キヤノン RF45mm F1.2 STM レビュー|銘玉をオマージュした味のある描写
はじめに
カメラやレンズには、ときどき驚くような新製品が現れる。そのひとつがキヤノン RF45mm F1.2 STMだ。発表時にまず驚かされたのは、メーカー直販で66,000円というバーゲンプライス。キヤノンRFレンズといえば、明るいレンズは高性能で高価、暗めのレンズは程々の性能でリーズナブル、というイメージがあった。ちなみにRFレンズで他にF1.2と言えば、以前僕がレビューを寄稿したRF50mm F1.2 L USMの愛用者も多いことだろう。ただし価格差はざっと5倍。45mmと50mmであまり焦点距離も違わないのに。

かつての銘玉をオマージュ
もうひとつ、個人的にはこれがもっともインパクトがあったのだが、EF50mm F1.2L USMをオマージュしました、とキヤノンが自ら公言している点だ。このレンズは僕も愛用していたが、絞りを開けたときの、被写体を柔らかく包み込む描写が好きだった。ただし甘すぎるとか、絞るとフォーカスシフト(ピントの変動)が起きるという否定的な意見もあった。過去の製品をオマージュするメーカーといえばニコンやシグマが思い浮かぶが、キヤノンがそうした懐古的なコンセプトをアピールすることは珍しいと思う。しかもモデルに選んだのは好みや評価が分かれるレンズだ。写りのいい優等生レンズはすでにたくさんあるから、ちょっと癖のあるやつを作ってみたということか。
つい先日、本レンズを企画・開発した方々にお話を伺う機会もあったのだが、2018年にRFマウントがデビューしたとき、味や癖のあるレンズも残そうという話になった。ただしEFレンズをそのままRFマウント化するには時期尚早ということで、1971年に発売されたFD55mm F1.2ALのリメイクを企画した。これはキヤノンで初めて非球面レンズを採用した製品で、当時の図面も探し出して開発陣はやる気まんまんだったそうだ。

ただしこの時代、明るいレンズを設計することは今よりも難しく、その目的はボケを得るためよりも、暗いファインダーを少しでも明るくするためだった。僕もさすがに使ったことはないが、ネットで調べる限りは相当な癖玉であり、社内の反応も否定的だったという。しかし企画案としては残り続け、RFレンズが充実した段階でEF50mm F1.2L USMをターゲットに本格的な開発が始まった。
クラシカルな構成と現代の技術が融合
レンズ構成図を見ると、本レンズとEF50mm F1.2L USMはたしかにそっくり。19世紀に発明され、100年以上標準レンズの定番だったダブルガウス型だ。ただしそのままコピーしたわけではなく、現代の仕様や事情に合わせている。たとえば当初はマニュアルフォーカスという案もあったらしいが、最終的にはSTMモーターを内蔵するAFレンズに決定。するとフワフワする描写では、AFが測距しにくくなってしまう。収差をAF性能が担保できるレベルまで抑える必然性が出てきた。

また、EF50mm F1.2L USMは大口径の非球面レンズを用いていたが、本レンズはプラスチックモールド非球面レンズを採用。コストと重量を抑えている。なんだレンズがプラ製か、と侮るなかれ。その実物を触らせてもらったが、思いのほか大口径。それを極めて高い精度で成形している。これはかなり高度な技術を要するが、キヤノンは複写機などカメラ以外の機器で蓄積したノウハウがあるのだという。
そういえばキヤノン製品では、2023年発売のRF28mm F2.8 STMがプラスチックモールド非球面レンズを3枚も使用。その断面はカモメのような形状で話題になった。ちなみにプラスチックとガラスで描写にほぼ差はないという。

■撮影環境:シャッター速度1/1250秒 絞りF1.2 ISO100

■撮影環境:シャッター速度1/2500秒 絞りF1.2 ISO100
あっさりとした描写と独特な空気感
そんな技術革新もあって製品化を実現した本レンズ。同じカメラで同じ場面を撮って比較したわけではなく、自分の記憶がベースとなってしまうのだが、EF50mm F1.2L USMより柔らかくて癖がある。EF50mm F1.2L USMも被写体を包み込むような優しいレンズだったが、一方で「これぞキヤノンのLレンズ」という、クリアでこってりとした発色だった。青空や木々の緑は鮮やかに写った印象がある。本レンズはその点が異なり、彩度が低く、青空の青もだいぶあっさり気味だ。

■撮影環境:シャッター速度1/6400秒 絞りF1.2 ISO100
クリアという点では、さらに安いRF50mmF1.8 STMの方が優っているようにも感じる。しかしこのややスモーキーな空気感が、優等生レンズにはない味わいや奥行きを作り出す。掲載している作例はすべてレタッチをしていないが、もしクリアさが欲しいのなら、Adobe Photoshopの「かすみの除去」機能など、レタッチですっきりさせることもできる。

■撮影環境:シャッター速度1/4000秒 絞りF1.6 ISO100

■撮影環境:シャッター速度1/3200秒 絞りF1.2 ISO100
オールドレンズっぽいボケ味
最大のウリである大きなボケだが、球面収差の影響で玉ボケにはわずかに輪郭が発生する。いわゆるシャボン玉ボケというほどではないが、他のRF単焦点レンズではなかなか見られないボケ方だ。さらに口径食や非点収差もわずかにあり、ボケが同心円状に流れていく、いわゆる「ぐるぐるボケ」もわずかにみられる。かといって癖が強すぎて好みが分かれるとか、被写体を選ぶということはない。
たとえば大口径レンズを買うのが初めての人はボケの大きさに満足するだろうし、すでにLレンズを何本も所有しているような人なら、レンズのキャラクターをわかって購入すると思うので「これはこれ」として納得するだろう。いや、むしろ「思ったよりよく写って味が足りない」と思うかもしれない。

■撮影環境:シャッター速度1/2000秒 絞りF1.2 ISO100

■撮影環境:シャッター速度1/640秒 絞りF1.8 ISO100
カメラの補正機能をオフにするのもアリ
今回の作例はEOS R5 Mark IIとEOS R6 Mark IIIで撮影しているが、「デジタルレンズオプティマイザ」と「周辺光量補正」はデフォルトであるオンのまま。これらはレンズの収差を補正する機能だが、オンでも周辺光量はわずかに落ちているし、収差も残っている。ならばオフにすると、さらに本来の味が引き出せるのではないか。というわけでRAW現像でどちらか片方をオフ、さらに両方オフでも現像し、デフォルトの両方オンと比較してみた。
「デジタルレンズオプティマイザ」だけをオフにすると、「周辺光量補正」がダイレクトに効き過ぎるのか、周辺部と中央部の光量が均一になる。一般的に写真は少し周辺が落ちているほうがかっこよく見えるもの。というわけで僕のおすすめは「周辺光量補正」だけオフだろうか。
実のところ「デジタルレンズオプティマイザ」はオンオフであまり違いがない。拡大してよくみるとオフはピントの芯がオンよりわずかに滲んだり、それもあってボケがほんの少し柔らかく見えるが、本当にわずかな差だ。オールドレンズらしさを求めるならもちろんオフで構わないが、まあどちらでもいいかなというのが正直な感想だ。なお歪曲収差は補正ありきで設計しているため、カメラ側ではオフにできない。

■撮影環境:シャッター速度1/320秒 絞りF8 ISO100

■撮影環境:シャッター速度1/1000秒 絞りF5.6 ISO100

■撮影環境:シャッター速度1/200秒 絞りF5.6 ISO100
弱点もあるがそれも味のうち
やや気になったのは軸上色収差により、ピントの合った部分のエッジで色づきも見られる点。このコンセプトと価格なら当然かもしれないが、F2まで絞るとだいぶ解消され、全体的にもシャキッとした絵になる。絞り羽根は9枚で、F2.8くらいまではボケも円形を保っている。絞れば隅々までシャープで、Lレンズのような精細感はないものの、これくらい線がしっかりしているほうが好みという人もいると思う。
また、逆光では角度によってゴーストやフレアが発生するものの、コントラストが低下することもなく、この価格のレンズとしてはまずまず。個人的にはもっとフレアが発生するほうが逆光を楽しめるのだが、このあたりは現実的な判断をしたのだろう。

■撮影環境:シャッター速度1/5000秒 絞りF1.2 ISO100

■撮影環境:シャッター速度1/4000秒 絞りF1.2 ISO100

■撮影環境:シャッター速度1/2000秒 絞りF1.8 ISO100
まとめ
と、描写についてあれこれ掘り下げてみたが、本音をいえばそういった理屈抜きで、気楽に撮影を楽しむレンズだと思う。ズームレンズしか持っていなかった人はもちろん、Lレンズを何本も所有している人でも手にする価値はある。2018年10月にRFマウント初号機として登場したEOS Rは中古で手頃な価格になり、2019年3月に発売されたEOS RPはこの原稿を書いている2026年4月時点でまだ新品が入手可能(もちろん中古はお買い得)という状況にあり、このレンズを使うために軽快なボディーを揃えるのもアリだ。
■写真家:鹿野貴司
1974年東京都生まれ。多摩美術大学美術学部二部映像コース卒。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。著書『いい写真を取る100の方法』が玄光社から発売中。公益社団法人日本写真家協会会員。


















