ニコン NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S レビュー|内蔵1.4倍テレコンの便利さは期待以上

中野耕志
ニコン NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S レビュー|内蔵1.4倍テレコンの便利さは期待以上

はじめに

ニコン NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR Sは、2022年2月に発売されたNIKKOR Zレンズ初の単焦点超望遠レンズである。レンズ名に「TC」の名が刻まれているとおり、鏡筒内には半埋め込み式の1.4倍テレコンバーターが内蔵され、レバー操作ひとつで560mm f/4に変身する画期的なレンズだ。発売からすでに2年が経過しているが、Zレンズならではの先進的な技術を多く取り入れ、後に続くZ超望遠レンズの先駆けといえる存在でもある。

外観、操作性

400mm f/2.8の明るい大口径超望遠レンズなので大柄ではあるものの、質量は2950gと3kgを切っており高い機動性を誇る。先代にあたるニコンFマウントのAF-S NIKKOR 400mm f/2.8E FL ED VRの質量は3800gなので850g軽量化されている。さらにZマウントの400mm f/2.8には1.4倍テレコンも内蔵されているので、Fマウントの400mm f/2.8 + 1.4倍テレコンの組み合わせからはさらに190g、トータルで1kg以上も軽量化されていることになる。また重心が従来の400mmレンズよりも手前側にあるため、手持ち撮影時には数値以上に軽く感じレンズを振り回しやすい。

鏡筒右側

右手側の操作系としては内蔵テレコンバーター切り換えスイッチがあり、レバーを上げると400mm f/2.8、下げるとテレコンが入り560mm f/4となる。このレバーはカメラを構えた状態で右手中指および薬指で操作できる位置にあるので、ファインダーを除いた状態でも瞬時に切り換え可能だ。内蔵テレコンバーター切り換えスイッチの脇にはメモリーセットボタンがある。このボタンを長押して任意の場所にピント位置を登録しておくと、Fnリング等で瞬時にピント位置を呼び出すことができる便利な機能だ。

鏡筒左側

左手で操作する部分としては、手前側からフォーカスモード切り換えスイッチ、フォーカス制限切り換えスイッチ、L-Fn(レンズファンクション)ボタン、フォーカスリング、コントロールリング、Fnリング、L-Fn2ボタンが並ぶ。とくに操作する機会が多い部分には3本のリングが並ぶが、それぞれの形状が異なるため、ファインダーを覗きながら手探りでも操作できるよう工夫されている。欲を言えば、超望遠レンズの手持ち撮影時は左手でレンズ先端側を持つと安定するので、その状態で操作しやすくなるようフォーカスリングはもっとレンズ先端側にあってほしいものだ。

光学系、画質

19群25枚の光学系には蛍石レンズ2枚、EDレンズ2枚、スーパーEDレンズ2枚、SRレンズ1枚と高級硝材をふんだんに使用し、Sラインの超望遠レンズの名に恥じない画質を実現している。描写は絞り開放から極めてシャープで、野鳥であれば羽毛の一本一本、飛行機であれば金属の質感を余すところなく繊細に描写してくれる。また新コーティングのメソアモルファスコートも採用しており、ナノクリスタルコートを凌駕する耐逆光性能を持つ。

■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S(560mm)
■撮影環境:f/4 1/2000秒 ISO220 WB晴天

流氷の海を舞うオオワシ。雲で多少減光されてはいるものの、画面内に太陽を入れてもフレアやゴーストなどの有害光は目立たたず、耐逆光性能の高さが見て取れる。

■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S
■撮影環境:f/4 1/3000秒 ISO200 WB晴天

湖面を漂うオオハクチョウ。Sラインの単焦点レンズならではの透明感と鮮鋭感ある描写。レンズが軽いため機動性が高く、カメラを水面スレスレまで下げることができた。

400mmでf/2.8の明るさを持つレンズ

400mm f/2.8というレンズに求められるもの、それはなんといっても明るさである。飛行機写真であれば薄暮の時間帯や夜間の撮影、野鳥写真であればとくに森林性の野鳥撮影時である。400mm f/2.8の明るいレンズであれば薄暗い撮影条件下の撮影においてもブラさず撮るのに十分なシャッター速度が得られたり、むやみにISO感度を上げずにノイズの無い繊細な画質が得られる。400mmというのは超望遠撮影にはやや物足りなく感じることも多いが、本レンズはワンアクションで560mm f/4に切り替え可能なので、状況に応じて明るさを取るか焦点距離を取るか瞬時に選択できるのだ。

■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S
■撮影環境:f/2.8 1/180秒 ISO200 WB晴天

日没後、伊丹空港を離陸するボーイング787。機体側面が残照の空を反射する。刻一刻と露出が厳しくなる時間帯だが、f/2.8の明るさのおかげでISO200という低感度で撮影できた。

とろけるようなボケ味

大口径超望遠レンズの醍醐味といえば、なんといってもとろけるようなボケ味である。林内の小鳥を撮る場合などでは、同じ400mmでもf/5.6などの小口径超望遠レンズではある程度大きく撮影することはできても、周囲の枝などがあまりボケないため画面全体が煩雑になりやすい。その点400mm f/2.8であれば周囲の枝がフワッとボケるので、主役である鳥を浮き上がらせられる。そのぶんピントはシビアにはなるが、Z 9やZ 8のAF性能をもってすれば問題にはならない。むしろレンズが明るいことでAF速度面でも精度面でも有利といえよう。

■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S
■撮影環境:f/2.8 1/2000秒 ISO640 WB晴天

小首をかしげるヤマガラ。森林性の野鳥を撮る場合、悩ましいのは背景処理である。NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR Sなら抜群の鮮鋭感とボケ味で主役である野鳥を引き立ててくれる。

高速・高精度・静粛なAF駆動

本レンズのAF駆動にはシルキースウィフトVCM(SSVCM)を採用しており、他のZレンズに採用されているステッピングモーター(STM)と比べるとより高速・高精度・静粛なピント合わせが可能だ。2024年2月時点でこのSSVCMを使用するのは本レンズとNIKKOR Z 600mm f/4 TC VR Sの2本のみのハイエンドモーターである。

■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S(560mm)
■撮影環境:f/4 1/12000秒 ISO800 WB晴天

イタヤカエデの樹液が凍って氷柱になった。この氷細工をホバリングで舐めるハシブトガラの動きはほんの一瞬。SSVCMによるAF駆動はそのシャッターチャンスを逃さなかった。

外付けテレコンバーターにも対応

本レンズには1.4倍テレコンバーターが内蔵されているが、Z TC-1.4xとZ TC-2.0xの外付けテレコンバーターも装着可能だ。内蔵テレコン無し+Z TC-1.4x併用時は560mm f/4として、Z TC-2.0x併用時は800mm f/5.6レンズとなる。内蔵テレコン有り+Z TC-1.4x併用時は784mm f/5.6として、Z TC-2.0x併用時は1120mm f/8レンズとなる。

■撮影機材:NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S(400mm)
■撮影機材:NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S + Z TC-1.4x(560mm)
■撮影機材:NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S(560mm)+ Z TC-1.4x(784mm)
■撮影機材:NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S(560mm)+ Z TC-2.0x(1120mm)
■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S + Z TC-1.4x(784mm)
■撮影環境:f/5.6 1/250秒 IS720 WB晴天

薄暗い林床で木の実を食べるシロハラ。野鳥撮影では焦点距離の長さと明るさのバランスがとても重要で、ひとつの目安は800mm f/5.6である。本レンズは内蔵1.4倍テレコン+Z TC-1.4xの組み合わせか、内蔵テレコン無し+Z TC-2.0xで800mm f/5.6 レンズとして使える。

■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S + Z TC-1.4x(560mm)
■撮影環境:f/8 1/2000秒 IS200 WB晴天

ブルーインパルスは編隊を組んでいれば400mm単体でも十分楽しめるが、ソロ機の撮影では500mm以上は欲しくなる。この撮影時はZ TC-1.4xを装着しておき、いざというときには内蔵テレコンを併用して784mmとしても撮影していた。

■撮影機材:Nikon Z 9 + NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S(560mm)
■撮影環境:f/5.6 1/1000秒 IS200 WB晴天

F-2B戦闘機を560mmで撮影。飛行機撮影では脚立に乗って撮影することが多く、テレコンバーター着脱には機材落下のリスクが伴う。テレコン内蔵レンズならそんなリスクも無いし、埃が舞う屋外でレンズ交換する必要も無い。

まとめ

発売当時、NIKKOR Zレンズの将来を占う超望遠レンズ第1号としての責務を背負って登場したNIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S。実際に使用してみるとその比類無き解像力、ボケ味といった画質はもちろん、内蔵1.4倍テレコンの便利さは期待以上のものであり、Fマウントレンズからの大幅な進化を実感したものである。実売約160万円※の高額レンズではあるが、我々超望遠ユーザーにとっては納得いく性能の1本といえる。
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■写真家:中野耕志
1972年生まれ。野鳥や飛行機の撮影を得意とし、専門誌や広告などに作品を発表。「Birdscape~絶景の野鳥」と「Jetscape~絶景の飛行機」を二大テーマに、国内外を飛び回る。著書は「侍ファントム~F-4最終章」、「パフィン!」、「飛行機写真の教科書」、「野鳥写真の教科書」など多数。

 

 

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