how beautiful……. 日常も非日常も、見つめる キヤノン RF45mm F1.2 STM

鈴木さや香
how beautiful……. 日常も非日常も、見つめる キヤノン RF45mm F1.2 STM

眠っている自分の世界と、美しい写真

多くのひとが、写真を撮れる時代。

花写真、お家写真、人物写真、旅写真、ペット写真、鉄道写真、風景写真、飛行機写真。
最近、よく聞くのがカテゴリーであって、わたしもよく 日常写真というカテゴリーに勝手に分類されたりする。

でも、一度よく考えて見れば、自分の好きなものは複数あるし、感じたものは様々で、どんな想いにも、カテゴリーがないことが分かると思う。

思いがけないところに、自分の世界は眠っている。

わたしたちは生きてる時間で、まだ眠っている自分の世界を次々と見つけていけると思う。白が好き、猫が好き、納豆が嫌い、雨の匂いが好き。
それは、地球の果てに行くわけでもなく、変わったことを体験したあとでもなく、きっと普段の暮らしの動線や、感覚の中から見つけていけるはず。
そこに、少しだけ非日常も足してみる。そうすることで、世界はどんどん目覚めて、広がっていく。

もし、カテゴリーでいうなら「わたし」という区分。

誰かに見せるわけでも、説明するわけでもなく、自分が確かめて思い出すためのうつくしい世界。
それを視覚化したものが、つまり美しい写真なんだと思う。

自分の世界を見つけるときの機材は、なんでもいいと言えば、嘘になり。
これじゃなくちゃならないと言えば、嘘になり。
だから今回は、今、いちばん自分の暮らしの中に溶け込んでいるレンズを紹介したいと思う。

Canon RF45mm F1.2 STM

だいぶ前に、はじめてF1.2という絞り値で写真を撮ったときのことを思い出す。
溶けていくような、すべすべした質感の写真が撮れて、なんだか写真がうまくなったような、そんな気がして胸が高鳴った。
あの時は、とても重いレンズを扱ったということと、今まで見えていた世界とは全く違うやわらかさを目の当たりにして、緊張が走ったときめきでもあった。
あれから何年経ったのか、機材の進化はすごい。このレンズはF1.2でも、約346gしかないという。
それは、ほとんど成人1日の野菜摂取目標量で、中皿にレタスやトマトを程よくのせたくらいのサラダの重さ。重さ的になんの緊張感もない。
けれどもやっぱり、F1.2という数値の持つ質感は胸が高鳴る。
なにかを見つけられそうな、楽しい予感を持っているのだ。

日常にある身近な色、形、質感を画角45mmで

いつもの生活の動線上に、自分の世界を見つけていくのは簡単ではない。
自分のことを自分がいちばん分かっていない可能性もある。
違う方向から見たときに、これが肯定する部分だったのか、とはじめてのように自分の特徴と出合うときもある。
そんな出合いと繋がるためには、自分の固定概念をゆるめてあげる必要がある。

わたしだって、こうなのに、こうしたいのに、これが自分らしいのに と分かっているつもりになるときもある。
そんな意固地になっているときほど、自分を疑ってみるのだ。
どうだろう?ほんとか?もう一度、考えてみる、それから 起きる時間を少し早めていつもと違う朝を迎えてみるとか。

■Canon EOS R8 + RF45mm F1.2 STM
■45mm 1/400秒 f/1.2 ISO6400 WB白色蛍光灯 補正A7, G3

朝4時半。車を走らせ、海沿いの駐車場に停める。
ブルーグレーの空に、少しだけ明るい色の雲が浮かんでいる。
車内灯がオレンジに運転席を照らしていて、なんてきれいなんだろうと声がもれてしまう。
しらすを獲りに向かう漁師の船が、ゆっくりと波打ち際から沖へ進むのが見える。

■Canon EOS R8 + RF45mm F1.2 STM
■45mm 1/4000秒 f/1.2 ISO400 WB太陽光 補正B3, G5

だんだんと明けていく空は緩やかに光が差し込んでいく。
わたしは海岸を散歩中に見つけた、小さなヒトデと手をつなぐ。潮だまりとは言えないくらいの、浜辺の浅いくぼみにヒトデを戻すと、身体にまとった空気の泡をコポコポ押し出して沈んでいく。
息子がちいさなときにつぶやいた、「お星さまが落ちてるよ?」という言葉を思い出してちょっと頬がゆるんでしまう。

ところで、このレンズの最短撮影距離は45センチ。腕がそんなに長くないわたしは目一杯伸ばさないと、ピントが合ってくれない。

■Canon EOS R8 + RF45mm F1.2 STM
■45mm 1/1000秒 f/1.2 ISO400 WB日陰 補正B3, G5

家に帰ると、猫がペロペロと自慢の真っ白いおなかを毛繕い中。
やわらかそうなフォルムと、白い毛におおわれたグーの手。
日向ぼっこができれば最高だという猫さんの、欲の小さな生活を見ているとこちらも幸せになる。
そんなときにはゆっくり、しずかにシャッターを1枚だけきって。
「寄りすぎない程よい距離感にしてくれたまえ」と横目で見られながら要望される。
大丈夫だよ、そういう距離感のレンズだから。

■Canon EOS R8 + RF45mm F1.2 STM
■45mm 1/2000秒 f/1.2 ISO200 WB日陰 補正A1, 0

わたしも顔いっぱいに太陽を浴びて、猫のように日向ぼっこしてみようかと。
無欲に西陽にレンズを向け、夫の帽子抜けの、やわらかそうな光を捉えてみる。
なんの意図も思惑もない、ただ温かそうなものを撮っただけの写真。
ふだんは向けない方向にレンズを向けると、みなれた景色が今まで見たことない表情をしている。

ところでデジタルのカメラは、カメラ内の設定によって大きく雰囲気が変わる。
わたしが、いちばん丁寧に扱っている設定は ホワイトバランスの調整と、ピクチャースタイルの濃度。
Canon製は特に、素直な色味で表現をさせてくれるため、ここにこだわらないと、被写体に特徴があっても、画が平均化されやすくなってしまう。
ホワイトバランスに関しては、もはや意識しないくらいその場面ごとに変えていて、補正で細やかな色味の変化をつけている。
その雰囲気に合うように、ピクチャースタイルのコントラストや、濃度、シャープネスを切り替えて、最大限、好きな色味に寄り添わせている。
そこにこだわりの統一感があるため、どんな被写体と向き合っても、どこかまとまっているようにみえる、ということがあるのかもしれない。

■Canon EOS R8 + RF45mm F1.2 STM
■45mm 1/2000秒 f/1.8 ISO250 WB日陰 補正B4, G4 

非日常で見つける、ちょっとしたこと

慣れてしまう自分の視点に、新しい変化を見つけにくくなってしまうとき、そんな時は、すこしだけ非日常に踏み出してみる。
何も大きく変わったことをするのではなく、帰りの電車を逆方向に乗ってみるということだって非日常だ。
ある日、江ノ電で家に帰るのに、極楽寺から鎌倉に向かうのを、藤沢方向に乗ってみた。普段の鎌倉へ向かう電車は太陽から離れていくのだけど、藤沢に向う電車は太陽に向かっていくのだ。
ちょっとした非日常。そんなとき世界はほんの少し違う空気で迎えてくれる。それを見つけるのも、とても楽しい。

■Canon EOS R8 + RF45mm F1.2 STM
■45mm 1/4000秒 f/1.2 ISO200 WB日陰 補正B3, G3 

先日のこと。普段は泊まらない日帰りの場所に、わざわざ1泊してみた。
海辺の宿に向かうと、急に晴れて夕陽が差し込んできた。
窓に潮風が当たって、それがざらざらとした結晶になって、窓を大きなフィルターに変える。
そのせいで、夕陽のふんわりした温かさは、拡散されて更に説得力を持つ。
雨上がりの夕方の景色が好きだなと改めて思うきっかけになる。

■Canon EOS R8 + RF45mm F1.2 STM
■45mm 1/4000秒 f/2 ISO200 WB日陰 補正A4, M1

普段、積極的には撮らない食べ物を撮ってみる。
今からこれを食べますよというログ的な画角とポジションだけど、45mmの画角が寄りすぎないので、血眼になってお腹を空かせているようには感じさせない。

■Canon EOS R8 + RF45mm F1.2 STM
■45mm 1/800秒 f/2.5 ISO400 WB日陰 補正B3, G5

ホワイトバランス日陰でB3, G5、補正にてブルーとグリーンに寄せるだなんて、普段なら食べ物を撮るような設定じゃないように思うけど、非日常の色味としては可能。
強く差し込んだ太陽が演色性を高めてくれているからなのだと、食べる前に考えてしまう。
そうか、演色性が高ければ、すこし突飛な設定であっても・・・とごちゃごちゃ・・・

いや、とにかく早く食べたい。

ちなみに、食べ物やテーブルフォトを撮るには、このレンズではすこし距離をつくる必要がある。
最短距離45センチなので、隣りに座っている家族の料理にピントがよく合う(笑)
手元を撮るには、自分の椅子を引く必要があり、それはちょっと困った。
立ち上がるわけにも行かないので、ハイポジションでほとんどノールックにて。それもまた勘に頼る感じが気楽でいい。

■Canon EOS R8 + RF45mm F1.2 STM
■45mm 1/640秒 f/1.2 ISO200 WB太陽光 補正A4, M1

日常(暮らし)と非日常(旅)を近づけてくれる場所、それは道の駅。
その土地のものが並んでいて、自分の家に普段あるものと比べて買ってみたり。
掲示板が観光客用に華やかに飾り付けされていたりするので、そのちょっとした
お出迎えムードが、スーパーとは違ってなんだか楽しい。

■Canon EOS R8 + RF45mm F1.2 STM
■45mm 1/1600秒 f/3.2 ISO200 WB日陰 補正A6, M3

船に乗って大きな海を眺める。
ふだんは岸辺から眺めているから、180度海で囲まれると新しい発見が生まれそう。
船上では風が強く、帽子を飛ばされないように押さえながら、空を眺める。
自分の船の上の空を境に、東の空はすでに夜が訪れて、西は水色の空に少しずつオレンジ色のグラデーションが流されたゼリーのよう。

そうやって、わたしは発見したできごとを言葉と一緒に、追いかける。
色を意識しながら、どんどん広がっていくのをイメージして。

なんてうつくしいのだろうと思えば、写真に撮り、
そしてまた自分の世界を渡っていく。

■Canon EOS R8 + RF45mm F1.2 STM
■45mm 1/4000秒 f/1.2 ISO200 WB日陰 補正A6, M3

まとめ

RF45mm F1.2 STM。このレンズは最初、Canonの開発者と一緒に対談をするという仕事のなかで手元にやって来た。使って見て、スマートなレンズではないと理解した。どこか懐かしい写り。でもそれはちょうどよかった。機材を選ぶ時、どこかに物語性を見つけたいからだ。

開発の方と話していると、昔のレンズの復刻版であることが分かった。それを知れば知るほど、
どうして今になって世に出たのか、どうしてこんなに安価なのか、どうして45mmにしたのか、と、そんな思いがぐるぐる巡って、たのしくて仕方なかった。

絞ればLレンズに匹敵するほどの解像感でありながら、開放ではフレアが写り込むカジュアルさ。その二面性を使いこなすには、自分の視点もいくつか持っていないとならない。

ただ、そういうレンズではあるものの、実際には開放のF1.2を楽しんで、世界をすべやかに切り取るのを手伝ってくれる。

日常でも、非日常でも、
自分の世界をいくつも持ち、旅をするように渡っていければ
うつくしいものは、色んな角度から何度も見て、何度もうつくしいと思うことが可能だ。

自分のカテゴリーに閉じこもらず、
今まで撮らなかった景色や被写体にも挑戦すれば、
それはもう非日常であり、新鮮な気持ちが何度でも上書きされる。

風が通り抜ける、雨が止む、太陽が雲に隠れてしまう、
車窓に映ったビルの広告、遠くの空に消えていく飛行機雲、
揺れているスクールガードの旗、アゲハ蝶の幼虫がさなぎになって。
そんなありふれた景色に、いくつもの感動をしながら、眠っている自分の世界を発見していく。軽やかに、このレンズと共に。

そんな思いで、この記事を書いてみました。

 

■写真家:鈴木さや香
東京造形大学環境計画造形学部卒業。ストロボワークを得意とし、広告から日常まで撮影する写真作家。独自の技術面からコンセプトまでの提案を得意とし、セミナーや講演も多数。本や雑誌での執筆、写真展の開催、アトリエ「AtelierPiccolo」を営みながらの作品の販売など、幅広く活動。近年、マルミ光機と共同開発商品のアルプスパンチ!なついろパンチ!はTVなどに取り上げられ、海外での展開が始まっている。著作に『日常写真が楽しくなるノートブック』など。

 

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