ネイチャースナップのすすめ|標準レンズでレンズの基本を学ぼう

はじめに
昨今のカメラにはキットでズームレンズが付いているのが当たり前ですが、昔は一眼レフを買った時についているのは標準単焦点レンズという時代がありました。
このレンズを通していろいろな写真の表現を学んでいったことを思うと、ズームレンズは便利だけれど楽をしている分、身につけるべきテクニックを知らないまま写真を撮っている人も多いのではないかと思います。
そこで、今回は標準レンズの魅力と使いこなし方をお話ししてみたいと思います。

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F2.0 1/80秒 +1EV補正 ISO200 WB太陽光
標準レンズとは
今回のテーマとなる「標準レンズ」は、フルサイズでは50mm前後、APS-Cでは35mm前後の焦点距離を持つ単焦点レンズとなります。各メーカーのレンズラインナップを見ると、「50mmF1.4」や「50mmF1.8」などがあります。
なぜこの焦点距離なのかというと、ふだん人がものを見ている時の視野に近い画角(写る範囲)や遠近感を持っているからと言われています。
写真を撮ろうとした時に、自分が見ているのとあまりに違う範囲しか撮れなかったら不便ですよね。肉眼で見ているのに近い自然な範囲を撮れるので、いろいろなシーンに対応できるレンズということになります。

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F11 1/100秒 +1.3EV補正 ISO200 WB太陽光
実際にどういうときの視角と50mmの画角が近いのかフィールドで試してみると、歩きながら前方を見ている時の視角に近く、それほど広くはない印象です。
本来人間の視野はかなり広く、意識すると自分の耳の近くに手を持っていっても認識することができます。また、凝視したり立ち止まったりして大きな景色を見ているときに感じる視角は脳によってうまく調節されて変化しているので、いつも標準レンズの写る画角が撮りたい範囲と一致するとは限りません。そういうときには違う画角のレンズが必要になります。そのため、現在では画角を変えられるズームレンズが重宝されるというわけです。
標準レンズで撮影するときは、まずどのくらいの範囲が画面に入るかを把握しておくと扱いやすくなります。ファインダーを覗いた後に肉眼で写る範囲を確認して慣れておくといいと思います。これが標準レンズを使いこなす第一歩となります。

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F11 1/50秒 +0.3EV補正 ISO400 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F2.2 1/400秒 +1EV補正 ISO200 WB太陽光
フットワークを活かす
もうひとつの標準レンズを活かすポイントは、フットワークを活かすことです。肉眼でものを見ているときも、ものを大きく見たい時には近づいて見つめますし、広い景色を見るときには後ろに下がったりすることがありますよね。
ズームレンズなら画角を変えることである程度対応できますが、標準レンズは画角を変えられませんから、自分が動いて被写体の写る大きさを変える必要があります。
面倒くさがって移動せずに撮影しようとすれば、当然中途半端な写真になってしまいます。

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F11 1/100秒 +2EV補正 ISO200 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F2.0 1/1000秒 +1EV補正 ISO200 WB太陽光
もっとも移動できる範囲には限界がありますので、まずは標準レンズの画角に合った被写体探しをするようにしましょう。そして、自分がどの位置から撮影すれば被写体をイメージ通りの大きさで画面に入れられるのか把握していくことが大切です。カメラを構える前に理想の位置に立てるようになれば、標準レンズの画角が身についていると言えるでしょう。
さらにしゃがんだり左右に動いたりして構図も微調節していくことで、よりイメージ通りの写真が撮れるようになります。

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F14 1/50秒 +0.3EV補正 ISO250 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F3.5 1/800秒 +0.3EV補正 ISO200 WB太陽光

■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited

■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited
■撮影環境:F11 1/200秒 +0.7EV補正 ISO200 WB太陽光
絞りを選ぼう
前回の記事で絞りの効果について少し解説しましたが、標準レンズは絞りの効果を体感するのに最も適したレンズです。また、開放絞り値がF1.8やF1.4と他のレンズと比べて格段に明るいものが多く、比較的お手頃な価格で大口径レンズが手に入るので、一眼レフらしい大きなボケも簡単に体験できます。標準レンズを手にしたら、まずは開放絞り付近で撮影してみましょう。
標準レンズは開放絞り値が明るいために、絞りの選択範囲が広くなっています。今回使ったEF50mm F1.4 USMでは、F1.4からF22まで9段分の絞りを設定できます。
開放絞り側では大きなボケが得られるのと同時にピントの合う範囲も狭くなるので、正確にピントを合わせることが必要になります。F1.4ではAFでもピント合わせがシビアになるので、撮影後もしっかりピントを確認した方が安心です。
逆に絞り込んでいくにしたがってボケが弱くなり背景がはっきりとしていきます。どの程度ぼかすのか、どこまではっきり見せるのかと意識を持って絞りを選択することで作品の印象も変わるので、いつでも開放絞りではなく、意識して絞りを選ぶようにしましょう。撮影するときは絞り優先AEモードが便利です。
▼F1.4

まず開放絞りのF1.4で撮影すると、背景のボケも大きくツツジもピントを合わせた画面中央のあたり以外はボケているのがわかる。ピントを合わせたところでも若干滲みが見られ、レンズの収差が残っているのがわかる。柔らかい描写だ。
■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F1.4 1/3200秒 -0.7EV補正 ISO200 WB太陽光
▼F2.8

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F2.8 1/800秒 -0.7EV補正 ISO200 WB太陽光
▼F5.6

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F5.6 1/200秒 -0.7EV補正 ISO200 WB太陽光
▼F11

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F11 1/60秒 -0.7EV補正 ISO200 WB太陽光
▼F22

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F22 1/13秒 -0.7EV補正 ISO200 WB太陽光
また比較的安価な標準レンズは、絞りによって描写も変化します。開放絞り側では諸収差が残りフワッとした柔らかい描写をし、絞り込んでいくにしたがってカリッとシャープになっていきます。1本のレンズでも絞りによって違う雰囲気を楽しめるので、ボケ以外にも絞りを選ぶ楽しみがあります。
これはどのレンズに対しても言えることですが、あまり絞り込みすぎると回折現象が発生してレンズの解像力が失われます。必要なければ絞り込みすぎには注意が必要です。
▼F1.4

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F1.4 1/500秒 +1EV補正 ISO200 WB太陽光
▼F16

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F16 1/40秒 +1EV補正 ISO2000 WB太陽光
▼F2.5

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F2.5 1/250秒 +0.7EV補正 ISO200 WB太陽光
▼F9

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F9 1/40秒 +0.7EV補正 ISO500 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F2.0 1/1600秒 +1EV補正 ISO200 WB太陽光

■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited
■撮影環境:F10 1/250秒 +0.3EV補正 ISO200 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F8 1/125秒 -0.7EV補正 ISO200 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F1.4 1/80秒 ISO1600 WB太陽光



■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F1.4 1/4000秒 +1EV補正 ISO200 WB太陽光
広角的、望遠的に写すコツ
肉眼で見たような感じに撮れる標準レンズは、よく言えば自然な感じに写せます。逆にいえば、平凡な写りとなります。写真らしい独特な写りを求めると、物足りなく感じることもあるかもしれません。
そこでひと工夫が必要になります。標準レンズでも被写体までの距離や絞り、アングルを変えることで、広角的や望遠的に撮影することもできます。

■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited
■撮影環境:F11 1/100秒 ISO200 WB太陽光

■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + SMC FA43mmF1.9 Limited
■撮影環境:F13 1/160秒 ISO200 WB太陽光

■撮影機材:PENTAX K-1 Mark II + smc PENTAX-FA 43mmF1.9 Limited
■撮影環境:F1.9 1/5000秒 +0.3EV補正 ISO200 WB太陽光
広角的に撮影する場合は、広がりのある構図を意識しながら遠近感を強調し画面全体にピントを合わせるようにします。木を見上げるような感じだとか、手前の花の後ろに離れたところの風景が広がるような感じです。絞りはF11やF16あたりまで絞ることで背景の様子がわかるようになります。
望遠的に撮影する場合は、背景が大きくボケるようにします。背景を大きくぼかすためには、絞りを開けて撮影します。被写体と背景が近いとボケにくいので、背景と被写体が離れている条件を選ぶことも大切です。同時に被写体を大きく画面に入れることができると、より望遠らしくなります。
このようなことを考えて撮影していくと、それぞれの焦点距離の特徴もわかるようになっていきます。

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F11 1/40秒 +1.3EV補正 ISO200 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F14 1/50秒 +1.3EV補正 ISO2500 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F9.0 1/40秒 +1EV補正 ISO1250 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F1.8 1/1000秒 +0.7EV補正 ISO200 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F1.4 1/800秒 +1.3EV補正 ISO200 WB太陽光

■撮影機材:CANON EOS 6D + EF50mm F1.4 USM
■撮影環境:F9 1/320秒 +1.7EV補正 ISO200 WB太陽光
まとめ
今回お話しした標準レンズの使いこなしは、他のレンズにも通用するものです。今使っているレンズの画角や遠近感、ボケ具合を把握して、効果的に作画に活かしていくようにするのです。
また今使っているレンズに合った被写体を探すことも大切で、これができるようになると、撮影シーンごとに適切なレンズ選びができるようになります。
まずは標準レンズでいろいろ工夫しながら撮影して、自分にとってどんなレンズが必要なのかを考えてみるといいと思います。標準レンズを持っていなくても、ズームしないで決まった焦点距離だけで撮影するのもいい経験になります。
■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。