富士フイルム X-S20 レビュー|小は大を兼ねるは新時代のスタンダード

萩原れいこ
富士フイルム X-S20 レビュー|小は大を兼ねるは新時代のスタンダード

はじめに

先日発表された富士フイルムのデジタルミラーレスカメラ「X-S20」。小型軽量ながら革新的な機能を搭載しており、エントリーユーザーだけでなくハイアマチュアからも注目を集めています。

X-S20は約2年半前に発売された「X-S10」の後継機として登場。X-S10は、画質、機動力、コストパフォーマンスなどを高いバランスで兼ね備え、人気を博したカメラです。それゆえに後継機への関心も高まっていますが、従来機種X-S10からの進化点や、受け継いだ魅力について、お話していきたいと思います。

■非常に軽くコンパクトなボディで、どこへでも携行できる身軽さが魅力。さりげない存在感で、街中や旅先にもおすすめです。(写真に掲載しているストラップは別売りです。)

質量491gの圧倒的な小型軽量性

「小が大を兼ねる」。公式サイトに掲げられたフレーズですが、X-S20をこれほどしっくり表現する言葉はありません。砕けた表現をするなら「小さいのにスゴイやつ」と言えるでしょう。

まず「小さい」という点に着目しますが、X-S20の質量はバッテリーやメモリーカードを含めてもわずか491g。幅は127.7mm、高さ85.1mmと、非常にコンパクトです。500mlのペットボトルより軽く、圧倒的に小さい点に驚かされます。実はX-S10より約26g増量しているのですが、大容量バッテリーを新搭載したためだと考えられます。とはいえ、ここまでの小型軽量性を実現した点は、X-S10の後継機ならではのこだわりが滲み出ています。大容量バッテリーについては、後ほど詳しく説明したいと思います。

また、小さいカメラは持ちにくいのではと心配されますが、X-S10と同様に深いグリップが特徴的で、女性の手なら指先がすっぽり入る深さがあります。握りやすいため手持ち撮影も快適で、手ブレ補正機能はX-S10は最大6段分だったのに対し、X-S20は最大7段分。さらに安心感が増し、機動力が高まりました。

■長時間カメラを握っていても苦にならず、手持ち撮影との相性も良い。

小型軽量性が与えるメリットはとても大きく、写真表現に新たな可能性を生み出します。
まず、どんな場所にも携行できるのが大きなポイント。本格的な撮影地へはもちろんのこと、公園や買い物、旅行など、小さくてさりげない存在感だからこそ、撮影が目的でない場所にも連れていけます。

リラックスした状態で見る被写体や風景には、新しい発見があふれています。ふとした瞬間も撮り逃すことなくカメラに収めることができるので、直感的に被写体と向き合うことができます。

■散歩中に携行している様子。あまりに軽いので、持っていることを忘れるほどです。カメラの重さを感じさせないので、携行しても苦にならず、より気軽に写真が撮れるようになります。
■撮影機材:富士フイルム X-S20 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:焦点距離 80.0mm 絞り優先AE(F4.5、1/70秒、+0.3EV補正) ISO800 晴れ  PROVIA
■散歩中に見つけたニッコウキスゲ。一輪だけ咲いており、開花するのはわずか一日だけなので、一期一会の出合いを写しとめることができました。

小型軽量性を活かしてあらゆる場所で撮影することにより、今まで見落としがちだったシャッターチャンスを捉えることができます。

また、旅先やお気に入りの場所で過ごす時間、家族や友人との大切な時間も、素敵に「記憶」することができます。

■撮影機材:富士フイルム X-S20 + XC50-230mmF4.5-6.7 OIS II
■撮影環境:焦点距離 80.0mm 絞り優先AE(F5.2、1/170秒、-0.3EV補正) ISO1600 晴れ ノスタルジックネガ
■カフェにあった小さな池の水面。森と青空の映り込みがきれいだったのでシャッターを切りました。いつもカメラを携行することで、ささやかな感動も逃さず撮ることができます。
■撮影機材:富士フイルム X-S20 + XF16-55mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:焦点距離 16.5mm 絞り優先AE(F2.8、1/90秒、-0.3EV補正) ISO160 晴れ クラシックネガ
■森のオープンテラスで撮影したリンゴジュースのフロート。ジャンルを超えて気軽に撮影を楽しむことができ、新たな発見や気づきが生まれます。

約2610万画素の裏面照射型イメージセンサー

「小が大を兼ねる」の「大」とは一体何なのか。さまざまな高い機能が搭載されていますが、大きな魅力は“信頼の描写力”です。X-S10、X-T4と同様の裏面照射型イメージセンサー「X-Trans CMOS 4」を搭載し、小さなボディながら本格的な約2610万画素の描写を楽しむことができます。光学ローパスフィルターレスながらモアレや偽色を抑制。約2610万画素あるので、写真展用に大きくプリントしても見応えのある描写力を誇ります。

■撮影機材:富士フイルム X-S20 + XF16-55mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:焦点距離 16.0mm 絞り優先AE(F16、0.3秒、-0.3EV補正) ISO160 晴れ PROVIA、ハーフNDフィルター
■輝度差の強い逆光方向での撮影も美しい色合いや階調を保ち、キャベツの葉脈の描写もシャープで見応えがあります。
■撮影機材:富士フイルム X-S20 + XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR
■撮影環境:焦点距離 83.8mm 絞り優先AE(F11、5.3秒、-1.3EV補正) ISO160 晴れ PROVIA
■硬質な岩や滑らかな水面など、それぞれの質感を立体感をもって描くことができました。映り込みの鮮やかな緑色や、日陰の繊細な青色も美しく表現しています。

荷物は軽くしたいけれど、描写力は妥協したくない。そのようなカメラマンのわがままに応えてくれるのも嬉しいポイントです。コンパクトさを活かして軽登山に携行するのも良いでしょう。

セットで販売されているXC15-45mm F3.5-5.6 OIS PZやXC50-230mmF4.5-6.7 OIS II、新発売のXF8mmF3.5 R WRなどが、長時間の携行におすすめです。小型軽量性にこだわったレンズで、X-S20と併せて機動力を存分に発揮してくれます。驚くほど軽いシステムで、山頂や撮影地まで歩いても疲れることなく撮影に集中することができます。

ただし、X-S20は防塵・防滴・耐低温構造ではないため、雨天時や降雪時は傘や防水カバーを使って撮影したほうがよいでしょう。

■撮影機材:富士フイルム X-S20 + XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:焦点距離 8.0mm 絞り優先AE(F11、1/7秒、-1EV補正) ISO320 PROVIA
■2時間ほど歩いた場所にある巨木。山道を登っても疲れることなく、撮影に集中して構図を追い込むことができました。
■撮影機材:富士フイルム X-S20 + XF8mmF3.5 R WR
■撮影環境:焦点距離 8.0mm 絞り優先AE(F16、1/220秒) ISO160 晴れ ASTIA
■山の斜面に広大に広がるしゃくなげ園。機材が軽いことで、ためらうことなくもっと歩いてみようという気になります。

進化したエンジンX-Processor5

X-S10のエンジンは「X-Processor4」でしたが、X-S20では最新の「X-Processor5」を搭載。X-T5やX-H2などフラッグシップ機と同じエンジンで、高速撮影がより快適になり、AIによる被写体検出AF性能が新搭載されました。人物の顔や瞳だけでなく、動物・鳥・車・バイク・自転車・飛行機・電車・昆虫・ドローンも検出することができます。動体にピントを合わせたまま追尾してくれるので、より簡単に動物や鳥などを狙えるようになりました。

■撮影機材:富士フイルム X-S20 + XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR
■撮影環境:焦点距離 300.0mm シャッター速度優先AE(F5.6、1/1600秒、+0.3EV) ISO2500 晴れ PROVIA
■被写体検出を「鳥」に設定し、子育てに奮闘するアオゲラのオスを遠くから撮影。機敏に態勢を変える野鳥の瞳や胴体にピントを合わせ続けてくれました。

カメラが自動的に被写体を追尾してくれるので、シャッターチャンスや構図に集中して撮影することができます。普段は動体撮影をしない人でも、動物や鳥など新しい被写体に挑戦してみようかなという気持ちにさせるカメラです。

■撮影機材:富士フイルム X-S20 + XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR
■撮影環境:焦点距離 300.0mm シャッター速度優先AE(F5.6、1/170秒) ISO6400 晴れ PROVIA
■被写体検出を「動物」に設定し、森の奥から向かってくる猫を撮影。猫の気まぐれな仕草や表情を狙う楽しさを味わいました。

プログラム「AUTO」では、被写体検出オート機能を搭載。AIにより自動的に被写体を識別し、細かいカメラの設定をすることなく、初心者でも気軽に人や動物などの撮影を楽しめるようになりました。

また、メモリーカードもUHS-IIに対応するようになり、より高速なデータ転送が可能になりました。AF性能を使って連写撮影する際も、より快適に記録を行えるよう向上しています。

全19種類のフィルムシミュレーション

富士フイルムの最も人気な点は、完成された色の再現性にあるでしょう。「スタンダード」や「風景」といった画作りモードは、富士フイルムの場合「フィルムシミュレーション」と呼ばれています。美しい色合いの写真を手軽に撮影することができ、X-S20は最新のフィルムシミュレーション全19種類を搭載しています。最新の「ノスタルジックネガ」や人気の「クラシックネガ」なども使用することができ、上面のダイヤルを回すことで簡単に変更することができます。

■撮影機材:富士フイルム X-S20 + XF16-55mmF2.8 R LM WR
■撮影環境:焦点距離 38.8mm 絞り優先AE(F2.8、1/640秒、-2.3EV) ISO800 晴れ クラシックネガ
■フィルムシミュレーションを変えて撮影することで、フィルムのような味わい深い表現や、非日常的な雰囲気の演出も可能です。

独特な色合いやコントラストを表現することができるので、スナップやテーブルフォトとも相性がよく、情感たっぷりに表現することもできます。また、風景写真においてもシーンに合わせてフィルムシミュレーションを選ぶことで、今まで撮ることが難しいと感じていた被写体にカメラを向けたり、新しいアイディアが生まれたり、表現の可能性が一層広がります。

■撮影機材:富士フイルム X-S20 + XC50-230mmF4.5-6.7 OIS II
■撮影環境:焦点距離 113.8mm 絞り優先AE(F8、1/105秒、-1EV) ISO800 晴れ クラシックネガ
■立体感溢れる描写で、独特な緑色が特徴的な「クラシックネガ」。森や水面を印象的に表現することができます。
■撮影機材:富士フイルム X-S20 + XC50-230mmF4.5-6.7 OIS II
■撮影環境:焦点距離 63.2mm 絞り優先AE(F5、1/70秒、+3.7EV) ISO800 晴れ ETERNA ブリーチバイパス
■低い彩度と高いコントラストが魅力の「ETERNA ブリーチバイパス」。渋い味わいで独特な世界観が楽しめます。

大容量バッテリーと操作性

従来機種X-S10から進化した点として、とても嬉しいポイントがあります。先述した大容量バッテリーを、新しく搭載しました。X-T5、X-H2と同様の充電式バッテリーNP-W235を採用し、X-S10に比べて撮影枚数が約2倍に向上しました。軽登山など長時間にわたる撮影でも電池残量を気にすることがなく、バッテリー一本で約750枚(エコノミーモードでは約800枚)の撮影が可能となりました。

■X-S20の付属バッテリー「NP-W235」

ダイヤルの配置は従来機種のX-S10を踏襲し、初心者でも直感的に操作できるシンプルなデザインです。そして、モードダイヤルが少し大きくなり、より分かりやすくなりました。

モードダイヤルのSP(シーンポジション)が廃止された代わりにVlogが新たに搭載され、セルフィー動画を撮影するときに使いやすく設計されています。

液晶モニターはX-S10と同様に、タッチパネル対応の3.0型、バリアングルを採用。ローアングルで小さな花を縦位置撮影するときや、Vlog撮影するときに快適なシステムです。解像度についてはX-S10では約104万ドットでしたが、X-S20は約184万ドットに向上。ライブビュー撮影時や画像再生時に、より精密に画像を確認できるようになりました。

■下を向いて咲く小さな花を、ローアングルで撮影。寝そべることができない場所などで、快適に縦位置撮影ができます。
■撮影機材:富士フイルム X-S20 + XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro
■撮影環境:焦点距離 80.0mm 絞り優先AE(F4、1/110秒、+0.3EV) ISO400 晴れ PROVIA
■液晶モニターを使ってじっくり撮影することで、背景の玉ぼけの位置なども追い込むことができました。

動画撮影機能も向上しており、6.2K/30p 4:2:2 10bitのカメラ内記録が可能となりました。4K/60pやフルHD/240pの記録もでき、静止画だけでなく動画においても、手軽かつ本格的に楽しめるカメラです。

まとめ 

小さいボディにぎゅっと高性能が詰まっているX-S20は、新しいエンジンやAIによる被写体認識性能、大容量バッテリーやVlogダイヤルなどの搭載により、従来機種のX-S10よりさらにアクティブに写真を楽しめるカメラとなりました。さまざまな撮影ジャンルにも対応し、初心者からハイアマチュアまで使用することができ、幅広い撮影が可能となっています。
「小は大を兼ねる」カメラは、新しい時代のスタンダードになると強く感じました。

 

■写真家:萩原れいこ
沖縄県出身。学生時代にカメラ片手に海外を放浪。後に日本の風景写真に魅了されていく。隔月刊「風景写真」の若手風景写真家育成プロジェクトにより、志賀高原 石の湯ロッジでの写真修行を経て独立。志賀高原や嬬恋村、沖縄県をメインフィールドとして活動中。撮影のほか、写真誌への寄稿、セミナーや撮影会講師等も行う。個展「Heart of Nature」、「Baby’s~森の赤ちゃん~」を全国各地にて開催。著書は写真集「Heart of Nature」(風景写真出版)、「風景写真まるわかり教室」(玄光社)、「美しい風景写真のマイルール」(インプレス)、「極上の風景写真フィルターブック」(日本写真企画)など。

 

 

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