富士フイルム XF8mmF3.5 R WR|スナップ、風景、旅の撮影に最強のジョーカー
はじめに
ワールドカップやWBCなどで大事な時に、点を稼ぐポイントゲッターあるいは最近ではジョーカーとも呼ばれる選手がいる。普段はあまり前面に出ないが、ここ一番という時に突然現れチームに貢献して点を取る。ゲームの流れが一気に変わる大切な選手。
実はカメラのレンズでもそのような存在がある。僕の中でジョーカーのレンズと言えば富士フイルム XF8mmF3.5 R WR(以下XF8mm)。その特長は人間の視角を超えるのではと言われる121°の画角。広さと強烈な遠近感を演出してくれる。そして何よりも全長52.8mm、215gというコンパクトさだ。ポケットの中にすっぽり入る大きさ。この異次元の視覚と、コンパクトな機動力は、スナップ、風景、旅の撮影には最強のジョーカーとなる。
今回は日本、オーストラリア、ヨーロッパとあらゆる条件で使ったXF8mmの世界をお見せしたい。

超広角で感動をそのまま表現

■撮影機材:FUJIFILM X-T4 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f6.4 絞り優先AE +0.3補正 ISO5000 WB/AUTO FS/Velvia
長年の夢であったヴェネチアを訪れたとき、やはりオペラの本場イタリアでオペラを生で見たいということで、ヴェネチアのオペラ座、フェニーチェ劇場に行った。ここは別名、不死鳥劇場とも呼ばれている。理由は二度の大火からよみがえった劇場だからだそうだ。それだけヴェネチアの人に愛されているあかしだ。
過去に欧州でパリやブダペストのオペラ座を見学で訪れたことがある。ただその時はXF10-24mmF4 R OIS WRを持っていたのだが、どうしてもあの宇宙を感じさせる広大な空間を収め表現することが出来なかった。そのためヴェネチアに行くときは迷わずXF8mmをカメラバッグに忍ばせた。
豪華絢爛の空間を表現する為にXF8mm+FS(フィルムシミュレーション)をVelviaにして撮影。心に描いた通りに表現できた。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f10 絞り優先AE -1.7補正 ISO125 WB/晴れ FS/Velvia
タスマニアの州都、ホバートのホテルの展望室から見渡す、ホバートのウォーターフロント。いつもここで、エレベーターの扉が開いた時に感動するパノラマ風景なのだが、やはり今までは1枚に収まり切れなかった。今回はXF8mmのおかげで、エレベーターを降りたときに、視界に入る感動をそのまま表現できた。

■撮影機材:FUJIFILM X-T4 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f5.0 絞り優先AE +1補正 ISO3200 WB/電球 FS/ACROS+Y
デザイン大国フィンランド。ホテルの廊下もシンプルで美しい。今回は広角レンズの名手スタンリー・キューブリックをオマージュして一点技法で撮影。もともとスチール写真家だったキューブリックは広角レンズを多用し、広角レンズの名手とも呼ばれていた。彼は広角レンズと得意とする一点技法の組み合わせで数々の名作映画を完成させた。代表作の「2001年宇宙の旅」「シャイニング」にもその絵造りはふんだんに使われた。
今回はXF8mmで果てしなく続く廊下を表現。キューブリックが生きていたら絶対にFUJINON XF8mmを使ったであろう。

オーストラリア タスマニア州 マウントフィールド国立公園
■撮影機材:FUJIFILM X-T4 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f6.4 絞り優先AE +0.7補正 ISO160 WB/電球 FS/ACROS+Ye
タスマニアのユーカリの森。高い樹だと70mを超える。その森のそびえる感じを表現したくてXF8mmを仰角に向けた。森の木々の形を強調する為に、あえてモノクロを選んだ。モノクロ撮影の場合、シャドー部をしめるためにWBを電球もしくは3100K前後に設定をする。そしてもちろんフィルターの選択も大切だ。今回は少しディテールも見せたかったのでYe(イエロー)を選択。
なぜXF8mmF3.5 R WRを選んだのか

オーストラリア タスマニア州 クレイドルマウンテン国立公園(世界遺産)
■撮影機材:FUJIFILM X-T4 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f4.0 絞り優先AE -1補正 ISO800 WB/晴れ FS/ASTIA

北海道 糠平湖
■撮影機材:FUJIFILM X-T4 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f7.1 絞り優先AE +0.3補正 ISO400 WB/晴れ FS/ETERNA
XF8mmを使用していると、アマチュアの方から、どうしてFUJINON XF8-16mmF2.8 R LM WRのズームではなく単焦点のXF8mmを選んだのですか?との質問をいただく。ズームではなく単焦点を選んだ理由として以下の要素がある。
(1)最短撮影距離が短い
(2)小さくて軽い
(3)既存のFUJINON XF10-24mmを持っている
(4)価格面
4つの要素でXF8mmにしたが、一番大きいのはやはり(1)の最短撮影距離。XF8mmは撮像面から最短撮影距離18cm、それに対してXF8-16mmズームは25cm。超広角8mmの世界での7cmの差はとても大きい。まるで別表現になる。
上の1枚目の苔の写真のポイントは、いかに苔に近寄り、かつ背景の森の表現をするかだ。もし苔に近づく距離が遠い場合は、苔のディテールの表現が弱くなる。2枚目は北海道糠平湖の冬の風物詩、アイスバブル。急激に気温が下がり、湖が凍結して、水中の気泡が凍りついたもの。気温がマイナス30℃近くまで下がる1月末から見ることが出来る。
この時も地吹雪の背景を入れながら、アイスバブルの立体感を表現したかった。そのため凍った湖面に腹ばいになり、レンズをほぼ氷に密着させて撮影すること2時間。もし最短撮影距離が遠い場合は、これほど気泡をクローズアップできなかっただろう。ただ2時間氷の上にアザラシのように腹ばいになっていたおかげで、夜お腹の具合が悪くなってしまった笑。次回はおなかにホカロンを巻いていくつもりだ。超デフォルメが表現出来るXF8mmの最短撮影距離は大事なファクターだ。
(2)はやはりシステムで持ち歩くとき、大きさは重要。それと(3)と(4)は従来のXF10-24mmを持っていれば、価格の高いズームに買い替えるよりも、単価の安いXF8mmはとてもリーズナブル。フリーランスの写真家をしていると、仕事の場合の機材の減価償却費やコストも考えなければならないからだ。

オーストラリア ノーザンテリトリー デビルズマーブルズ
■撮影機材:FUJIFILM X-T4 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f3.5 25sec ISO12800 WB/電球 FS/Velvia
実はXF8mmを購入した一番の理由は、この作品を撮るためだった。奇岩を地球に見立てて、銀河を背にして、宇宙空間に存在する地球のイメージを撮りたかった。本当は宇宙に行き地球を撮ればよいのだが、年齢、体形、あと虫歯があるので宇宙飛行士にはなれないため、地球で宇宙をイメージする作品を撮るしかなかった。
この奇岩は直径4mほど。しかもさらに大きな奇岩の上に乗っている。銀河をバックに2018年に撮影しようとしたが、当時のXF10-24mmでは画角が足りず、引きが取れなくて撮影できなかった。今、撮影しているポジションの後ろはすぐに岩の端でこれ以上下がれない。まさにXF8mmが無ければ撮影できなかった作品。自分の写真家人生の中でも金字塔の1枚。これが撮れたのでXF8mmはとても安い買い物だったと思う。
星空写真にもお勧め

オーストラリア 西オーストラリア州 キンバリー地方
■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f5.0 1.5sec ISO12800 WB/電球 FS/Velvia

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f4.5 6sec ISO1600 WB/晴れ FS/Velvia
この数年、風景写真界では星景写真という分野が人気だ。デジタル化が進化し、超高感度での撮影がノイズの影響が少なく撮影できるのと、画像処理ソフトでノイズがさらに軽減できるようになったからだ。その星景写真を撮る方にお勧めなのもXF8mm。コンパクトで絞りリングも独立していて、MFでも使いやすいレンズ。何よりも天空をカバーできる広い画角。かつ色に関しては定評のあるFUJIFILM Xシリーズ。まさに星景写真を撮るためのレンズとカメラの黄金の組み合わせだと思う。
ちなみにオーストラリアは人口密度が世界でもっとも低い大陸の一つ。工業地帯も無いので夜の星がとても撮影しやすい。もちろん空気のクリーン度は世界トップレベル。かつ大型の肉食獣がいないので、夜の撮影も比較的安全。今や日本で夜の星景写真は、クマさんを注意しなければならないので命がけだ。
僕は星景撮影では世界で最もおすすめはオーストラリアだと思う。中でも西オーストラリア州北部にはバオバブの木がたくさん生えている。遠いマダガスカルやアフリカ東部まで行かなくても、バオバブが撮れる。かつオーストラリアの治安は日本と同等に安全。だからこそ心おきなく夜のフォトジェニックなバオバブがXF8mmで撮れる。(バオバブのエリアは10月末から4月末まで雨季となる。渡豪する場合は現地情報をご確認を)
クリアーな画質はさすがFUJINONの技術

■撮影機材:FUJIFILM X-T4 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f8.0 絞り優先AE -0.7補正 ISO400 WB/電球 FS/Velvia
もちろん星景撮影に限らず、通常の都市景観の夜景でもXシリーズとXF8mm組み合わせは強い味方になってくれる。色にじみやフレアの少ないクリアーな画質はさすが、テレビや映画の業務レンズで鍛えられたFUJINONの技術。そして夜の光源を落ち着かせるために、WBをあえて電球モードにした。複数光源の再現性はさすが富士フイルムの色だと納得する。

オーストラリア 西オーストラリア州 バングルバングル(世界遺産)
■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f11.0 絞り優先AE 補正0 ISO250 WB/電球 FS/ACROS+R

オーストラリア 西オーストラリア州 バングルバングル(世界遺産)
■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f11.0 絞り優先AE 補正0 ISO200 WB/晴れ FS/Velvia
オーストラリアは世界最古の大陸。その中でも最も太古の地球の姿を残しているのが西オーストラリア州だ。その中でも最も強烈な存在がバングル・バングル。数億年前ゴンドワナ大陸が分かれオーストラリア大陸が誕生した地殻変動で、海底から隆起してできた奇岩の風景。僕が初めてオーストラリアを旅した1988年にはまだ見つかっていなかった場所だ。
強烈な真っ赤な岩と成層圏のようなブルーのコントラストがバングル・バングルの見どころ。その風景と色を、肉眼で見たときの感動をそのまま表現するためには、XF8mmを使った遠近感しかないと考える。そしてそれをFUJIFILM Xシリーズならではの色設定がさらに表現を加速してくれる。

オーストラリア 西オーストラリア州 ブルーム ガンシウムポイント
■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f8.0 絞り優先AE -1.3補正 ISO250 WB/晴れ FS/Velvia
西オーストラリア州ブルームは真っ赤なオーストラリアの大地がインド洋に落ち込むところ。その強烈なコントラストはまさにVelviaで撮るために存在する。この砂岩でできた岩の模様と、岩の形をXF8mmのパースペクティブでデフォルメして表現した。
レンズによる差別化で個性を出す

■撮影機材:FUJIFILM X-T4 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f8.0 絞り優先AE -1補正 ISO160 WB/電球 FS/ACROS-R

■撮影機材:FUJIFILM X-T4 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f8.0 絞り優先AE -0.7補正 ISO160 WB/電球 FS/ACROS-R
いま、2027年の5月に青森で開催する写真展に向け作品を撮っている。ここでもXF8mmは大きく活躍している。奇岩が並ぶ海岸。実は海岸まで山が迫り、引きが充分得られない。そして有名観光地であるので、他の人の作品との差別化を図りたい。そのために多用しているのがXF8mm。
よく写真教室で「他の人と差別化しなさい。個性を出しなさい」と教えられる人も多いはず。でも個性はそう簡単に出ない。簡単にできるならば、写真教室にはいかない。ただ簡単に表現出来る方法があるとすれば、その一つがレンズによる差別化だ。あまり他者が持たない超広角レンズは、個性的な表現の強い味方になってくれる。(写真展の詳細は2026年12月発表予定。こうご期待)

■撮影機材:FUJIFILM X-T4 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f8.0 絞り優先AE +1.3補正 ISO160 WB/晴れ FS/velvia
ランドスケープは撮らないから、あまり超広角レンズは必要ないと思っている方。スナップ撮影でもXF8mmは強い味方。ゴールドコーストの海岸に伸びるタイヤの跡と、二人の人物。広い風景を使った遠近感のあるスナップにもとても便利。この時に画角が狭いと、奥に向かう感じがスポイルされる。

■撮影機材:FUJIFILM X-T4 + FUJINON XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:f8.0 絞り優先AE +1補正 ISO400 WB/電球 FS/ ACROS+Ye
最後の作品はヴェネチアの朝。狭い路地と水路が入り組むヴェネチア。シルエットになった電灯の上に鳩がいた。街並みと運河とあわせて撮ろうとしたら、装着していたXF16mmでは収まりきらなかった。そこでXF8mmに交換。でも交換する数秒の間に鳩が飛んで行かないか、すごく心配だった。「鳩さん、飛ばないで」と、祈りつつレンズを交換した。長い数秒だった。構えて1~2秒で空の彼方へ飛んで行った。待っていてくれてありがとう。
まとめ
XF8mmは通常ではあまり使わないレンズ。だけど組み写真、写真展、写真集などで1枚ピリリとワサビを利かしたいときに生きてくるレンズ。そして建築や風景、星景を撮る方は是非とも持つべきレンズ。あ~~、XF8mmを持っていればよかった!そう思う前にカメラバッグに用意してほしい。望遠は焦点距離が足りなければ、最悪トリミングでも対応ができる。だが広角は、画角が足りなく入りきらない場合は、画像処理では対応できない。そして独特の世界観も必見。相原一押しの1本である。
■撮影協力
タスマニア州政府観光局
クイーンズランド州政府観光局
西オーストラリア州政府観光局
カンタス航空
■写真家:相原正明
1988年のバイクでのオーストラリア縦断撮影以来、オーストラリアを中心に「地球のポートレイト」をコンセプトに撮影。2004年オーストラリア最大の写真ギャラリー・ウィルダネスギャラリーで日本人として初の個展開催。2008年には世界のトップ写真家17人を集めたアドビフォトアドベンチャー・タスマニアに日本・オーストラリア代表として参加。現在写真家であるとともにフレンド・オブ・タスマニア(タスマニア州親善大使)の称号を持つ。
FUJIFILM X Photographer、日本写真家協会(JPS)会員













