シグマ 35mm F1.4 DG II Art レビュー|小型化の一方、描写はクリアで繊細に
はじめに
CP+2026に合わせて、シグマから35mm F1.4 DG II | Art(以下・本レンズ)が発表された。シグマにとって35mmF1.4というスペックは、ラインナップの中核を成す存在でもある。2012年に今後レンズをArt/Sports/Contemporaryの3ラインに分類すると発表したとき、その1本目に登場したのがArtラインの35mm F1.4 DG HSM | Artだった。そのときの強烈なインパクトは今もよく覚えている。ここから“純正より安いレンズメーカー”というイメージの強かったシグマは、今日のようなプレミアムブランドへと進化していくのだ。この初代、個人的にはウエットでやや周辺の落ちる描写が好きで、今でもマウントアダプターを介して使うことがある。
その後、2021年にミラーレス専用設計の35mm F1.4 DG DN | Artが登場。ショートフランジバックを生かして周辺の画質を向上させた。それを小型化・高画質化した実質3代目が本レンズというわけだ。35mm F1.4 DG DN | Artはふつうによく写るレンズだったが、それより先に発売された35mm F1.2 DG DN | Art(初代)が飛び抜けて高い描写力で、その影に隠れがちだった。両方所有している僕も、描写にこだわる撮影では重さ1kg超えのF1.2を持ち出すことが多かった。そのF1.2のII型が2025年9月に発売。描写性能はそのままで、大幅な小型軽量化を実現した。そこから半年足らずでF1.4もリニューアルとなった。

メーカーの測定値通りにヌケがいい
“兄貴分”であるF1.2 II型をしばし試した後だったので、果たして本レンズがどこまで肉薄するのかなぁ…と思って撮影したのだが、初日からクリアで鮮明な写りに驚かされた。ボケ味も立体感も素晴らしく、それでいて小型軽量と、非の打ち所がないのだ。明るさやそこから得られるボケの大きさを無視すれば、絞り開放での描写はF1.2 II型より本レンズが勝っているように思う。もちろんF1.2 II型も相当高いレベルにあるが、ヌケの良さや描写の緻密さ、立体感はそれ以上のレベルと感じた。

■撮影環境:シャッター速度 1/8000秒 絞りF1.4 ISO100

■撮影環境:シャッター速度 1/4000秒 絞りF1.8 ISO200
実際シグマが公表している本レンズのMTF曲線(解像度のテスト結果をグラフ化したもの)を見ると、コントラストやヌケを示す10本/mmは画面周辺までほぼ上限をキープ。これはF1.2 II型も同じだが、解像力を示す30本/mmはF1.4先代やF1.2 II型より高く、広角単焦点レンズとしては異次元ともいえる。もちろん描写性能を左右する要素はさまざまで、テストチャートからの数値だけで判断することはできないが、実写した感想はおおよそMTF曲線が表す通りだった。もちろん絞れば解像感がさらに増していく。

■撮影環境:シャッター速度 1/6400秒 絞りF1.4 ISO100

■撮影環境:シャッター速度 1/320秒 絞りF8 ISO100
繊細で優しく、懐の深い描写
絞り開放からピントの合った部分はビシッと細い線、あるいは美しい質感を再現。そこからのボケ足やボケ味もすばらしい。シャープでありながら描写自体は硬くならず、階調表現はどちらかといえば優しい。今回はこのレンズが装着できるもっとも新しいカメラ、α7 Vで撮影したが、階調性の広さも相まって余計それを感じた。その特徴はハイキーな写真で生きてくるが、ローキーでも暗部のトーンを引き出してくれる。

■撮影環境:シャッター速度 1/640秒 絞りF1.4 ISO100

■撮影環境:シャッター速度 1/400秒 絞りF1.4 ISO100
僕個人はややコントラストが強い描写が好みなので、本来はここからレタッチで追い込んでいくのだが、この記事では性能を見ていただくため撮ってだしを掲載している。その代わりというわけではないが、一部α7 Vのクリエイティブルックを「FL」に設定してみた。「FL」は落ち着いた発色と強いメリハリが特徴。僕が普段RAW現像で追い込む方向に近い。本レンズはちょっと優等生すぎる部分もあり、少し癖のある設定で撮影するのもいいと思う。

■撮影環境:シャッター速度 1/2500秒 絞りF1.4 ISO100 クリエイティブルックFL
コンパクトで高品位、あらゆるボディにマッチ
今回はEマウント+ソニー機で撮影したが、癖のある設定といえば、シグマのfp/fp LやBFに搭載されているカラーモード「ティールアンドオレンジ」だ。実際に試してはいないが、本レンズの良さをさらに引き出すような気がする。F1.4の大口径ながらスリムでコンパクトなので、小さな箱型のシグマ製ミラーレス機に装着したときの取り回しもよさそうだ。

シグマといえば、Contemporaryラインの単焦点レンズは本体がアルミ製のものが多く、ズームレンズやArtラインの単焦点レンズは主にTSC(Thermally Stable Composite)という独自のポリカーボネート素材が用いられる。高価なArtラインこそフル金属製がいいのに…という声もありそうだが、TSCを採用するのは強度や温度変化を考えてのこと。たとえば落下したときのダメージは、TSCのほうが圧倒的に少ないはずだ。もちろんマウント部分などは剛性の高い金属製であり、質感や剛性感、さらに絞りのクリック感はさすがのクオリティ。がっしりとしたパナソニックSシリーズや、高級感のあるライカSLシステムのボディにも釣り合う。
逆光に強く、絞ったときのボケもすばらしい
しかしコントラストを持ち上げてもアラが目立ったり、階調が乱れることもなく、どこまでも粘る。シグマ製レンズの特徴でもある、逆光への強さももちろん健在。太陽にも臆せずレンズを向けることができる。さらに円形の絞り羽根により、絞っても玉ボケはきれいなまま。ここまで非の打ち所がないレンズは、記事を書いていても褒めるだけになってしまって本当に難しい。

■撮影環境:シャッター速度 1/400秒 絞りF1.4 ISO100 クリエイティブルックFL

■撮影環境:シャッター速度 1/2500秒 絞りF2.8 ISO100
まとめ
35mmという焦点距離は、使いこなしが難しいという声も聞く。僕自身は旅や散策なら35mmか50mmの単焦点一本で撮り歩くのが好きで、とりわけ35mmはスナップ的な撮影では欠かせない存在だ。遠近感が肉眼に近い50mmは構図を作りやすく、独特な安定感がある。ただ街を歩きながら使うには画角が狭く、常に後ろへ引くことを意識する必要がある。その点、35mmは気楽に撮り歩くことができる。ただし写り込む情報が増えたり、遠近感がつくことで散漫な写真にもなりやすい。そこが難しさの要因なのだろうが、コツはファインダーの隅をよく観察して、情報を整理すること。ここだと思った位置より1~2歩寄るといい。

■撮影環境:シャッター速度 1/2000秒 絞りF1.4 ISO100

■撮影環境:シャッター速度 1/100秒 絞りF1.4 ISO100

■撮影環境:シャッター速度 1/100秒 絞りF6.3 ISO100 クリエイティブルックFL
焦点距離だけでいえば、35mmは標準ズームでもカバーできる。しかし明るい単焦点レンズには被写界深度=ボケのコントロールという利点がある。肉眼よりちょっと強い35mmの遠近感が、大きなボケによって立体感へとつながる。そんな写真をより写真らしく見せてくれる35mmの中でも、本レンズは最高レベルの光学性能を誇る。35mmという焦点距離を苦手とする人にこそ、ぜひ体験してほしいと思う。
■写真家:鹿野貴司
1974年東京都生まれ。多摩美術大学美術学部二部映像コース卒。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。著書『いい写真を取る100の方法』が玄光社から発売中。公益社団法人日本写真家協会会員。















