風景写真をビフォー・アフターで学ぶ|その2:霜・樹霜編

萩原れいこ
風景写真をビフォー・アフターで学ぶ|その2:霜・樹霜編

はじめに

 「風景写真をビフォー・アフターで学ぶ」シリーズの第2弾。このシリーズでは、完成された写真だけでなく、完成に至るまでの写真もご紹介しながら、どのようなプロセスで作品を追い込んでいくのか、その思考回路をご紹介いたします。今回は「霜・樹霜編」をお届けしたいと思います。

 各地の紅葉も少しずつピークを迎え、いよいよ冬の気配が増してきました。この時期に楽しみな被写体と言えば、霜ではないでしょうか。紅葉の名残と霜の風景は、晩秋から初冬にかけての季節の移ろいを感じさせる、魅力的な被写体です。

 

霜・樹霜について

 撮影方法の解説に入る前に、なぜ霜ができるのか、どのような条件で現れやすいのかを、今一度おさらいしておきたいと思います。
 霜は大気中の水蒸気が凍って(昇華して)、地表面や地物にできる氷の結晶のこと。地表面が冷却することででき、その付近の温度が0℃以下のときに霜となります。風が弱く、良く晴れた夜に、放射冷却などによって大地が冷え込むことによって霜が発生します。樹木の枝など高いところに付くこともあり、その場合は樹霜(じゅそう)と呼ばれ、川沿いの樹木などによく発生します。

 霜や樹霜を撮影するには、やはり早朝が勝負。太陽の光で大地や空気が暖められると溶けてなくなってしまいます。狙えるのはほんのわずかな時間ですが、刹那的な輝きをぜひ撮影してみましょう。冷え込みの厳しい早朝が狙い目ですので、しっかりと防寒対策を忘れないようにしましょう。

 

霜の撮影7つのコツ

 霜・樹霜の撮影を行うにあたって、7つのコツをご紹介したいと思います。撮影する立ち位置やレンズワーク、絞り値など、被写体の状況に応じて発想を転換していくことが大切です。アフターの写真が完成形となりますが、今回はビフォーの写真もひとつのバリエーションとしてご活用いただけたらと思います。

ビフォー・アフター

光をプラス

■ビフォー
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:焦点距離80mm 絞り優先AE(F5、1/55秒、-1.3EV補正) ISO800 晴れ

 こちらは、足元に降りた霜をマクロレンズで俯瞰して撮影したものです。ポイントはアクセントとなる葉を見つけてバランスよく配置すること。そしてなるべく真上から狙ってパンフォーカスできるようにし、デザイン的に構図することです。まだ朝日が昇る前に撮影しているため、全体が青い氷のような雰囲気になっています。

■アフター
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:焦点距離80mm 絞り優先AE(F8、1/320秒、-1.3EV補正) ISO800 晴れ

 こちらは日の出直後に撮影しました。光を受けると葉の色が現れ、彩りを添えることができました。ポイントは太陽が空高く昇りきる前に撮影すること。日が当たった所は橙色に染まりますが、斜光のため日陰の部分は青色で、色のコントラストが美しい瞬間です。また、あっという間に霜が溶けていくので、日が当たった直後の数分間が勝負となります。

秋の気配

■ビフォー
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XC50-230mmF4.5-6.7 OIS II
■撮影環境:焦点距離71mm 絞り優先AE(F6.4、1/220秒、-1.3EV補正) ISO400 晴れ

 こちらはあたり一面にびっしりと樹霜が付いた朝に、望遠域で撮影したものです。まだ雪に埋もれる前の草木が真っ白な樹霜に包まれ、まるで粉砂糖をふったような幻想的な風景です。まだ日陰にあるため、ホワイトバランス「太陽光」で撮影すると青色に写し出されます。全体が同系色で立体感を感じにくいため、黒々とした針葉樹を入れることでメリハリをつけています。

■アフター
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XC50-230mmF4.5-6.7 OIS II
■撮影環境:焦点距離56mm 絞り優先AE(F6.4、1/300秒、-1.3EV補正) ISO400 晴れ

 先ほどの写真から、画角を56mmまで広げてみました。そうすると、朝日が当たった背景の山肌が見え、奥行きを感じる風景的な絵になりました。また、色が残る山肌から秋の気配を感じさせ、足元の霜へと視線が流れることで、晩秋から初冬への時間の移ろいを感じる構図となっています。

 日向と日陰のコントラストが強いので、白とびをしないようにカメラ内で輝度差を抑える設定をし、尚且つRAW現像で調整を行っています。

背景の色

■ビフォー

 こちらは小さな枝に付いた樹霜を望遠レンズで撮影したものです。絞り値は開放気味のF4に設定し、手前にある樹霜をぼかして玉ボケにしました。日陰の山肌が背景になっているため黒く表現されて、冬らしいシックな印象になっています。

■アフター

 先ほどの写真が少し寂し気だったので、色を添えたいと思い背景に紅葉が重なるよう立ち位置を変えました。そうすると手前には緑色の葉が前ボケとなり、黒い背景に華やかな色が映えるようになりました。樹霜の冷たさのなかに暖かさが加わり、小さな枝の表情もホッとしたように違って見えてきます。

 背景に配置する色は紅葉だけでなく、朝日が当たった大地なども暖色の彩りを添えることができます。

縦位置構図

■ビフォー
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XC50-230mmF4.5-6.7 OIS II
■撮影環境:焦点距離114mm 絞り優先AE(F5.6、1/480秒) ISO400 晴れ

 芝生一面に霜が降り、太陽が差し始めてキラキラと七色に輝いていました。望遠レンズで開放気味のF値に設定し、地面すれすれのローポジションにカメラを構えました。ピントは手前ではなく奥の草に合わせることが大切。また、逆光方向で輝きを捉えています。
 こちらは地面だけで構図し、七色の玉ボケを強調することで抽象的な印象に仕上げています。

■アフター

 こちらは先ほどの写真と同じような条件で、縦位置にカメラを構えて撮影しました。ピントは中景の草に合わせて、背景には木々の足元を見せています。先ほどはデザイン的な表現だったのに対し、こちらは現場の雰囲気が伝わって物語が広がる構図となっています。一面に降りた霜のなか、小さな草たちが暖かい朝の光を喜び、背景の青い森はまだ眠っているように見えます。霜のキラキラを撮影する際は、ぜひ縦位置にもチャレンジしてみてください。

前ボケの工夫

■ビフォー
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XC50-230mmF4.5-6.7 OIS II
■撮影環境:焦点距離114mm 絞り優先AE(F5.6、1/420秒、+0.7EV) ISO200 晴れ

 霜が降りるときは晴れの日が多いですが、曇ったときは陰影がなく難しいと感じるかもしれません。こちらは樹霜をアップで撮影し、結晶のつぶつぶとした造形の面白さを捉えてみました。雑然とした枝を整理するため、F5.6で背景をボカして撮影しています。

■アフター
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XC50-230mmF4.5-6.7 OIS II
■撮影環境:焦点距離152mm 絞り優先AE(F6.2、1/320秒、+0.7EV) ISO200 晴れ

 先ほどの写真をもっと工夫できないかと考え、奥の方にある木にピントを合わせ、手前の枝を前ボケにしました。白い霜で覆われた手前の枝が幻想的なラインとなり、小動物が草の中から覗き込んでいるような印象に仕上げました。立ち位置を微妙に調整して、手前の枝が主役に大きく重ならず、バランスよく見えるよう気を配っています。

RAW現像のヒント

■ビフォー
■撮影機材:富士フイルム X-S10 + XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS
■撮影環境:焦点距離55mm 絞り優先AE(F11、1/40秒、+0.3EV) ISO200 晴れ

 最後に少しRAW現像について触れたいと思います。曇天の日、足元の草地の霜を撮影したものの、真っ白で陰影がなく主役が何か分かりにくくなってしまいました。曇天時にありがちな悩みですが、RAW現像で少し調整することで写真がぐっと見違えることがあります。


 今回はRAW現像ソフトCamera Rawを使い、簡単な操作を行いました。「マスク」を使って、上の写真のように中央の主役の草以外のエリアを選択し、露出を少しアンダーに調整します。同時に、全体の明るさを整えるため、「露光量」を少しプラスに動かしました。

■アフター

 そうすることで一番見せたい魅力的な草に視線を誘導することができました。このように、部分的にエリアを選択して露出を変えることによって、画面にコントラストを生み出して印象を変えることができます。曇天撮影時に有効な手段ですが、くれぐれも自然な仕上がりになるように心がけながら調整を行いましょう。

 

まとめ

 霜や樹霜はすぐに消えてしまう儚い存在ですが、捉え方次第でさまざまなドラマを描くことができます。さまざまなレンズを使い、撮影ポジションを積極的に変えることで、新たな構図や発見が見えてくるはずです。また、紅葉の色がまだ残っているこの時期だからこそ、秋から冬への季節の移ろいを感じさせて情緒的な雰囲気を表現することができます。ぜひ光や色を駆使して、印象的な霜・樹霜の撮影に挑戦しましょう。

 早朝撮影では想像以上に冷え込むこともありますので、防寒着とホッカイロを完備して、くれぐれも体を冷やさないようご注意ください。最後までご覧いただきありがとうございました。

 

萩原れいこさんの連載記事はこちら

 

■写真家:萩原れいこ
沖縄県出身。学生時代にカメラ片手に海外を放浪。後に日本の風景写真に魅了されていく。隔月刊「風景写真」の若手風景写真家育成プロジェクトにより、志賀高原 石の湯ロッジでの写真修行を経て独立。志賀高原や嬬恋村、沖縄県をメインフィールドとして活動中。撮影のほか、写真誌への寄稿、セミナーや撮影会講師等も行う。個展「Heart of Nature」、「Baby’s~森の赤ちゃん~」を全国各地にて開催。著書は写真集「Heart of Nature」(風景写真出版)、「風景写真まるわかり教室」(玄光社)、「美しい風景写真のマイルール」(インプレス)、「極上の風景写真フィルターブック」(日本写真企画)など。

 

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