シグマ 35mm F1.4 DG II | Art 積み重ねた技術と美学を実感するレンズ

大門美奈
シグマ  35mm F1.4 DG II | Art 積み重ねた技術と美学を実感するレンズ

三代にわたる 35mm F1.4 Art の系譜

2012年にシグマが初代 35mm F1.4 DG HSM | Art を発売して14年。Artレンズの第一号として発売されたモデルだが、その明るさと解像力に惹かれ、わたし自身長く愛用していたレンズである。2021年、ミラーレス専用設計となった 35mm F1.4 DG DN | Art では旧モデルと比較すると110g以上の軽量化を実現。機材を多く持ち歩く場面でも負担にならず、現在も大いに活躍している一本だ。そして今年の4月には第三世代となる「歴代35mm F1.4 Artの系譜の上に築かれた、Sigma史上最高の35mm F1.4 Art」と銘打たれた ART 35mm F1.4 DG II が発売。AF 精度の向上のみならず、より小型・軽量化を実現したレンズの登場である。

「大いに自信あり」とプンプン匂わせる謳いっぷりだが、ともかく使ってみなければはじまらない。3月下旬のある日、届いたばかりの ART 35mm F1.4 DG II を持って大阪へ向かった。旅はどうしても荷物がかさばるから、持参する機材は性能が優れているのは大前提として、コンパクトなほうがいい。大阪には15年ほど前にわずかな期間だが住んでいたこともあり、その独特な文化も親切な人柄も、もちろん食に関しても大好きな場所である。

はじめの一枚は春の大阪から

■撮影機材:ライカSL3-S + シグマ 35mm F1.4 DG II | Art
■撮影環境:絞りF2 1/2000秒 ISO100 WB:オート

新大阪の喫茶店で昼食を摂り、かつて勤務していたエリアへ降り立つと、強い光が差し込んできた。春の光はどうしてこんなにもまぶしくも美しいのだろう。ちょうど昼時とあって、どこの飲食店も混み合っているようだ。ふと目をやるといい光の差し込むカフェがあったのでさっそく一枚。すっきりと、心浮き立つような描写である。それもそうだ、なにせ「Sigma史上最高の35mm F1.4 Art」なのだから。ともかく、新しいレンズを使うときは、初手で得た印象がなにより大事だ。

■撮影機材:ライカSL3-S + シグマ 35mm F1.4 DG II | Art
■撮影環境:絞りF2 1/3200秒 ISO100 WB:オート

御堂筋を歩きながら撮影。「デュアルHLA」を採用しているためAFも非常にスムーズ。年齢を重ねた背中にそっと寄り添うようなジャケットの立体感の描写が心地よく、ボルサリーノのやや起毛した生地感も見事に描き出している。

■撮影機材:ライカSL3-S + シグマ 35mm F1.4 DG II | Art
■撮影環境:絞りF2 1/160秒 ISO100 WB:オート

ホテルへ荷物を置いて、特急列車へ乗り込む。移動中も写真を撮りたくなるのが旅ならではの効用だろうか。わずかに絞っているものの、狙った被写体が自然に浮き出るようなこの感覚はコンパクトながらも確かにArtレンズであることを感じさせる描写である。

花の佇まいを写しに植物園へ

向かったのは大阪在住時もよく通っていた交野市にある植物園。この季節に雑木林に入り込むと、あらゆるものがうごめいている気配がする。土が一番やわらかいのがこの時期である。普段は砂にまみれた生活をしているので、靴底を伝わってくる土の感触がことさら新鮮に感じるものだ。

■撮影機材:ライカSL3-S + シグマ 35mm F1.4 DG II | Art
■撮影環境:絞りF6.3 1/250秒 ISO100 WB:オート

枝垂れ桜が見頃とのことで、「サクラ山」と呼ばれるエリアへと向かう。向かうといってもこの植物園はちょっとした小山なので、トレッキングするぐらいの気持ちで挑んだほうがいいだろう。足元の感触を味わいながら山頂付近へたどり着くと、妖艶な桜の立ち姿が目の前に現れた。ひとしきり裸眼で味わってから、おもむろにレンズを向ける。

ここへきてはじめて絞ってみたが、やはりというかさすがにシャープである。極細の絵筆で描いたような日本画的な繊細さは、数値では測りきれない情緒を漂わせているかのようだ。

■撮影機材:ライカSL3-S + シグマ 35mm F1.4 DG II | Art
■撮影環境:絞りF1.4 1/5000秒 ISO100 WB:オート

もちろん絞り開放で撮影してもその解像度の高さは折り紙つきである。光がまんべんなく降り注ぐ日であったが、フラットになることなく、かつ無数の花々を緻密に描きつつ上空へと伸びる枝木をうるさく感じさせない描写は品位を感じさせる。

■撮影機材:ライカSL3-S + シグマ 35mm F1.4 DG II | Art
■撮影環境:絞りF1.4 1/640秒 ISO100 WB:オート

この時期は桜だけではなく2月から開き始めた椿が次々と開花し、見頃を迎える頃。今まさに開こうとしている椿を最短撮影距離である28cmまで近寄って撮影。前モデルより2cm短縮されているが、特に広角35mmにおいてこの差は大きい。ピントはシビアになるものの、近接撮影ではより思い描いた画を撮りやすくなるというものだ。

■撮影機材:ライカSL3-S + シグマ 35mm F1.4 DG II | Art
■撮影環境:絞りF1.8 1/6400秒 ISO100 WB:オート

わずかに絞って満開のユキヤナギを撮影。難しい場面であるものの、糸状にゆれる枝がうるさくなることもなく、かつ画面右上から差し込む太陽の逆光をものともしない性能。このレンズには「こう撮れたらいいな」をすっと差し出してくれるような心地よさがある。

一度のシャッターが、次の一枚を呼ぶレンズ

■撮影機材:ライカSL3-S + シグマ 35mm F1.4 DG II | Art
■撮影環境:絞りF1.4 1/1000秒 ISO100 WB:オート

こうも欲しいところへ難なくフォーカスしてくれると撮り直す必要がなく、撮影枚数としては非常に少ない結果となったが、デジタルとはいえ無駄なく撮影できるというのは非常にありがたいものだ。なにより一度のシャッターで「撮れた」感覚を得られるというのは次の一枚への意欲を引き出す原動力となるもの。

ART 35mm F1.4 DG IIは、絞り開放からの高い解像力、「デュアルHLA」による迷いのないAF、前モデルから大幅スリムになった重量、そのどれをとっても第三世代として申し分のない完成度であるといえる。初代から16年、シグマが積み重ねてきた技術とレンズに対する美学をシャッターを切るたびに実感させられた。35mmという普遍的な焦点距離にここまでの水準を盛り込んだ一本は、日常から旅まであらゆるシーンで長く愛用したいレンズである。

 

 

■写真家:大門美奈(Mina Daimon)
横浜出身、茅ヶ崎在住。作家活動のほかアパレルブランド等とのコラボレーション、またカメラメーカー・ショップ主催の講座・イベント等の講師、雑誌・WEBマガジンなどへの寄稿を行っている。個展・グループ展多数開催。代表作に「浜」・「新ばし」、同じく写真集に「浜」(赤々舎)など。

 

 

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