秋に現れる神秘の美しさ「霧と雲海」の風景写真|八木千賀子

八木千賀子
秋に現れる神秘の美しさ「霧と雲海」の風景写真|八木千賀子

はじめに

風景写真家の八木千賀子です。
自然が創り出す美しい風景は心を豊かにしてくれる素晴らしい自然からの贈り物です。特にこれからの秋の季節には、霧や雲海が創り出す幻想的な風景はまさに絵画のような美しさです。

この記事では、秋の魅力的な自然現象である「霧」と「雲海」に焦点を当て、その魅力や皆さんの撮影のヒントになるようなテクニックなどを写真とともにご紹介いたします。

秋に発生する霧や雲海について

暑い夏が終わり、秋がやってくると風景は賑やかな色彩を持ち始めます。
そして、この季節には霧や雲海が発生し、幻想的な風景が撮影しやすい状況になります。

秋に霧や雲海が発生する主な理由は、いくつかの要素が組み合わさることによります。
まず、日中と夜間の気温差が大きくなるため、夜に地表面の空気が冷え込みやすくなります。この気温差によって空気中の湿気が凝結して霧が発生しやすくなります。

さらに、秋には前線や気圧配置の変化が頻繁に起こります。気圧の変動により暖かい空気と寒い空気がぶつかり合うので、それが霧や雲海の発生条件となります。

冬に向けて日照時間が短くなり夜が長くなっていきます。長い夜間に地表面の放射冷却が進み地表面の気温が下がりやすくなります。朝になると太陽の光が地表面を温めることで、地表面から水分が蒸発し、霧が発生しやすくなります。

これらの要因が組み合わさることで、秋は霧や雲海が出やすい季節になるのです。特に早朝や夕方には、霧や雲海を撮影する絶好のチャンスが訪れます。

秋の美しい風景と霧や雲海の相性は抜群であり、風景写真撮影にとっては素晴らしいシーンが豊富に用意されています。
自然の美しさを堪能しながら、秋の風景写真を楽しんでみてはいかがでしょうか。

秋の幻想的な魅力に包まれた「霧」の風景写真

蒸発霧や放射霧の美しさ

暖かい水面に冷たい空気が流れ込むと、水面から蒸発した水蒸気が冷やされて湯気のような霧が発生します。これが蒸発霧です。 これは一般的に早朝や日の出近く、冷え込んだ夜明け時に見られる現象です。蒸発霧は、湖、川、池、海岸線などの水面から上がることが多く、周囲の風景と相まって美しい幻想的な光景を作り出します。

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF70-200mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:f/3.5 1/500 秒 ISO 100 露出補正-0.67

放射霧は、晴れた夜に高気圧が広がり風が穏やかな場合によく見られます。夜間、地表の熱は大気中に逃げていき、その結果、地上近くの温度が下がる現象が起きます。これを「放射冷却」と呼びます。この放射冷却によって、地上近くの空気が冷やされ、その空気中に含まれる水蒸気が水滴となり霧が形成されるのです。この霧は、朝の日の出とともに地表近くの空気が温められることで、徐々に消失していきます。そのため、日の出後1〜3時間ほどで晴れ渡ることが多いです。

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + EF24-70mm F2.8L II USM
■撮影環境:f/6.3 30 秒 ISO 800 露出補正 ±0

蒸発霧や放射霧が風景写真に魅力をもたらす点は、その幻想的な雰囲気です。微小な水滴が光を反射し、太陽の光線が通過することで虹色の光が現れることもあります。

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF70-200mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:f/9 1/800 秒 ISO 100 露出補正-0.67

また、蒸発霧や放射霧は背景をぼかし、被写体とのコントラストを際立たせる効果もあります。これにより、風景写真に深みと幻想的な雰囲気が加わります。

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF70-200mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:f/2.8 1/640 秒 ISO 100 露出補正-0.67

効果的に撮影するためには、以下のポイントに注意することが大切です。
まず、霧は前日に雨が降っていたり空気中の水分が多い状況で、早朝や日の出直後の冷え込んだ夜明け時に発生しやすい特徴があります。このタイミングで撮影することで、霧の幻想的な光景を捉えられる可能性が高まります。また、霧は明るさや光の反射に影響を与えることがあるため、露出の調整が重要です。適切な露出を設定して霧の質感や色彩を鮮明に捉えるよう心掛けましょう。

さらに、霧の幻想的な雰囲気を引き立てるために、コントラストのある被写体を選ぶことが有効です。暗い影と明るい霧とのコントラストが風景写真に深みと奥行きを与えます。ただし、早朝や夜明けの寒い状況では、手ブレに注意が必要です。三脚を使用するか、シャッタースピードを適切に調整して、ブレを最小限に抑えるようにしましょう。最後に、風景写真で霧を効果的に活用するためには、被写体の配置とフレーミングが大切です。霧が背景をぼかし、奥行きを演出するために、適切なフレーミングと被写体の配置を慎重に考えて撮影してみてください。これらのテクニックをマスターすることで、霧の美しい風景写真を楽しむことができるでしょう。

朝の放射霧が生み出す光芒

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF15-35mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:f/8 1/400 秒 ISO 250 露出補正 ±0

朝の放射霧で森の中が包まれている時、太陽の光が入ると霧の水滴に反射し散乱することで光芒の効果が生まれます。光芒は、太陽光線が霧の水滴を通して透過し、その水滴によって散乱されることによって、線状の光線が放射状に広がる現象です。これによって、美しい放射状の光のビームが空中に広がり幻想的な雰囲気を生み出します。光芒は、周囲が霧に包まれ上空が晴れているときに現れます。

霧は雲海に由来する場合もあり、山の谷間などに発生した雲海が山裾を上ってきて、雲頂で撮影者が霧に包まれたときに光芒を見ることができます。光芒は日の出から1、2時間後くらいに見れることが多いので、標高の高いところで雲海と朝日を撮影した後、霧の中に入って雲頂付近に行くことで光芒が撮れるチャンスがあります。

フレアとゴースト対策が必要

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF70-200mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:f/8 1/8000 秒 ISO 400 露出補正-1

光芒は強い光によって発生するので、撮影時にはフレア、ゴースト対策が必須となります。太陽の強い光がレンズに入るとフレアやゴーストが出てしまうので、その場合は太陽を画面から外してしまうか、木の後ろに太陽を隠すことで対応することができます。太陽の方向にカメラを向けて撮影する場合は、フィルターを装着しているとフレアやゴーストが出やすい場合が多いので、そんな時はフィルターは外すようにしてください。それでもフレアやゴーストが出る場合は少しフレーミングを変えてレンズに入射する太陽の光の角度を変えてあげると出なくなります。

一期一会の出会い「雲海」の風景写真を楽しむ

山岳地帯で見る雲海の美しさと魅力

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF70-200mm F2.8 L IS USM
■撮影環境:f/8 1.6 秒 ISO 100 露出補正 ±0

雲海は主に層雲や層積雲が多く、層雲は低い位置に広がり霧として地上で見ることができます。層積雲は高度2000メートル以下に広がるので、標高の高い場所から見ることで雲海として見ることができます。雲ができるためには水蒸気の量と気温の変化が重要で、暖かな空気ほど多くの水蒸気を含み、冷えると水蒸気は現象します。雨上がりには雲ができやすく山々に囲まれている盆地や谷筋では、冷気がたまりやすいので雲が発生しやすくなります。雲海を撮影したい場合は前日と当日の天気予報、そして濃霧注意報が出ていると、出会える可能性がぐんと上がります。日中には雲海は消えてしまうことが多いため、日の出前から雲海スポットで撮影するのがおススメです。
また雲海スポットの雲海発生率を教えてくれる「雲海出現NAVI」も参考にしてみてください。

雲海が山々の間に広がる様子は、迫力があり自然の力強さを感じることができます。雲海に朝日が当たる瞬間は、幻想的な風景を創り出します。刻々と時間によってさまざまな表情を見せてくれる雲海は神秘的な雰囲気を演出してくれます。風景写真の中に組み合わせることでドラマティックな一枚を撮影することができます。

雲海と朝焼けが織りなす幻想的な風景

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + EF400mm f/5.6L USM
■撮影環境:f/8 1/100 秒 ISO 200 露出補正 ±0

雲海が山々や谷間に広がり、その中に朝焼けの色彩が映し出されると美しい風景が広がります。朝焼けの温かな色と雲海のコントラストが美しく、静かな海の上から朝日が上がってくるような幻想的な光景が広がります。雲海の上で広がる朝焼けは、水滴による反射で色鮮やかに映し出され、幻想的な光の層が広がるかのような美しい風景が楽しめます。

刻々と変化していく雲海の美しさ

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF135mm F1.8 L IS USM
■撮影環境:f/8 480 秒 ISO 100 露出補正 ±0
■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF135mm F1.8 L IS USM
■撮影環境:f/1.8 10 秒 ISO 100 露出補正 ±0
■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF135mm F1.8 L IS USM
■撮影環境:f/1.8 1/15 秒 ISO 100 露出補正 +0.33

雲海は刻々と変化していき様々な表情を見せてくれます。流れる雲のうねりや色と質感の変化、雲の形と動き、光と影などで印象的な一枚に。そして、シャッタースピードの選択により様々な表現が可能になります。遅いシャッタースピードを使うと、雲が流れる動きが絵のように描かれ、一瞬一瞬の変化が軌跡として切り取られます。逆に速いシャッタースピードは、雲の細かな動きや質感がでます。このシャッタースピードによるアプローチは、雲海の一体感と広がりを強調し大自然の壮大さを感じさせてくれます。

まとめ

■撮影機材:キヤノン EOS R5 + RF100-500mm F4.5-7.1 L IS USM
■撮影環境:f/7.1 1/80 秒 ISO100 露出補正 ±0

鮮やかな秋の風景に広がる霧や雲海は、幻想的で神秘的な姿を見せてくれます。美しい紅葉や季節の移ろいと霧や雲海を組み合わせることで、風景写真に深みと魅力を加えることができます。この季節しか見ることのできない風景を写真に残すことで、観る人に感動や思いを届けることができます。
風景写真の魅力は、一瞬の美しい瞬間を捉え写真に閉じ込めることで多くの人に届けることがあります。ぜひ美しい秋の風景をカメラを通して、心に残る一枚を撮影しに出かけてみてはいかがでしょうか。

 

■写真家:八木千賀子
愛知県出身。幼い頃より自然に惹かれカメラと出会う。隻眼の自分自身と一眼レフに共通点を見いだし風景写真家を志す。辰野清氏に師事し2016年に【The Photographers3 (BS 朝日)】出演をきっかけに風景写真家として歩み始める。カメラ雑誌、書籍など執筆や講師として活動。

 

 

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