足りなさを感じることが増えてきました。XF18-120mmF4 LM PZ WRは使い勝手もよくて新時代のズームレンズという感じがしますが、せっかくX-H2ではなくX-T5を使っているのだから動画のことはいったん忘れたいという気持ちがあります。

たとえばキヤノンの場合———プロ写真家が集うような場所でキヤノンを肩から下げているのを見ると、ほとんど24-70mmF2.8が付いている時代がありました。スナップ、ドキュメンタリー、スポーツ、人物、風景・・・、ジャンルに関わらず持ち歩くときに付けているレンズはこれ。そんなにみんなが使っているなら、と試してみると扱いやすくてびっくりします。

ミラーレスになりマウントが刷新され、時代も変化したことで、これから焦点距離は再構築されていくでしょうが、24-70mmは標準ズームとしてひとつの時代を築き、圧倒的に支持されてきました。

手ブレ補正のおかげで、日が暮れてからもシャッタースピードを気にする事なくスナップが撮れる。青い空と黄色い灯が対比になっていて、街灯の緑がアクセントとなり、肉眼で見るより美しい。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF16-55mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/7秒 絞りF2.8 ISO800
■フィルムシミュレーション:Velvia

それを思うとXF16-55mmF2.8 R LM WRは過小評価されているのでは? 
野球に例えれば、同じポジションに不動の名選手がいたため出場機会に恵まれなかったものの、チームが違ったり、監督が変わって目指す野球が変わったら才能が発揮されるのでは、という気がします。

そこで金沢へ持って行っていくことにしました。前に金沢に行ったときはXF56mmF1.2 R WRだけの一本勝負に出たため、ズームレンズと単焦点の違いや、世代による描写性能の変化もわかりやすいはず。

昭和の伝説、プロフェショナルたちの逸話

ちょっと話が逸れますが、知り合いから聞いて、昭和の伝説として心に残っているエピソードがあります。その人の先輩が「いいレンズを使ってるな、ちょっと見せてくれよ」と言ってライカのズミクロンを手にして、光に透かしながら「これはすごい、ミリ180から200本くらいは解像するのかな」と呟いたそうです。

覗いただけで解像度がわかるものなのか!

もしかしたら、これだけ精緻な造りで、たっぷり重量があって、反射がなくてクリアだからそれくらいは解像できるだろうといったことも読み取っているのかもしれませんが、実写しないで解像力を判断するってすごい。フラッシュの光をメーターも使わず測った写真家がいるという噂も聞きますし、昭和の伝説を語り合いたい。

動ける範囲が狭く、単焦点だとどれを持っていてもこの構図では撮れなかった。建築物が多いと細かい線の描写が気になるところだけれど、かなり拡大して見ても緩みがない。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF16-55mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/1100秒 絞りF7.1 ISO800
■フィルムシミュレーション:PRO Neg.Hi

それはさておきレンズの専門家に聞くと、いいレンズはEVFを覗いただけでもわかるそうです。ぼくも経験からわかる気がするのですが、プラシーボ効果があるかもしれないし、プロセッサーの補正なども見抜ける自信がないです。専門家が言うと説得力が違いますよね。
解像力だけでなく画像の密度や収差、中央と周辺の描写力の違いなど、チェックする基準がしっかりあって、それを精査していく感度が高いのでしょう。

旅の前夜にそれを思い出し、「よっしゃオレも」とXF16-55mmF2.8 R LM WRをX-T5に付けてみて、すぐにワイド側で歪曲収差が見てとれたので「念のため単焦点も持っていこうかな」と一瞬だけ弱気になりました。

当時のフラッグシップとはいえ発売は2015年。このズームのすぐ後にリリースされたXF16mmF1.4 R WRを知っているし、XF56mmF1.2 R WRを愛用しています。その二本があれば、抜群の近接性能と明るさでズームレンズより利便性が高いのでは・・・と思っているうちに金沢に到着。

ミリ単位でズームレンズを回して構図を決めた。左下の花を角で拾って、右上の木の上をギリギリで切っている。古い建築物に対して、清涼飲料水のコマーシャルのようなトーンを合わせてみた。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF16-55mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/2000秒 絞りF4.5 ISO800
■フィルムシミュレーション:Classic Chrome

旅の思い出を撮る

がっつり作品を撮って旅行代金を少しでも回収しよう、といった気持ちはなくて、行きそびれていた場所がいくつかあったのと、ちょうど美術館で見たい展示があったので、気持ちとしては観光客です。

ズームレンズを付けっぱなしにしたカメラを肩から下げ、チャンスが訪れるのを待つこともなく、ぶらぶら歩いてパチリという旅はめずらしく新鮮でした。ズーミングするほうが早くて楽なのに、つい足が先に動いてしまいます。

久しぶりに使うレンズでしたが、ズームリングのトルクが重く感じるのと、もうちょっと寄りたいと思うのと、最近のレンズと比較してAFが食いつくタイミングが遅れる気がしましたが、どれも午前中のうちに慣れました。
観光地の名所や記念館などは自由に動けないことが多く、ズームのおかげでタイトにフレーミングできるメリットを感じられます。

こういう「うまいこと瞬間を捉えた」写真は、本当のことを言えば使い慣れた単焦点のほうが遥かに早く、高い精度で撮ることができる。でも写りに関して「単焦点だったらな」と後悔することがないのは、さすがレッドバッジ。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF16-55mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/3000秒 絞りF2.8 ISO800
■フィルムシミュレーション:PRO Neg.Hi

夕方になって橋の上から街のほうを見ると、空が赤く染まっていました。迷うことなくワイド端にしてファインダーを覗くと、ぴったり収まります。これがフルサイズにおける24mmが28mmを超えて広角のスタンダードになった理由でしょう。見えているものすべて写真に残すことができる。

試しに18mm(換算28mm)にしたらちょっと窮屈で、どこかを切らなければいけません。引き算から生まれる名作もありますが、短い旅で出会えた夕日に向かう自分の気持ちからして、何も切りたくはない。
赤く染まった空のなかでも、とくに雲が鮮やかな部分と街の建物の影だけで撮ってみようとテレ端にすると、これもビシッと収まります。もっと長いレンズがあればと思うこともありません。縦位置も撮っておきたいと思ったら35mmにするとちょうど。

これがみんな一本で撮れるから標準ズームなんだな、と感心します。レンズ交換は時間がかかり、ゴミのケアなども面倒なため、気持ちを維持するのが難しいです。ここにもズームレンズのメリットはあるでしょう。

絞り込んでいてシャッタースピードは1/4秒になっていますが、手持ちで余裕。三脚はないけれど手ブレ補正があるから。夜になってもISO800で、目に見えているものならみんな撮れるくらいの無敵感。
どの焦点距離でも、絞り値に関わらず描写が安定していて均質なのは、さすがレッドバッジです。

■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF16-55mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/70秒 絞りF8 ISO800
■フィルムシミュレーション:Velvia
この二枚を一本のレンズで撮れるのは便利。わずかな時間の違いだけれど、フィルムシミュレーションをカスタムして違う日に撮ったような変化をつけた。短い旅を豊かに見せる、ささやかなテクニック。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF16-55mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/220秒 絞りF9 ISO800
■フィルムシミュレーション:PRO Neg.Hi

撮る喜びに勝る、見る喜び

EVFで画質を判断することはできなかったから、帰ってきて写真を見たとき、画像にボリュームがあって密度が高い印象を受けました。細部まで肉眼を超えて解像されてるとか、収差がほとんどなくクリアでキレがあるといったこととは違う、リアリティを生み出します。その場所に引き戻されて、感じていたことが蘇るような。

それ以上に驚いたのが、被写体に幅が広いこと。
単焦点は、心の動きや行動、自分の好みがはっきりと残っていくため、厳選されたコレクションになりがち。一方でズームレンズはちょっと気になったものも残していくほうが楽しいため、まとまりに欠けるところはあっても、写真で旅を追体験したとき発見が多いです。スマホをスワイプして写真を見ながら微笑んでる気分。

初めて金沢を訪れたのは二十年以上も前で、新幹線は開通しておらず、故郷の佐渡に似たところが多かったため魅力がよくわかりませんでした。
旅の喜びも、レンズの魅力も、身近だと気づかないものが多いのだなと反省しました。

映画のような余韻がある写真を撮りたかった。最新のレンズが「濁りなくシャープ」であるのに対して、この世代のレンズは「鋭すぎることなく質感が豊か」に感じられる。第五世代のおかげで、新しい命が吹き込まれたよう。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF16-55mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:SS1/280秒 絞りF2.8 ISO800
■フィルムシミュレーション:Velvia

 

 

■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist

 

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