ニコン NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S レビュー|機動力抜群の野鳥撮影レンズ

中野耕志
ニコン NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S レビュー|機動力抜群の野鳥撮影レンズ

はじめに

ニコンから機動力抜群の超望遠レンズ、NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sが10月27日に発売された。8月末に発売されたばかりのNIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRとテレ端丸被りのレンズがわずか3ヶ月後に発売されるとは驚きのタイミングである。

しかも、NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRは実勢価格が約23万円なのに対し、NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sは実勢価格が約71万円と、その差は3倍近い強気の値付けに、果たしてその価値はあるのだろうか甚だ疑問であった。しかし、実際にNIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sを撮影現場で使用してみると、取り回しの良さと画質の鮮鋭感にすっかりと気に入ってしまった。

本稿ではNIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sを約10日間にわたり、野鳥写真と飛行機写真でフル活用して感じたファーストインプレッションをお届けする。

Nikon Z 9 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S + Z TC-1.4x(840mm)
F9.5 1/4000秒 ISO1600 WB晴天
Nikon Z 9 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S(600mm)
F6.3 1/250秒 ISO560 WB晴天

PFレンズ採用で軽量コンパクト

NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sはフィルター径95mmのコンパクトな600mmで、全長わずか278mm、三脚座を含む質量が1470g(三脚座無し1390g)と、600mmとしては極めて軽量で取り回しが良い。先に発売されたNIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRは三脚座付きで2140g(三脚座無し1955g)なので、その差約670g(三脚座無し565g)。全長や重量バランスの良さも相まって、NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sは数値以上に軽く感じる。

本レンズの小型軽量化に貢献しているのはPF(Phase Fresnel:位相フレネル)レンズで、光学系に組み込むとレンズ全長を短くできることから、超望遠レンズに多く採用されている。このPFレンズが採用されたZマウントのレンズとしては、NIKKOR Z 800mm f/6.3 VR Sに続きNIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sが2本目となる。14群21枚の光学系にはEDレンズ2枚、SRレンズ1枚、PFレンズ1枚を採用することでコンパクトながら高画質を実現している。

NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sの外観

左からNIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S、NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VR、NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sのサイズ比較。NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR Sは最大径165mm、全長437mm、質量3260g、かたやNIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sは最大径106.5mm、全長278mm、質量1470g。開放f値が1・1/3段明るくて1.4倍テレコン内蔵とはいえ、ロクヨンはやはり大きく重い。

操作系としては、鏡筒左側はボディ側から順にL-Fnボタン、フォーカスモード切り替えスイッチ(A/M)、フォーカス制限切り替えスイッチ(FULL/∞-10m)、三脚座、フォーカスリング、コントロールリング、L-Fn2ボタン(4箇所)が配置されており、鏡筒右側にはメモリーセットボタンがある。

着脱可能な三脚座はNIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR SやNIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR Sと共通なので、社外品のアルカスイス互換雲台対応三脚座(KIRK製 LP-70等)に換装可能だ。

AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VRの後継となるか

Fマウントの軽量コンパクト超望遠レンズの代表といえば、AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VRである。軽量コンパクトなだけではなく、高画質と高速AFを兼ね備えた銘玉で、筆者もメインカメラをZマウントに移行してからもこのAF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VRだけは手放さずにいた。

2本のレンズを並べてみると、AF-S NIKKOR 500mm f/5.6 PF ED VRは単体ではかなり短いものの、マウントアダプターFTZ IIを取り付けるとNIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sとの差はわずかとなる。レンズ質量はほぼ同じで、AF-S NIKKOR 500mm f/5.6E PF ED VRのほうがマウントアダプターFTZ IIのぶん重くなる。

気になるパフォーマンスはというと、重量バランス、画質、AF速度、テレコンとの相性などあらゆる点でNIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sが勝っていると筆者は感じた。あとは500mmか600mmかの焦点距離の違いと、f/5.6かf/6.3か1/3段の露出差をどう捉えるかであろう。

あらゆる野鳥撮影現場で活躍

Nikon Z 9 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S + Z TC-1.4x(840mm)
F9 1/3000秒 ISO800 WB晴天

レンズを受け取ってからというもの、干潟や砂浜、都市公園、山野の野鳥など、さまざまなフィールドでの野鳥撮影を行った。本レンズの機動力を最大限に生かすためにはZ 8と組み合わせるべきだが、現ファームでは鳥認識AFがZ 9のみにしか搭載されていないため、本稿の作例の多くはZ 9で撮影した。

いずれにせよフィールドにおけるNIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sの取り回しは良く、一日中野鳥を探しながら歩き回っても疲労感を感じないほどである。これがNIKKOR Z 600mm f/4 TC VR Sだとこうはいかない。

とくに水面や地面にいる野鳥を撮るときは、水面/地面スレスレまでカメラを下げるのが基本のため、軽くてコンパクトなレンズの方が圧倒的に有利である。

Nikon Z 9 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S + Z TC-1.4x(840mm)
F9 1/2000秒 ISO800 WB晴天

砂浜で撮影したハマシギ。1.4倍テレコンを組み合わせて絞り開放で撮影したにもかかわらず、画質は極めてシャープでクリア。羽毛の一本一本まで解像している。NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR Sよりも被写界深度が深くボケ量は少ないが、そのぶん至近距離の撮影において鳥の頭と体の両方にピントを合わせやすいのもメリットの一つだ。ボケ味自体は滑らかで好感が持てる。

テレコンバーターと抜群の相性

Nikon Z 8 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S + Z TC-1.4x DXクロップ(1260mm相当)
F9 1/2000秒 ISO800 WB晴天

600mmに1.4倍テレコンを組み合わせ、さらにDXクロップして1260mm相当で撮影した。飛翔するノスリを手持ち撮影で正確にフレーミングできるのは、本レンズの取り回しの良さと重量バランスの良さに他ならない。最大5.5段の補正効果を持つVRもファインダー像の安定に寄与している。

AF駆動はSTM(ステッピングモーター)を採用し、静音かつ高速。Z 9の鳥認識AFによる大幅なAF精度向上も相まって、空バックの猛禽類はもちろん、背景にAF抜けしやすいカワセミの飛翔などもけっこうな確率で合焦した。

600mmは一般的には超望遠レンズではあるが、日本における野鳥撮影の現場では600mmでも足りないことがしばしば。そこで活用したいのがテレコンバーターおよびDXクロップである。NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR SとZ TELECONVERTER TC-1.4xとの組み合わせでは840mm f/9、Z TELECONVERTER TC-2.0xとの組み合わせでは1200mm f/13となる。

倍率が大きくなればなるほど画質低下も大きくなるが、本レンズはテレコン使用時の画質低下が極めて少なく、AF速度も思いのほか低下しない。NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRとの一番の差はテレコンとの相性といえるかもしれない。もちろん、いくらNIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sの光学性能が高いからといっても、光量不足によるAF性能の低下とブレるリスクの増大、そして陽炎の影響を受けやすくなるので、テレコンを有効活用できるかどうかの撮影条件を見極めたい。

Nikon Z 9 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S DXクロップ(900mm相当)
F6.3 1/2000秒 ISO800 WB晴天

カワセミが約10m先の杭にとまった。思いのほか小さかったが1.4倍テレコンを入れる余裕がなくDXクロップで撮影した。DXクロップは画素の一部を切り出して1.5倍の望遠効果を得る機能で、約4500万画素のZ 9やZ 8ではDXクロップすると約1900万画素に目減りする。とはいえ1900画素もあれば画質的には十分なので、「もうひと伸び」欲しいときには積極的にDXクロップを活用すると良いだろう。

▼600mmで撮影した月

Nikon Z 8 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S(600mm)
F8 1/250秒 ISO400 WB晴天

▼600mm+2倍テレコン+DXクロップ=1680mm相当で撮影した月

Nikon Z 8 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S + Z TC-2.0x DXクロップ(1680mm相当)
F13 1/90秒 ISO400 WB晴天

本レンズに2倍テレコン+DXクロップを併用すれば、最大1680mm相当の画角が得られる。これは月がほぼ天地一杯になるくらいの大きさに写すことができる。600mm単焦点レンズでも、テレコンバーターとDXクロップを活用することでこれほどまでの画角差を楽しめる。

Nikon Z 8 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S + Z TC-1.4x DXクロップ(1260mm相当)
F9 1/750秒 ISO400 WB晴天

最短撮影距離は4m。近接撮影時でも解像力は衰えずカミソリのようにシャープだが、本レンズのように取り回しの良いレンズは昆虫撮影などテレマクロ的な使い方もしたくなるので、最短撮影距離はもっと短くしてほしかったところ。

飛行機撮影でも単焦点ならではのキレ味

Nikon Z 9 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S(600mm)
F8 1/1000秒 ISO200 WB晴天
Nikon Z 9 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S(600mm)
F6.7 1/750秒 ISO100 WB晴天

NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sは野鳥写真のみならず、もちろん飛行機写真にもその性能を発揮する。とくに500mm以上を常用レンズとする戦闘機写真においては、コンパクトで機動力抜群の600mmというのは重宝する。普段使いはもちろんだが、荷物制限のある地方遠征や海外エアショーで大活躍すること間違いなしだ。

航空自衛隊F-15の訓練風景を実写してみたところ、単焦点レンズらしく極めてシャープで安定した画質が得られる。機体表面の細かい注意書きまで解像しており、見ていて鳥肌が立つほどだ。先のNIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRも素晴らしいレンズだが、600mm域の安定感に関してはNIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sが一枚上手で、シャッターチャンスが少なくかつ撮り直しが効かない撮影シーンにおいてはやはり単焦点レンズに軍配が上がる。

Nikon Z 9 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S(600mm)
F8 4秒 ISO1600 WB晴天

PFレンズ唯一の欠点とも言えるのは耐逆光性能、とくに強い点光源を撮影したときに現れる「PFフレア」である。飛行機写真では夜間撮影時に避けられないフレアであり、ニコンの現像ソフトNX-StudioにてPFフレアを低減することも可能だが、完全に除去することはできないため、夜間撮影は他のレンズに任せるのが無難といえるだろう。しかしPFフレア以外のフレアやゴーストはほぼ目立たず、点光源を撮らない撮影であればPFレンズであることを忘れてしまうほどである。

まとめ

NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sが発売されると聞いたとき、正直なところ複雑な気分であった。AF-S NIKKOR 500mmf/5.6E PF ED VRを気に入っていたこともあり、Zマウントの500mm f/5.6を望んでいたからである。だが開発陣はいくつもの製品を検討した上での最適解としてNIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sを世に送り出しているはずだし、現に筆者もNIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sを大変気に入ってAF-S NIKKOR 500mmf/5.6PF ED VR から更新することを決意したのだから、開発陣の判断は正しかったといえよう。

また筆者はNIKKOR Z 600mm f/4 TC VR Sを所有しており、つい先日NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRも購入した。さすがに600mmは3本も要らないわ…と思っていたが、NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sのあまりの使い勝手の良さに生やさずにはいられなかった。

NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR Sは明るさとテレコンが必要な撮影に、NIKKOR Z 180-600mm f/5.6-6.3 VRはズームならではの自由度が求められるときに、そしてNIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sは快適な手持ち撮影ができる「攻めの600mm」として、3本の600mmレンズをうまく使い分けていきたい。

 

 

※(c)Koji Nakano/写真の無断転載禁止

■写真家:中野耕志
1972年生まれ。野鳥や飛行機の撮影を得意とし、専門誌や広告などに作品を発表。「Birdscape~絶景の野鳥」と「Jetscape~絶景の飛行機」を二大テーマに、国内外を飛び回る。著書は「侍ファントム~F-4最終章」、「パフィン!」、「飛行機写真の教科書」、「野鳥写真の教科書」など多数。

 

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