富士フイルム XF8mmF3.5 R WR レビュー|肉眼をはるかに超えても常用できる?時代が求めたスーパーワイドレンズ

内田ユキオ
富士フイルム XF8mmF3.5 R WR レビュー|肉眼をはるかに超えても常用できる?時代が求めたスーパーワイドレンズ

8mmの基礎知識

8mm(35mm判換算12mm)はXFレンズで最も画角が広いレンズです。これよりもっと画角が広いレンズも世の中には存在しますが、この8mmが普段使いできるギリギリのところではないでしょうか。理由はこの後で触れていきます。

対角線で121度ともなると、体感として自分の前にあるものはほとんどが写る感じ。それでも魚眼レンズとは違い、まっすぐ構えていても足が写り込んでしまうといった極端さはなく、モノの形が崩れてしまうほどの歪みもありません。
“常用できるスーパーワイド”として売り出されたのも納得です。

ワイド端で同じ画角をもつXF8-16mmF2.8 R LM WRを使ってみたことがあって、先に断言しておくと画質ではこちらのズームのほうが優れています。というか、このズームレンズが反則レベル。畳二枚分くらいのプリントを見たとき「肉眼よりも細かいところがはっきり見えるじゃないか!」と驚きました。周辺まで完璧に均質で超高解像。しかもF2.8通しなんて信じられません。

ただ、それだけ画質が凄くても気軽に持ち出せるサイズではなく、スナップで扱えるようなレンズではなかったです。使う機会がどれだけあるか考えてしまい、価格のこともあって購入を決断できません。意外とワイド側しか使わないため、それが小さく軽く、安く、単焦点で発売されて嬉しく思いました。

典型的なスーパーワイドの撮り方で、これはやっぱり外せない。中央だけでなく周辺まで滲みや崩れがなく、きちんと解像されていることがわかる。このクラスの超広角ではそれだけでも価値がある。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:SS1/25秒 絞りF3.5 ISO800
■フィルムシミュレーション:ASTIA

動画のトレンドとしての超広角

このXF8mmF3.5 R WRの登場を喜んだのは僕だけではないはずで、じつは動画の世界で超広角はトレンドとなっています。

最近の映画でやけに超広角の映像が多いと思いませんか? 
これは焦点距離が短くなって画角が広がるほど、没入感が増すとされているからです。
標準から中望遠にかけての距離感は、遠いところから眺めているような客観性があってクールな雰囲気につながるわけですが、超広角だと手で触れられるほど近い距離で深く入り込んでいるため臨場感があります。

アルフォンソ・キュアロン(映画監督)、エマニュエル・ルベツキ(撮影監督)が超広角をものすごく上手に利用しているので、興味があったら見てみてください。ちょっとだけゲームのPOV(Point of View)に似た感じがするかもしれません。そこで起きている事件をもっとも近いところで見ている感じがします。

映画っぽい、物語がある写真を意識した。距離を詰めて主観的に撮るのが最近の流行だが、引いて撮るときにリズムがあるようなもの(この写真では窓)を上手に使うと良い。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:SS1/20秒 絞りF8 ISO250
■フィルムシミュレーション:PRO Neg.S

高画素化によって多くの情報量が写し込めるようになったことも、超広角の人気を後押ししています。広めに撮っておいて大事なところをトリミングすることもできますし、高画素で情報を多くしておけば写真のなかの好きなところを見る人が選ぶこともできます。

Vlogなどで自撮りするときも、顔だけじゃなく周囲の様子まで入れられるのも便利ですね。距離を離さなくてもいいので狭いところでも扱いやすいから、一度でも使うと戻れません。

縦位置だとさらに奥行きが強調されるのでスーパーワイドの特徴がよくわかる。直線が多い構図にして、コントラストが高めのトーンでまとめたことでクールな印象になった。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:SS1/13秒 絞りF20 ISO400
■フィルムシミュレーション:Classic Chrome

肉眼を超えた、レンズでしか見られない世界

これくらいの知識はあっても、このレンズがロードマップに載ったとき「8mmなんて使える場所が限られすぎでしょ。キワモノだったらサードパーティで十分では」と思いました。面白そうだけど出番は少ないだろうから安いレンズでいいか、と考えてしまいますよね。

でも実際には、超広角は周辺まで破綻がなくてきちんと解像されていないと意味がありません。味わいがあるからいいやというわけにはいかず、質の違いが写真にそのまま直結するので、むしろ画質にはこだわるべき。

それほどでもないもの、と言ったら語弊があるが、実際よりもドラマティックに撮れるのもスーパーワイドの魅力のひとつ。画面に対して斜めの角度を操ってやるのがコツ。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:SS1/4000秒 絞りF5.6 ISO800
■フィルムシミュレーション:Velvia

X-T5につけて街に出たとき、最初は戸惑いがすごかったです。なにしろ肉眼では見えない世界。ファインダーを覗いていると迫力があって、すごい写真が撮れそうな気がするのに、後で見ると余計なものが入り込んでたり、フレーミングが散漫になって広い画角と強烈なパースペクティブが活かせていません。

よく撮るところが狭くて困っていた、撮りたかったものが大きすぎる、そういう8mmでないと撮れないものがある人なら最高でしょうが、僕の場合は悔しいからこのレンズを使いこなして、なんとかカッコいい写真を撮りたいというところからスタートしました。今回は写真を多めに選びましたから、格闘のプロセスも楽しんでもらえたらと思います。

それが写真を楽しくしてくれて、このレンズを持って歩くのが楽しくなるとは。究極の常用レンズと言っていいかもしれません。

手前にグッと大きく、ポイントになるものを入れてやるのは広角のセオリー。これだけ遠近感が強いので、じつは主役が奥に控えているというシチュエーションにできると、上級者の撮り方という感じがする。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:SS1/210秒 絞りF6.4 ISO800
■フィルムシミュレーション:Velvia

画質と操作感

まず驚くのはAFの速さ。フォーカス群の移動距離が短い広角レンズの特性とインナーフォーカスの採用によって、動いていることがわかりません。レリーズを半押ししたときにはもうピントが合っています。

激速AFに加え被写界深度もかなり深いですが、近距離になればボケるので、F8まで絞って40cmくらい(36cmが最適)のところにピントを置くと、最短撮影距離から無限遠までカバーされてパンフォーカスになります。動画の長回しや、晴れた日のスナップに最適。今回は試せませんでしたがX-Pro1に付けて撮ったら楽しそうですね。

レンズに出っ張りがなくキャップがしやすく、防塵防滴もあってタフに使えます。フィルター径を58mmに抑えたことでPLフィルターやNDフィルターなどの流用性が高くなり、幅広い表現に対応できるのも素晴らしいです。これは最初のところで名前を挙げたXF8-16mmF2.8 R LM WRにもなかった魅力。

10段のNDフィルターをつけて長時間露光した。フィルター径が小さく抑えられていることで、家にあるフィルターを使い回せてありがたい。こういう特殊なフィルターは選択肢が少ないため、目立たないけれど重要なこと。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:SS17秒 絞りF22 ISO125
■フィルムシミュレーション:PRO Neg.Hi

キレッキレで見ていると眩暈がするほど濃密、というタイプの画質ではなく、きっちり線描しながら痛々しいほどのシャープさはなく、中央だけでなく周辺まで均質に解像されています。周辺減光や歪曲収差など広角レンズでは致命的になる欠点を、丁寧に追い込んだように見えます。プロセッサーとの共同作業のはずで、レンズを小さくできた要因でしょう。

撮影条件によってボケが流れているように見えますが、超広角レンズに特有の広がりによるものだと思います。遠近感も含めて、早めにクセを掴んでやることが使いこなしのポイント。

描写性能がよくわかる被写体。葉脈の解像感、色滲み、中央と周辺の違いなど、意地悪なチェックをするために撮ったが破綻はない。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:SS1/30秒 絞りF8 ISO400
■フィルムシミュレーション:Velvia
歪曲収差もよく補正されていている。狭いスペースでも広い範囲が撮れて、歪みがないというのは、超広角の出番を広げてくれるだろう。畳の質感、天井の模様などの描写も美しい。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:SS1/18秒 絞りF8 ISO250
■フィルムシミュレーション:ACROS

使いこなしのアドバイス

まず大切なのはレンズをいつも綺麗にしておくこと。被写界深度が深いため汚れがバッチリ写ります。正しく構えることも大事で、先端に指をかけて構えるクセがあるとケラれてしまいます。三脚を立てるときも、前が一本、後ろが二本がセオリーですが角度によっては逆にする必要があるかもしれません。

短い時間でついた埃なのに、光の角度によってこれだけはっきり見えてしまう。移動のときはキャップをする習慣をつけて、定期的に掃除するようにしたい。前玉に出っ張りがないので掃除は楽でキャップもしやすい。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:SS1/30秒 絞りF22 ISO250
■フィルムシミュレーション:ASTIA

被写体に対して真正面から撮ると「せっかく超広角を使っているのに勿体ない」という気になってきて、つい角度をつけてスターウォーズのオープニングみたいにしたくなります。そこでグッと我慢してちょっと戻して、「物足りないかな」というくらいにすると嫌味がなくなるはずです。

大きなもの、広い場所ばかり無理して探すよりも、これ一本で今日はなんでも撮ってみよう!と決めて使うと、楽しさに気づけると思います。撮るものに困ったら、フィルムシミュレーションのETERNA ブリーチバイパスと16:9のアスペクト比を組み合わせて、シネマティックなスナップを撮るのもおすすめです。超広角レンズの楽しさだけじゃなく、写真の楽しさを再発見できるのが、このXF8mmF3.5 R WRの魅力でしょう。

エテルナ・ブリーチバイパスは映画の手法を引き継いだもの。16:9と相性がいいのは当然。最近の映画のトレンドでもある超広角との組み合わせも抜群。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:SS1/1400秒 絞りF5 ISO400
■フィルムシミュレーション:ETERNA Bleach Bypass
露出アンダー、シンメトリー、16:9、合わせ技で一本。つい角度をつけすぎてしまうので、ちょっと物足りないくらいで抑えるほうがいい。24mmや28mmではこう撮るのは難しい。
■撮影機材:富士フイルム X-T5 + XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:SS1/480秒 絞りF8 ISO800
■フィルムシミュレーション:Classic Chrome

 

 

■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist

 

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