キヤノン EOS R5 × 鉄道写真|村上悠太

村上悠太

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はじめに

 2018年に発足した次世代の映像表現を目指すキヤノンEOS Rシステム。新マウント「RFマウント」とともに、革新的な機能と可能性を秘めたEOS R、小型軽量なEOS RPと徐々にラインナップの拡充が行われ、2020年7月に待望の「5シリーズ」を掲げたEOS R5が発売されました。EOS史上、最高解像性能を実現したEOS R5ですが、これまで使用してきたニュアンスとしては、単に高画質なカメラという印象ではなく、それ以上にあらゆる面でEOS Rシリーズが次のステップに移行したカメラだなというのが私の率直な感想です。今回は鉄道 × EOS R5の撮影シーンからこのカメラの魅力をお伝えします!

連写性能

 EOS R5が発表された時に私が最も期待した進化が連写性能です。EOS Rでは連続撮影速度約8コマ/秒と、これまでの同クラスフルサイズEOSと比べても、連写速度は決して遅い機種ではなかったのですが、高速走行を行う車両を撮影する鉄道写真のジャンルでは連写速度は可能な限り速いほうが望ましいです。

 そんな中、EOS R5ではメカシャッター、電子先幕シャッター使用で最高12コマ/秒の連写速度を達成し、欲しい「一枚」が的確に狙えるようになりました。メカシャッターでこの連写性能を維持してくれているのは、新幹線やアップぎみに列車を撮影する際に特に強い味方になっています。鉄道写真は、周囲にケーブルや電柱など様々な障害物が列車の周囲に存在しています。そこでフレーミングを工夫したり、列車自身で隠したりしながら、可能な限りクリアに車両を描写する工夫を現場で行うのですが、こうしたシーンでも高速連写が大活躍しています。

 この作例のように上から5枚目のOKカットの一つ手前では背景に赤と白の鉄塔が写り込むため、その存在がやや気になりますが、OKカットではそれを車体で隠すように撮影できました。
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OKカットに近いが、背景の鉄塔を車両で隠したいところ。
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OKカット(赤と白の鉄塔を車体で隠している)。
■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF24-70mm F2.8 L IS USM + C-PL
■撮影環境:f/8 1/4000 ISO1600 焦点距離45mm

 この位置の「一枚」が決まるのがまさに12コマ/秒の連写性能です。さらに鉄道敷地外の安全な場所から、流線型のボディの特徴を活かすために標準系のレンズで撮影しているため、列車の見かけ上の移動量も多く、シャッターチャンスは限りなく一瞬です。こうしたシーンではどうしても10コマ/秒以上の連写性能が欲しくなるのですが、EOS R5ではより余裕ある12コマ/秒の連写速度を達成しているため、決定的瞬間を逃さずに撮影できることが多くなりました。

 また、電子シャッターによる独特の歪みが目立たない構図や画角であれば、電子シャッターに切り替えることでEOS R5の最速である20コマ/秒での超速連写も可能です。

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電子シャッターで撮影
■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF70-200mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:f/4 1/4000 ISO800 焦点距離86mm

画質

 EOS Rシリーズの最大の魅力に新たにラインナップされたRFレンズの「高画質」があります。ミラーレスになったことによるショートバックフォーカス機構を存分に生かし、従来のEFレンズでは達成できなかった画質の向上やズームのワイドレンジ化、ISなどの付加機能の追加など、レンズ面でも大きな進化を遂げています。

 このRFレンズの描写性能を写し止めるのが、EOS R5のために設計された有効画素数約4500万画素の自社生産35mmフルサイズCMOSセンサーです。鉄道写真ではこの写真のように、周囲に存在する四季折々の風景とともに車両を写し込むといったフレーミングをすることも多いのですが、この場合、車両が画面の中でやや小さめになることも少なくありません。そこで重要になってくるのが解像性なのです。

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■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF24-105mm F4 L IS USM
■撮影環境:f/9 1/1250 ISO640 焦点距離50mm

 このシーンでは線路の横に立つ、銀杏の木を主題に、横を走る列車は副題として小さく描写しています。このようなシチュエーションでも列車に書かれている行先の文字などもきちんと読めるくらい解像していますし、銀杏の葉の細かなディテールも繊細に描写してくれています。加えてこの時は、銀杏をきらめかせるためにやや逆光の条件で撮影しています。そうするとおのずと空の階調は白く飛びがちになりますが、高画質だけでなく広いダイナミックレンジを確保しているこのセンサーが自然な階調を維持してくれています。さらに「高輝度側階調優先」をONにすることで、よりハイライト域で粘りある階調表現を実現しています。

EVF

 一眼レフカメラを長くお使いになってきた方がミラーレス一眼への移行を検討する上で、おそらく最も気になるのが液晶ビューファインダー(EVF)ではないでしょうか。私自身、ミラーレスカメラを初めて触ったときにはこのEVFの見え方が慣れず、やや苦戦していました。ただ、EOS Rが登場して以来、日常スナップ向けに持っているEOS Kiss Mと合わせて、機材構成がほぼEVF機になっていったこともあり、今では完全に違和感なくEVFを使用しています。慣れという時間が解決してくれたところもありますが、それ以上に私は露出設定をほとんどマニュアルモードで行っているため、光学ファインダーでは晴れたり曇ったりを繰り返し露出が大きく変わるシチュエーションや、とっさのシャッターチャンス時の露出決定をこれまでの経験に頼って決定するといったことが少なくありませんでした。これがEVFであれば、現在設定しているシャッター速度と、絞り値、ISO、さらにはWB、ピクチャースタイルなど、最終的な仕上がりを限りなくシミュレートしながら撮影することができるため、EVFの方が私の撮影スタイルには合っているように感じています。

 そんなEVFですが、一つだけ私の中でマイナスポイントがありました。正直な話をすると、シャッターを切った際に発生する微妙なタイムラグがカメラをパーンしながら撮影する「流し撮り」の際にやりづらさを感じていました。ここについてもEOS R5では大きな進化が見られます。有効画素数約369万ドットだったEOS RからEOS R5では大幅に高精細化された約576万ドットのEVFを搭載し、リフレッシュレートも119.8fpsまで向上し、EOS Rの59.94fpsに比べて約2倍※と、より滑らかでリアルタイムさを追求したEVFに生まれ変わりました。この進化により、ほぼ光学ファインダーの時の感覚で流し撮りができるようになったと実感しています。また、兄弟機であるEOS R6と比べてもEOS R5のほうが高画素のEVFを搭載しています。
※EOS R5・EOS Rともになめらかさ優先ON

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■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM
■撮影環境:f/18 1/50 ISO50 焦点距離176mm

ボディ内手ブレ補正

 兼ねてから搭載が期待されていたボディ内手ブレ補正機構も、EOS R5ではついに実装されました。特にEOS R5ではレンズ内の手ブレ補正機構と協調し、RFレンズを使用すると最大で8段分もの手ブレ補正効果を持ちます。レンズ内に手ブレ補正機構を持たないレンズでもボディ側で手ブレ補正をしてくれるのも、このボディ内手ブレ補正の大きな魅力の一つでしょう。

 鉄道写真では、夜のホームなど三脚の使用を控えたい箇所が点在しています。そうした際にEOS R5の強力な手ブレ補正機能は撮影チャンスを大幅に広げてくれるだけでなく、微細な手ぶれやカメラぶれなども目立ってしまう高画素機ならではの悩みも効果的に解決してくれ、4500万画素の高解像度センサーの繊細な描写力を最大限に活かした撮影が楽しめます。

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■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF70-200mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:f/13 1/8 ISO1600 焦点距離135mm

 私の経験ではぶれに注意しながらそっとシャッターを切るように意識すれば、広角~標準レンズで1/8秒程度のシャッタースピードまで、中望遠レンズであればもう一段程度速いシャッタースピードでかなりの割合で手ぶれを抑制したシャープな画像を得ることができました。

AF

 EOS Rを導入して以来、自身の撮影スタイルで大きく変わったのがAFの設定です。これまで一眼レフEOSを使用していた時には、最も精度の高いセンサーである中央一点のAFを多用していたり、画面内で列車が最終的に来る位置のAFフレームを選択してAIサーボAFで撮影していました。しかしEOS R以降、AFのエリアがファインダー内のほぼ全域に拡大したことと、顔+追尾優先AFのトラッキング性能と色認識の高精度化が目まぐるしい進化を遂げ、今ではAF撮影のほとんどが顔+追尾優先AFを使用しています。この追尾性能についてもEOS R5の進化が光るシーンです。

 鉄道写真では、顔+追尾優先AFを使用すれば、カメラが車体の色を認識し、画面内でその車両がいる限り、徹底的にピントを追いかけてくれます。作例では、東海道新幹線の最新型車両である、「N700S」のコックピット部分の色情報を認識させたあと、ひたすらピントを追従しつつ、連写して求めていた一枚を残すことができました。
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連写中のAF追尾の様子を一部抜粋(コックピット部分に赤色のフォーカスが合い続けています)
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■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM + EXTENDER RF1.4x
■撮影環境:f/11 1/4000 ISO1600 焦点距離630mm

 この時、使用しているレンズはRF100-500mm F4.5-7.1 L IS USMでさらにEXTENDER RF1.4xをつけて630mmで撮影しています。この状態での開放F値はF9.0とやや暗めとなり、高感度性能も高いEOS R5にとっては露出面ではこの暗さはさほど気にならないものの、AFの精度は少し気がかりです。しかし、EOS R5は最高で開放F値F22でもAF撮影が可能な性能を搭載しており、F9程度では全く不安がない精度があると実感しています。

 またEOS Rでは動体にピントを合わせ続けてくれる「サーボAF」を使用すると連写速度が最高約5コマ/秒と鉄道撮影には不足気味のスペックでしたが、EOS R5では連写速度の低下はなく、サーボAF時でも最高で約12コマ/秒(メカ・電子先幕シャッター時)を達成し、本格的な連写+AF撮影が可能となりました。

 私は元々AFの設定を基本、動体でも静体でも「サーボAF」(一眼レフEOSでの名称はAIサーボAF)としていました。これは動体撮影時にもかかわらず、うっかり「ワンショットAF」に切り替えたまま撮影をしてしまい、ピントを追従できなかったことがあり、このようなケアレスミスを未然に防ぐための対策です。「サーボAF」でもボタンカスタマイズを使用して、シャッターボタンからAFの起動機能を外し、右手の親指部分にある「AF ONボタンのみでAFを起動するようにすることで、「ワンショットAF」のように使用することができるので重宝していたのですが、EOS RではAFの設定によって連写速度が大きく変化してしまうため、この使い方が難しかった問題がありました。しかし、EOS R5ではこの問題もクリアされ、従来のように常に「サーボAF」にしたままでも問題がありませんし、何よりも「サーボAF」と高速連写を両立した撮影が行えるようになりました。

動画

 最高で8K30Pという次世代のスペックを持つEOS R5の動画性能。最近では動画の案件も増えてきており、動画のスペックをカメラに求めることも多くなりました。今回、私が最もありがたかったのが4K60Pへの対応でした。最近では4Kでの撮影が徐々に主流になる中、動きの速い鉄道というジャンルの特性上、60Pでの撮影を求められることも少なくありません。さらに4K撮影時にはクロップなしでの撮影が可能となり、RFレンズのボケ味や広角レンズの画角をしっかり活かしたフレーミングが可能になりました。

 今回は外部マイクを使用せず、現場にいた他の方のカメラなどの音もそのまま公開しています。キヤノンでは純正アクセサリーとして、「指向性ステレオマイクロホン DM-E1」、「ステレオマイクロホン DM-E100」の2つがラインナップされているのも嬉しいポイントです。高精細且つなめらかな映像表現を実現しています。

まとめ

 EOS Rでスタートしたキヤノンの新時代。EOS R5では画素数や連写速度など目立つスペックだけでなく、細かなブラッシュアップポイントとしてリモートスイッチがEOS 5D系やEOS-1DX系と同じ、リモートスイッチRS-80N3が採用されています。復活を望む声が大きかったEOSのアイデンティティともいえる、背面部のサブダイヤルとマルチコントローラーも復活しました。また、CFexpressカード(Type B)とSDカードのデュアルスロット化もなされ、バックアップ面も拡充されています。

 最近ではチルトタイプのモニターを採用する機種も多い中、EOS R5ではバリアングルタイプのモニターを搭載しています。バリアングルモニターはチルトタイプに比べ、縦構図でも自由に使用でき、三脚使用時でも横にモニターが展開するため、雲台等に干渉しづらい特徴があります。こうした細かいポイントの進化も、日頃の撮影シーンの大きな力になってくれるはずです。

■写真家:村上悠太
 1987年東京都生まれ。鉄道発祥の地新橋でJR発足年に生まれた。日本大学芸術学部写真学科卒業。「ひとと鉄道、そして生活」をテーマに制作活動を行う。鉄道旅を通して日台観光促進、相互交流にも携わり、2019年台湾観光貢献賞(台湾政府 観光局)を受賞。高校時代には、毎夏北海道東川町で開催されている「写真甲子園」に出場し、2019年開催大会では出場者で初めて審査委員を務める。主な個展に、鉄道写真+動画展「てつ動展」(EIZOガレリア銀座 2015年)、「つなぐ旅」(キヤノンオープンギャラリー 2016年)、「つなぐ旅-その、日々へ-」(キヤノンギャラリー銀座・大阪 2020年)。
・キヤノン EOS学園東京校 講師
・日本大学芸術学部写真学科 非常勤講師
・日本鉄道写真作家協会 理事

~ 「 EOS R5」はこちらの記事でも紹介されています ~

キヤノン EOS R5 レビュー|スチールも、ムービーも、ポートレートが俄然楽しくなる一台
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