ズーム嫌いを改心させたXF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS|写真がもっと楽しくなるX

内田ユキオ
ズーム嫌いを改心させたXF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS|写真がもっと楽しくなるX

写真上達のトレーニング

土門拳さんが、「レンガを使ってカメラを構える練習をするべし。千回もやればちゃんと構えられるようになる」 と書いた時代から半世紀以上が経ちました。カメラの世界にも体育会系の気風があったのですね。

今はバリバリの体育会系トレーニングでも、水分はまめに摂りましょう、うさぎ跳びは膝を痛めるので良くないです、といった時代になりました。カメラだって今だったら、マリー・アントワネット的に「手ぶれ補正を使えばいいじゃない」「感度なんていくらでも上げられるじゃない」といったところでしょうか。

ぼくは土門拳さんの本で写真を学んだ世代ではないですが、心のどこかに「便利なものに頼りすぎるのは良くない」という考えがあります。撮り損なったら悔しいからこそ必死に努力するし、足りない部分を補うことからアイディアが生まれると信じていて、便利な機能のおかげできれいな写真が撮れても嬉しくないからです。

 

不便さを楽しむ

フライフィッシング(不便さを楽しむスタイルの釣りで紳士のスポーツと呼ばれる)をやっている知人に「生き餌と比べて釣れないんでしょう?」と言ったとき、「魚を手に入れるためだけにやっているわけじゃないですよ。それだったら魚屋さんにお金を持って行けば楽でしょう。他の手段だっていくらでもあります」と返され、なんてつまらないことを聞いたのだろうと後悔しました。ぼくの写真に対する考えも同じなのに。

そんなわけで、自動露出は便利だけれど、光を読める感覚は損なわないようにしたいと思っていて、同じシーンを続けて撮ることはあってもすべてシングルショットです。RAW現像も基本的にはしません。この記事に使う写真を選んでいて「懐かしいなぁ、もう10年も前になるのか、今だったらどんなトーンがいいだろう」と現像し直そうかと思うのですが、そもそもRAWファイルがありません。

ズームレンズもズルい感じがして好きになれなかったです。「被写体に合わせてレンズを使い分け、フットワークで最高のフレーミングで切り取る、それでこそ写真を撮ったと言えるんだ」と。

一眼タイプのフラッグシップに大口径ズームと、小型軽量のボディに単焦点の組み合わせ。
試合に勝つためのチーム編成という感じがする。

けれどもそれを改心した一日があります。ズーム嫌いを克服した日と言っていいかもしれないですし、その特別な一本がXF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS。

最新のデータまでは把握していませんが、おそらくXFレンズで最も売れたズームです。標準ズームでキットにもなっているXF18-55mmF2.8-4 R LM OISや、レッドバッジを冠した看板商品であるXF16-55mmF2.8 R LM WR、XF50-140mmF2.8 R LM OIS WRよりも売れているのは意外な感じがしませんか? 

 

ズーム嫌い?

発売当初から評判はすこぶる良くて、解放F値を抑えたおかげでコンパクトなのに描写性能が素晴らしく、先輩写真家が「このズームはすごいよ、サーファーを撮ったら腕時計の時間が見えた!」と興奮していて、解像感に関しては単焦点に引けをとらないレンズなのはわかっていました。しかも望遠レンズが手薄なXシリーズにあって、換算305mmまでカバーしている絶妙な焦点距離域。でも「ぼくのためのレンズではない」と思って使いませんでした。

■撮影機材:富士フイルム X-E3 + XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS
■撮影環境:SS1/60秒 絞りF5.6 ISO400 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:PROVIA
もともと解像性能には定評があったが、こうして拡大してみると細部の表現まで見事。
文字の細かさだけではなく、うぶ毛やサングラスの質感が繊細なのに感心する。

もしも今、毎晩のようにライブ写真を撮っていた90年代に戻れるなら、悪魔と取り引きをしてでも便利な機材を使います。

その当時は、ISO400を増感して1600にして手ブレと被写体ブレと戦いながら、「次の曲で花火か……フィルムを早めに交換しておかなきゃ」と準備して、機材や現像のトラブルが心配で胃が痛くなるような日々。観客のビールがカメラにかかって壊れたこともあります。

あの時代にX-T4を2台と、それぞれに16-55mmF2.8、50-140mmF2.8を付けて持っていけたら、超売れっ子になれると思います。みんなが裸足で走っているマラソン大会で、一人だけナイキの厚底シューズを履くようなもの。その頃だって周りの写真家はみんな24-70mmF2.8と70-200mmF2.8を使っていましたが、ぼくは頑固に単焦点だけで撮っていました。何と戦っていたのでしょうね。

そんなズーム嫌いが、このXF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISを使うようになったきっかけは、X-E3の登場にありました。レンズの発売から四年も経ったわけです。

今回のトップ画像にもなっているX-E3はミニマリズムを特長としていて、多機能化していくデジタルカメラの流れに反するように、「ない」ということに価値を見出す稀有なコンセプトを持っていました。いかにもXシリーズらしいです。

X-E3と相性の良い単焦点といえば23mm、35mm、50mmのF2トリオがあり、いずれもコンパクトでAFも早く使い勝手に優れています。この三本が軽くて小さかったおかげで、カメラバッグに余裕が生まれ、「何かあったときのために望遠レンズも持って行こうか」と思い、ズームを選んだわけです。

これだけの機材でも1.5kgに満たない。APS-Cならでは。

最初に試したのは東京の街のスナップ。手応えがあったため、そのままのセットを持ってボストンに行きました。邪魔だったらホテルの部屋に置いておけばいいや、というくらいの気軽な気持ちで。

■撮影機材:富士フイルム X-E3 + XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS
■撮影環境:SS1/250秒 絞りF11 ISO400 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:Classic Chrome
東京の街に持ち出してみて、イケると手応えがあった。
肩にかけていても大袈裟ではなく、極上とまで言わないものの、ボケが暴れない。

 

人生を変えた一日

限られた日程で、バリエーションのある写真を撮らなければならない仕事なのに、到着から二日はずっと雨。予定を変えて移動するべきか、天気予報と地図を見ながら頭を悩ませていて、三日目の朝を迎えました。朝食のために部屋を出ようとすると、開いた扉から強い光が差し込んできます。詩人なら「日差しが扉を叩いて駆け込んできた」と書くような朝でした。

こうしちゃいられない! 慌てて荷物をまとめました。身軽にして動き回るのがいいだろうか、いや、ズームレンズを持っていれば写真の幅は広がるに違いないと判断して、カメラバッグに2台のX-E3、23mm、35mm、50mmのF2トリオ、XF55-200mmを入れ、近くの駅まで駆けていきました。

撮影会の講師のとき、雨だったら「こういう日にしか撮れない写真もありますから、質感などに気を配って楽しみましょう」と言います。モノクロしか撮らなかった時期も長いので、むしろ雨を望んでいたこともあります。それでも太陽の光がどれだけ写真を豊かにするか、こんなに実感したことはありません。

昨日までと同じ街には思えませんでした。店先に並んだ果物や花が眩しいほど鮮やかで、看板の文字、すれ違う人たちの服、光と影のコントラストによって際立つ建築物の美しさ……。それらにレンズを向けると、心が喜びで満たされていきます。

■撮影機材:富士フイルム X-E3 + XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS
■撮影環境:SS1/250秒 絞りF11 ISO400 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:Classic Chrome
光と影のコントラストがあってこそ街は美しく見える。
シャドウをカリカリにカスタムしたトーンにより、さらに際立つ。

この一日のことは「ミニマリズムにうってつけの日」というコンテンツになっているので、いつかトークショーがあったら参加して、生で見てください。写真家がどんなふうにスケジュールをマネージメントして、機材を選び、気持ちを維持しながら、作品の幅を広げていくか、楽しい話になっていると思います。

■撮影機材:富士フイルム X-E3 + XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS
■撮影環境:SS1/60秒 絞りF4 ISO400 WB 電球 AF-S
■フィルムシミュレーション:PROVIA
この大きさで換算305mm相当までカバーしているのがありがたい。
XF14mmの回で「広角は足で撮る、望遠はセンスで撮る」と書いたが、まさにセンスで切り取っていく感覚。

 

ズームレンズが教えてくれた

その日、26kmも歩きました。もっと長い距離を歩く日もあるので驚く記録ではないですけれど、カメラを2台、レンズを4本も持って撮り歩いていることを考えれば、短い距離ではないでしょう。それだけの機材でも1.4kgほどなのは、APS-Cならでは。

日が暮れて、50mmF2をXF55-200mmに付け替えたのは、開放F値は2段ほど暗くなるけれど、5段の手ブレ補正があるから。単焦点より高倍率ズームレンズのほうが暗いところに強いなんておかしなもので、土門拳さんだったら怒るかもしれませんね。ぼくだってそれまで嫌っていました。

■撮影機材:富士フイルム X-E3 + XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS
■撮影環境:SS1/60秒 絞りF4 ISO400 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:Velvia
この公園にたどり着いたとき、歩数計は23kmを超えていた。
この光景に出会えたとき、すべての苦労とこだわりを忘れてしまった。

でも「撮り逃してしまったら、二度と出会えない景色がある」ということと、そういう悔しさの繰り返しからカメラは進化したのだと、その日は感謝しました。今回ここに選んだのは、手ブレ補正とズームレンズがあったから撮れた写真たちです。

■撮影機材:富士フイルム X-E3 + XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS
■撮影環境:SS1/15秒 絞りF5.6 ISO400 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:ASTIA
日が暮れて、単焦点からズームレンズに交換したのはスローシャッターを安心して使うため。
換算200mm相当で撮ったが、1/15秒でも余裕。

メイン機がX-Pro3なので、いまでも単焦点で狙って撮るのが好きです。けれどもズームレンズに抵抗がなくなったのは、XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISのおかげ。

単焦点のラインナップが好きだからXシリーズを使っている、という人は少なくないと思います。それでも「あまり使わない焦点距離域は、ズームレンズでカバーすれば楽かも」と思うことがあったら、望遠側はXF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS、広角側はXF10-24mmF4 R OIS WRが助けになるかもしれません。どちらも使うと良さがわかるレンズですよ。

■撮影機材:富士フイルム X-E3 + XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS
■撮影環境:SS1/60秒 絞りF5.6 ISO800 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:Classic Chrome
せっかくズームレンズを使っているのに文字をギリギリで切りたくて前後に動いてしまった。
その心と習慣はいつまでも忘れないようにしたい。
■撮影機材:富士フイルム X-E3 + XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OIS
■撮影環境:SS1/250秒 絞りF8 ISO800 WB 晴れ AF-S
■フィルムシミュレーション:Classic Chrome
たまたまビルの二階から見つけたアングル。動くこともできないからズームレンズに頼るしかなかった。
これが撮れたことでズームレンズの食わず嫌いが直った、と言っていいかもしれない。

 

■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist

 

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