風景写真の引き出しを増やす!|その14:どんな状況でも撮影を楽しむためのレンズ選択

高橋良典
風景写真の引き出しを増やす!|その14:どんな状況でも撮影を楽しむためのレンズ選択

はじめに

みなさんは風景撮影の時、持ち出すレンズをどのように選択していますか?というのも風景ジャンルの撮影では歩くことも多いため、つい機材を減らしたくなりますよね。しかし、いざ撮影を始めると「やっぱりあのレンズ持ってくればよかったな・・・」と思うこともしばしば、なんて方もいらっしゃるのではないでしょうか?そこで今回は私なりのレンズ選択についてお伝えしてまいります。

本題に入る前に・・・

そもそも風景写真って何?そう聞かれると返事に困ってしまいますよね?特に定義は無いのですが、一般的に風景写真と言えば景色全体にしっかりピントが合った(パンフォーカス)、その場所の特徴が感じられるような写真をイメージする方が多いのではないでしょうか。以下の写真のように景色の全体像をくまなく伝える画はまさに風景写真といえるでしょう。

■撮影機材:ソニーα7R III + FE 24-70mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離52mm 絞り優先AE(F11、1/200秒、-0.5EV) ISO800 太陽光 CPLフィルター

全山が桜に覆われる吉野山を伝えるようフレーミング、象徴である金峯山寺蔵王堂を右上に取り入れ吉野山らしさを印象付けています。

■撮影機材:ソニーα7R III + FE 24-70mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離27mm 絞り優先AE(F16、1/15秒、-1.5EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター

こちらも全体像。鳥取砂丘での撮影です。強風時に現れる風紋、そして砂丘の柔らかなラインを斜めに取り入れて奥行を強調。美しい海・空と対比させました。

しかし、それら引き画だけがすべてではありません。広い風景の中に存在する印象的な一部分を切り取ったものも風景写真だと言えます。この場合「どこで撮ったのか?」が必ずしもわかる必要はありません。切り取りは全体像の写真と比べ、作者によって目の付け所が変わるので個性が出やすいと言えるでしょう。

■撮影機材:ソニーα7R III + FE 70-200mm F4 G OSS
■撮影環境:焦点距離162mm 絞り優先AE(F16、1/45秒、+0.5EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター

一枚目と同じ吉野山で撮影したものです。切り取りでは画面を占める形の美しさや光がより重要になります。

■撮影機材:ソニーα7R III + FE 24-70mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離70mm 絞り優先AE(F2.8、1/4000秒、-1EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター

こちらも同じ鳥取砂丘で撮影したもの。風紋の作り出す美しいパターンを光と影で描いています。

風景写真の解釈を広げてみよう

前項で説明した「引き画」や「切り取り」は間違いなく風景写真だ!と言えそうですよね。では以下のような花のアップやマクロはどうでしょうか?人それぞれに感じ方が異なる部分もあるでしょうが、私自身は自然界に存在するものを撮影したものは全て風景写真だと捉えています。

■撮影機材:ソニーα7R IV + FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
■撮影環境:焦点距離262mm 絞り優先AE(F11、1/90秒、+1EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター

朝露をまとったヒガンバナに日が差しキラキラと輝いていました。広く解釈すれば、花のアップでも風景写真の一部だと言えます。

■撮影機材:ソニーα7R IV + FE 90mm F2.8 Macro G OSS
■撮影環境:焦点距離90mm 絞り優先AE(F2.8、1/250秒、+2EV) ISO800 太陽光

こちらはマクロレンズを使っています。雨上がり、ダリアの中に潜む水滴を見つけました。色々な意見もあるとは思いますが、私の解釈ではこれも風景写真のひとつです。

持ち出すレンズの選択

ここまでの解説で私自身が「風景の全体像」から「切り取り」「アップやマクロ」に至るまで、つまり「引き画」から「寄り画」までのそれらすべてを風景写真と捉えている事がお分かりいただけたと思います。そこでここからが本題!私が撮影の時、どのような事を考えてレンズを選択しているのかをお伝えしますね。

まず基本的な部分なのですが「これ以上、前に行けない」また「後ろに下がれない」等、被写体までの距離に制約があることの多い風景ジャンルではズームレンズが便利です。ズームにも焦点域ごとに種類がありますが、よほど歩いたりする場合を除き、私は以下の3本は常にバッグに入れています。

・焦点距離20mm以下を含む広角ズーム(16-35mmなど)
・焦点距離50mmを挟む標準ズーム(24-70mmや24-105mmなど)
・焦点距離200mmを含む望遠ズーム(70-200mmや100-400mmなど)
 ※焦点距離はフルサイズ換算

ここでは詳しく触れませんが、ズームに加えて表現のバリエーションを増やすために単焦点レンズも1~2本入れています。

上記を読んで疑問を感じる方がいるかもしれません(特にカメラ初心者の方)「広い風景を撮りに行く場合、望遠はなくても良いのでは?」や「花のアップを撮りに行くのに広角は必要ないのでは?」などなど。大まかに言うとその考え方は間違っているとも言い切れませんが、必ずそれら3本を持ち歩くのには理由があるのです。私が日頃より撮影会で写真愛好家のみなさまとご一緒した際、たとえば「望遠レンズ持ってきていますか?」と聞くと「今日は置いてきてしまいました」ということも多く、理由としては「今日は広い風景なので広角域と標準域しか使わないと思ったので・・・」とおっしゃる方がおられます。

確かに「全体像を撮る風景写真」においては望遠レンズを使う頻度は低いと言えるでしょう。だからと言って望遠レンズを自宅に置いて来たり、持ってきていても車の中に置いたままだったり・・・となれば撮れる絵柄が限られてしまいます。特に引き画は気象条件の良し悪しが作品の出来に直結することが多く、条件に恵まれなかった場合に「何も撮れなかった」ということが起こり得ます。しかしそれではせっかく撮影に出かけたのにもったいないですよね。たとえ思い描いた条件にならなくとも、考えを切り替えて被写体を違った目で見れば気に入った写真が撮れるかもしれません。私自身も風景撮影では、好条件に撮らせてもらうだけでなく、相手(自然)に合わせた撮影を心掛けています。

そう考えればやはり使えるレンズのバリエーションがあった方が良いと思いませんか?とはいえレンズを増やせばその分、重量が増えるので体力的に不安がある場合は、広角域から望遠域までをカバーする高倍率ズームを使うなども検討すると良いでしょう。

■撮影機材:ソニーα7 II + Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS
■撮影環境:焦点距離70mm 絞り優先AE(F11、1/45秒) ISO200 太陽光 CPL NDフィルター

2017年秋に訪れた際、紅葉のタイミングで降雪があり、しかも青空に恵まれるという素晴らしい出会いに恵まれました。言い換えれば気象条件に撮らせてもらった写真です。広めの風景なので標準ズームレンズで撮影。

■撮影機材:ソニーα7R V + FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
■撮影環境:焦点距離226mm 絞り優先AE(F5.6、1/90秒、-1.5EV) ISO800 太陽光 CPLフィルター

上の写真を撮った時の印象が強く2匹目のどじょうを求めて2024年秋に再び訪れました。同じような気象条件を狙ったにも関わらず、降雪はなく紅葉は散り始め。さらには強い風に悩まされることになりました。そこで頭を切り替え、遠くの立ち枯れを引き寄せて強風による水面の波立ちを生かしました。条件が悪いように見えても探せば何かあるものです。狭い範囲を切り取る望遠レンズが役に立ってくれました。

■撮影機材:ソニーα7R IV + FE 24-70mm F2.8 GM II
■撮影環境:焦点距離28mm 絞り優先AE(F16、1/90秒、-0.5EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター、ハーフNDフィルター
■撮影機材:ソニーα7R IV + FE 70-200mm F2.8 GM OSS II + 1.4×テレコンバーター
■撮影環境:焦点距離280mm 絞り優先AE(F4、1/350秒、+1EV) ISO400 太陽光

本来は日の出直後、真っ赤な太陽に彼岸花が照らされる様子を撮りたかったのですが、薄雲にはばかられて撮影出来ず。日の出から30分ほど経過、太陽がハッキリと顔を見せてから撮影したものが上の彼岸花の写真です。しかし日の出の時間に注意深く見ていると真ん丸の太陽がぼんやりと昇ってくるのが見えました。急いで望遠レンズに取り換えて撮影したものが下の写真です。圧縮効果を使い真紅の彼岸花と対比させました。当初のイメージは広角レンズでの全体像でしたが、状況に合わせて臨機応変に対応しました。望遠レンズを車に置いていたら撮れなかった写真です。

レンズへの先入観を取り払おう

みなさんが考える各レンズの特徴はどのような感じでしょうか?人それぞれに焦点距離(画角)へのイメージがあると思いますが(たとえば広角域は広い場所で使い、望遠域は遠いものを引き寄せるなど)いつでもその先入観のままレンズをセレクトしていると撮影できる写真が大体決まってしまい、いつも同じようなパターンになりかねません。そこで自分の焦点距離への印象と逆の使い方を意識すると普段とは一味違った写真が撮れることがあります。ここでは特に印象が偏りがちな広角域と望遠域について写真と共に解説いたします。

広角レンズ編

■撮影機材:ソニーα7R IV + FE 16-35mm F2.8 GM
■撮影環境:焦点距離17mm 絞り優先AE(F13、1/30秒、-0.5EV) ISO200 太陽光 CPLフィルター

超広角域は広大な場所を余すところなく写し込むことが出来ます。広角で撮影した写真と言えばこのようなイメージを持つ方が多いでしょう。

■撮影機材:ソニーα7R V + FE 16-35mm F2.8 GM II
■撮影環境:焦点距離16mm 絞り優先AE(F8、1/4秒、-1EV) ISO100 太陽光 CPLフィルター

しかし広い場所で使うだけではなく、広角ならではのパースペクティブを生かせば狭い場所でも広く見せることができます。

■撮影機材:ソニーα7R V + FE 16-35mm F2.8 GM II
■撮影環境:焦点距離17mm 絞り優先AE(F16、1/15秒、+1EV) ISO800 太陽光 CPLフィルター

たとえ花が少なくてもボリューム感を演出する効果もあります。きっと写真歴の長いベテランさんは常にこの使い方を意識していますよね?

■撮影機材:ソニーα7R V + FE 16-35mm F2.8 GM II
■撮影環境:焦点距離16mm 絞り優先AE(F5.6、1/125秒、-0.5EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター

一般的に「花の撮影は望遠」のイメージが強く「広角域では撮りにくい」という先入観がある方もおられるでしょう。確かにそれは間違ってはいないのですが、広角域での花撮影もアリですので是非トライしてみてください。望遠域での撮影より難易度は上がりますが、背景の様子と広がりを感じさせる花写真になりますよ。

望遠レンズ編

■撮影機材:ソニーα7R V + FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
■撮影環境:焦点距離400mm 絞り優先AE(F5.6、1/8000秒、-1EV) ISO1600 太陽光

読んで字のごとく「望遠」は遠くのものを引き寄せる効果があります。望遠レンズの一番わかりやすい使い方だと言えます。

■撮影機材:ソニーα7R V + FE 70-200mm F4 Macro G OSS II
■撮影環境:焦点距離200mm 絞り優先AE(F4、1/45秒、-1EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター

焦点距離が長くなるほど被写界深度が浅くなります。花写真の基本としてまず望遠レンズをおすすめするのは、大きなボケを生かし主役を引き立たせることが出来るからです。

■撮影機材:ソニーα7R IV + FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
■撮影環境:焦点距離200mm 絞り優先AE(F5.6、1/125秒、-0.5EV) ISO200 太陽光 CPLフィルター

望遠を使うと大きくぼかした写真ばかりになってしまいがち。そこから一歩踏み出すなら圧縮効果を生かして主役に背景が迫ってくるような密度感のある風景的表現も狙ってみましょう。

■撮影機材:ソニーα7R IV + FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS
■撮影環境:焦点距離400mm 絞り優先AE(F5.6、1/500秒、-2EV) ISO400 太陽光 CPLフィルター

望遠の花写真でありながらも周りの様子が伝わるような画もおすすめです。こちらも圧縮効果を利用しています。

まとめ

私が撮影会を行う際など、事前に「次回はどのレンズを持っていけばよいですか?」とよくご質問をいただきます。あらかじめ想定している画を撮るためにはどんなレンズが必要かはお伝えすることが出来るのですが、本音を話すと「どのレンズを使うかわからない」と思っています。そう、私自身もわからないのです。それはここまでの説明の通り天候を含め、思い描いた条件にならなかった場合のことを考えるならレンズの選択肢があった方が撮影の幅が広がると考えているからです。

そういう意味では風景ジャンルは持っているレンズを絞らず、ある程度色んなものを持って行った方が良いと感じています。またレンズに関して先入観を持たず色々な表現を知る事こそが条件に左右されずに作品を生み出すポイントだと考えています。体力に応じてではありますが、今回の内容を参考にして様々なバリエーションにトライしていただけると嬉しく思います。

 

■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニープロイメージングサポート会員・αアカデミー講師

 

 

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