映画の中の、あのカメラ|18 大巨獣ガッパ(1967) トプコン ウインクミラーE
はじめに
皆さんこんにちは。ライターのガンダーラ井上です。唐突ですが、映画の小道具でカメラが出てくるとドキッとしてしまい、俳優さんではなくカメラを凝視してしまったという経験はありませんか? 本連載『映画の中の、あのカメラ』は、タイトルどおり古今東西の映画の中に登場した“気になるカメラ”を毎回1機種取り上げ、掘り下げていくという企画です。
日活では唯一となる怪獣映画
今回取り上げるのは、『日本仁侠伝 花の渡世人』などで知られる野口晴康が監督した映画『大巨獣ガッパ』です。恋愛やアクション映画を得意ジャンルとしていた日活が、東宝の『ゴジラ』や大映の『ガメラ』などによる怪獣ブームに遅ればせながら便乗して企画した本作は、同じく後発組である松竹の『宇宙大怪獣ギララ』と同年の1967年に公開されたものの2作目以降が制作されることのなかった、日活としては唯一の怪獣映画です。
グラフ誌『プレイメイト』の撮影機材

架空のグラフ誌『プレイメイト』記者の黒崎、女性カメラマンの糸子そして生物学者の殿岡ら一行は、昭和の資本家っぽいキャラの社長の命を受け、南太平洋の孤島へ調査の旅に出かけます。ミッションの要点は同誌が創刊5周年を迎えるにあたり南の国をイメージしたアミューズメントパーク、プレイメイトランドを日本国内に建設する予定なので何か目玉になるようなものを見つけ出すこと。その考え方自体が文化搾取の臭いプンプンですが、映画の冒頭では南海の孤島へ向かう船でデッキチェアに寝そべる糸子が映し出され、画面がパンしていくとフレーム内に彼女の機材が入ってきます。精密機器に海水の飛沫がかかりそうでヒヤヒヤするシーンですが、これから起きる冒険を撮影することになるカメラ、それがトプコン ウインクミラーEなのです。
東京光学のロゴが額に刻まれた一眼レフ

デッキで直射日光を浴びているカメラは実は2台あって、もうひとつは望遠レンズを装着した旭光学のペンタックス SVなのですが今回はトプコン ウインクミラーEを取り上げさせていただきます。本機の発売は1961年。旧帝国陸軍の光学兵器を製造していたことでも知られる東京光学(ちなみに海軍は日本光学ですね)の製品です。映画の小道具として使用されている機種が特定できたのは、ペンタプリズムのオデコに東京光学のロゴマークがあったから。本機を真上から見るとペンタプリズムを収納した部分が大きい割にはボディが小ぶりな印象なのは、シャッター速度ダイヤルが軍艦部に存在しないことが要因です。
遮光版で塞がれているアパーチャー

トプコンのカメラって裏蓋の開け方が独特なものが多いのですが、本機の場合も然り。底蓋の小さなノッチをLからOに動かして、小さなボタンをポチッとするとパカっと裏蓋が開きます。そうするとフィルムに露光させる面が見えるのですが、24×36ミリのライカ判で空けられた四角い枠の中に、さらに額縁状に黒い艶消しの枠と板が見えます。これは通常のフォーカルプレーンシャッターではなく遮光版なのです。一眼レフのミラーがフォーカシングスクリーンの方に上昇する動きと連動して、この遮光版は底蓋方向に回避していく仕掛けです。
ウインクミラーのウインクって何?

このカメラは、レンズシャッターを搭載した一眼レフです。1960年代の初頭に各メーカーで一眼レフの開発意欲が高まりましたが、フォーカルプレーンシャッターの製造には多くの社内リソースを注ぎ込む必要がありました。そこでメーカー用語で“買い物”と呼ばれる、外部からの部品供給によってコストメリットを狙った設計のカメラが一時的にブームになりました。それがレンズシャッター式の一眼レフです。シャッターの部品はセイコーやコパルから仕入れて、ボディの設計を簡単に済ませるならレリーズした後にミラーが上がりっぱなしにすれば良い。でも、それでは視界がブラックアウトしてしまうので機構的な工夫を凝らしてクイックリターンミラーを実現し、まばたきするようにミラーが動く。だからウインクミラーなのです。
レンズシャッターと連動させてミラーを動かす

フォーカルプレーンシャッターの一眼レフを分解してみるとわかるのですが、露光が終了したら即座にミラーを降下させるキッカケはシャッターの後幕がその役割を果たしています。それに対してレンズシャッターでは、物理的なトリガーをどのように設計するのかという課題があり各社が頭を悩ませたと思います。このことから、廉価版の一眼レフを作ろうとしていたのにメカが複雑になってしまいコストがかかるだけでなく故障のリスクも増えるという負のスパイラルによって一時的なブームに終わりましたが、憎みきれない愛くるしさがレンズシャッター式一眼レフにはあります。
どうしてこのカメラを糸子は使ったのか?

劇中で糸子は望遠レンズを装着したペンタックス SVで、南洋の孤島から日本に連れ去ってきたガッパの子供のアップを撮影し、それを表紙にした『プレイメイト』増刊号は飛ぶように売れました。フレーミングとピント合わせにおいて、長焦点レンズでの撮影にメリットがあるレンズ交換式の一眼レフであるペンタックスを使用したのは理にかなっています。それではウインクミラーEとどのような使い分けをしていたのか? その答えはフラッシュ撮影にありました。レンズシャッターであれば最高速の1/500秒でもフラッシュと同調し、日中シンクロ撮影にも有利です。実際に劇中のプロップとして、大袈裟なグリップ付きの業務用フラッシュを装着した本機をぶら下げている糸子を観ることができます。
まとめ

このカメラ、ボディの肩にWINK E MIRRORという赤いバッジが貼ってあるのでトプコン ウインクEミラーと表記されることもありますが、正しくはトプコン ウインクミラーEです。Eは正面についたセレン光電池による外交式の露出計を内蔵していることを示しているようです。ファインダー内で指針を合わせる露出決定は操作性もよく、スプリットイメージによるピント合わせの正確さもあり、意外に使い勝手の良いカメラです。本機のレンズは48mm F2のUVトプコール。レンズは固定式で先端にねじ込むワイド・テレコンバージョンレンズが用意されていたようですが、今となっては探すのも難しいので潔く標準レンズの画角で撮影を楽しむ方がハッピーになれると思います。
■執筆者:ガンダーラ井上
ライター。1964年 東京・日本橋生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、松下電器(現パナソニック)宣伝事業部に13年間勤める。2002年に独立し、「monoマガジン」「BRUTUS」「Pen」「ENGINE」などの雑誌やwebの世界を泳ぎ回る。初めてのライカは幼馴染の父上が所蔵する膨大なコレクションから譲り受けたライカM4とズマロン35mmF2.8。著作「人生に必要な30の腕時計」(岩波書店)、「ツァイス&フォクトレンダーの作り方」(玄光社)など。企画、主筆を務めた「LEICA M11 Book」(玄光社)も発売中。












