ニコン Z 8レビュー|Ver.2.00で追加された鳥検出AFと、野鳥撮影に便利なカスタマイズ

中野耕志
ニコン Z 8レビュー|Ver.2.00で追加された鳥検出AFと、野鳥撮影に便利なカスタマイズ

はじめに

ニコンZ 8が発売されたのは今から約1年前の2023年5月26日のこと。フラッグシップ機であるニコンZ 9と同等の性能をコンパクトなボディに凝縮したとあって、ニコンの一眼レフ機であるD850からの乗り換え、他社からの乗り換え、はたまたZ 9からの乗り換えなど、Z 8の発売を機にZユーザーになったフォトグラファーはかなり多かったようだ。

かくいう筆者もそれまではZ 9を2台所有していたが、うち1台をZ 8に入れ替えた。質量約910gのZ 8は、約1340gあるZ 9よりも430gも軽量で機動性に優れており、かつZ 9と同等の性能を持つとあって、Z 9よりもZ 8の出番がはるかに多くなった。むしろZ 8を2台体制にしてもいいかなと思ったこともあるほどZ 8を気に入った。しかもZ 8は当初より被写体検出に飛行機専用モードを搭載しており、飛行機写真も生業としている筆者にとっては、その点でもZ 9よりZ 8が勝っていた。

Z 8初のメジャーアップデートVer.2.00

しかし2023年10月4日には状況が一転する。Z 9のVer.4.10ファームアップにより被写体検出に鳥専用モードと飛行機専用モードが搭載されたのである。Z 9にもZ 8にも当初より9種の被写体検出AFが搭載されており、鳥も飛行機も検出対象なのだが、Z 9の被写体検出AFでは「鳥」は「動物」に一括りにされ、「飛行機」は「乗り物」に一括りにされていたため、検出精度はそれほど高くなかったのだ。それが鳥にせよ、飛行機にせよ、Ver.4.10で専用モードが搭載されたことにより被写体検出精度が向上したのである。したがってそれまでほぼ互角であったZ 8とZ 9の鳥検出能力が、ファームアップによりZ 9が一歩リードしたかたちとなった。

そしてZ 9 Ver.4.10に遅れること4ヶ月、2024年2月7日にようやくZ 8にも初のメジャーアップデートとなるVer.2.00がリリースされた。待望の鳥専用モードが搭載され野鳥撮影能力でZ 9に追いついたというわけである。というわけで前置きが長くなったが、Z 8 ver.2.00アップデートから約2ヶ月間にわたり野鳥撮影で使用してきた使用感をここにレポートする。

ファームウェアVer.2.00で被写体検出「鳥」が追加され、検出精度が向上した

Z 8被写体検出AF「鳥」設定方法

Z 8の鳥検出メニューの設定は、「静止画撮影メニュー」→「AF時の被写体検出設定」で「鳥」アイコンを選択する。

またはあらかじめ「iメニュー」に設定しておけば「iボタン」を押すことで「AF時の被写体検出設定」を呼び出すことができ、素早く検出設定を変更できる。

野鳥撮影に便利なカスタマイズ「AFエリアモード循環選択」

Z 8 Ver.2.00では、AFエリアモードを素早く切り換えられるカスタマイズも盛り込まれている。カスタムf2「AFエリアモード循環選択」では、任意に設定したボタンを押す毎にAFエリアモードを切り換えられ、従来のようなダイヤル操作が必要なくなった。

筆者はこれをL-FnとL-Fn2に割り当てており、カメラを構えて左手でレンズを支えた状態でL-FnまたはL-Fn2ボタンを押すことでAFエリアモードを素早く切り換えている。これまではカメラボディ左下のフォーカスモードボタンを押しながらサブコマンドダイヤルを回してAFエリアモードを変更するという、超望遠レンズで手持ち撮影する民にはかなりアクロバティックな操作を強いられてきたので、このカスタマイズはかなり便利である。

AFエリアモードは、筆者は以下の5つに絞り込んでおり、他のAFエリアモードはスキップさせることで現場における操作を簡略化している。

・シングルポイントAF(被写体検出AF無し)
・ダイナミックAF-L(被写体検出無し)
・ワイドエリアAF-L(被写体検出有り)
・ワイドエリアAF-C1(被写体検出有り)
・オートエリアAF(被写体検出有り)

鳥検出AFの実力

実写におけるZ 8の鳥専用モードの実力は、感覚的にはZ 9 Ver.4.10と同等で、鳥専用モード搭載前よりもあらゆる場面において検出精度が向上していると実感できた。とくに混んだ枝の中に潜む小鳥や、山バックで飛ぶ猛禽類、波間を漂う海鳥など、これまでは被写体検出を外してダイナミックAFかシングルポイントAFに切り換えるところを、被写体検出ONのままでも快適にAF撮影できるようになった。

また仮に被写体検出しづらい条件下でも、前述のAFエリアモード循環選択を活用することで素早く適切なAFエリアモードに変更できる点も好印象だ。

■撮影機材:ニコンZ 8 + NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S(840mm/1260mm相当)
■撮影環境:F5.6 1/1500秒 ISO280 WB晴天

ハマニンニクの実を求めて雪原を歩くシラガホオジロ。地面にいる野鳥の撮影では、手前の茎などにAFを引っぱられることが多いものだが、Z 8 Ver.2.00はちょこまかと歩き回るシラガホオジロの目にピントを合わせ続けてくれた。

■撮影機材:ニコンZ 8 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S + Z TC-1.4x(840mm)
■撮影環境:F9 1/3000秒 ISO800 WB晴天

ひとしきり採餌を終え、次のハマニンニクへと飛び移るユキホオジロ。観察を通じて「飛びそうだな」と感じたときにさりげなくカメラを向けられる機動力の高さがZ 8の魅力だ。

■撮影機材:ニコンZ 8 + NIKKOR Z 600mm f/4 TC VR S(840mm)
■撮影環境:F5.6 1/6000秒 ISO400 WB晴天

波間に漂うハシブトウミガラス。顔が黒く目がはっきりしない鳥でも、鳥の目を検出してくれているのがわかる。

■撮影機材:ニコンZ 8 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S+Z TC-1.4x(840mm)
■撮影環境:F9 1/4000秒 ISO800 WB晴天
上の写真撮影時のEVF画像。画面内の赤枠がAFエリア(ワイドエリアAF-L)を示し、Z 8が鳥を検出していることを示す黄枠がハシブトウミガラスの顔に重なっているのが見て取れる

オオワシのように大型の野鳥では、羽ばたきのたびに大きな翼が動くので翼にAFを引っぱられやすいものだが、被写体検出AFなら目にピントが合う確率が高くなる。

■撮影機材:ニコンZ 8 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S(600mm)
■撮影環境:F6.3 1/2000秒 ISO400 WB晴天
AFが翼に引っ張られることもなく、被写体検出の枠は頭部を捉えてることが分かる

画面に対して野鳥が小さい場合でも、検出精度は向上している。以前は山バックでは被写体検出できずAFがロストすることが多かった。

画面に対して野鳥が大きい場合は、頭部または目を検出してより高精度なピント合わせが可能だ。

NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sとの組み合わせで機動性の高い野鳥撮影システム

Z 8はZ 9よりも430g軽量で取り回しがよく、とくにNIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sと組み合わせたときにその機動力を実感できる。水辺など十分に明るい条件下では1.4倍テレコンバーターとの相性もよく、840mm f/9(DXクロップ時1260mm)としての撮影も楽しめる。1.4倍テレコン併用時の開放F値はF9と暗くなるが、鳥検出能力が向上してからのAF精度はなかなかのものである。

■撮影機材:ニコンZ 8 + NIKKOR Z 600mm f/6.3 VR S + Z TC-1.4x(840mm/1260mm相当)
■撮影環境:F9 1/4000秒 ISO800 WB晴天

上の写真はNIKKOR Z 600mm f/6.3 VR Sに1.4倍テレコンを装着した上で、さらにDXクロップして1260mm相当で撮影した。ケイマフリの飛び立ちだが、揺れる漁船からの手持ち撮影でもこれだけの精度で撮影できる。

まとめ

発売から約1年が経過したニコンZ 8。フラッグシップ機であるZ 9と同じパフォーマンスを持ちながら、コンパクトサイズに凝縮したZ 8は、機動力重視の野鳥や野生動物撮影で大いに活躍するカメラである。このVer.2.00アップデートの鳥専用モード搭載はまさに待望の進化である。これからの夏鳥シーズンは、葉が茂って枝被りの撮影条件になること必至なので、Z 8 Ver.2.00が活躍してくれること間違いなしだ。

(c)Koji Nakano/写真の無断転載禁止

 

 

■写真家:中野耕志
1972年生まれ。野鳥や飛行機の撮影を得意とし、専門誌や広告などに作品を発表。「Birdscape~絶景の野鳥」と「Jetscape~絶景の飛行機」を二大テーマに、国内外を飛び回る。著書は「侍ファントム~F-4最終章」、「パフィン!」、「飛行機写真の教科書」、「野鳥写真の教科書」など多数。

 

 

関連記事

人気記事