ライカとカレー。今日はあの駅で降りようか。Vol.11|ライカM11+アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.

山本まりこ
ライカとカレー。今日はあの駅で降りようか。Vol.11|ライカM11+アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.

はじめに

寒さがぐっと深まってきた最近。
早朝お庭に出ると、一層濃くなってきた紅葉や椿が揺れている。足元には、長い霜柱が立っていて踏むとシャリシャリと言う。
冬だ。
そして、もうすぐ2022年が終わる。
久しぶりに、ライカと一緒に撮影に行こう。

この連載「ライカとカレー。今日はどの駅で降りようか。」は、写真家山本まりこが、毎回異なるライカカメラとレンズを持って電車に乗り、気になる駅で降りて旅をし、そしてカレーを食べて帰ってくるという内容の企画。今回は、連載の第11回目になる。

最近は「ライカの連載楽しみにしています。」と声をかけていただくことも多い。トークショーやセミナーの時に、男性の方にそう声をかけていただくことが多い。中には、記事を読んでライカを買ったという方も。すごく嬉しい。

ライカM11+アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.

今日の旅のお供は、ライカM11+アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH. 。

ライカM11とは、以前一緒に旅をしたことがある。スペックなど、こちらに詳しく書いてあるので、ぜひ読んで欲しい。

私がライカM11で特に気に入っているのは、ベースプレートがなくなった分従来よりも軽くなり、SDカードやバッテリーが取り出しやすくなったこと。さらに、充電でUSBタイプCが使えること。移動中に手持ちの充電器でササっと充電できたりするのはとても便利。高級感に包まれたイメージが先行するライカのカメラが、今の時代と私たちにグッと近くなったような気がするのだ。

そして、今回のレンズ アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.は、2021年4月発売。瞬く間に人気を誇り、今では注文から数年待ちという声も聞こえるライカユーザー羨望の的となっているレンズ。その大人気レンズと旅ができるということで、今回、私はウキウキしている。とってもウキウキしている。

まずは、旅に行く前に、アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.について調べてみよう。何がそんなにすごいのか、そんなに人気を誇る理由は何なのかを調べてみる。

以前も書いたけれど、ライカレンズは、F値によって名称がつけられている。
名称をまとめてみると、
・ズミルックス:F1.4
・ズミクロン:F2
・エルマリート:F2.8
・ズマリット:F1.5~F2.5
・エルマー:F2.8~ など

今回のレンズは、F2.0なので、ズミクロンという名称。ズミルックスに次ぐ開放F値を誇るレンズ。アポ・ズミクロンのアポ(APO)は、色収差を補正したレンズのこと。そして、レンズの名称の最後についているASPH.(アスフェリカル)とは非球面レンズのことで、それによりコンパクトで高い光学性能を実現しているとのこと。

ふむふむ

そして、さらには、最短撮影距離が30cmということ。

ふむふむ

むむ
最短撮影距離30cm。

むむむ
こ、これは嬉しい。

実は、このライカとカレーの連載では、カレーを撮るときに、いつも席から立ちあがって撮影している。最短撮影距離が70cm以上あるレンズが多いので、レストランなどで撮影するときは、お店の方に許可をいただいて、立ち上がったり、少し離れたりして撮影することも多い。なので、最短撮影距離30cmは、ものすごく嬉しい。この最短撮影距離なら、座ってカレーが撮れる。カレーだけじゃなくて、お花も、ご飯も、小物も、ぐぐっと寄って撮れる。

まずは、お庭で撮ってみよう。
少し紅葉した葉っぱに、ググっと。

なるほど。
これは、寄れる。
M型ライカで撮影していて、こんなに寄れて撮影できることに、ひしひしと嬉しさがこみ上げる。そして、なんとも美しい背景ボケ。シャキッとシャープなピント面と、とろける背景。

M型ライカの特性上、撮影距離が無限遠から70cmまではカメラ本体の距離計に連動したピント合わせが可能だが、撮影距離が70~30cmでは、液晶モニターを見ながらピントを合わせることになる。また外付け電子ビューファインダー「ビゾフレックス2」や、スマートフォンにダウンロードしたアプリ「Leica FOTOS」のライブビュー映像を見ながらピントを合わせることもできる。70~30cmの近接撮影時、フォーカスリングを回すと70cmで軽く抵抗が感じられるので、ここからは液晶モニターでピントを合わせるのだなと確認できる。

新宿へ

さて。
今日向かうのは新宿。
以前から、このライカとカレーの中で、ライカのカメラを持って行ってみたい場所があった。
JR湘南新宿ラインで新宿駅へ。

クリスマスの次の日の新宿駅の朝は、人がまばら。ぽつぽつ。でも、その中にも海外の方がちらほらと。世の中が、日本が、世界が、少しずつ開放されてきた。
まだみんなお布団の中で眠っているかのようにちょっと冷たい空気が流れる静かな街の中で、クリスマスの余韻を見つけて、パチリ。
昨日はきっと、たくさんの人だったのだろうな。
この街でも、恋人たちが愛を囁き合っていたのだろうな。

新宿駅東口からほど近いところにある、新宿 北村写真機店。
この連載のShaShaを運営しているカメラのキタムラさんの新宿にある店舗。2020年7月にオープン。全8フロアの中に、新品・中古カメラの販売、照明写真スタジオ、フォトギャラリーなどがある。建物全体が、スタイリッシュにデザインされた美しい空間。そして、6Fにライカ/ヴィンテージカメラの空間がある。

個人的にも何度か来たことがある。ゆっくりライカの空間を見せていただきたくて、撮影をさせていただくお願いをした。

新宿 北村写真機店

写真を撮らせていただくにあたり、この連載の担当をしてくださっているカメラのキタムラのKさんとお店の前で待ち合わせをしていた。このライカとカレーの原稿を納品すると、Kさんはいつも素敵な感想を一言書いてメールを返信して下さる。お仕事だと要件だけの簡素なメールになりがちだけれど、毎回一言感想を添えてくれるのがとても嬉しい。そんなKさんとお会いするのは、実は今回が初めてだ。

あまり言わないようにしているのだけど、実は私には特技がある。それは、メールの文章を読むと、大体、書いている人がどんな人か想像ができるのだ。メールを送ってくれた方のお顔とか、立ち姿とか、どんな洋服を着ているとか、眼鏡をかけているとか、背が高いとか、真面目な方だとか、おおざっぱな性格だとか、几帳面な性格だとか。メールから想像していつも人に会うけれど、大体合っている。想像した通りの人がそこにいることが多い。メールの文章は、そのくらい、人を表していると思っている。でも、ごくたまに、本当にたまに、全く違うタイプの人だったりすることがある。100人に1人くらい、予想と全然違う人だったりする。Kさんはどんな方だろうと想像していたけれど、ほぼ想像通りの方が立っていた。とても優しい笑顔でご挨拶下さった。

まずは、6Fライカ/ヴィンテージカメラの空間へ案内していただいた。
ガラス張りの美しいショーケースの中に、ライカのカメラやレンズがズラリ。新品であったり、中古であったり。デザインされた台座の上にのって、輝くように鎮座している。新品、ヴィンテージで台座の色が違うということを店長さんから教えていただいた。
奥にある特別なお客様をご案内するというお部屋を見せていただき、さらには、数千万円するというヴィンテージのライカのカメラとレンズとのセットも見せていただいた。さすがにガラス越しに。いやあ、もう、見ているだけでドキドキするのです。

私がいいなと思っているライカのカメラ、そう、今回のライカM11も、どんと鎮座していた。

4Fは、中古カメラコーナー。
案内してくださったKさんは、会社に戻られたので一人で探検するように撮影させていただいた。

スタッフの方に少しお話をお伺いする。
「お客様の層はありますか。男性が多いとか。そして、カメラを販売するたくさんのお店がある中で、新宿 北村写真機店の特徴があれば教えて下さい。」と聞いた。「お客様の層は幅広いです。若い方もお年を召した方も男性も女性もいらっしゃいます。新宿 北村写真機店の特徴は、私の思うところ、例えば始めてカメラを始めるような方も気軽な気持ちでカメラを見ることができるお店だというところです。」とスタッフの方は笑顔で答えられた。なるほど。そういえば、先ほどから訪れるお客様は、若い男の子や、若いカップル、お年を召された男性や、スーツ姿の男性などいろいろ。そして、私がこんな風に突然質問しても、手を止めて笑顔で答えてくれる優しいスタッフの方々。カメラ店では、店員さんに何か聞いたら買わなくちゃいけない、というような大きなプレッシャーのようなものがあるけれど、ここならば、気軽に質問できそうだ。そんなこのフロアでは、私が滞在した短い数分の間に、電話でライカM11ブラックの注文が入っていたりした。

最後に、また、6Fのライカ/ヴィンテージカメラの空間へ。
店長さんに、ライカM11のブラックペイントとシルバークロームを並べて見せていただく。
ブラックペイントは、アルミを使用している分、シルバーのボディより100g軽く、手に取って比べた方はブラックペイントを購入される方が多いらしい。また、ブラックペイントが剥げて内側の色が出てくる感じも好む方も多いとのこと。そう聞きながら、二つ並んだボディを眺め、私はシルバークロームも美しいなとうっとりと眺める。シルバークロームのボディは真鍮。両者各々違った高級感がある。

むむむ

ブラックか、シルバーか。

むむむむむ

銀座をふらり

ライカのカメラをたっぷりと見せていたその後に、銀座にあるライカさんのオフィス、ライカカメラジャパン株式会社に向かう。お昼には少し時間が足りなかったので、ベルギーワッフルをぱくりと。マロン味。手持ちのスイーツをライカM型で撮影できる嬉しさと幸福感。さすがの最短撮影距離30cm。

クリスマスを終えた銀座の街は一気にお正月モード。

このライカとカレーの連載をする前からお世話になっているライカのIさんにいろいろお話を伺う。

私の持っているライカのレンズ、ズマリット f1.5/50mmを、ライカM11シルバークロームのボディに着けて「やっぱり美しい」と眺め、外付け電子ビューファインダービゾフレックス2を装着したり、ノクティルックスという開放f値が0.95という圧倒的なボケ力を誇るレンズを使わせていただいたり、ライカSLについてお話をお聞きしたり。

私が試したことがないライカがまだまだある。
知らないライカがまだまだある。
なんだかやっぱり奥が深いぞライカ、と再確認させていただいたのでした。

ライカをたっぷり体感して、頭と心と体がライカでいっぱいになり、私はカレーを食べずに帰宅。
してしまった。

この企画は、ライカのカメラを持って旅をして、カレーを食べるという企画。

うん。
明日、またどこかに旅に行こう。
ライカと一緒に。

二宮吾妻山へ

翌日も快晴。キリっと晴れた空。
あまりにも気持ちいい。
こんな日には、少し歩きたい。もちろんライカと一緒に。

私の住む海まち二宮には、駅前に小さな山がある。
吾妻山(あずまやま)と言って、標高136.2メートルの小さな山。300段の階段を上ると、頂上からは、相模湾と海まちの景色が広がる。運が良ければ富士山が見える。お正月から菜の花が咲くスポットとして全国から観光客が来てにぎわう、という素敵な場所がある。

吾妻山に行こう。

少し遅めの紅葉が赤に黄色に揺れて輝いている。
藪のような中から鳥たちがバサッと羽ばたいて木の上の方で鳴いている。
風が吹いて私の背丈の5倍くらいある大きな木々がざわざわと揺れている。
鮮やかに描かれた絵のように黄色い菜の花が青い空の中で咲いている。
真っ白な雪をまとった富士山が遠くでうっすらと雲を抱えてそびえている。
遠くの青く輝いた海に船がぷかりぷかりと浮かんでいる。

何だかいつもそこにある普通なことも、ライカと一緒だと、なんだかとっても神秘的なことのように思える。ひとつひとつ、視覚で、聴覚で確かめながら、被写体を追いながらシャッターを切っている。

ライカのカメラ、特にM型カメラで撮影をするとき、私はシャッターを切る枚数がとても少なくなる。一つの被写体を撮る枚数は、大体3枚。多くて5枚であることが多い。もしかしたら、普段、何百枚とシャッターを切っている被写体でも、ライカで撮るとほんの数枚になる。一枚一枚をより真剣な気持ちになってシャッターを切っている気がするなあと思う。それは、何だろう、フィルムカメラで撮っているときのような、そんな感覚でシャッターを切っている気がするのだ。ライカM11は、紛れもなくデジタルカメラなのだけれども、心の中のシャッター音は、あのフィルムカメラの時にシャッターを切っていた時と同じような感覚と音で私の心の中に響いている。

ライカとカレー

お腹がすいた。カレーを食べよう。
どこにカレーを食べに行こうかいろいろと考えてみたのだけれど、今私が食べたいのは、あのカレーだ。ゆずの香りが効いたダールだ。
ダールは、インドで豆のことを言う。豆で作ったカレーのこともダールと言う。
その、インドの豆で作ったダールを食べたい。そして、冬の野菜を入れて、ゆずの果汁を入れて酸味をキリっと効かせたカレーが食べたい。

カレーを作ろう。

私はカレーが好きだ。好きが高じてインドやスリランカやアジアなどを旅していろいろなカレーを食べ歩いた。いつの日か、自分で美味しいスパイスカレーを作りたいと思い、日本のカレー界の巨匠の元でスパイスカレー作りを学んだ。最初は、少しだけ学ぶつもりが、あまりにも美味しいので教室に通い続け、気づけばインストラクターコースを卒業し、今は自分の写真教室でスパイスカレー教室も開催してスパイス料理を教えている。
ということもあり、普段からスパイスを使ってカレーを作っている。
今回は、自分でカレーを作ることにした。

用意したのは、
マスールダールとムーングダール。マスールダールはレンズ豆、ムーングダールは緑豆。そして、かぶ、玉ねぎ、ゆず、にんにく、しょうが。そして、少しのスパイスたち。ターメリック、レッドペッパー、ブラックペッパー、ヒーング、とお塩。
ダールは、シンプルが美味しい。

玉ねぎを炒めて、野菜を入れて、スパイスを入れて、煮た豆にタルカする。ジュジュッと音がするのが気持ちいい。タルカとは、油の中にスパイスを入れて香りを抽出して何かに注ぐことを言う。煮た豆や野菜だったり、生の野菜だったり。タルカした後は、一緒に少し煮込む。そして、ゆずをきゅっと搾る。

これがまた、美味しい。本当に。
カレーは、チキンカレー、キーマカレー、バターチキンカレー、エビカレーなどなどたくさんの種類があるけれど、私はこのダールが特に好きだ。
シンプルで、すごく美味しい。
北インドの街角の食堂では、ダールとチャパティを食べている人をよく見かける。チャパティとは、全粒粉をこねて焼いたもののこと。ナンは発酵させて作るので、インドでは高級品だ。だから街角ではほとんど見かけることはない。

ちなみに。料理中の写真は、ライカを左手の平の上に置いて中指でシャッターを切って撮っている。右手は、木ヘラでカレーの具材を炒めている。
ダールにぐっと寄れて撮ることができた。
ううん。やっぱり、寄れるって嬉しい。
アポズミ、いいなあ、やっぱり。

今回は、ライカM11+アポ・ズミクロンM f2/35mm ASPH.と一緒に旅をした。実は、この二つの組み合わせにしたのには、訳がある。「今、もし、私がライカを購入するとしたら、どれにするのか。」そういう目線で一緒に旅するカメラを選んだのだ。

ライカM11は以前に使ったことがあるけれど、でもやっぱり再度確認したかった。使い心地や、写りを。そして、やっぱりその美しさに惚れ惚れした。見た目の美しさ、そして、もちろんその写りに。
アポ・ズミクロンM F2/35mm ASPH. は憧れのレンズ。今回、一緒に旅することができて、本当に嬉しい。やはり、最短撮影距離30cmというのは、嬉しい。

ここまで書いていて、決めた。
私は、ライカM11を購入する。
色も散々迷ったけれど、やっぱり、直感で好きだと思ったシルバークロームにしようと思う。

今日、私は、新宿 北村写真機店に電話しようと思う。

おわりに

電話でいろいろなライカを見せて下さった店長さんとお話しして、ライカM11 シルバークロームを注文した。パリッとした口調でお話される店長さんは、とても喜んでくださった。納期は数週間後とのこと。

さあ。
新年2023年はもうすぐ。
そして、来年、我が家にライカがやってくる。

次は、どの駅で降りようか。ライカと一緒に。

 

■撮影協力:新宿 北村写真機店
〒160-0022 東京都新宿区新宿3丁目26-14

■写真家:山本まりこ
写真家。理工学部建築学科卒業後、設計会社に就職。25歳の春、「でもやっぱり写真が好き」とカメラを持って放浪の旅に出発しそのまま写真家に転身。風通しがいいという意味を持つ「airy(エアリー)」をコンセプトに、空間を意識した写真を撮り続けている。

 

「ライカとカレー。今日はあの駅で降りようか。」の連載記事はこちらからご覧いただけます

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