ニコン NIKKOR Z 40mm f/2|ミラーレスシステムを常用するために選んだレンズ

大和田良
ニコン NIKKOR Z 40mm f/2|ミラーレスシステムを常用するために選んだレンズ

はじめに

前回はNikon Z 8を導入した話を書きましたが、ボディと同時に購入したNIKKOR Z 40mm f/2とNIKKOR Z 24-120mm f/4 Sについては触れませんでしたので、今回はミラーレスカメラシステムの構築にあたって、なぜはじめにその2本だったのかということに焦点を当ててみたいと思います。

NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sの優れた特長

まず、NIKKOR Z 24-120mm f/4 Sについてですが、端的に言ってこのレンズは商業写真撮影用に購入したものです。ポートレート撮影や各種取材撮影など、このレンズがあれば基本的にはほとんどの条件下で撮影可能です。S-Lineに位置付けられているレンズであることからも、高い光学性能を有していることが窺えますが、実際に写しても広角から望遠まで、また無限遠から近接撮影まで画面全域においてシャープでコントラストの高い画像が得られることが分かります。

ほとんどの被写体やシーンに対応可能であるため、超広角や望遠、あるいはシフトレンズなど特殊なレンズが必要な仕事以外はこれ一本で事足りるでしょう。撮影業務における有用性を考えると、最もコストパフォーマンスに優れたレンズの一つであると言えます。

その他のレンズが必要な場合、今の所マウントアダプターFTZ IIを介してFマウントレンズを用いることでカバーしています。ただ、同クラスのレンズとしては軽量な部類ではあるものの、常に持ち歩くにはやはり大きく重いため、スナップ撮影や旅行中などに常用するには適しているとは言いかねます。

NIKKOR Z 40mm f/2を選んだ理由

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 40mm f/2
■撮影環境:f/2 1/2500秒 ISO100

その上で、NIKKOR Z 40mm f/2について考えてみたいと思います。こちらは、いわばZ 8を常用的に使うためのレンズとして導入したものになります。もう少し言えば、ミラーレスシステムを常用するためのレンズと言っても良いかもしれません。

私にとって、ミラーレスカメラの最大の特徴のひとつは、一眼レフカメラと比較した場合における小ささと軽さにあります。それを活かすために最もコンパクトで軽量なレンズを選ぶとすれば、現状では大きく三つに分けられます。まずは、NIKKOR Z 24-50mm f/4-6.3。長さは約51mm、重量は約195グラムです。次にNIKKOR Z 26mm f/2.8。長さは約23.5mm、重量は約125グラム。そして、NIKKOR Z 40mm f/2です。このレンズは、全長約45.5mm、重量170グラムです。

比べてみると、便利さで言えば24-50mm、圧倒的なコンパクトさで言えば26mmであることが分かります。この中から、単焦点であることと標準的な画角であることから、私は40mmを選択しました。また、開放絞り値がf2であることも理由のひとつです。26mmは、私にとってはかなり広角と言えるレンズになりますし、24-50mmは被写界深度の選択において表現的な自由度が狭まります。撮影システムとして考えたとき、40mmを選択した場合が最も自分にとってバランスが良いと考えたわけです。

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 40mm f/2
■撮影環境:f/2 1/2500秒 ISO100

40mm の自然な広がり

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 40mm f/2
■撮影環境:f/2 1/8000秒 ISO100

40mmという焦点距離がもつ画角について、少し考えてみたいと思います。フルサイズセンサーに対しては、対角画角は約57°になります。焦点距離50mmのレンズでは約47°、フレームの対角線長とほぼ同等の焦点距離となる43mmレンズでは約53°ですから、見た目より少し広く見えるといった視野を確保できる方が多いと思います。

日本写真学会がまとめている『写真用語辞典』を引くと、標準レンズは画角がおよそ40~55°程度のレンズ、広角レンズでは60°以上と書かれていることからも、標準か準広角といった画角になります。

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 40mm f/2
■撮影環境:f/2.5 1/2500秒 ISO100

人間の視覚は、凝視したり広く眺めたりすることで、いわばデジタルズームのように、見えている一部や全体を可変的に認識することができますが、40mmの画角は、少し距離のある被写体を自然に眺めたときのような見え方に私には感じられます。その点で、43mmあたりのレンズと同様に、非常に自然な見た目の広がりが得られるため、被写体との距離感も掴みやすいのではないでしょうか。

同等の焦点距離を持った機材としては、GR IIIxであるとか、NOKTON 40mm、SONY FE 40mmなどが挙げられます。写真史に残る名作を見ていると、ギュスターヴ・ル・グレイやアルフレッド・スティーグリッツ、アンドレ・ケルテス、アンリ・カルティエ=ブレッソンあたりは、もし現代の機材で撮影するとすれば、40mmを好んで使いそうな気がしますね。

NIKKOR Z 40mm f/2の魅力

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 40mm f/2
■撮影環境:f/5.6 1/400秒 ISO100

さて、実際にNIKKOR Z 40mm f/2を使ってみての印象にも触れておきたいと思います。まず言えるのは、必要十分な解像感とシャープネス、コントラストが得られるということです。そもそも現代のZマウントレンズで、再現性に破綻のあるものは皆無なので当たり前といえば当たり前なのですが、3万円強でこの画質のレンズを扱えるというのは、改めて考えると素晴らしいことです。

乱暴に扱うわけではないですが、高価なレンズでは少し躊躇するようなシビアな天候や環境下でも、撮ることそのものを優先したより実践的な撮影スタイルが実現可能です。Z 8の重量が約910グラムですので、総重量は1.08キロくらい。長時間持ち歩くスナップ撮影にもどうにか持ち出せる重さだと思います。

今回の写真は、夏にフィリピンへ行ったときのものですが、1日持ち歩いていても、個人的には特に問題はありませんでした。東京よりもフィリピンのほうが湿気も少なく気温も少し低かったので、それも影響しているかもしれません。ただ、異常な暑さだった今年の東京では、どんなに小さなカメラを持ったとしても、関係なく辛そうな気はします。

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 40mm f/2
■撮影環境:f/2 1/2500秒 ISO4500

開放F2という明るさにより、ある程度暗い場所や夜景でもある程度のシャッター速度を保つことができます。Z 8のボディ内手ぶれ補正機能と組み合わせれば、かなり撮影可能な環境は広がるのではないでしょうか。

また、乗合トラックやトライシクルに乗りながら撮影するときなどというのは、ブレを防ぐために大体1/2000秒程度の高速シャッターに設定するのですが、明るい開放F値は速度の維持にも重宝します。Z 8との組み合わせによる素早く、精度の高いフォーカシングも感じることができます。

40mm 一本を持ち出して旅へ

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 40mm f/2
■撮影環境:f/5.6 1/125秒 ISO1100
■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 40mm f/2
■撮影環境:f/2 1/125秒 ISO2000

ちなみに、今回フィリピンへ行くにあたってZ 8用に持って行ったのは、この40mm一本のみです。冒頭で書いた通り、私の場合24-120mmは商業写真で主に使うためのもので、今回のようなスナップ撮影や旅行にはほとんど持ち歩きません。

よく、他の交換レンズを持っていれば良かったと思うようなことはありませんか、と聞かれますが、そのように感じた経験はほぼありません。そもそも、私は自然な見た目の仕上がりを望むことが多いため、極端な遠近感や圧縮効果が得られる広角や望遠は普段使いませんし、寄ったり引いたりすれば標準レンズでも十分広い景色や凝視したような視点を再現することが可能です。自らの目そのものにも、標準的な画角が染み込んでいることもあり、その画角で撮影できないものは、そもそも撮ろうと思わないのです。

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 40mm f/2
■撮影環境:f/8 1/125秒 ISO140

個人的に撮影に行く場合には、今回の40mmに限らず、大体標準レンズ一本だけというのが常です。Nikon D850を使うときには、AF-S NIKKOR 58mm f/1.4Gを使うことが比較的多かったように思います。もっと以前、学生の頃は、AI Nikkor 45mm F2.8PというパンケーキレンズをNikon FM2と組み合わせて使っていました。比較的生産されていた時期が短いレンズだったかと思いますが、シルバーのNikon Dfあたりには良く似合うレンズとして、今も選択肢のひとつになるかもしれません。

さいごに

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 40mm f/2
■撮影環境:f/2 1/125秒 ISO1000

実際、単焦点レンズというのは不便なようでいて、撮影するという点においては選択肢が少なくなることで、余計なことを考えず、撮影そのものにより集中することができる機材でもあります。商業写真の場合には、自分が撮りたいように撮るだけでは成立しませんので、どうしてもズームレンズが必要な場面も多くなりますが、個人の写真ではむしろズームできると迷いが生じるように思います。画角を確認することで、シャッターを押すタイミングが常にワンテンポ遅れるように感じるのです。

撮ろうと思った瞬間にはすでに撮っている、というようなスナップにおける理想のスタイルを追い求めるには、Z 8 + NIKKOR Z 40mm f/2というのはなかなか悪くない選択なのではないかと思っています。

 

■写真家:大和田良
1978年仙台市生まれ、東京在住。東京工芸大学芸術学部写真学科卒業、同大学院メディアアート専攻修了。2005年、スイスエリゼ美術館による「ReGeneration.50Photographers of Tomorrow」に選出され、以降国内外で作品を多数発表。2011年日本写真協会新人賞受賞。著書に『prism』(2007年/青幻舎)、『五百羅漢』(2020年/天恩山五百羅漢寺)、『宣言下日誌』(2021年/kesa publishing)、『写真制作者のための写真技術の基礎と実践』(2022年/インプレス)等。最新刊に『Behind the Mask』(2023年/スローガン)。東京工芸大学芸術学部准教授。

 

 

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