RICOH GR IIIx ~40mm単焦点レンズを搭載した新星GR~|こばやしかをる

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はじめに

 発売目前。「GRは単焦点28mm」という概念を超えた、新たな焦点距離40mmレンズを搭載した新星GR IIIxがいよいよ登場します。フィルムカメラの頃から28mmの焦点距離と画角に慣れ親しんできた方も多い中、どのような感覚で自分に寄り添ってくれるのか?と筆者自身も期待と不安を胸に手にしました。ドキドキしながらいち早く使わせていただいた感触と、新機能の一部をピックアップしてお伝えいたします。

GR IIIxの「x」とは

 「高画質・携帯性・速写性・深化」という一貫した基本コンセプトの下、新たにラインアップされるGR IIIx。GR25年の歴史における新境地とも言える標準域40mm相当(実焦点距離26.1mm・画角約57度)のレンズには、スナップ撮影の表現を広げるという意義が込められており、「x」にはextended=拡張させるという意味があります。撮影領域と機能の両方を拡張させることによって、コンパクトカメラでありながら様々な被写体と撮影シーンに対応できる1台に仕上がっています。

焦点距離40mm 撮影時の距離感をつかむ

 広角好きで28mmの画角が身についている筆者。スマホカメラも28mmが一般的であり、〝広角は寄って撮る〟が染み付いていて、いつも通りに被写体に近づくと戸惑い隠せず少々動揺。「おっと、これは踏み込みすぎなのか。」と思い三歩下がる。それこそが初めて使った時の感覚です。

 スナップ撮影では「まずはこの距離感をつかむことから」と言われているかのよう。しかし、一眼レフであれば標準レンズ50mmでも撮影をしており、レンズ交換をしたと思えば問題なく、手持ちのフィルムコンパクトカメラを見れば35mm、38mmといった近しい焦点距離のものもあります。「そういえばアイツいたな。」と思い出し、「3日付き合えば慣れる。」そんな感じですんなりと受け入れることができました。

 実際の撮影では、住宅地で一般的な幅員4m道路で思い切り反対側まで下がるようなイメージです。全体的に捉えるというよりも具体的に、より明確に被写体をクローズアップできます。

02_40mm 作例.JPG
■撮影機材:RICOH GR IIIx / GRレンズ26.1mm (40mm) F2.8
■撮影環境:SS1/80秒 F/2.8 ISO200 WB曇天 -0.3EV 
■イメージコントロール:ポジフィルム調

 フレームインしてくる人物を待ちながら撮影できる余裕さえ感じられ、スナップ撮影距離設定を存分に活かしてタイミングを狙った撮影が可能。

03_40mm 作例.JPG
■撮影機材:RICOH GR IIIx / GRレンズ26.1mm (40mm) F2.8
■撮影環境:SS1/1000秒 F/5.6 ISO200 WB太陽 -0.3EV 
■イメージコントロール:ポジフィルム調
04_40mm 作例.JPG
■撮影機材:RICOH GR IIIx / GRレンズ26.1mm (40mm) F2.8
■撮影環境:SS1/100秒 F/16 ISO200 WB曇天 -4.0EV 
■イメージコントロール:スタンダード

 撮影をする中、GR IIIxの40mmこそ撮影しやすい被写体も増えていくのだろうと感じました。建造物など28mmだと歪曲を感じられてしまう被写体も、歪むことなく見たままの素直な写りになります。また、焦点距離が長くなったことでボケもより柔らかくなります。

05_40mm 作例.JPG
■撮影機材:RICOH GR IIIx / GRレンズ26.1mm (40mm) F2.8
■撮影環境:SS1/50秒 F/2.8 ISO200 WB昼白色蛍光灯 -1.0EV 
■イメージコントロール:スタンダード
06_40mm 作例.JPG
■撮影機材:RICOH GR IIIx / GRレンズ26.1mm (40mm) F2.8
■撮影環境:SS1/160秒 F/3.2 ISO800 WB曇天 ±0EV 
■イメージコントロール:レトロ

テーブルフォトでも大活躍

 今までのGRでも、スマホカメラでも、広角レンズで撮ると漠然とした写真になり苦手意識の高い人が多いのがテーブルフォト。これまでGR IIIではクロップ機能50mmを使うのが適切でしたが、GR IIIxの40mmであればカメラを構えてアレコレ設定せず、カメラを取り出してサッと撮影できるので、食事をいただくマナーの上でもメリットです。

 タテに構えて撮影すればテーブルの上がすんなりと収まります。

07_40mm 作例.JPG
■撮影機材:RICOH GR IIIx / GRレンズ26.1mm (40mm) F2.8
■撮影環境:SS1/80秒 F/2.8 ISO800 WBマルチパターンオート +1.0EV 
■イメージコントロール:スタンダード

 高さのある被写体を撮影してもパースがつかないので、40mmという焦点距離の使いやすさに気が付くはず。なだらかにボケる背景によってより被写体が浮き立ちます。

08_40mm 作例.JPG
■撮影機材:RICOH GR IIIx / GRレンズ26.1mm (40mm) F2.8
■撮影環境:SS1/40秒 F/2.8 ISO800 WBマルチパターンオート -1.0EV 
■イメージコントロール:スタンダード

 40mmは28mmよりもグッと被写体に視線を注ぐようなアングルや切り取りの工夫も自然と身につきます。

クロップモードで中望遠を楽しむ

 GR IIIのクロップ機能(デジタルズーム)では「35mm」「50mm」の撮影が可能でしたが、GR IIIxでは「50mm」「71mm」となり、中望遠域までをカバー。GRで中望遠が撮影できるとは思いもよりませんが、遠方の被写体や近づくことのできない場所でのクロップモードはやはり頼れる存在で、大胆なフレーミングを可能にしてくれます。

 ここでは空に向かって撮影。オブジェから雲が吐き出されるように切り取ることができました。

09_70mm 作例.JPG
■撮影機材:RICOH GR IIIx / GRレンズ26.1mm (40mm) F2.8
■撮影環境:SS1/800秒 F/11 ISO200 WB曇天 -1.3EV クロップ71mm
■イメージコントロール:ポジフィルム調

 1.5mほどの距離にいたカラスは、カメラがコンパクトであることで威圧感を与えることなく至近距離で捉えることができました。

10_70mm 作例.JPG
■撮影機材:RICOH GR IIIx / GRレンズ26.1mm (40mm) F2.8
■撮影環境:SS1/400秒 F/5.0 ISO200 WBマルチパターンオート -0.7EV クロップ71mm
■イメージコントロール:モノトーン

 ガラス越し、柵越しといった手の届かない場所や距離での撮影も実現してくれる嬉しさも感じられます。

11_70mm 作例.JPG
■撮影機材:RICOH GR IIIx / GRレンズ26.1mm (40mm) F2.8
■撮影環境:SS1/40秒 F/9.0 ISO400 WB日陰 -1.3EV クロップ71mm
■イメージコントロール:レトロ

美しいボケを表現できるマクロモード

 マクロモードは最短撮影距離12cm。画像処理に頼ることのないその描写は、特にマクロ領域においてレンズの力が発揮されます。標準~中望遠らしい柔らかく美しいボケによって、雨の日の情景もしっとりとした雰囲気に。

12_Macro 作例.JPG
■撮影機材:RICOH GR IIIx / GRレンズ26.1mm (40mm) F2.8
■撮影環境:SS1/20秒 F/2.8 ISO800 WB太陽 -1.3EV マクロモード
■イメージコントロール:スタンダード

 クロップ71mmとマクロモードの組合せでは望遠マクロ的撮影が可能になります。手すりに巻きつくツタにクローズアップして撮影したところ、背景の木漏れ日が玉ボケになって美しく、コンパクトカメラとは信じがたい写りに。合焦面の細部にわたる描写も見事です。

13_Macro 作例.JPG
■撮影機材:RICOH GR IIIx / GRレンズ26.1mm (40mm) F2.8
■撮影環境:SS1/125秒 F/2.8 ISO200 WB太陽 +0.3EV クロップ71mm マクロモード
■イメージコントロール:スタンダード

 小さな被写体もよりフォーカスした撮影が可能になる上、撮影していてモニター画面を通して見えるボケの美しさに感動するはずです。

トリミング機能が充実

 今までになかった機能として、画像再生時メニューの「トリミング」項目ではアスペクト比を変えられる他、水平垂直補正が可能になりました。慌てて撮影した際に不用意に斜めになってしまった画像を、0.1度ずつ回転させながら微調整し真っ直ぐにすることができます。JPG画像を調整するので、RAWデータは撮影時のままに、PCに画像を取り込む必要がなくその場で調整できるのはありがたい機能です。

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【左】撮影時データ 【右】トリミングで傾き調整後
0.1度ずつ回転させることが可能。傾きの角度調整と同時にトリミングされます。

 また、アスペクト比は1:1の他、GR IIまで馴染み深かった4:3も加わり、さらに16:9にもトリミングが可能になるなど、被写体に合わせた見せ方の工夫ができるのも嬉しい点です。

15_Trim-4:3.jpg
【左】3:2で撮影 【右】4:3にトリミング
従来機で馴染み深い4:3はスマホ撮影に慣れている人も使いやすいはず。

 ボクシングリングのロープに合わせて横に流れる視線を利用して16:9にトリミングしたところ、TV画面を見ているような面白さが出せました。

16_rim 作例.JPG
■撮影機材:RICOH GR IIIx / GRレンズ26.1mm (40mm) F2.8
■撮影環境:SS1/125秒 F/2.8 ISO200 WBマルチパターンオート -0.7EV クロップ50mm
■イメージコントロール:ブリーチバイパス

プログラムラインに深度優先(深い)が追加

 あまり気にかけたことがないかもしれませんが、撮影時の露出設定には「プログラムライン」という項目があり、ピント合焦面より背後をどのように表現するかという設定を行うことができます。GR IIIxではプログラムラインに「深度優先(深い)」が追加され、優先的に絞り込んだF値(F11基準)が選択されるようになっています。

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【上】「開放優先」:被写体が浮き立つように合焦点から背面がボケる
【下】「深度優先(深い)」:画面全体にピントが合うようになる
被写体との距離に対して深度が決まる。深度合成ではなくカメラの絞りを変えることによる表現。深度優先(深い)ではほとんどの場合、自動的に絞りF11となる。

 ピントが浅くなってしまう、ピントの甘さが気になる、パンフォーカス的に描写したいなどの時に「深度優先(深い)」を機能させることで、今までのGRらしく画面全体にパンフォーカスして被写体を狙うことができます。記念撮影などでも役立つ機能です。

18_P line 作例.JPG
■撮影機材:RICOH GR IIIx / GRレンズ26.1mm (40mm) F2.8
■撮影環境:SS1/500秒 F/11 ISO800 WB太陽 +0.3EV 
■イメージコントロール:ハードモノトーン

 開放優先で撮影すれば、合焦面は物凄くシャープで精細な描写でありながら、ボケのニュアンスが効いて優しい雰囲気に。どちらも撮影シーンと被写体により使い分けることで表現の幅が広がります。

19_P line作例.JPG
■撮影機材:RICOH GR IIIx / GRレンズ26.1mm (40mm) F2.8
■撮影環境:SS1/60秒 F/2.8 ISO200 WB太陽 +1.7EV 
■イメージコントロール:スタンダード

 プログラムラインの「深度優先(深い)」は、ファームウェアのアップデートによりGR IIIの広角28mmでも使える機能となるので、より深度の深い撮影が可能になります。
※トリミング機能もファームウェアでアップデートされます。

おわりに

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【中央】RICOH GR IIIx 【右】RICOH GR III

 まだまだ機能を紹介しきれていませんが、GR IIIxは私の相棒GR IIIによき友だちが増えたようで頼もしく感じました。二つを比べるのではなく被写体とシーンによってそれぞれに使い分けるのが良い使い方と言えます。今までに「GR使いたいけど28mmは広すぎて難しい。」という声もありましたが、これで解消するのではないでしょうか。

 また、スマホカメラ+GR IIIxという組み合わせもあり。スマホカメラだけでは叶わなかった一眼レフに匹敵する機能とレンズの力による美しい表現を取り入れることは、これからのスタイルとして定着しそうな予感さえします。気軽に出かけるという点でも、写真の質という点でもとてもベストチョイス。初めてのデジタルカメラとしてもGR IIIxをおすすめします。

 GR IIIxの写真はInstagram(@kobayashikaworu_gr)でも随時アップする予定です。ぜひご覧ください。

■写真家:こばやしかをる
デジタル写真の黎明期よりプリントデータを製作する現場で写真を学ぶ。スマホ~一眼レフまで幅広く指導。プロデューサー、ディレクター、アドバイザーとして企業とのコラボ企画・運営を手がけるなど写真を通じて活躍するクリエイターでもあり、ライターとしても活動中。

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■RICOH GR IIIx ~日常を切り取るもう一つの眼~|木村琢磨
https://www.kitamura.jp/shasha/article/483628267/

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