富士フイルム XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR|記憶色をさらに引き寄せる待望の超望遠インナーズームレンズ

高橋忠照
富士フイルム XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR|記憶色をさらに引き寄せる待望の超望遠インナーズームレンズ

はじめに

私はフジノンレンズに絶大な信頼を寄せており、そのレンズを通して表現される野生動物の表情は、色彩豊かな「記憶色」で彩られ、細部のディテールまでシャープに美しく描画してくれます。

そのラインナップに今回新たに加わったのが、「XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR」です。まだ発売間もないこのレンズの使用感を、実際の写真を交えて解説していきたいと思います。

 

細部まで考え抜かれた外観

過酷な環境で動きの素早い野生動物を撮影するのはとても大変です。フィールドでは様々なアクシデントも発生します。シビアな撮影をするからこそ大切にしなければいけない要素が「XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR」には沢山詰まっています。

野生動物を撮影していると、どうしても被写体が現れるまでのいわゆる「待ち」と呼ばれる時間が発生します。その間、機材は待機状態に入りますが、真夏の炎天下で三脚等に設置して待機していると従来の黒い機材ではどうしても熱を吸収し高温になります。その状態が長時間続くとレンズ等の光学系にも様々な不具合が発生してしまいます。

「XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR」は色がマットシルバーで熱を反射し、外装はプラスチック製なのでレンズ内への熱の蓄積が軽減されます。また、内部はマグネシウム合金製で軽量でありながら堅牢性を兼ね備えているので、フィールドでの過酷な撮影にも安心して機動力が発揮できます。

使用感で特筆すべきは、超望遠レンズにもかかわらず小型・軽量であることです。実際フィールドで一日中振り回しても持ち重りすることなく軽快に撮影することができました。

 

インナーズームレンズの利点

今まで富士フイルムの望遠ズームレンズは「XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR」の一択でした。現在でもこのレンズをシーンやフィールド環境に合わせ使用しています。

このXF100-400mmは「伸縮式で鏡筒がコンパクト」になり携行性に優れ、とても便利なレンズです。しかし、「鏡筒を伸ばすためにはズームロックを解除したり、鏡筒を伸ばした後は、レンズ伸長とレンズ重心が変化しているので一旦持ち直したり」と、撮影に至るまで「最低2回のレンズの操作」をしなければいけませんでした。

野生動物のシャッターチャンスは「一瞬」な時も多々あります。不意にそのようなシチュエーションに遭遇した際は、この「最低2回のレンズの操作」が撮影に至るまでの「時間的余裕の足枷」になることもありました。

更に、XF100-400mmで最も大変だったのが、降雪や雨天の撮影の際、伸縮するレンズの外装に雪や雨粒が付着したまま伸縮を繰り返すとレンズ内部の結露や伸縮部の凍結が起きる危険性があったことです。そのため、荒天時の従来のレンズの扱いはとても慎重になってしまい、野生動物撮影で重要な機動力の発揮が制限されました。

今回発売された超望遠インナーズームレンズ「XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR」は、上記に記載したXF100-400mmの問題点を全て解決した、野生動物を撮影するにはピッタリの理想的なレンズです。

左:X-H2S + XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR
右:X-T4 + XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR

「XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR」はレンズフード分「XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR」より短いですが、テレ端側に伸長すると、両者の長さは大して変わりません。

私は今後、X-T4やXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRはサブ機として運用していく予定です。様々なアクシデントが付き物の野生動物の撮影では「サブ機」の重要性は計り知れません。

 

「記憶色」をさらに引き寄せる

「記憶色」それは、富士フイルムが長い年月をかけて培ってきた「唯一無二の色彩美のこだわり」であり、撮影から出力(プリント)に至るまで、「一貫した自己完結力」を持つ同社製品の「強み」でもあります。

その圧倒される「記憶色」を野生動物撮影で、さらに引き寄せることが「XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR」の登場で可能になりました。

テレ端で撮影した遠距離の野生動物を拡大して見てもとてもシャープでクリアに美しく描画されており、これには撮影直後のカメラモニターの画を見ても思わず声を上げてしまいます。

エゾシカ
FUJIFILM X-H2S + XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR
ISO1000 F8 1/200s AF-S/シングル

テレ端で撮影した遠距離で佇むエゾシカ。この距離でもシャープで美しく異次元の描画力に圧倒されました。

エゾオコジョ
FUJIFILM X-H2S + XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR
ISO1000 F6.4 1/280s 40フレーム連写 被写体検出「動物」手持ち撮影

高山植物チングルマが咲き乱れる中にひっそりと佇むエゾオコジョ。こんな場面をずっと「記憶色」の圧倒的色表現で撮影したいと想い描き、ようやく形にすることができました。

エゾシマリス
FUJIFILM X-H2S + XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR
ISO800 F7.1 1/340s 40フレーム連写 被写体検出「動物」手持ち撮影

愛くるしいエゾシマリスの子リスたち。繊細で美しい「記憶色」が放つ色彩美は、撮り手が現場で感じた臨場感までも表現してくれます。

エゾナキウサギ(黒色型)
FUJIFILM X-H2S + XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR
ISO500 F6.4 1/350s AF-S/シングル

前ボケから後ボケに至るまで、一連の生息環境を滑らかに表現してくれるレンズだからこそ、岩と同化して中々分かりにくいエゾナキウサギであっても、自然とそこに視線を誘導してくれます。

エゾナキウサギ
FUJIFILM X-H2S + XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR
ISO1000 F8 1/150s 40フレーム連写 被写体検出「動物」手持ち撮影

高山植物チングルマを花車のように、くるくる回転しながら食べるエゾナキウサギ。愛らしく美しい瞬間を超望遠インナーズームレンズの描画力が余すところなく想い描いた構図で切り取ってくれます。

 

暗いレンズ?むしろそれがアドバンテージ!!

野生動物の活動は「早朝や夕刻」に集中します。この時間帯は「低照度」ということもあり、野生動物撮影を意識した場合、テレ端F8のレンズでは暗く、AFの合点が困難だったりするのでは?と思ってしまう方もいらっしゃるかと思いますが、私は特に気にしていません。

ヨタカ
FUJIFILM X-H2S + XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR
ISO1250 F5.6 1/28s 被写体検出「鳥」手持ち撮影

幾何学的な羽根の模様が特徴のヨタカ。夕刻迫る低照度下でも被写体検出「鳥」と5.0段の強力な手ブレ補正機構のお陰で手持ちでもシャープに美しいディテールで撮影できました。

XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WRは「低照度下でも位相差AFが効く」ように設計されています

私が何故、アドバンテージだと考えるか?については次の2点のとおりです。

1点目は、私は野性動物の「表情」を撮影するために、ある程度「F値を絞り」撮影しているからです。動物は種類によって「鼻から瞳までの距離」が違います。薄い被写界深度で、瞳にだけピントが合点し、鼻は前ピンでボケていると、動物の良い表情が表現できません。複数の被写体を撮影する場合には非常に重要な要素となってきます。

このレンズはF5.6始まりなので「動物の表情が作りやすい」という点がアドバンテージだと私は思います。

2点目は、「F2.8からF8」に絞りの偏差量の修正して撮影するのと「F5.6からF8」に絞りの偏差量の修正して撮影するのとでは、後者の方が、「早くシャッターを切ることができる」からです。

インナーズームレンズの利点でも話したように、野性動物のシャッターチャンスは「一瞬」の場面も多々あることから、撮影に至る前のカメラ設定は、できるだけ早く完了するのに越したことはないのです。

したがって、F5.6始まりなので、「素早く絞りの偏差量を修正」し、「動物の表情を瞬時に画づくり」して、「より迅速にシャッターを切ることができるレンズ」だという点がアドバンテージだと私は思います。

オジロワシ
FUJIFILM X-H2S + XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR
ISO2000 F7.1 1/2000s 被写体検出「鳥」手持ち撮影

暗いレンズに負い目を感じることは一切ありません。複数の野生動物を撮影するようなシーンでは、深い被写界深度は滑らかな遠近感を与えてくれます。
 

オオワシ
FUJIFILM X-H2S + XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR
ISO2500 F6.4 1/640s 被写体検出「鳥」手持ち撮影

2羽のオオワシの瞳を絞り込み同時にフォーカスする。絞りの偏差量の修正は明るいレンズより暗いレンズの方が少なくて済みます。修正が少ないということは、それだけ速く撮影できるということです。

「一瞬を逃がせない」野生動物の撮影で迅速に撮影できるということは「強力なアドバンテージ」です。

 

まとめ

富士フイルム待望の超望遠インナーズームレンズ「XF150-600mmF5.6-8 R LM OIS WR」で撮影した、様々な野性動物をご覧頂きましたが、いかがだったでしょうか。小型・軽量でありながら、シャープでキレのある、繊細で美しい「記憶色」の色彩美をグッと手元に引き寄せることができる。そんな印象を受けた素晴らしいレンズです。

冬季は全く問題ありませんが、夏季に使用する場合は、レンズのマットシルバー色が回りのベースラインカラーと違うため、シビアな被写体には違和感を与えてしまわないように創意工夫する着意が必要です。

同時に発売された「X-H2S」や「X-T4」などの現行機に装着して、美しい野生動物の表情を撮影しに、フィールドに出掛けてみてはいかがでしょうか。

 

■自然写真家:高橋忠照
1982年北海道札幌市生まれ・山形県育ち。上富良野町在住。陸上自衛隊勤務を経て、2019年自然写真家に転向。自衛隊時代に培ったスナイパー(狙撃手)の技能を生かし、自然の中に同化して野生動物を探し出す独自のスタイルでの撮影を得意とする。作品は小学館、チャイルド本社、フレーベル館等の児童書や雑誌、カレンダーなど掲載多数。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員・富士フイルムアカデミーX講師

 

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