馬と人のポートレートに必要な二つの単焦点レンズ|キヤノン RF50mm F1.4 L VCM・RF85mm F1.2 L USM
はじめに
現在、高画質で利便性の高いズームレンズが数多く発売され、各メーカーのラインナップを見るとどれも高品質な製品が並んでいます。スポーツや報道取材のように、場所の制約を受ける場合や短時間で完結が求められる撮影現場で多くのバリエーションを求められる時は、そういったズームレンズはたくさんの恩恵をもたらしてくれます。以前は私のカメラバックの中に入れるレンズは、超望遠レンズを除けば全て開放F2.8のズームレンズのみでした。それらを選択した理由は上記の通りです。
しかし、あるタイミングでキヤノン RF85mm F1.2 L USMを試用した際に、ズームレンズでは描き切れない独特なボケ味やその場の空気を受け止めて、写真の中に落とし込めるような気がしました。このレンズは私の撮影ととても相性がいいと思い、デジタルカメラに切り替えてから初めて単焦点レンズ(RF85mm F1.2 L USM)を購入しました。実際に使いはじめてみると開放絞りが明るいことで背景のボケ味のコントロールに幅が広がり、これまでは撮影を諦めていた暗所でも撮影が続行出来るなど、明るい単焦点レンズのメリットを数多く享受しています。また焦点距離が変わらないことで撮影対象者との距離を自身が動いて図ります。その中で馬の感情の変化やパーソナルスペースに配慮しながらシャッターを切る準備をします。
今回は本年6月に馬と人の撮影で訪れた滋賀県にあるHorse Farm Brand New Dayで撮影した写真を見ながら、2本の単焦点レンズをレビューしたいと思います。

■撮影環境:1/2000秒 F1.2 ISO500
明るい単焦点レンズのメリット
私のカメラバックにはいつも2本の明るい単焦点レンズが入っています。それはRF50mm F1.4 L VCMとRF85mm F1.2 L USMです。ライフワークで撮影している馬と人のポートレートの他に、主に人物撮影の際にはこの2本の使用頻度が高くなります。以前はスポーツ以外の撮影では全ての撮影をズームレンズで行っていました。私が使用している開放絞りF2.8固定のズームレンズは高画質でAFスピードも素晴らしく、短時間で撮影を終えなければいけない撮影や場所の制約を受ける場合でも確実に成果を得られることから、絶対に必要なレンズになります。極端に言えばこれらのズームレンズがあればほとんどの撮影をこなせるのですが、最近は上記の2本の単焦点レンズを使用することが増えています。
その理由は明るい開放絞りを持つことで背景のボケ味や奥行き感をコントロール出来る幅が大きく広がること、フォーカス中心部分のシャープな描写からアウトフォーカス部にかけて柔らかいトーンが作りやすいことです。特に馬と人のポートレートでテーマにしている「優しい時間」のイメージにピッタリだったため、単焦点レンズを第一候補にしています。また厩舎での暗所撮影ではF2.8では撮影を諦めなければならないシーンでも明るい開放絞りであれば撮影にチャレンジ出来ます。
もう一つ、大きなメリットは焦点距離が固定されるため、被写体との距離感を自身が動いて体感出来る部分です。ズームレンズではついついズームリングを回してフレーミングを整えようとするのですが、単焦点では動きながら新しい発見があったり、綺麗に整えない方が逆に良かったり、より自分の目と同じ感覚で被写体と向き合うことが私とってはメリットになります。シャッターを切る前の準備時間が少し長くなってもそれが私にとっては必要な時間なのだと思っています。

■撮影環境:1/3200秒 F1.2 ISO320

■撮影環境:1/160秒 F1.4 ISO1000
RF50mm F1.4 L VCMの撮影レビュー
キヤノンRFレンズには3本の50mm単焦点レンズがありますが、私はRF50mm F1.4 L VCMを使用しています。購入時にRF 50mm F1.2 L USMと迷いましたが、コンパクトなサイズと開放絞りから満足のいく画質、今後は動画撮影にも対応しやすいという理由からこちらを選択しました。開放絞りF1.4という明るさは、限られた光量しかない条件でもその場の光を生かしながら撮影に臨むことが出来ます。
今回撮影した厩舎では馬房の窓から入る優しい光に目が止まりました。この光を掴むためにはF1.4という明るさが大きく生きました。自然光の透明感を描写するために蛍光灯の電源を落としてもらい、光の流れを追いながらカメラを構えると想像した通りの光景がファインダーの中に広がっていました。LED照明などの人工光を足して明るさを足していくことは出来ますが、厩舎内で自然体の人馬を撮影するためには自然の光以外で撮影する選択肢はありません。馬と人の表情は瞬時に変わっていくので彼らの表情を追うこと以外はカメラとレンズに任せてストレスなく撮影が出来たと思います。
逆光の状態ですがAFが素早く馬と人へピントを合わせてくれました。フォーカスは人馬の目に合わせるようにしています。これは私が一番見せたい部分なので、条件が悪くてもフォーカス部分がキレのある描写をしてくれると安心感があります。同時に柔らかい光を私が感じたままに残してくれました。馬房の中は狭い空間なのでコンパクトなレンズは取り回しがしやすくて大変重宝します。

■撮影環境:1/320秒 F1.4 ISO2000

■撮影環境:1/80秒 F1.4 ISO3200

■撮影環境:1/640秒 F1.4 ISO2500
RF85mm F1.2 L USMの撮影レビュー
RF85mm F1.2 L USMは馬と人のポートレートにおいて常に第一候補に上がるレンズです。私にとって85mmという焦点距離が被写体との距離感を図りやすく、近すぎず、遠すぎず、人馬に自然と目線がいくナチュラルな距離感がとても気に入っています。以前は70-200mmF2.8のレンズをよく使っていましたが、RF85mm F1.2 L USMを使用した時にしっくりと来る感触がありました。このレンズが作り出してくれる世界はスペック表だけではわからない透明感や深い奥行きが表現出来るような気がしています。
より軽くコンパクトで取り回しがしやすいRF85mm F1.4 L VCMという選択肢もありますが、重量や大きさを差し引いてもRF85mm F1.2 L USMを選んで使用しています。馬と人の撮影では人馬の信頼関係や彼らが醸し出す空気、そして匂いを引き立たせたくて色々試行錯誤した結果、開放絞りで背景を大きくぼかして撮影することが多くなりました。現在発売されているレンズはどれを取っても高画質で甲乙つけ難い製品が多くありますが、「高画質」というだけでは片付けられない「レンズの味」がこのレンズにはあると思っています。手ブレ補正もなく、大きくて重たいレンズではありますが、私にとっては他に替えがきかないレンズです。

■撮影環境:1/1000秒 F1.2 ISO320

■撮影環境:1/200秒 F1.2 ISO1000

■撮影環境:1/1600秒 F1.2 ISO400
まとめ〜馬と人のポートレートで単焦点レンズを使い続ける理由〜
今回ご紹介した2本のレンズは「馬と人」の撮影でいつも第一候補に上がるレンズです。実際に約9割をこの二つのレンズで撮影しています。私がテーマにしている「優しい時間」を表現するために何が必要かを考えた時に、この二つのレンズが必要という結論になりました。
今後撮影を続けていく中で別の選択肢も出てくるかもしれませんが、現時点ではこれが最善の選択肢だと思っています。ズームレンズが持つ利便性には欠けますが、それがかえって心地よく、自分の体を動かしながら被写体との最適な距離を見つけてシャッターを切っていく方が私の理想に近いようです。またフォーカス部はキリッとした描写をして、背景に向けて柔らかく階調豊かにアウトフォーカスしていく様子が「優しい時間」を写真に残すために欠かせない要素になっています。
今回撮影にお伺いしたHorse Farm Brand New Dayで出会った人馬やこの場所に流れる優しい光を写真に残すために、この二つのレンズが大きな役割を果たしてくれました。

■撮影環境:1/100秒 F1.2 ISO1250
■撮影協力:Horse Farm Brand New Day
■写真家:中西祐介
1979 年東京生まれ 東京工芸大学芸術学部写真学科卒業。講談社写真部、フォトエーシェンシーであるアフロスポーツを経て2018年よりフリーランスフォトグラファー。夏季オリンピック、冬季オリンピック等スポーツ取材経験多数。スポーツ媒体への原稿執筆、写真ワークショップの講師も行う。現在はライフワークとして馬術競技に関わる人馬を中心とした「馬と人」をテーマに作品制作を行う。
現在バスケットボールBリーグ「ファイティングイーグルス名古屋 (FE名古屋)」クラブオフィシャルフォトグラファー。














