ニコン NIKKOR Z 24mm f/1.8 S|感性を最大限に解放するためのレンズ

大和田良
ニコン NIKKOR Z 24mm f/1.8 S|感性を最大限に解放するためのレンズ

はじめに

私が24mmという画角のレンズに初めて触れたのは、九十年代の終わりのことです。大学に通う写真学生だった頃でした。大学の実習では焦点距離50mmのレンズを用いることが必須でしたので、初めてその画角で撮影したときには、24mmは日常の光景を迫力のある「写真」に変えてくれる、魔法のようなレンズだと思ったことを覚えています。当時、カルチャーやファッションの雑誌で活躍していたフォトグラファーには、あえて広角で人物を切り取るスタイルが流行っていて、その影響も大きかったのだと思います。ダイナミックな都市風景や、大胆なアングルと組み合わせたそれらの写真は、私にとって当時のポップカルチャーを体現するような映像表現でした。どう切り取っても雑誌で見る写真のようにはうまくいかないなかで、24mmから得られる映像は、これが撮ろうとしていた「写真」だと感動した記憶があります。

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 24mm f/1.8 S
■撮影環境:1/125秒 f/2.8 ISO1250

標準的な画角では味わえない自由と刺激

その時には深く考えていませんでしたが、今思うと24mmという広角レンズが描き出すダイナミックな遠近感と、自分の視覚では観察しきれない情報量の多さが、きっと自分の想像を超えた世界のように見えていたのだと思います。それは、28mmよりもずっと刺激的なものでしたし、50mmでは得られない自由さがあったようにも思います。加えて、その当時は安価なレンズを使っていたこともあり、今の高性能なレンズにはあまりない周辺画像の歪みや滲みなどの収差も、より躍動感を強調するエフェクトのように感じられていたのではないでしょうか。その映像が、当時の自分には標準的な画角では得られない視覚的な快楽を生み出していました。

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 24mm f/1.8 S
■撮影環境:1/125秒 f/1.8 ISO1250
■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 24mm f/1.8 S
■撮影環境:1/125秒 f/2.8 ISO360

そんなわけで、24mmを手に入れてからというもの、手当たり次第それ一本でなんでも撮っていたのですが、当然得られる快楽には限界があるというもので、一通り撮った頃には、標準レンズを使いこなすことの重要性が分かり始め、また50mmを常用するようになります。しかしながら、その後もカメラバッグの交換レンズ群には、常に24mmを入れておくことが多かったように思います。

今でも、35mmや50mmで精緻に、自らの観察力をフルに生かして撮影するようなスタイルに疲れてくると、24mmに付け替えてその解放感を求めることは多くあります。軽やかで、自由。理性的にフレーミングを行う厳密な撮影のまるで反対側に、私にとっての24mmは位置しているように思います。もちろん、建築を撮影するときなど、物理的に必要な画角を得るために24mmを選ぶときもありますが、24mmは本来的に感性を最大限に解放するために選び取る画角であるという思い込みが、今も私には強くあるのでしょう。

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 24mm f/1.8 S
■撮影環境:1/1250秒 f/5.6 ISO100

現代レンズの圧倒的な情報量による迫力

今回使用した、収差が少なく画面周辺まで高い画質を維持する、NIKKOR Z 24mm f/1.8 Sという現代的なレンズにおいても、その画角の持つ特徴は変わらないように思います。もちろん、昔のレンズで見られた周辺部の収差などは補正されている分、ある種のジャンク感や、粗野なスピード感のようなものはありませんが、クリアな映像のなかにも学生時代に感じた24mmの解放感は十分に残されています。

今回は、一ヶ月ほどの間、久しぶりに24mm一本で日々のスナップを行ってみることにしました。普段は40mmか50mmのどちらかを使っているため、「24mmだけで行こう」と決めただけでも、なんとなく軽やかな気分になるから不思議なものです。

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 24mm f/1.8 S
■撮影環境:1/2500秒 f/2 ISO100
■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 24mm f/1.8 S
■撮影環境:1/125秒 f/1.8 ISO250

カタログに掲載されたMTF曲線を見ると、絞り開放から画面周辺まで高い結像性能が実現されていることが示されています。この曲線を見るだけでも、昔のレンズのように画面周辺に向かって急激に解像度が低くなるというようなことはないことがわかります。実際に写した写真を眺めてみても、画面周辺まで像が流れることなく細かいディテールが再現されており、まさに自らの視覚を超えて映り込んでくる面白さそのものは、当時自分が使っていた安価なレンズとは比べ物にならないレベルになっていることが分かります。

例えば、絞り込んで撮影した雪や氷の写真では、その細かな描写から得られる映像のダイナミックさがより強く感じられるのです。画面周辺までシャープに描かれることで、遠近感の強さと共に、圧倒的な情報量が画の迫力そのものとなって再現されているのだと思います。

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 24mm f/1.8 S
■撮影環境:1/125秒 f/8 ISO560
■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 24mm f/1.8 S
■撮影環境:1/200秒 f/8 ISO100

20ミリや28ミリでは得られない絶妙な遠近感

最短撮影距離は0.25mになっており、最大撮影倍率は0.15倍。絞り開放で接写撮影を行うと、シャープなピント面に対して滑らかな背景ボケが得られます。近い距離での撮影で得られるダイナミックな遠近感というのは、24mmで得られる映像の特徴のひとつであり、被写体が非常に印象的に描かれます。特に人物や動植物を写すと、伸びやかで力強い感覚が強調されるのがわかるでしょう。少しデフォルメされた感覚というのは、28mmではその効果が弱いですし、20mmなどでは逆に強すぎまるように感じられます。このあたりの空間描写というのは、24mmという画角でしか得られない絶妙な遠近感によるものだと言えます。

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 24mm f/1.8 S
■撮影環境:1/125秒 f1.8 ISO450

狭い室内などでは、多くの情報を取り込んだ広角らしいフレーミングが可能です。上の写真では、光が映り込んだ手前の携帯電話から、犬、人物、背景へと画面の奥行きが収められています。ブラインドから差し込んだ印象的な光が差し込む背景も含め、室内の光の移ろいが広く伸びやかに描かれています。広角レンズでは、斜めの構図を用いると躍動感が強調されますが、このようなシチュエーションでは、水平を保つことで非常に静かで落ち着いた表現が得られることがわかります。

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 24mm f/1.8 S
■撮影環境:1/3200秒 f2.8 ISO100

逆に斜めの構図を生かし、ダイナミックに撮影することで、ラフでスピード感のある映像が得られた上の写真を見てみましょう。これは首都高速道路を走る車の助手席で撮影したものですが、夕暮れの光がフロントガラスに反射し、滲むような反射が現れ、斜めの線による躍動感が強調されています。光の滲みと、遠くまで細く連続的に線を伸ばす街灯のシルエットが、画面にリズムを与えています。画面周辺に向けて暗く落ちていく夕暮れの空も印象的です。ガラスを通している分、細部の描写は甘くなりますが、私が学生の時分に感じていた広角の解放感のようなものの正体が、この写真にはよく写しだされているように思います。

おわりに

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 24mm f/1.8 S
■撮影環境:1/125秒 f2 ISO2800

24mmレンズ一本でしばらくの間撮っていましたが、当時感じていた視覚的な快楽は、今も変わらず感じられるようです。それはやはり自らの視覚を超えた映像が得られる喜びであり、レンズを通して見ることの面白さなのだと思います。私が、これが「写真」だと思った、その理由がこの面白さであり、カメラを持って世界を眺めることの興味深さなのでしょう。

広角と言えば、今や20mmや17mm、あるいは12mmといった超広角レンズを常用する方も多いのではないかと思います。周辺まで歪みの少ない現代のレンズでは、もちろんそれらのレンズから得られる映像は、より広角の特徴を生かしつつクリアな写真が撮影できる良い選択肢だと思いますが、少なくとも私にとっては24mmというレンズの魅力は、現代でも全く色褪せないものだと思います。自分の視覚を超えた感覚が得られつつ、直感的で自由なフレーミングとアングルを実現できるこのレンズは、今でも「写真」に向かう好奇心を思い出させてくれるものでもあるのです。

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 24mm f/1.8 S
■撮影環境:1/1000秒 f1.8 ISO100

 

 

■写真家:大和田良
1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。

 

 

 

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