映画の中の、あのカメラ|15 シビル・ウォー アメリカ最後の日(2024) ニコン FE2
はじめに
皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。唐突ですが、映画の小道具でカメラが出てくるとドキッとしてしまい、俳優さんではなくカメラを凝視してしまったという経験はありませんか? 本連載『映画の中の、あのカメラ』は、タイトルどおり古今東西の映画の中に登場した“気になるカメラ”を毎回1機種取り上げ、掘り下げていくという企画です。
内戦が勃発した近未来アメリカ合衆国の狂気
今回取り上げる作品は、アレックス・ガーラント監督の『シビル・ウォー アメリカ最後の日』です。舞台は近未来のアメリカ合衆国。国内の分断が激化しワシントンD.C.の陥落が目前に迫っているにもかかわらず、権威主義的な大統領は勝利が近いとテレビで演説を繰り返しています。女性カメラマンのリーをはじめとする4人のジャーナリストはクソ大統領への単独インタビューを遂行すべく、ニューヨークからホワイトハウスに向け危険な旅に出ます。取材班の一行が戦地と化したアメリカ国内の道中で体験する内戦の恐怖と狂気を、圧倒的な没入感で描き出した傑作です。
劇中に重要な小道具として登場するニコン FE2

世界中の戦地で撮影を続けてきたリー(キルスティン・ダンストが超クールに好演)が手にするカメラはソニー α7にライカのズミクロン M35mmの組み合わせという百戦錬磨のフォトジャーナリストを感じさせるもの。一方彼女に憧れミズーリの農場から出てきたジャーナリスト志願のジェシーの手にはお父さんが使っていたカメラが。これから行動を共にすることで成長を遂げていくことになるルーキーに向かってリーは「ニコンFE2、もうあまり見ない」と、無表情ながら遠い記憶をまさぐるように言い放ちます。
最高シャッター速度1/4000を実現したAE機

ニコン FE2は、1983年に発売開始された絞り優先AEおよびマニュアル露出が可能な35mm判一眼レフです。ニコンFマウントを採用したマニュアルフォーカス機で、1980年代初頭としては驚異的なシャッター最高速度1/4000秒を実現。FE2の発売から遡ること1年前にTTL露出計連動のマニュアル機であるFM2で1/4000秒は達成されていますが、FE2ではフラッシュシンクロ速度が1/250秒であることがアドバンテージで、その後このスペックはNew FM2にも採用されていきます。フラッシュシンクロの高速化は当時の報道系カメラに強く求められていた性能でした。
ニコン FEからバージョンアップされた諸元

先輩モデルのニコン FEの発売は1978年。シンプルニコンをキャッチフレーズに掲げ、絞り優先オートを実現しながら姉妹機のニコン FMと同等のサイズ感で持ち歩きしやすいことから、初心者だけでなくプロのサブ機としても活躍したモデルです。ニコン FEでは露出補正ダイヤルを持ち上げて操作する必要がありましたが、ニコン FE2ではロック解除ボタンを操作するだけで稼働する仕様とし、フラッシュ撮影時にTTL自動露光に対応するなど使い勝手を向上させています。
ハニカム構造で肉抜きされたチタン製シャッター

ニコン FE2のシャッターは、メタルのブレードが縦方向に走行するスクエア型の構造です。横に走るシャッターよりも短い距離を走行するので原理的に最高速度が出しやすいのですが、1/1000秒止まりの速度を1/4000秒まで持っていくにはシャッターブレードの耐久性を上げる必要があります。そこでチタン素材をエッチングしてハニカム状のパターンを持たせたシャッターが採用されています。この部品は後期モデルではアルミ製の平板に変更されますが、見た目としてはハニカムシャッターのほうが豪華で先端的な印象があります。
増補された機能と裏腹に省略された機構

こちらはFE2のマウント部ですが、正面から見て1時半あたりの位置に黒いプラスチックの出っ張りが見えるでしょうか? これはAiニッコールを装着した際に開放F値および現在設定中の絞り値を検出するためのもの。この出っ張りがレンズ絞り環の切り欠きと組み合わさって半時計方向に回ることでボディ側に絞り値を伝えます。Ai化される前のニューニッコールまでのFマウント交換レンズを装着すると、絞り環とこの出っ張りが干渉してすごく嫌な感じになります。
前機種のFEなら非Aiタイプのレンズにも対応

こちらは先輩モデルのFEを同ポジションで撮影したもの。正面から見て1時半あたりの位置に金属製の出っ張りがあります。これはFE2と同様に装着したレンズの絞り値をボディに伝えるものですが、ロック解除ボタンを押せば倒すことができるのでAi化以前のニッコールレンズも気持ちよく装着できます。この機構を盛り込むためには多くの部品点数が必要で、樹脂の一体整形品と比べるとコストが掛かっているのが分かります。ちなみにAi化以前のニッコールレンズ装着時には絞り込み測光となります。
ニコン FEとFE2のどちらを選ぶべきか?

ニコン FEとFE2を比較してみると外観の印象は瓜二つで、新製品だから見た目を変えなければいけないという商業主義に流されることなく堅実な製品開発を進めていたことが分かります。両機の大きな差はシャッター最高速度ですが、ディテールを観察していくとFE2ではシャッターボタン周辺など生産性向上のため簡略化された部分もあり、手が込んだカメラが好きならばFE、高速シャッターなどの付加機能が重要と考えるならFE2という選び方になるかと思います。
まとめ

映画の中でモノクロフィルムを装填したFE2を持ったジェシーは凄惨な現場にカメラを向けることもできない状態からスタートし、ジャーナリストの仲間と共に死線をくぐり抜けていくなかで歴史に刻まれるような写真の撮り方を体得していきます。クライマックスシーンでは壮絶なアクションの途中で撮った写真がモノクロでインサートされ、『フィルム機でそれは無理でしょ』と言いたくなるほどのスーパーショットをものにするのですが、現実世界においてもニコン FMおよびFE系列のカメラは写真のイロハを学び、写真術の成長を手助けしてくれるキャラクターを持ったカメラだと思います。
■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。企画、主筆を務めた「LEICA M11 Book」(玄光社)も発売中。












