ニコン NIKKOR Z 28mm f/2.8で描く旅と日々

ニコン NIKKOR Z 28mm f/2.8で描く旅と日々

はじめに

かつて、一世を風靡した女性歌手を起用した某コンパクトカメラのCMで、「28mm」という単語がキャッチフレーズとして使われていたことをご存知の方はどのくらいいらっしゃるでしょうか。元々一眼レフにおける標準ズームレンズの一番広角側(ワイド端)で一般的な焦点距離が28mmでしたが、「コンパクトカメラでも一眼に負けず劣らず広い画角の写真が撮れますよ!」というアピールだったということです。

現在の一眼カメラでは、ワイド端が35mm判換算で24mmの標準ズームレンズも増えてきましたが、様々な用途で使われる想定で28mmは広いけれども広過ぎない、非常に使い勝手のよい画角として今も人気がある焦点距離なのではないでしょうか。

今回はそんな28mmの単焦点レンズ「NIKKOR Z 28mm f/2.8」をご紹介します。なお、今回使用しているのはヘリテージデザインが採用されたSpecial Editionのレンズで、ノーマルなデザインのものもラインアップされています。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F11, 1/200秒, ISO 100, WB自然光オート, PCスタンダード

しっかり広く、遠近感が強調できる28mm

視覚に近いとされるレンズの焦点距離(画角)が50mmといわれることが多いことをふまえると、28mmはかなり広角といえます。広角の特徴として、「写る範囲が広い」「被写体を大きく捉えても背景が広く入る」「遠近感が強調される」「被写界深度が深い(ボケにくい)」といった特徴が挙げられます。まずは最初の3つについて見てみましょう。

淡路島から明石海峡を望んで撮影。空の高い位置でないと青空が見られなかったことから空を広く入れていますが、画面に占める明石海峡大橋が橋の長さを伝えるには十分な大きさで捉えられていいます。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F8, 1/500秒, 露出補正 +0.7段, ISO 100, WB 自然光オート, PCスタンダード

同じく淡路島のインターチェンジを一般道の歩道から撮影。とぐろを巻くかのような道路のぐるぐるがほぼピッタリ画面内に収まりました。

■撮影機材:Nikon Z 8 + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F8, 1/400秒, ISO 100, WB 自然光オート, PC:スタンダード

広島東照宮を訪ねました。地図情報だけを見て訪れたところ、この階段……。50段ほどある階段の迫力を出すため、ローアングルで見上げるように撮影。「この階段を登るのか……!」というインパクトが伝わるのではないかと思います。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F5.6, 1/320秒, ISO 200, WB 曇天, PC:スタンダード

広島県呉市の南東に位置する下蒲刈島から愛媛県今治市の岡村島までを7つの橋で結ぶ安芸灘とびしま海道を通り、大崎下島の御手洗(みたらい)地区へ。現在も明治・大正・昭和時代の建物が残り、「重要伝統的建造物群保存地区」に選定された御手洗の町並みはとてもフォトジェニックでカメラを持って歩くにはぴったりの旅先です。

古い時代の名残から伝統的な建物が両脇に並ぶ狭い道を同じ28mmという画角で撮影しましたが、横位置と縦位置でずいぶん印象が変わることが見て取れます。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F5.6, 1/160秒, 露出補正 -0.3段, ISO 100, WB オート, PC:スタンダード
■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F5.6, 1/125秒, 露出補正 +0.3段, ISO 100, WB オート, PC:スタンダード

愛用の自転車のカゴに道具一式を積んで、近くの川べりでお湯を沸かしてコーヒーを楽しむ友人の「野良珈琲」のお相伴に預かりました。あくまでも個人的な楽しみとして友人たちをおもてなしされているのですが、洒落で活版印刷の名刺カードを作っておられてそれを一枚いただきました。その名刺がとても可愛らしくて撮影。背景が広く入る画角のため、画面内にコーヒーフィルターと彼女の手元がしっかり入ることで「野良珈琲」の雰囲気が伝わる1枚となりました。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F4, 1/250秒, ISO 400, WB 晴天, PC:スタンダード
■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F5.6, 1/250秒, 露出補正 +0.7段, ISO 400, WB 晴天, PC:スタンダード

暗い場面でも有利な開放F値2.8とそのボケ感

本レンズは開放絞りがF2.8であり、一般的なズームレンズ(開放F値がF3.5やF4.0)よりも大きく絞りを開くことができます。これにより光が少ない(暗い)環境下でもより多くの光をカメラ内に取り込むことができ、結果的にブレにくくすることができる、というメリットがあります。

ライトアップされた明石海峡大橋が綺麗だったのですが、三脚を持っておらず手持ちで撮影。カメラの手ブレ補正機能のおかげもあり、大きな手ブレなく撮影することができました。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F2.8, 1/5秒, 露出補正 -2.0段, ISO 3200, WB オート, PC:スタンダード

レンズの焦点距離が短いほど画角が広くなるとともに被写界深度が深くなりボケにくくなります。本レンズは28mmという広角ゆえに、同じF2.8でも望遠域のレンズと比較するとそのボケ感は小さくなりますが、逆に背景がボケてはいても形がわかるというメリットがあるといえます。

願い事を書いて陶器の鶴の中に入れて奉納するという金の願い鶴。絞りは開放のF2.8ですが、たくさんの願い鶴が並んでいる様子、そして紙垂の合間には奥に大きな願い鶴が置かれていることがわかるボケ加減です。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F2.8, 1/600秒, ISO 200, WB 曇天, PC:スタンダード

ピントが合っているのがほぼひとつのしべの先端だけですが、ピントの前後から曼珠沙華(彼岸花)の形がしっかりわかるとともに、背景の木漏れ日が玉ボケとなっています。尚、玉ボケの大きさもレンズの焦点距離に比例しますが、本レンズは広角ゆえに玉ボケも小さめです。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F2.8, 1/500秒, 露出補正 -1.3段, ISO 100, WB 晴天, PC:スタンダード

太陽が大きく傾いた時間に、水撒きされてすぐの曼珠沙華を逆光で撮影。水滴がその位置(カメラから見て前後の距離)によって大小様々な大きさの玉ボケになりました。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F2.8, 1/8000秒, 露出補正 -0.7段, ISO 200, WB オート, PC:スタンダード

DX機で42mmの単焦点レンズとして使う

これまでにも述べてきた通り、ZシリーズはFX機(フルサイズ)とDX機(APS-C)がありますが、レンズマウントが同じため相互に利用することができます。本レンズをDX機に装着すると、焦点距離×1.5の画角となるため、28×1.5=42mm相当の画角となります。

Zシリーズには以前レビュー記事を書かせていただいた NIKKOR Z 40mm f/2というレンズがありますが、35mmと50mmの間に位置する40mmという画角は、実際に使ってみるととても使い勝手がよいもの。本レンズをDX機に装着するとこの40mmに近い画角となり、様々な場面で使いやすい画角の単焦点レンズとして活躍してくれます。

夕暮れの迫る広島をスナップしました。どちらも同じ28mm(35mm判換算42mm)ですが、原爆ドームとの距離で画面に占めるその大きさにより「原爆ドームのある風景」と「夕闇にそびえ建つ原爆ドーム」というように主題や印象が変わりました。

■撮影機材:Nikon Z fc + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F2.8, 1/80秒, 露出補正 +0.3段, ISO 800, WB 自然光オート, PC:スタンダード
■撮影機材:Nikon Z fc + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F2.8, 1/100秒, 露出補正 +0.3段, ISO 800, WB 自然光オート, PC:スタンダード

広島に来たからにはやはり牡蠣を食べておきたくなって入ったお店には、これまた広島名物であるレモンと組み合わせたメニューがありました。この時はZ fc + 本レンズのみを持って出たのですが、目の前で繰り広げられる調理の様子と目の前に置かれたお料理のどちらもをこの1本でカバーすることができました。

■撮影機材:Nikon Z fc + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F2.8, 1/80秒, 露出補正 -0.3段, ISO 500, WB オート, PC:スタンダード
■撮影機材:Nikon Z fc + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F3.2, 1/160秒, 露出補正 +0.3段, ISO 500, WB オート, PC:スタンダード

旅と日々のスナップあれこれ

これまでご紹介した内容を踏まえて本レンズで出かけた先でのスナップあれこれをご紹介します。

診療所だった建物をリノベーションした陶芸のショップ&ギャラリーへ。正面入口と玄関前の印象的な大きな木の幹がピタリと収まりました。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F8, 1/200秒, 露出補正 -0.3段, ISO 400, WB 自然光オート, PC:スタンダード

香川県東部にある、1753年創業の醤油蔵へ。真っ赤な紅殻壁となまこ壁が印象的な建物は、登録有形文化財に指定されているそうです。道路を入れて斜めからのアプローチでは建物の奥行きが強調され、壁に対して正面から対峙すると壁の特徴が一目で伝わる一枚となりました。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F5.6, 1/250秒, 露出補正 -0.7段, ISO 200, WB オート, PC:スタンダード
■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F8, 1/100秒, 露出補正 -0.7段, ISO 100, WB 自然光オート, PC:スタンダード

この醤油屋さんが所有している築約100年の古民家をリノベーションしたゲストハウスに宿泊しました。車の離合が難しいほどの幅の道向こうからの撮影ですが、古民家の佇まいがしっかり伝わる一枚となりました。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F2.8, 1/400秒, 露出補正 -0.7段, ISO 200, WB オート, PC:スタンダード

うどん県(香川県)の醤油蔵が経営する宿だけあって、朝ごはんに自家製のお醤油やもろみを使ったうどんが提供されていました。食事場所はかなり暗くて写真撮影が非常に難しい環境ゆえISO感度を2500まで上げましたが、F2.8というレンズの明るさにより撮影することができました。尚、自家製のお出汁にもろみを溶いていただく「もろみうどん」ですがとっても美味しくいただきました。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F2.8, 1/50秒, 露出補正 -0.7段, ISO 2500, WB オート, PC:スタンダード

標高400mほどの高さにある高屋神社へ。28mmという広角ゆえに、鳥居の向こうに広がる観音寺市街地と瀬戸内海がしっかり背景として画面内に入りました。ここまでの道のりは本当に大変だったのですが、本宮の鳥居は「天空の鳥居」とも呼ばれるだけあり、鳥居越しに見渡す景色はまさに「絶景」の一言に尽きました。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F8, 1/400秒, 露出補正 +0.3段, ISO 100, WB 自然光オート, PC:スタンダード

先述の大崎下島にある御手洗地区の街並み保存地区にて。同じ28mmの単焦点レンズでも、F値と被写体との距離感で、遠近感や被写体の形そのものが随分変わってしまうことがよくわかります。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F2.8, 1/800秒, ISO 200, WB 自然光オート, PC:スタンダード
■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F8, 1/80秒, ISO 200, WB 自然光オート, PC:スタンダード

大好きな空芯菜を主役に、お店の名物であるイカの天ぷらも名脇役として同じ画角に入れて撮影。28mmという画角は場合(特におひとりさまの場合)によっては食卓撮影には広すぎる画角ですが、大勢で複数のお料理を囲む場面では大いに活躍してくれます。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F4, 1/80秒, 露出補正 -0.3段, ISO 800, WB オート, PC:スタンダード

 

まとめ

冒頭でも述べたように、昨今のズームレンズはワイド端が35mm判換算で24mmのものも増えたため、私自身28mmは「あと少し広さが足りない」と感じることが増えていました。そんな中、今回改めて28mmのレンズ1本を携えて旅行に出た結果、「伝えたいことを伝えるには十分有用性のある焦点距離を持つレンズ」ということを実感しました。

見た目に近い画角といえば50mmと言われることが多いですが、「広い」「奥行きがある」という感覚においては、頭の中のイメージにおける広さや奥行きを伝えるにあたり、むしろこの28mmは「感覚的な印象に近い伝え方ができるレンズ」と言えるのではないかと、今回の撮影を通して感じたものです。

■撮影機材:Nikon Z 6II + NIKKOR Z 28mm f/2.8
■撮影環境:F8, 1/1000秒, 露出補正 -0.3段, ISO 200, WB オート, PC:スタンダード

 

 

■写真家:クキモトノリコ
学生時代に一眼レフカメラを手に入れて以来、海外ひとり旅を中心に作品撮りをしている。いくつかの職業を経て写真家へ転身。現在はニコンカレッジ、オリンパスカレッジ講師、専門学校講師の他、様々な写真講座やワークショップなどで『たのしく、わかりやすい』をモットーに写真の楽しみを伝えている。神戸出身・在住。晴れ女。
公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員

 

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