応募作品への寸評会!|風景写真の引き出しを増やす!その7:開放絞り付近で撮影してみよう 編

高橋良典
応募作品への寸評会!|風景写真の引き出しを増やす!その7:開放絞り付近で撮影してみよう 編

はじめに

 皆さんこんにちは。今回のshasha写真寸評は開放絞りでの撮影がテーマ。ご応募いただいたみなさまありがとうございました。たくさん写真をお送りいただいたので、今回はその中から開放絞り付近で撮影された10枚を選んで寸評を行いました。

KhunTaさんの作品

●良かった点
 タイでの灯籠祭りでの作品です。暗く、かつ灯籠が動き空に昇っていく状況を、絞り開放にしてシャッタースピードを稼いだのは良い判断でした。露出オーバーにならないよう「灯籠を適正露出」に「空を真っ暗に落とした」おかげで暗闇に浮かぶ星のようにも見えます。広角レンズを使用していると思われますが、単調になりがちな画面に上手く遠近感を加えています。

●アドバイス
 一見、よく撮れているように見えるのですが、灯籠が動いているため画面を拡大してみるとやや被写体ブレが見受けられます。小さな画面での鑑賞なら問題の無いレベルですが、大きめにプリント(A4以上)した場合の事を考えるともう少しシャッタースピードを速くしておけば・・・と感じました。ノイズを気にしてISOを800に設定されているのですが、せめてもう1段階ISOを高く、1600程度にしておけばなお良かったでしょう。高感度と画質の関係性はトレードオフだと言えるのですが、多少ノイズ成分が増えてもしっかりと写し止められていた方が印象として良くなる場合が多いです。ISO設定の考え方として以下の記事が参考になりますのでご覧くださいね。

【元の写真】

【小さな画像では気づきにくいのですが拡大してみると被写体ブレが目立ちます】

うかあまさんの作品

●良かった点
 大胆に水の流れに近づいたことで水流がこちらに向かってくるような迫力が出ました。高速シャッターを意識して絞りを開けた考え方自体は合っています。

●アドバイス
 しかし「絞りを開ける」ことはイコール「被写界深度が浅くなる」ことを意味します。よく見ると手前の水流にピントが合っておらず、ややぼやけた印象になってしまいました。この場合の選択肢は以下の2択なのですが、いずれにしても絞り開放での描写がこの作品には合わなかったと言えます。

A もっと絞って被写界深度を確保、高速シャッターは諦めてスローシャッター表現とする。
B 高速シャッターを切りたい場合はISOを上げ、もっと絞って被写界深度を確保する。

 カメラから離れた遠い被写体を狙う程、被写界深度は深くなりますので、絞り開放での高速シャッターを狙うなら「もう少し長い焦点距離で上段の滝のみを平面的に切り取る」、そして「ISOを上げて水しぶきが写し止められるくらいの速いシャッターを切る」そうすればもっと上手くいったでしょう。

【元の写真】

やまぜんさんの作品

●良かった点
 スポットライトに照らされた落ち葉を主役にして「絞りを開けて背景の雰囲気を伝える程度にぼかす」その撮り方が功を奏しましたね。被写界深度の深い広角域~標準域にかけてのぼかし表現は、被写界深度の浅い望遠レンズと比べて難しいと言えるのですが、焦点距離による描写の違いや特徴を上手く生かしています。

●アドバイス
 上記の通り、絞りを開けて背景をぼかしたこと自体は良かったと言えます。しかし、もう少し背景をぼかした方が良かったとも感じます。絞りの設定は既に開放付近を使っており問題ないのですが、広角~標準域の被写界深度の深さを考えるなら、もっとカメラ位置を低くして落ち葉に近づき、明確に背景をぼかせば主役がより引き立ったでしょう。葉っぱの配置も画面の中心近くが良いですね。また、輝度差の大きな状況で葉の赤色が白っぽく写ってしまいました。影の部分が暗くなっても良いので、露出をもっとマイナス側に補正にすれば葉の色が描写でき、木立の向こうの白飛びも抑えられますよ。

【元の写真】

【全体の露出を暗くして葉の色を出したもの。さらに赤丸付近に主役が配置出来ればベストです】

フジやんさんの作品

●良かった点
 日の当たっている主役の彼岸花と背景の距離は、そんなに離れていないのに上手くぼかせていますね。明るい単焦点レンズを使い、開放付近で撮影したことが良い選択でした。明暗の強弱を活かして主役の彼岸花に視線が誘導できている点もグッドです。

●アドバイス
 彼岸花は花が大きく奥行きがあるので、どこにピントを合わせるかを迷うものですが、良い位置にピントを置けています。ただ、少しだけ前ボケの煩雑さを感じます。若干カメラ位置を高くして花の上方向から狙えば前ボケの位置が下がり、さらに良くなったのでは?と感じます。とは言え、高くし過ぎると背景に茎が見えてしまいますので、ほんの僅か数センチ程度に留めましょう。

【元の写真】

taka.meraさんの作品

●良かった点
 絞りを開け、カメラを低く構えることで手前のコスモスが大きな前ボケとなりました。やや明るめの露出と相まってふんわりとした雰囲気が描けています。

●アドバイス
 コスモスが密集している所を狙っていること自体は良いのですが、主役がどこにあるのかが不明瞭で全体がぼやけた印象になってしまいました。前ボケを作るために絞りを開けると、被写界深度の浅さから群生する花畑のどこにピントが合っているのかが伝わりにくくなります。群生の中でも少し背が高く主役になるような花を探してピントを合わせれば主役が明確になります。

【元の写真】

【群生の中でも明確に主役だと伝わるような花を探しましょう(高橋良典撮影作例)】

Inoshinさんの作品

●良かった点
 単焦点レンズで撮影されています。単焦点の魅力はズームレンズにはない開放F値。そのレンズの特徴を生かした作品です。同じ写真をそう明るくないズームレンズで撮影していたら、このような柔らかなボケは得られなかったでしょう。「カメラ ⇔ 前ボケの花 ⇔ 塔」それぞれの距離感の取り方が良く、美しいボケのおかげで塔への視線誘導がしっかりと出来ています。周辺減光の使い方も良いですね。

●アドバイス
 完成度が高い作品なのですが、赤丸部分の前ボケが塔の中段を完全に横切っており、そこが気になりました。手前のボケとの位置関係が変わってしまうので一概には言えないのですが、もう少しカメラを高く構えて、前ボケのラインを塔の下に持ってくる、もしくはカメラを左に構え、前ボケのラインを右にずらして、塔を横切らないようにすれば塔の主役感が引き立ちます。

【元の写真】

【赤丸部分の前ボケが気になります】

オールドポッサムさんの作品

●良かった点
 F2.8の明るいレンズを使い、絞り開放で撮影しています。浅い被写界深度のおかげで画面右上の葉を縁取るような玉ボケがキラキラと上手く表現出来ており、良いアクセントになっています。あじさいと背景に明暗がついている場所を狙うことで主役が浮かび上がって見えます。

●アドバイス
 一見すると非の打ちどころがないと思ったのですが、拡大してよく見てみると・・・
ピントがあじさい手前の黄色い丸の部分に合っています。赤丸部分の2つの花が色づきも良く目立つことからピントはそこに合わせるべきでした。浅い被写界深度の難しさが出てしまったと言えます。これくらい寄っての撮影では自分が前後に動いてもピントがずれることがあるので、撮影後に再生画像を拡大してのピント確認が必須です。葉とあじさいの位置関係を考えるともう少し画面の右側を減らし、対比の構図とした方が画面に隙が無くなりますよ。

【元の写真】

【画面右側をトリミングした写真】

ぴーさんさんの作品

●良かった点
 単焦点35mmレンズでの撮影です。広角域とはいえ、F1.4ともなると相当前後をぼかすことが出来ます。このような撮影の場合、ピントの置き所が伝わりにくくなり、主役が曖昧になりがちなのですが、きちんと背景から分離できるよう背の高いススキを主役に選んだことがポイントです。WBを青味に振り現実とは違う世界観を作り出しています。

●アドバイス
 レンズの特性を良く理解されており、完成度が高い作品です。単焦点レンズなので撮影時に画角を変えることは出来ないのですが、やや空の面積が広く感じられます。少しトリミングをして空の面積を減らせば画面がより引き締まります。

【元の写真】

【トリミングで空の分量を減らした写真】

のぶりんさんの作品

●良かった点
 70-200mmの望遠レンズを使ってカメラを低く構え、開放付近で撮影する事で彼岸花を中心に前ボケと後ボケを作り出しています。背景に見える木々をリズム感良く配置したことで遠近感が表現出来ました。

●アドバイス
 絞りの設定とカメラ位置は良いのですが、写真を一目見ただけで主役と伝わる花がわかりにくく感じました。これは主役の選び方やピントだけではなく光の強弱が関係しています。「画面中央部分のつぼみが日陰」で「両横の花と画面最右部が日なたで白っぽく」なっている事で写真への視線が散らばり、散漫な印象を与えてしまいました。これを解消するためには、「光と影のバランスをよく観察する」「順光ではなく、サイド光や逆光で撮る」などが挙げられます。光を意識して撮影することを心掛けてみて下さいね。

【元の写真】

【主役が明確になるよう前ボケ⇔主役⇔後ボケの距離感と光の強弱を考えてカメラを向けると良いでしょう(高橋良典撮影作例)】

弧太郎さんの作品

●良かった点
 「ゴチャゴチャして見える」写真と「線の構成が複雑だが美しいパターン模様に見える」写真は紙一重です。その点、この作品ではゴチャゴチャしがちな線の構成をフレーミングと望遠の圧縮効果によるレンズワークで上手くまとめていると感じました。絞り開放で描いた柔らかな前ボケをリズム感良く配置出来たこともポイント。露出をプラス気味に明るくしたことで華やかさが演出できています。

●アドバイス
 唯一、惜しいと思った点がひとつ。主役の左隣に背の高い茎があるせいで主役への視線誘導を妨げています。とは言え、この場合、カメラの高さや左右などの位置を変えても、この茎を外すことは難しそうです。今後同じようなシーンに出会ったら、存在感のある脇役が近くに入り込んでしまうと主役が霞んでしまうことがあると頭に入れておきましょう。

【元の写真

【左隣の高い茎が無いとどのようなイメージになるのか?試しに画像処理で茎を消してみるとスムーズに花に視線がいくことがわかりますね。実際の作品撮影ではあるものを消したりすることは無いのですが、イメージとして参考にして下さい】

まとめ

 今回の写真寸評いかがでしたか?絞り開放とひとことで言っても色々な撮り方があり、また焦点距離によっても考え方が異なります。それらのコツをひとつひとつマスターしていくことでより表現の幅を広げていただけると嬉しく思います。ご応募いただいた写真の中からの一部となってしまいましたが、今回寸評できなかった方、申し訳ありません。引き続きテクニック記事と連動する形でこのような企画を行なっていきたいと考えていますので、どうぞよろしくお願いいたします。最後までお読みいただきありがとうございました。

 

 

■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニープロイメージングサポート会員・αアカデミー講師

 

 

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