シグマ 85mm F1.2 DG | Artと歩いた大阪

大門美奈
シグマ 85mm F1.2 DG | Artと歩いた大阪

はじめに

ついにシグマが「F1.2 Art Series」のフルラインアップを完成させた。35mm F1.2 DG DN | Art、50mm F1.2 DG DN | Art、最後に登場したのがこの 85mm F1.2 DG | Artである。開放F1.2という数字を無理なく日常に持ち出せる重量とサイズに落とし込むまでに、シグマが費やしてきた時間の長さを思うと、この一本への期待もひとしおだ。

実際に手にしてみると、905gという数字はそれなりの重さはあるものの、このスペックでこの質量は軽いと言わざるを得ない。大口径レンズにありがちな「気合を入れて持ち出す一本」ではなく、旅の荷物に加えても許容範囲内である。その85mm F1.2 DG | Artを携えて、大阪で二日間を過ごした。

フードを外した状態。905g(Lマウント)という大口径F1.2の常識を覆す軽量さを実現
レンズに反射する光の美しさからも、このレンズの描写性能の高さというものが伝わってくるようだ
社名のロゴが刷新されてからしばらく経つが、このロゴになってから、より製品に気品を感じるようになった
F1.2からF16まで、絞りリングの刻みは指先の感触だけで数段先まで読み取れる。クリック感も抜群

85mmで捉える大阪の雑踏

■撮影機材:ライカSL3-S + Sigma 85mm F1.2 DG | Art
■撮影環境:絞りF1.2 1/4000秒 ISO100 WB:オート

大阪で必ず立ち寄るのは梅田。人の流れが絶えないこのあたりは、広角で撮影するのも楽しい場所だが、85mmという長めの焦点距離で撮るのもいいものだ。人混みの合間から、スマホを眺める一人を切り取る。85mmらしい圧縮感で背景のビル群がぐっと近づき、彼女だけが静かに浮かび上がった。

■撮影機材:ライカSL3-S + Sigma 85mm F1.2 DG | Art
■撮影環境:絞りF2 1/640秒 ISO100 WB:オート

梅田から少し足を延ばして福島方面へ向かう。カフェのガラス越しに、グラスの並ぶトレイと、偶然前を通りがかった女性の姿を一枚。わずかに絞っているが、手前のグラスの縁の反射から女性の影まで、なめらかな階調を見せてくれた。ガラスの映り込みというのは案外レンズの素性が出るもので、この滲み方に嫌味がないのがいい。

■撮影機材:ライカSL3-S + Sigma 85mm F1.2 DG | Art
■撮影環境:絞りF1.2 1/500秒 ISO100 WB:オート

17時、夕方にさしかかる時間帯の光は、まだ十分に強い。連休ということもあって混雑する心斎橋の交差点で、カップルの姿を比較的近距離で撮影。手前の人々のシルエットがやわらかくほどけていく中、ふたりだけが輪郭を保って浮かび上がる。開放ならではの分離の良さは、街のざわめきを消して被写体だけを残してくれる。

西陽に染まる街を歩く

■撮影機材:ライカSL3-S + Sigma 85mm F1.2 DG | Art
■撮影環境:絞りF1.2 1/400秒 ISO100 WB:オート

雲間から西陽が差し込み始めた。街路樹を手前に、夕陽を受けて色づくビルをバックに一枚。逆光の中でも木の葉の一枚一枚がざわつくこともなく、静かなシルエットとしてまとまっている。ここのところ雨続きの薄暗い光の中で過ごしてきたので、あたたかな日差しを受けるとほっとするものだ。

■撮影機材:ライカSL3-S + Sigma 85mm F1.2 DG | Art
■撮影環境:絞りF1.2 1/250秒 ISO100 WB:オート

アメ村にたどりつく頃には、あたり一帯がオレンジ色に染まっていた。旅行客のシルエットの向こうに、夕陽を反射するビル群。開放で切り取ると、光の粒がやわらかく溶けて、まるで街全体が発光しているように見える。

■撮影機材:ライカSL3-S + Sigma 85mm F1.2 DG | Art
■撮影環境:絞りF4 1/320秒 ISO100 WB:オート

上の写真とほど近くの場面をF4まで絞って撮影。台風による強い風が重い雲を吹き飛ばしてくれたのだろう。日中の曇り空からは想像できないほど美しい夕景だった。手前のシャドー部もつぶれることなくトーン豊かに描写している。

街あかりが導く、一日の終わり

■撮影機材:ライカSL3-S + Sigma 85mm F1.2 DG | Art
■撮影環境:絞りF1.2 1/80秒 ISO100 WB:オート

ほどよくアルコールも入って、二次会会場へ向かう道すがら。対向車のヘッドライトを背に浮かぶ人影を開放で捉える。強い光源を真正面から受けているにもかかわらず、フレアの気配がまったくない。むしろヘッドライトや街あかりが大きな玉ボケとなって、人物の輪郭を幻想的に演出してくれる結果となった。

■撮影機材:ライカSL3-S + Sigma 85mm F1.2 DG | Art
■撮影環境:絞りF1.2 1/60秒 ISO640 WB:オート

ホテルへ戻る信号待ち。あえて手前の人物ではなく、背後でドリンクを持つ手元にピントを合わせてみる。難しい条件だったが、周辺のざわつきを感じさせることなく、狙った一点だけがすっと浮かび上がった。

二日間、大阪の街を切り取りながら感じたのは、このレンズの引き出しの多さだった。昼の雑踏も、逆光の夕景も、夜のヘッドライトも、どんな光の条件でも動じることなく写し止めてくれる。同様の焦点距離のレンズにライカ アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH.があるので、正直なところ差別化が難しいのではと思っていたが、このSigma 85mm F1.2 DG | Artには「ぬるりとした情緒」とでも言えばいいのか、ライカMシステムでわたしが愛用するノクティルックスのような色気を感じる。ついにシグマはこれほどの官能的なレンズを出すようになってしまったのか。またもや頭を抱える日々が続きそうだ。

 

 

■写真家:大門美奈(Mina Daimon)
横浜出身、茅ヶ崎在住。作家活動のほかアパレルブランド等とのコラボレーション、またカメラメーカー・ショップ主催の講座・イベント等の講師、雑誌・WEBマガジンなどへの寄稿を行っている。個展・グループ展多数開催。代表作に「浜」・「新ばし」、同じく写真集に「浜」(赤々舎)など。

 

 

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