ヒマワリの豊かな表情を引き出す基本とテクニック|斎藤裕史
はじめに
夏の象徴として親しまれているヒマワリは、力強さと明るさを備えた花ですが、光の向きや天候、視点の違いによって、まったく異なる表情を見せてくれます。 青空の下で凛と咲く姿もあれば、曇り空の柔らかな光に包まれた穏やかな姿、逆光で花びらが縁取られる繊細な瞬間もあります。
今回は、ヒマワリが見せる多彩な表情を、光と視点の変化を通して紹介します。 「夏の光をどう受け止め、どう写し取るか」――その答えは、ヒマワリ畑の中にあります。
ヒマワリの撮りどき

■撮影環境:F13(-0.5・1/350秒)・ISO200・WB太陽光
夏の象徴「ヒマワリ」は、太陽に向かって咲いているように思われがちですが、実際は蕾の頃にわずかに動くだけで、咲いた花は東を向いています。 青空を背景に正面から撮るなら、午前中が最適です。広角レンズでは多くの花が画面に入りやすいため、咲き具合や並びの美しい部分を丁寧に選び取ります。広いヒマワリ畑でも、構図としてまとまる花は意外と少ないもの。根気よく探すことが大切です。
順光で撮影するには午前中が理想ですが、10時を過ぎると花に影が落ち始めます(写真・下)。できるだけ早い時間に、遅くとも10時までに撮影すれば、青空に映える凛とした姿を捉えることができます(写真・上)。
ヒマワリは強い日差しの下ではすぐに頭を下げてしまうため、「撮りどき」はわずか3日ほど。開花情報が確認できる場所なら「八分咲き」で訪れるのがおすすめです。 短い盛りの時間を逃さず、ヒマワリとともに夏の光を感じながらシャッターを切りたいですね。
素の表情を引き出すなら曇天の日

■撮影環境:F2.8(+1・1/1000秒)・ISO200・WB太陽光
太陽が似合うヒマワリですが、撮り方によっては光が強すぎて印象を損ねてしまうこともあります。直射日光があたると花びらの輪郭が強調され、どこか硬い印象に写ってしまいます(写真・下)。青空を画面に入れずに切り撮る場合は、直射光があたっていないタイミングのほうが、黄色の濃淡が自然に溶け合い、花の質感がやさしく浮かび上がります(写真・上)。曇りの日や日陰の光はコントラストが抑えられるため、ヒマワリの“素の表情”を引き出すのに向いています。
晴天の日は青空や光を活かして力強さを表現し、曇天の日は拡散した光を生かして穏やかな描写を心掛ければ、どんな天候でもヒマワリの魅力を引き出すことができます。天候によって撮れないのではなく、天候によって「撮れる表情が変わる」と考えると、表現の幅がぐっと広がります。
天候に左右されず、その日その時の光を受け入れる――「ふっても晴れても写真日和」は、私の撮影の信条のひとつです。

■撮影環境:F16(-0.5・1/15秒)・ISO200・WB太陽光
満開を迎えたヒマワリ畑の東側には小高い堤防があり、そこから全体を見渡すように撮影することができました。広い畑を一望すると圧倒されるほどの黄色の海が広がりますが、写真としてまとめるには、どこを切り撮るかが重要です。密度のある部分を選び、あえて手前を画面から外して遠景を望遠レンズで切り撮ります
ヒマワリ畑の「終わり」を画面に入れずに切り撮ることで、花が画面の外側へと続いているような連続性を生み出せます。視線が途切れず、見る人に“果てしなく続く夏”を想像させる効果があります。画面の隅々までシャープなピントを得るためには、絞りをしっかり絞り込みましょう。
曇天の日は光が拡散され、黄色のトーンがやわらかく整います。曇り空だからこそ、一面のヒマワリ畑を穏やかで優しい印象に表現することができました。 夏の日射しがなくても、曇り空の下には曇りならではの美しさがある――そんなことを教えてくれる一枚です。
ヒマワリ畑の畝は前ボケを活かしやすい

■撮影環境:F2.8(+0.5・1/90秒)・ISO400・WB太陽光
ヒマワリ畑は畝で植えられていることが多く、「前ボケ」を活かした撮影がしやすいのが特徴です。望遠レンズを使用し、絞りを開放に設定することで、やわらかなボケを活かした表現ができます。ズームレンズの場合は、最も長い焦点距離側で捉えるとボケ味を最大限に引き出せます。
少し先の畝で主役となるヒマワリを探し、構図の中心に据えます。主役が決まったら、手前の畝から「前ボケ」に使うヒマワリを探します。主役と前ボケの距離が離れているほど、ボケが大きくなり、主役がより際立ちます。さらに、主役の後方にもヒマワリが咲いていれば、「前ボケ」と「後ろボケ」で主役を包み込むように構成でき、画面に奥行きと立体感が生まれます。
前後のボケが主役をやさしく引き立て、ヒマワリ畑の中に漂う夏の空気まで感じられるような一枚に仕上がります。 光を選び、距離を見極め、ボケを味方につける――それがヒマワリを魅力的に撮影するための秘訣です。
光を読んでドラマティックに

■撮影環境:F16(-2・1/125秒)・ISO200・WB太陽光
起伏のあるヒマワリ畑に朝陽が射しました。朝夕は太陽の高度が低いため、斜めからの光がヒマワリ畑を立体的に浮かび上がらせます。木々の隙間から差し込んだ陽がスポット光となり、ヒマワリ畑の一部分だけを照らし、ドラマティックな光景が広がりました(写真・上)。
スポット光の場合、画面のハイライト部分の質感を活かすためにはマイナス補正をかけるのがポイントです。瞬時に的確な露出補正ができるかどうかが、光を活かす鍵になります。やがて太陽が雲間から姿を現し、ヒマワリ畑全体を均一に照らしました(写真・下)。一部分だけを照らしていた魅力的な光は消え、風景はどこにでもある朝の光へと戻っていきます。ドラマティックな瞬間はほんのわずか――まるで舞台のスポットライトが静かに消えるように、光の演出は短い幕を閉じました。
同じ場所でも、光が変わるだけで写真の印象はまったく異なります。――その違いこそが、光の奥深さを教えてくれます。光を読むことは、風景を感じ取ること。ヒマワリ畑が教えてくれるのは、まさにその一瞬の美しさです。

■撮影環境:F22(-2.5・1/500秒)・ISO400・WB太陽光
朝陽が昇ると、逆光の中でヒマワリのシルエットが浮かび上がりました。完全なシルエットではなく、黄色い花びらがわずかに光を受けて輝くことに気付きます。花びらが縁取られるように光り、ヒマワリが静かに目覚めていくようでした。 絞りを絞り込むことで太陽は光条を放ち、花びらの黄色とともに印象的なアクセントとなります。
光条を美しく描くためには、絞りをしっかり絞り込むことがポイントです。ここでは最大のF22まで絞りました。F11〜F16でも光条は伸びますが、私は最大値まで絞ることでより力強く伸びるように感じます。 太陽をヒマワリの茎や葉の隙間からわずかに覗かせることで、ゴーストの発生を抑えることができます。光学ファインダーでは太陽を直接見ると目を傷める恐れがあるため、背面の液晶画面で慎重に確認しましょう。ミラーレスカメラならEVFファインダーで安全に微調整できるのも利点です。
朝の静けさの中で、ヒマワリと太陽が語り合うような瞬間――その一枚には、光と花の呼吸までもが写り込んでいるようでした。
マクロレンズで見える新しい表情

■撮影環境:F3.5(+1・1/45秒)・ISO400・WB太陽光
ヒマワリの花を正面から捉えるだけでなく、視点を変えることで新たな被写体の魅力が見えてきます。ヒマワリのガクもそのひとつです。手前の花びらを前ボケとして取り入れることで、黄色い世界の中にやさしくガクが浮かび上がりました。
ガクは主役としては控えめな存在ですが、黄色い花びらが「名脇役」となり、互いを引き立て合うことでひとつの表現として成立しています。花の裏側に目を向けることで、ヒマワリという被写体の奥行きと静かな美しさを再発見できました。

■撮影環境:F2.8(+1.5・1/90秒)・ISO400・WB太陽光
「ヒマワリ」といっても原種だけで60種以上、品種改良された栽培品種を含めると100種類を超えるといわれています。そんな中でぜひ注目してほしいのが「サンリッチ」。蕊をよく観察してみると、ハートの形が現れる瞬間があるのです。
蕊の形状は少しずつ変化し、常にハート型というわけではありません。だからこそ、その一瞬に出会えたときの喜びはひとしおです。可憐なハートをやさしく浮かび上がらせるため、花びらを前ボケに取り入れ、柔らかな黄色の中にそっと包み込むように構成しました。
おわりに
ヒマワリは、光の向きや天候、そしてこちらの視点によって驚くほど多彩な表情を見せてくれます。 広角レンズで広がりを、望遠レンズで圧縮感やボケ味を、マクロレンズで細部の造形美を――どんなレンズでも新しい世界が開ける被写体です。
その日その時の光を受け入れ、レンズを変えながらヒマワリと向き合う時間こそ、夏の撮影の醍醐味だと感じています。今年もまた、ヒマワリが教えてくれる光の物語にそっと耳を澄ませたいですね。
■写真家:斎藤裕史
1968年千葉県生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒業後、関西をベースに雑誌、コマーシャル撮影をおこなう。2000年より写真教室や撮影ツアーなどの講師業をスタート。写真雑誌などへの寄稿も。「楽しく撮った写真はいい写真」がモットー。blog「ふっても晴れても写真日和」


















