色々な撮り方が楽しめる花 ポピー|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

吉住志穂
色々な撮り方が楽しめる花 ポピー|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~

はじめに

ポピーはヨーロッパ原産でケシ科の一年草。花びらは大きくて薄く、蝋細工のように艶があります。花一輪にボリュームがあるので、密集して咲くポピー畑はとても見応えがありますね。また、クローズアップしてもポピーの美しさが感じられます。花びらの重なり、雌しべ、雄しべの造形など、とても姿の整っている花だと思います。

ポピーにはさまざまな種類がありますが、園芸品種で有名なのがアイスランドポピーとシャーレーポピーのふたつ。アイスランドポピーは白、黄、オレンジ、ピンクと淡く、明るい色の花がミックスして咲きます。一方、シャーレーポピーは濃い赤色がメインでピンクも見られます。赤の同系色で、鮮やかで色のまとまりのある品種です。今回はその2種類のポピーの作品を紹介します。

花を擬人化してイメージを作る

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO + M.ZUIKO DIGITAL 1.4x Teleconverter MC-14
■撮影環境:絞り優先・210mm・F4.0・ISO200・1/640秒

並んで咲く二輪を主役にしました。背丈が少し違うので、親子やきょうだい、カップルなどとイメージが膨らみますね。このように花を人のように捉える“擬人化”を使って作品のイメージを作るのもいいでしょう。そこから、楽しそうなのか、寂しそうなのかという心情も合わせて表現できるといいですね。穏やかな春の日に仲良く寄り添う雰囲気なので、前後にボケを入れて、この二輪だけを浮かび上がらせました。主役が白いので、背景に白が入ると主役が目立ちにくくなります。そのため、なるべく背景に白が入らないようなポジションを選びました。

伝えたいものは何かを明確に

■撮影機材:OMシステム E-M5 Mark III + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F4.0 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F4.0・ISO200・1/1000秒

画面からはみ出るほどにクローズアップしました。見せたかったのは花びらの重なりです。逆光で花びらが透けているので、花びらの重なった部分とそうでない部分で濃度が異なり、それが美しく感じました。一輪を画面にすっぽり収めると「花」として全体を見せることになりますが、部分をアップで捉えることで「花びらの重なり」が主役になります。伝えたいものは何かをフレーミングで明確にしましょう。しかし、花をアップで撮ることを意識するだけではなく、わずかに入った背景も疎かにしてはいけません。すっきりとしたボケと華やかな彩りで画面全体を無駄なく埋めていきましょう。

密集感を高めるには望遠レンズ

■撮影機材:OMシステム E-M1 + ZUIKO DIGITAL ED 50-200mm F2.8-3.5
■撮影環境:絞り優先・200mm・F3.5・ISO200・1/1600秒

アイスランドポピーの広大な花畑。花の密集感を高めるには焦点距離の長いレンズを使いましょう。また、すぐ近くの花ではなく、遠くを狙うほど花の重なりを感じます。これは見る角度の問題で、近くの花は見下ろすような角度になり、花と花とに隙間ができます。しかし、遠くの花は水平に近い角度から見るので、花どうしが重なって見えるのです。そして、そんな遠くの花畑を切り取れるのは望遠レンズというわけです。望遠ズームの最望遠を選び、密集度の高い部分を切り取りました。また、前ボケを入れることで奥行き感を出し、花畑が広いものだと感じさせることができました。16:9の画面比率を選ぶと映画のワンシーンのように見えてきますよ。

遠近感を出すには広角レンズ

■撮影機材:OMシステム E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 12-40mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・12mm・F2.8・ISO200・1/200秒

シャーレーポピーは赤やピンクの色が鮮やかです。青空に向かって咲く、元気なイメージに仕上げました。このような撮り方をするときは広角系の画角を選びましょう。広角レンズか標準ズームの広角側を選んでください。単純に広角は画角が広いので、花を見上げた時にも広い画角で写せることが一点。これを望遠で撮ると地面があるので後ろに下がれないわけですから、花がアップで写ってしまいます。もう一点は遠近感がつくので、伸び上がる様子が伝わるということ。花と太陽を重ねたのですが、太陽の周りは白っぽいので、そこに見る人の視線が行きやすくなります。

赤色は露出、彩度、光の当たり具合の調整を

■撮影機材:OMシステム E-M1 Mark II + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・150mm・F2.8・ISO200・1/640秒

シャーレーポピーは真っ赤な花色が特徴ですが、赤色を綺麗に出すのはなかなか難しいものです。暗めに写すと濁るし、明るく写すとべたっとしてしまいます。そのため、露出補正は細かく調整しましょう。露出、彩度、光の当たり具合を変えて、好みの色になるように調整してみてください。晴れた日に色が鮮やかになる仕上がり設定にしていると、色飽和といって再現できる色域を超えてしまう状態になるので要注意です。また、シャーレーポピー畑はたいがい花畑の色が赤一色なので、主役が背景の色に埋もれやすいのも難点です。それでも濃度の違う赤色やわずかな緑のボケと重なるようなポジションを選びました。

茎が細いので被写体ブレに注意

■撮影機材:OMシステム E-M1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 60mm F2.8 Macro
■撮影環境:絞り優先・60mm・F2.8・ISO200・1/160秒

ピンク色のシャーレーポピーは花びらのグラデーションがとても美しいです。マクロレンズを使って、花びらの先端を狙ったのですが、拡大率が高く、絞りも開放のF2.8なのでシャープな部分がごく僅か。ピント合わせはとてもシビアになります。カメラブレは三脚に据えるか、しっかり構えることで防ぎましょう。しかし、ポピーは茎が細いので風があると揺れやすいため、被写体ブレを起こすこともあります。前後に揺れればピントもずれるので、なるべく風のないタイミングを待ち、多めにシャッターを切っておくといいでしょう。もちろん、撮影後に再生して、ブレていないか、ピントが合っているかを確認するのも怠らないように。

真っ黒な背景の作り方

■撮影機材:OMシステム E-M1 Mark III + M.ZUIKO DIGITAL ED 100-400mm F5.0-6.3 IS
■撮影環境:絞り優先・292mm・F6.3・ISO200・1/1250秒

真っ黒な背景にオレンジのポピーが浮かび上がります。どうやって撮ったのかと聞かれることの多い作品のひとつです。まず、花びらが透けていることから逆光だとわかると思います。花びらはもちろん、茎の粗毛の輝きにポピーの特徴が表れていますね。ポピーは茎や蕾にこの毛が見られます。そして、黒バックなのは、背景が林だったためです。厚みのある林は背後から光が当たっても光を透過しませんが、花びらは薄いので透過します。そのため、暗い林と明るい花という明暗差が生じて、黒バックになったというわけです。目では黒くは見えていないので、実際に写してみて、感覚を養いましょう。

春の花の儚さを表現

■撮影機材:OMシステム OM-1 + M.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PRO
■撮影環境:絞り優先・142mm・F2.8・ISO200・1/640秒・アートフィルター「ファンタジックフォーカス」

ポピー以外にもいろいろな花を咲かせたガーデンで、一輪のポピーを狙いました。曇っていたこともあって、少し寂しい雰囲気を出しています。晴れている日と違って、曇天時は色が濁りやすくなるため、露出は+1.3EV補正をかけて、実際よりも明るめにしています。しかし、露出が明るければ明るい雰囲気になるとは限らず、全体の雰囲気は寂しさが感じられると思います。その理由のひとつはフレーミングです。複数の花に囲まれているのと違って一輪だけポツンと咲いているので、孤独感が出ました。また、ホワイトバランスをカスタムで調整して少し青みを加えています。寒色系は寒々しい色合いなので、寂しさが感じられます。春の花の儚さを表現することができました。

まとめ

8つの作品のうち、7つが望遠系のレンズを使っています。背景をぼかすにも、花畑のボリューム感を出すにも望遠レンズがおすすめです。望遠レンズは被写体同士が近くにあるように感じる“圧縮効果”が生じるので、焦点距離の長いレンズを使うことで、より一層、密集感を高めることができます。逆に、広角系の画角を使った作品は花を見上げて撮る“広角接写”で撮っています。いつもの視線とは異なるので、新鮮に感じます。アイスランドポピー、シャーレーポピーと色合いのタイプが違う2種類のポピーを紹介しましたが、それぞれに魅力がありますね。お近くにもポピー畑がないか、ぜひ検索してみてください。

 

 

■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。

 

 

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