ワイドレンズからの革命 XF16mmF1.4 R WR|写真がもっと楽しくなるX

内田ユキオ
ワイドレンズからの革命 XF16mmF1.4 R WR|写真がもっと楽しくなるX

Xシリーズの両輪

Xシリーズは、まずは色へのこだわりが評価されました。フィルムに携わってきた歴史によって培われたノウハウがあり、その象徴がフィルムシミュレーションで、JPEG撮って出しの絵作りの良さです。

センサーとプロセッサーが進化していっても、常にプロビアはプロビアのままでありながら、プロネガやクラシッククローム、クラシックネガといった新しいトーンを時代ごとに加え、進化してきたのもファンにとって魅力的でした。

その画質を後押ししたのがデザインです。

クラシカルでアナログ感が満載のデザインは、人によって好みが分かれるところかもしれませんが、世界の大きな賞をたくさん獲得しています。「ダイヤル操作やグリップレスが好きなのは日本人だけ」と言われていたこともあったので面白いものですね。

フィルムライクという言葉でXシリーズの画質を支持する人たちにとって、カメラのデザインや使い心地もフィルムカメラに近いのが心に響いたのでしょう。

みんなの心にある“カメラらしいデザインのカタチ”

映画やドラマ、CMの小道具として登場することも多く、“みんなが思うカメラらしいカタチ”を踏襲したデジタルカメラと言っていいかもしれません。

せっかくだからXが登場する映画を見てみたいと思ったら、『しあわせはどこにある』(2014)はお薦めです。旅にカメラを持っていくワクワクが感じられ、Xの魅力も画面から伝わってきます。人生が変わるような名作ではないですが、見終わって少し心が軽くなるいい映画です

三本目の柱こそが魂

Xシリーズの人気をドライブさせた両輪が絵作りとデザインであるとして、それを支える重要な役割をしているのがレンズ。FUJIFILMといったら海外ではフィルムやカメラよりも先に、まずはレンズのメーカーとして認知されています。業務用、大判用で実績があるからです。

テレビの仕事をしたとき、撮影スタッフが僕のカメラを見て「フジはカメラも作ってるんですね。やっぱり写りはいいですか?」と声をかけてくれました。

映像の現場では、フジはレンズのメーカーなんだなと実感したのですが、それを強烈に意識したのが今回のXF16mmF1.4 R WR。

最初に撮った一枚をモニターで見たとき、大変なことが起きているな……と驚いたほど。題名に革命と付けましたが、決して大袈裟ではありませんでした。

ワイドレンズ革命

まずスペック表を見て、何かの間違いじゃないかと驚いたのが最短撮影距離15cm。センサーからなので、犬を撮っていたら前玉を舐められそうな距離です。

しかも大口径の広角レンズは、絞り開放だと周辺が滲むのが常識だったのに、遠景でもビシッと解像する。冬のニューヨークで「……どうかしてるな」と、白い息とともに独り言を呟いたのを忘れません。

■撮影機材:富士フイルム X-T1 + XF16mmF1.4 R WR
■撮影環境:SS1/60秒 絞りF1.4 ISO400 WB 太陽光 AF-S
■フィルムシミュレーション:PROVIA
タイムズスクエアのように圧倒的な広さがある場所で「見ているまま全てを写真に残したい」と思ったら、換算24mmの役割。
大口径の広角で、遠景を絞り開放で撮って、周辺の文字まで滲んでいないのに驚いた。

細部を等倍にしてチェックしていったとき、これより欠点が少ないレンズがあったとしても、一枚の写真として見たときに美しく感じるとは限りません。それが最初に書いた「絵づくりを支えているのはレンズ」に繋がります。

しかも375gしかない。缶ジュース一本分くらい。

フルサイズとAPS-C、それぞれに良さがあって用途と好みで使い分けられるのが理想だと思うのですが、やはりAPS-Cには―――とくに後発のXシリーズに“フルサイズキラー”の役割が求められるのは自然なことで、その印象を決定づけた一本と言っていいかもしれません。

■撮影機材:富士フイルム X-T1 + XF16mmF1.4 R WR
■撮影環境:SS1/250秒 絞りF8 ISO400 WB 太陽光 AF-S
■フィルムシミュレーション:PRO Neg.Hi
縦位置にするとさらにスピード感が増すので、いいシチュエーションがあったら積極的に試したい。
まだクラシッククロームがなかったから、あのトーンをどうやったら作れるか、カスタム登録に夢中だった時期の一枚。

ワイドレンズの役割の変化

僕が写真を始めた頃……半世紀とまでは言いませんが40年くらい前は、今といろいろカメラ事情が違いました。標準レンズは50mmが絶対的な位置にあって、望遠の代表格が135mm、広角だと28mm。一眼レフの成熟期に向かっていきますから、そのシステムと相性の良いレンズが人気になるのは当然だったのでしょう。

望遠レンズはすぐズームの時代に突入しますが、広角レンズの代表が28mmというのは長く続きました。リコーGR、ミノルタTC-1、ニコン28Ti、フジフイルムクラッセWといった高級コンパクトが、揃って28mmを採用していたのも印象的です。

視覚をレンズに換算するのは難しく、いろいろな説がありますが、両目を開いたときの視野に最も近いのが28mmと言われています。

■撮影機材:富士フイルム X-Pro2 + XF16mmF1.4 R WR
■撮影環境:SS1/60秒 絞りF1.4 ISO400 WB 太陽光 AF-S
■フィルムシミュレーション:ASTIA
トークイベントで「何ミリで撮ったと思いますか?」と質問すると、写真歴が長い人ほど50mmくらいと答える。
これが換算24mmの写真だなんて、昔だったら考えられない。

でも28mmでさえ撮りきれないくらい世界は広くなっていきました。

これは個人的な考えですが、観光地などに行って最初に「うわー、すごい!この景色をそのまま写真に撮りたい」と考えたとき、視野に近いはずの28mmだとちょっとだけ狭いと思うはずです。じっさいには首を振って左右を見ていますし、見えてなくても感じているところが周辺にあるから。

さらにスマートフォンに採用されているレンズが24mm相当ということも多く、広角レンズのニュースタンダードは24mmになったと言ってもいいでしょう。

XF16mm使いこなし

そんなわけで「見えているものを全て」という広い画角と、いまでも感心する絞り開放からの解像感、さらには広角レンズの常識を覆すような近接で大口径を生かしたボケと、そのミックス感を楽しむのがこのレンズの醍醐味。

■撮影機材:富士フイルム X-T1 + XF16mmF1.4 R WR
■撮影環境:SS1/60秒 絞りF1.4 ISO400 WB 太陽光 AF-S
■フィルムシミュレーション:PRO Neg.Hi
遠近感を使って奥行きを操るのが、このレンズの使いこなしのポイント。
手前をボケで処理できるのは大口径ならでは。

XF16mmF1.4 R WRが登場した当時のことを考えると、この後からすごい勢いでスマートフォンが進化してきてカメラの存在を脅かします。じゃあそこでカメラはどうあるべきか、という宣言のようなものだった気もします。

「心を動かすすべてが写真に残せて、その画質はリアリティあるリッチなものであり、ソフトによる加工では作れない美しいボケがあって、これこそカメラの魅力じゃないか」その宣言が、スマートフォンの足音がまだ遠かった2015年で、テレでもズームでもマクロでもなく、ワイドだったところに、このレンズの意味があると思います。

■撮影機材:富士フイルム X-T1 + XF16mmF1.4 R WR
■撮影環境:SS1/250秒 絞りF8(左) F4(右) ISO800 WB 太陽光 AF-S
■フィルムシミュレーション:Velvia(左) PROVIA(右)
ピントの移動距離が短いこともあって、AFが劇的に速くなったと感じたのもこのレンズから。
角度がついていても嫌みがないのが、広角のニュースタンダードたる所以。

先に書いたように、最初に使ったのはニューヨークでしたが、香港に持って行ったときのことが印象に残っています。

メモ代わりだったらスマートフォンで十分、画質のいいズームもたくさんある、でも単焦点で写真を撮るってなんて楽しいんだろう! と強く感じました。強い日差しのなかでナノGIコートの威力も感じられ、一日中すごい距離を歩きましたが、まったく負担にならなかったのはボディ込みで1kgに満たないコンパクトさのおかげ。

いまではズームのワイド端がカバーしている焦点距離ですが、もしこのレンズを使うならぜひこれ一本だけで撮り歩いてみてください。カメラを持っているだけで散歩も旅になるはずです。驚くほど寄れることを忘れずに。

部屋に戻って落ち着いて、写真を見直したとき、旅を追体験するような喜びがあり、ズームレンズで撮ったよりも多彩なことに驚くようならば、このレンズの魅力を満喫できています。身体はそれほど疲れてないのに、心が満たされていて。

■撮影機材:富士フイルム X-Pro2 + XF16mmF1.4 R WR
■撮影環境:SS1/500秒 絞りF8 ISO400 WB 太陽光 AF-S
■フィルムシミュレーション:ACROS+R
写真を見ると、細い路地を抜けてここに出た時のことを思い出す。
最高に気持ちよくて、楽しい一日だった。

 

■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist

 

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