「モノクロしか撮れない自由、カラーも撮れる不自由」GR IV Monochromeに込められたメッセージを読み解く

内田ユキオ
「モノクロしか撮れない自由、カラーも撮れる不自由」GR IV Monochromeに込められたメッセージを読み解く

正常進化に隠された真意

GR IVがリリースされたとき、お祭りに乗り遅れて悔しかったです。けれどもコッチに集中できるならそのほうが嬉しい。六年半も時間が空いたら、みんなで「正常進化だ」と声を揃えて迎え入れるしかないですよね。

正常進化という言葉ほど、便利で、そして無責任な表現はないと思います。新しいカメラが発表されるたびに繰り返されるこのフレーズは、性能向上を肯定する合言葉であると同時に、批評を停止させる呪文でもある。
異常な進化に見えないように、どれだけの血と涙が流れているのか? 

誰にとって、何に対して、どこへ向かう進化なのか。写真を撮るという行為の核心に照らしたとき、その変化は必然だったのか。それとも単に更新されただけなのか。
正常進化とは、数値の積み重ねを指す言葉ではないはず。とくに高画素化は必然ではなく、それだけでカメラの魅力が更新できないことがわかってきた現在に、GR IVがやりたかったことは何か、そこを製品から読み取っていくべきだと思いました。

芸術とは最も美しい嘘のことである(ドビュッシーの言葉)

GR IV Monochromeが発表されたとき、本命はこっちだったのではないかと疑いました。「GR IIIのときから構想はあったけれど実現できずに、積年の願いが叶った」というメーカーからのアナウンスにもそれが感じられます。
いくらGRであってもカラーを捨ててモノクロに特化するなら、流石に「正常」な進化とは言えません。伝統を継承するためにも、六年半の間に大きくなった期待に応えるためにも、「GRの哲学」の重みに耐えるためにも、GR IVが先に発表されたのは当然。

けれどもGR IVには驚きや、満を持して「これでどうだ!」と言い切った迫力がありませんでした。
GRの凄さは、ユーザー(と周辺)から「フルサイズにしろ」「防塵防滴にならないのか」「もっと明るいレンズにしてくれ」「レンズ交換できたらすぐ買うのに」といった声が聞こえてこないところ。トレードオフで魅力が失われることを理解しているのでしょう。それは28mm固定機という縛りの中で成長を諦めなかったから。

■イメージコントロール:ハイコントラスト

そうは言っても世界を広げていくには限界があります。実はGR digital III→GR digital IVとGR→GR IIのときは例外として、画素数やレンズの明るさなど、数字で見える部分もきっちり引き上げてきたんですよね。GR III→GR IVも見た目の数字で24MP→26MPとなっていますが「正常進化」と言いづらいのはそれも理由のひとつ。そこで哲学を犠牲にしない新しい進化———モノクロ専用機の登場だったのでは。

リコーの仕事もしているので、取材としてモノクロ専用機が誕生するまでの経緯を聞くことができるかもしれませんが、それだと全然ワクワクしないです。
なぜビートルズは先に「レット・イット・ビー」を作っていたのに、後から作った「アビーロード」を先にリリースすることになったのか・・・といったことのほうが考察ブームの現在には楽しい。
作者の言葉を聞いて納得しているだけではアートを楽しめません。それを手掛かりに作品を読んでいくのが醍醐味。カメラもそうだと思います。

■イメージコントロール:ハイコントラスト
広角+ハイコントラストは、秋刀魚と大根おろしくらい相性がいいので、ついこういうの撮ってしまいます。

なぜモノクロ専用機か?

モノクロ専用機のメリットを考えてみましょう。
ベイヤー配列ではない専用センサーを使うことで、カラーフィルターによる光のロスがなく、各ピクセルが正しい明るさを記録することにより、画像はクリアで階調が豊かに。
さらに高感度特性———ノイズが少なく粒状性に優れ、画像処理の過程でデモザイク処理がいらないためシャープで細部の密度が高い画像が・・・

というのが一般論。けれどもその違いをどれだけの人が必要とするかって話になります。ビデオテープでβが優れていてもVHSに負けたわけで、技術的純度はエコシステムに勝てません。
そこで見方を変えれば、モノクロ専用機は技術というより「哲学の検証装置」と言えなくもないです。

・色ノイズ処理が不要
・階調設計に全振り
・露出アルゴリズムを「明暗中心」に組み直せる
・センサーの特性からレンズ性能をフルに発揮

つまり絵づくりを本質から再設計する理由になります。
さらにこのモデルを現実的にする過程で

・メーカーとしての写真に対する姿勢
・階調設計から写真の美しさを追求
・デジタルカメラから何を削れるか

が明確になっていく。これによりGRの哲学を継承しながらアップデートできて、写真文化的にも意味がある立ち位置を築ける(かもしれない)。

GR IVとの違い

ランプの色やロゴの濃さがわずかに変更されて・・・といったことは既に知っていると思います。例によって薄明かりで2台が並んでいたら区別できません。GR III、GR III X、GR III X HDFも加えて5台並べてみましたが、1メートル離れたらみんな同じに見えます。GR digital IVや、GRとGR IIを混ぜると相対的なサイズがわかりづらくなるためカオス。

むしろ持ってみたときの方が、明らかに手触りが違うのが感じられます。ヒトの触感はかなり高性能なんですよね。スマホの画面がピカピカに見えても、触っていると傷や汚れが感じられるのは数ミクロンを感じ取ることができるから。それでもバッグの中から手触りを頼りに取り出すのは難しいのでは。

シャンプーとリンスだって暗闇でもわかるように(加えて視覚に障害があっても判別できるように)ボトルに工夫がされているわけで、美学とはいえ、なんとかならないのかなって気はします。2台持ちすることを考えてないのかも。
40mmはまだGR IIIにしかないし、HDFにもファンが多く、画素数だけを比べれば大きな違いはないため、GR IIIファミリーとGR IVファミリーを併用したい人も多いでしょう。正直に言って、どう組み合わせたら快適になるか思いつきません。

モノクロ専用になって、何かのプロセスが省略されるとか、逆に演算に時間がかかるとか、書き込みや連写、AFの速度、バッテリーなど何かに影響があるのか聞いてみたところ、そこに違いはないそう。数ヶ月だけ後にリリースされているので、ファームウェアが進んでいるかもしれないと疑ってみましたが、実写しても違いは見つけられませんでした。
けれども当然なことですが、GR IVで撮ったモノクロと、GR IV Monochromeで撮ったモノクロは、プラシーボではなく見てわかる違いがあります。

モノクロなのに多彩、そして多才

GR IVに新しいイメージコントロールとして二つのシネマ調が加わりました。シネマティックでレトロなルックはGRらしさがあって不満はありません。モノクロにも手を入れるだろうと予想していたので、そこは肩透かしを食らった気分でした。こっちが用意されていたならそれも自然です。
さらにHDFは、モノクロ専用機を構想してレンズ周りを見直すプロセスで生まれた副産物だとしたら、全てが繋がります。

階調はセンサーに依存する部分も大きいので、GR IVに合わせて設計したものをそのまま流用するわけにはいかなかったようです。画像設計の担当者に話を聞いたとき、RAWファイルがとにかくリッチで美しかったので、それを損ねないよう余計なことをしないように心がけたと言っていました。プロセッサーで像を作りすぎないのは最近のトレンドでもありますね。
GR IIIからGR IVになって、画質で最も大きな変化をもたらしたのはレンズの描写性能だと感じています。周辺まで緩みなく解像してくれる。レンズの描写性能が向上した結果として、画像処理でシャープネスを強調する必要がなく、このレンズのおかげでセンサーの性能を発揮できたわけです。

■イメージコントロール:ソリッド
発表会の展示にもこういう写真が使われていて、大きくプリントするなら画質をチェックするポイントが多くて見どころがあります。

発表会で大きなプリントが展示されていて、ハイコントラストの写真に関しては「なるほどね」という印象だったのですが、軟調気味のスナップを見たとき「うげっ!」と焦りました。細部のディテールはデジタルならではの緻密さがあり、けれども離れて見たときフィルムっぽい。大判カメラに微粒子のフィルムを入れて、それを手持ちで撮ったような。実際にはそんなの無理なので、異質なトーンに感心しました。
これが撮れるなら、あんなものやこんなものも撮れるかもしれない・・・と想像するのは楽しかったです。

6つのイメージコントロールのうち4つ(スタンダードとHDP調を除く)を簡単に紹介しておきます。メーカーからの発表ではなく使用感が中心です。

▼ソリッド
ノーマルを少し硬くして印象を強くしたトーン。ウィリアム・クラクストンのビデオでヘルムート・ニュートンが家にやってきて「あのトーンはどうやって作っているの?」と尋ねる場面があり、「トライXを800に増感しているだけだよ」と答えていました。嘘じゃないでしょう。ソリッドはそんな感じ。
諧調の境界部分のエッジが鋭く見えます。これまでのGRだとスタンダードに対するポジフィルム調の関係に近い。もし自分でこのカメラを本格的に使うようになったら、これを軸にして撮っていきます。名前はマッシブがいいかな。真剣に使ったら変わるかもしれません。

■イメージコントロール:ソリッド
モノクロこそ露出にはこだわりたい。適度に硬さがあって、扱いやすいトーンだと思う。

▼ソフト
GR IIIから採用されていて、コントラストを高くするのは撮影後でも簡単にできるけれど軟調にするのは加減が難しいので、それをJPEGで実現していて、しかもきちんと成立するトーンになっているのは素晴らしいです。個人的に広角よりも標準から中望遠のほうが合うトーンだと思っているのでGR III Xでよく使います。
フィルムで軟らかい諧調を作ると必然的に微粒子になるため、これにグレインを加えるとミスマッチが新鮮で面白いかもしれません。

■イメージコントロール:ソフト
HDFとはまた違う、光の滲み方がいいですね。コントラストが高いトーンだと周辺のディテールがすべてなくなるため、ソフトを選びました。

▼ハイコントラスト
これぞGRというアイコニックなトーン。1/3段ずつ露出を変えて撮り分けると、真っ黒だったところにスッとディテールが浮いてきて、ただコントラストを強調しただけではなく絶妙なところで階調が残っているのを実感できます。
画像設計の担当者によると「高感度、それも51200とかで使うと、見たことがないモノクロが体験できると思います」とのことで、それはハイコントラストで試すのがわかりやすいと思います。

■イメージコントロール:ハイコントラスト
コントラストは高いけれどハイライトが粘ってくれるので、そこを意識してやるといいと思います。線や文字、パターンなどを入れるとキャッチーに。

▼グレイニー
粒状が強調され、それが活きるようにハイコントラストでありながらグレー域が豊かにデザインされたトーンに見えます。
昔のグレイン系エフェクトは全体に均質なパターンが乗っかるだけでしたが、それだとただの模様。フィルムの再現になってないということで、シャドウ、グレー、ハイライト・・・と、明るさによって粒状感が違うアルゴリズムが生み出されます。
グレイニーはそれをさらに推し進めたもののようで、白飛びしている(はずの)領域にもうっすらと粒状が見えるのが面白い。

被写体や撮影条件ごとに変えるよりも、まず自分の作風に合うお気に入りを見つけ、それを掘り下げていくのがおすすめです。せっかくカラーを諦めてモノクロ専用機を使うわけで、ストイックなほうが楽しいと思います。

■イメージコントロール:グレイニー
これだけコントラストが高いとハイライトは白飛びしていて不思議ないですが、そこに粒状があるため、ダイナミックレンジが広がっているような錯覚をします。

ネーミングについて

GR IV Monochromeはそのまま過ぎるのでは。GR Mくらいのほうがソリッドでカッコいい気がしますが、GR IVという名前を広めるためにも、世代を明らかにするためにも仕方ないですね。
いっそ4→Four→Forに置き換えて「GR for M」はどうでしょうか。プリンスが「Die For You」を「Die 4 U」と表記して爆発的にヒットさせたのを逆にしてみました・・・グループ展のタイトルがいいところかな。

■イメージコントロール:ソリッド
50年代だとテレビをこんなふうに撮るのが流行りました。ソフトのほうとトーンの違いを比べてみてください。

買ったら試したいマニアックな使い方

その1.モノクロの醍醐味を満喫
モノクロの醍醐味は、ふだんカラーで見ている世界がモノクロになることで特別に見えるところにあります。とくに光の方向には敏感になり、写真の本質を理解する手助けにもなります。
それがRAW 現像で「モノクロにしたらカッコ良さそう」と色を抜いているうちは、その醍醐味を満喫できていないかもしれません。液晶を頼りに撮っているとすでにモノクロになっているわけで、安心と引き換えにいちばん美味しいところを経験できない。

そこで外付けファインダーはおすすめです。
モノクロが上手な人がよく「色ではなく濃淡で世界を見るといいよ」と言いますが、本当はヴァルール(色価)といって、色ごとに違う重さでバランスをとっていく感覚を身につけることが大事。これはカラーを撮るときにも生きるので、液晶の手助けを借りずに目で見て「モノクロならこうだな」とわかるようになるといいと思います。

その2.巨匠に学ぶモノクロの真髄
美しいモノクロをどうプリントで表現するか、その技術を体系的に確立したのはアンセル・アダムスの功績。デジタルであっても一度くらいは本を読む価値がありますから、簡単に触れておきます。

銀塩でソフトモノクロのようにトーンを軟らかくするためには、まずはシャドウをリッチにするため感度を下げて使うしかなく、さらに現像時間を短縮することでハイライトを抑えてトーンを圧縮してやります。これが減感。その逆が増感で、これを極端にするとハイコントラストモノクロみたいなトーンができます。
アンセル・アダムスの時代にはボタンひとつでソフトとハードを選べなかったため、「減感」「ノーマル」「増感」と複数のフィルムマガジンを持ち歩いて。撮影条件に合わせて使い分けていました。

その時代の苦労と楽しさを体験してみましょう。GR IVからイメージコントロールに三つのカスタムを登録できるので、まずはノーマルを作って登録して、それのちょっとハードと、ちょっとソフトを入れておくのはどうでしょう。スタンダードとソリッドとソフトを使い分けてもいいけれど、差が大きすぎる気がします。
自分の好みに調整していくとき、壁に貼ったタオルを撮ってテストするといいんですが、やばい人だと思われるかもしれません。意味がわからなかったら「アンセル・アダムス、ゾーンシステム」で検索してみてください。
マニアックでいいですね。心が躍ります。

■イメージコントロール:ソリッド
ハイコントラスト=廃れゆくものという図式はそろそろ更新されていいのでは。
■イメージコントロール:ハイコントラスト
ということで、中間調がなくなることでデザイン的に見えるところを利用しました。
■イメージコントロール:スタンダード
これがスタンダード。階調は揃えてあるようですぐわかる違いはなかったです。暗室に入ってこれくらい焼けるようになったらかなりのもの。

モノクロしか撮れない自由、カラーも撮れる不自由

■イメージコントロール:ソリッド
今回の写真でいちばん気に入っています。水墨画を意識して構図と露出を決めていて、画質の良さが写真を支えてくれています。梅は枝がうるさいため、絞りをコントロールしていて、広角でも被写界深度が大切なことがわかります。

三ヶ月か、半年くらいかかるかもしれませんが、全てのものをモノクロで撮ることが自然になってきて、カラーならスマホでいいやと思えるようになった頃、借りものでいいのでノーマルなほうのGR IVを使ってみてください。
カラーも撮れることを「自由だ」とは思えないはずです。カラーならではの面倒さ(ホワイトバランスなど)があるから。多機能が自由をもたらすわけではないことに気づくと思います。
そのときこそチャンス。アメリカン・ニューカラーの巨匠たち、スティーブン・ショアやウィリアム・エグルストンは、そこでモノクロを捨ててカラーに挑んだわけで、歴史を追体験することができます。すごくGRらしいと思いませんか。変えない頑固さと、変える勇気と。

■イメージコントロール:グレイニー
GRでモノクロを撮るとき、誰もがやってみたくなる。25万円のコスプレ(苦笑)

 

 

■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist

 

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