風景写真をビフォー・アフターで学ぶ|その5:厳冬編

萩原れいこ
風景写真をビフォー・アフターで学ぶ|その5:厳冬編

はじめに

「風景写真をビフォー・アフターで学ぶ」シリーズの第5弾となります。このシリーズでは、完成された写真だけでなく、完成に至るまでの写真もご紹介しながら、どのようなプロセスで作品を追い込んでいくのか、その思考回路をご紹介いたします。今回は「厳冬編」をお届けしたいと思います。

「厳冬」という名の通り、美しい雪景色が見られるのは最も冷え込む時期で、二十四節気における大寒は1月20日から2月3日頃までとされております。日本では1902年に北海道旭川市で最低気温-41度が観測されましたが、大寒にあたる1月25日のことでした。今年は暖冬と言われていますが、北海道や東北地方、本州の日本海側や山間部にて積雪が見られますので、この時期ならではの雪景色をぜひ撮影に行きましょう。

厳冬の風景について

厳冬の風物詩といえば、やはり迫力満点の樹氷でしょう。樹氷とはオオシラビソなど針葉樹の葉に氷と雪が付着して大きく育ったもので、怪獣のような出で立ちからスノーモンスターとも呼ばれ親しまれています。近年は冬の気温が上がり、大きく育った樹氷が少なくなってきましたが、蔵王や八甲田山などの樹氷原が有名です。有名な場所だけでなく、降雪する標高の高い山では現れることがありますので、意識して探してみることが大切です。

また、キラキラと輝く繊細な美しさが魅力の霧氷は、シラカバなどの広葉樹にみられます。樹氷と違って溶けやすく、冷え込んだ早朝から午前中に狙うのがおすすめ。太陽の暖かい日差しにハラハラと舞い散る様子は、まるで桜が散るように情緒あふれる光景です。

樹氷や霧氷が見られなくても、白い雪原は冬らしい美しい風景を奏でてくれます。冬の撮影は寒いですが、暖かく着込んで一歩外に飛び出してみましょう。

厳冬撮影の装備

スノーブーツはSOREL、長靴はミツウマというメーカーを愛用しています。路面での転倒を防ぐために、ブーツに装着できる滑り止めは、ホームセンターで安価に購入できます。

厳冬の風景を撮影するときは、凍傷や転倒、車の立ち往生などに注意が必要です。撮影に行く前に装備を揃え、充分な準備をしましょう。衣類は保温効果が高く着脱しやすいフリースやダウンを重ね、歩行時や室内に入る際に体温調節がしやすいようにしましょう。下半身も冷えやすいため、ダウンパンツがおすすめです。

足元はスノーブーツや冬用長靴を履くと、暖かくて撮影に集中できます。氷瀑など大変すべりやすい水辺などへ行く際は、アイゼンを用意しましょう。長靴の靴底にスパイクがついているものも便利です。

新雪の上を歩くなら、埋没防止のためにスノーシューやかんじきを用意しましょう。行動範囲が広がり、雪深い樹氷原も歩くことができます。ただし、初心者は単独行動を避け、雪原のどこに危険が潜んでいるかを現地の人やガイドから学びましょう。

撮影でじっとしている人や冷え性の人は、くつ下に貼るカイロもおすすめ。トレッキングなどで足に汗をかくと、凍傷の恐れもあるので要注意です。

車はスタッドレスを履いた四輪駆動車がベストですが、あまり頻繁に冬山へ行かない場合は、撮影地周辺にあるレンタカーもおすすめ。冬用の装備がされた車を借りることができて安心です。非常食も準備し、決して無理をしないように撮影を楽しみましょう。

ビフォー・アフター

力強い樹氷を表現する

ビフォー
■撮影機材:富士フイルム X-H2 + XF8-16mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:焦点距離9mm 絞り優先AE(F11、1/500秒、±0EV補正) ISO125 晴れ

撮影の準備が万端にできたら、思いっきり冬景色を楽しみましょう。初めて訪れる場所は、撮影会やスノーシューツアーなどに参加すると良い場所に案内してもらえます。

まずは晴天の日の狙いですが、青空に樹氷を重ねるように撮影すると、白さが際立って印象的に仕上がります。カメラ位置を低く構え、超広角レンズで少し見上げるように撮影しましょう。

樹氷は標高の高い場所にできるため、晴れている日は遠くの風景を見渡せることも多いでしょう。背景に山々を添えることで、雄大な環境を物語ることができます。さらに樹氷の迫力を演出するために、太陽の光を活用していきたいと思います。

アフター
■撮影機材:富士フイルム X-H2 + XF8-16mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:焦点距離8mm 絞り優先AE(F8、1/850秒、±0EV補正) ISO125 晴れ

先ほどは太陽を右にする位置で、サイド光で撮影をしていました。上の写真は左側に回り込んで、太陽を正面にして逆光で撮影しています。太陽を光条にするために絞り込み(光条が出やすいレンズですので絞り値はF8に設定)、縦位置構図にして雪原に落ちた濃い影を構図に入れました。そうすることで太陽の力強いエネルギーをアクセントに添え、樹氷のパワフルさを演出しています。雪原の影も、強い光を強調する名脇役です。

樹氷原の奥行きを演出する

ビフォー
■撮影機材:富士フイルム X-H2 + XF8-16mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:焦点距離16mm 絞り優先AE(F11、1/450秒、+0.3EV補正) ISO160 晴れ 

次に、曇天の日の狙いについてお話ししたいと思います。樹氷は大量の積雪によってできるため、現地では吹雪や曇天が多いもの。太陽の光が弱い真っ白な樹氷原は、撮影中にも構図が確認しにくいうえ、立体感が乏しく見えがちです。

上の写真は樹氷原を遠くから切り取ったもので、白い空と雪原が一体化しているようにぼんやり見えています。この時は、画作りモードであるフィルムシミュレーションをPROVIA(スタンダード)に設定して撮影していました。

アフター
■撮影機材:富士フイルム X-H2 + XF8-16mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:焦点距離8mm 絞り優先AE(F11、1/420秒、+0.3EV補正) ISO160 晴れ 

はじめに、撮影中に構図がわかりやすいようにフィルムシミュレーションを変更します。コントラストが強く、輪郭がくっきりと見えるCLASSIC Neg(クラシックネガ)に設定。他のメーカーのカメラでは、風景などに設定してもよいでしょう。現場でコントラストを高める画作りモードに変更することで、樹氷の造形が確認でき、構図を追い込むことができます。

次に立体感を出すために、奥行きが感じられる場所を探します。上の写真では、中央に林の隙間が伸びる場所を選びました。形の良い樹氷が近くにあれば、超広角レンズでぐっと近づいて、手前に大きく配置してもよいでしょう。そして、ぼんやりと雲間からのぞく太陽を入れると、いっそう遠近感が強調されます。

それでも立体感を感じにくい場合は、自宅に帰ってRAW現像でコントラストを高め、明瞭度をプラスにすることで、樹氷の造形を際立たせることができます。

霧氷のきらめきを捉える

ビフォー
■撮影機材:富士フイルム X-H2 + XF16-55mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:焦点距離34mm 絞り優先AE(F8、1/600秒、±0EV補正) ISO200 晴れ

よく冷え込んだ晴れの日、早朝に現場に向かうと一面の霧氷が広がっていました。美しい霧氷を目の前にするとやみくもに撮ってしまいがちですが、落ち着いて設定や構図を確認しながら撮影しましょう。

上の写真は手前の木、奥の林の霧氷を撮影したものですが、どちらにも光が当たって白く重なっており、霧氷の繊細な枝先が見えにくくなっています。そこで、手前の木を主役にし、枝先の霧氷を目立たせられないか考えました。

アフター
■撮影機材:富士フイルム X-H2 + XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR
■撮影環境:焦点距離50mm 絞り優先AE(F5.6、1/1100秒、+0.3EV補正) ISO200 晴れ

上の写真は、手前の木の霧氷がより目立つように、暗い山肌を背景にできる場所に立って撮影しています。そうすることで、逆光に煌めく繊細な霧氷の美しさが際立ちました。ビフォーの写真は雪原の入れ方も中途半端だったのですが、こちらはしっかりと構図に入れることで雪深い森の霧氷を演出することができました。

晴天の日に霧氷を撮影する際は順光も魅力的ですが、逆光で狙うことで、ダイヤモンドのように輝く霧氷を捉えることができます。太陽が低い時間帯に狙うことで、山肌の青い影を背景に活かすことができるので、撮影しやすいでしょう。

フラットな光で霧氷の造形を描く

ビフォー
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XC50-230mmF4.5-6.7 OIS II
■撮影環境:焦点距離114mm 絞り優先AE(F7、1/55秒、+1EV補正) ISO400 晴れ

曇天の日の霧氷はどんよりと灰色に見えるため、比較的撮影が難しい被写体です。そのようなときは狙いを変えて、繊細な樹氷の造形に着目してみましょう。遠くの山肌を望遠レンズで切り取るのもよいですし、曇天の白い空を背景にして、冬の静けさを物語るのも魅力的です。空を背景にする際は霧氷が暗く写りがちですので、露出を+1~2EVなどプラスに補正して撮影しましょう。

上の写真はカラマツの枝先を狙ったものですが、要素が少なく単調で、面白みに欠けてしまっています。

アフター
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XC50-230mmF4.5-6.7 OIS II
■撮影環境:焦点距離50mm 絞り優先AE(F7、1/60秒、+1EV) ISO400 晴れ

こちらは左側のカラマツ、右側のシラカバの霧氷の造形を見せたいと思って撮影しました。二本の間に黒くがっしりとした針葉樹を入れることで、繊細な広葉樹の枝先と対比させて、互いに造形を引き立て合っています。

また、下の方に雪原の優美な曲線を入れて構図を整えました。そうすることで奥行き感や場所の雰囲気が伝わり、静寂な雪景色を演出しています。

雪の白さを大切にRAW現像する

ビフォー
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XC50-230mmF4.5-6.7 OIS II
■撮影環境:焦点距離 162mm 絞り優先AE(F8、0.9秒、+0.7EV) ISO400 晴れ

最後に、曇天の雪原の写真を印象的に見せるRAW現像をご紹介したいと思います。上の写真は、曇天の夕暮れにホワイトバランス「晴れ」で撮影したものですが、どんよりと暗く雪原の色も紫色がかっています。そこで、露出を明るく調整し、雪原の色を白色に近づけるRAW現像を行うことにしました。

RAW現像ソフトはAdobe社のCamera Rawを使って調整しています。まず全体を明るくするため「露光量」をプラスに動かします。左上の木の幹が黒く重たく感じたので、「シャドウ」をプラスして明るく軽やかな印象にし、右側の低木を目立たせました。

次に、雪原の白色を美しく出すために色合いを調整しました。「色温度」を右側に動かして青みを抑え、「色かぶり補正」を左側に動かして赤味を抑えることで、全体に紫がかった色味を取り除きました。

アフター
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XC50-230mmF4.5-6.7 OIS II
■撮影環境:焦点距離162mm 絞り優先AE(F8、0.9秒、+0.7EV) ISO400 晴れ

そうすることで、真っ白な雪原のキャンバスに、木々たちの姿を優しく描くことができました。このような完成イメージをもって撮影に挑むことで、曇天の雪原でも無限の画作りができるはずです。

まとめ

厳冬の撮影は億劫になりがちですが、勇気をもって踏み出せば、見たことのない冬だけの絶景が待っています。私は沖縄生まれで雪に馴染みがありませんでしたが、その日その日で姿を変える刹那な美しさに、すっかり虜になりました。

そして厳冬の撮影を快適に行うために、しっかりと暖かく着込んで撮影に挑みましょう。安全と健康第一で冬の撮影を楽しめるヒントになりますと嬉しく思います。

本年もカメラと共に、素晴らしい風景と出合えますように!最後までご覧いただきありがとうございました。

 

 

■写真家:萩原れいこ
沖縄県出身。学生時代にカメラ片手に海外を放浪。後に日本の風景写真に魅了されていく。隔月刊「風景写真」の若手風景写真家育成プロジェクトにより、志賀高原 石の湯ロッジでの写真修行を経て独立。志賀高原や嬬恋村、沖縄県をメインフィールドとして活動中。撮影のほか、写真誌への寄稿、セミナーや写真教室等も行う。個展「Heart of Nature」、「地獄」、「羽衣~Hagoromo~」などを開催。著書は写真集「Heart of Nature」(風景写真出版)、「風景写真まるわかり教室」(玄光社)、「美しい風景写真のマイルール」(インプレス)、「極上の風景写真フィルターブック」(日本写真企画)など。

 

 

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