記憶をBookにまとめる、うつくしき作業|鈴木さや香

鈴木さや香
記憶をBookにまとめる、うつくしき作業|鈴木さや香

はじめに

多くの人が旅をして、その道中、ほとんどの人が写真を撮って楽しんでいる。
その写真は、どこへ着地するのだろう。
SNSでのシェア、ZINEの制作、写真展、もしかしたらSDカードに入りっぱなし
なんてひともいるかもしれない。

成り行きでなんとなくそれぞれの形式に収まっていく場合
わたしはすこし勿体ないなと思ってしまう。

今回は、写真を1冊のBookにまとめる作業を
私なりの楽しみを交えながら伝えていこうと思う。

あとからまとめる、は難しい

日常はあまりにも多くのできごとで出来ていて、覚えていたい事も、閃いた事も
記憶の下の方にどんどん沈んでいき、その上に新しい記憶が積み上がっていく。
少し時間をかけて自分の記憶の深いところを探れば、懐かしく面白いものが現われるかもしれないが、日常で一体そんな時間がどこにあるというのだろう。

わたしの場合、スナップ写真は断片的ではなくて、断続的なものとして撮影している。
このゆるやかな空気がずっと続くといいなと感じながらシャッターを切る。
それと同時に、これはあの時の写真と組み合わせよう、と大抵の場合組み合わせる写真を思い浮かべることが多い。
頭の中で編集作業がはじまることで、現場での写真の撮り方も変わってくる。
撮った写真画像は覚えておき、いつでも引き出せるようにカジュアルに置いておく。

昔、TVの番組を作っていたころ、その膨大な量のテープ(当時)の素材を片っ端から覚えておき、
必要な時にそれがすぐに出せるように覚えておくという、云わば訓練のような時間を何年も過ごしたからなのかもしれない。

無防備な状態で撮ってしまった写真画像が、記憶の深いところに入ってしまうと取り出しにくくなる。その前にすこし留め置くことで、どういう時に、どの写真を出そうか、という本棚のようなアーカイブが頭の中にできあがる。
それをたまに引き出して、思い出したりする作業がわたしは好きだ。
その作業中に反芻する、味や匂いや音が自分の体に戻ってくる感覚がうれしい。

そうやって、何度も思い出しては組み合わせ、また撮ってを繰り返していく際に
タイトルが想い浮かんだり、だいたいのストーリーがまとまったりするのだ。
そこまでくれば、どんどん編集作業は進んでいく。そして気づいたら、Bookになっているという感じ。

Bookにまとめる行為が苦手なひとは、もしかしたら無防備に写真画像を撮り、しばらく放っておいて急に後からまとめようとしているのかもしれない。それは正直とても難しい。
そうなると時間軸に従うようなまとめ方が多くなってしまう。それは作品というよりはログで、説明的になりがちだ。

写真をまとめるための言葉

■Canon EOS R8 + RF35mm F1.8 MACRO IS STM
■F1.8 1/2500ss ISO200

雨の合間に、太陽が顔を出していた2日間、今年はそんな日に能登を訪ねることになった。

昨年、旅のログのように撮った能登を、今年は作品として再構築するため撮り直し、Bookにまとめたかった。

自分の写真に自由さを渡し、視点を自分に戻して撮影する能登の景色がほしくなったのだ。

機材は、フィルムカメラのCONTAX T2。それからEOS R8にRF35mm F1.8 MACRO IS STMを装着しとても身軽で潔いスタイル。

■Canon EOS R8 + RF35mm F1.8 MACRO IS STM
■F1.8 1/2000ss ISO200  

まとめるとき、わたしは文章を書いてみる。Bookに載せるかどうかは別として、組み立てていくための指標をつくるのだ。
今回は次の文章をBookの最初のページに流し込んだ。

遠くで空が泣こうとして
それを必死で追いかけた

旅は夢のつづき
夢は日々のつづき
日々は旅のつづき

風が吹く 空がつながっている
呼ばれたなら どこへでも

■Canon EOS R8 + RF35mm F1.8 MACRO IS STM
■F2.8 1/640ss ISO250

能登は広くて移動にとても時間がかかる。それもこの場所の魅力だと思った。
だから友人に運転をまかせて、車に乗ったままシャッターを切る。
風に流れていく景色が、夕陽と溶けあうときは、ほんとに美しかった。

テイストの違う写真を組み合わせる

フィルムカメラとデジタルカメラをどちらも使用して撮影すると
テイストが異なる写真で仕上がるため、統一感がなくなってしまう。
そこでわたしは、フィルムカメラの写真を、より写真としての役割に感じ
ポイントの抑えとして入れ込んだ。
デジタルカメラの写真は映像のように流れ、フィルムカメラは栞のように留まる。

CONTAX T2 × FUJIFILM 400 フラッシュ撮影

その組み合わせで構成することで、フラッシュ撮影をしたフィルム写真も
ポイントを掴んだ大切なページとなる。
もちろん、同じカメラ、同じテイストで撮った写真でまとめあげれば、見た目のまとまりはいい。
けれども重要なのは、見た目よりも何を伝えるかという内容ではないかと思う。

わたしの撮り方の癖は、フィルム写真は生々しい人間の気配を感じさせ、デジタルカメラの写真は人間と距離がある写真にしがち。
撮り方も違うので、テイストだけじゃなく、視点が違うひとの写真みたいになってしまう。

テイストや視点が違う写真を同じBookに入れるのは難しい。
だからこそ、どう活かすのかをずっと考えて楽しむことで、フィルム写真は良きアクセントとして存在する場所を見つけられる。

■CONTAX T2 × ILFOCOLOR Vintage Tone 400 Plus フラッシュ撮影
■CONTAX T2 × ILFOCOLOR Vintage Tone 400 Plus

写真を紙に印刷するたのしみ

自分の写真がプリンターから出てくる瞬間や、Bookを依頼して届く瞬間、
そのわくわくがわたしの原動力となっていることは間違いないと思っている。

画面上で見ていたものが、どんな変化を遂げてプリント写真となり、自分の心をどう動かすのかが、とても楽しみ。
やっと自分と同じ空間や時間軸に、記憶が存在できたような喜びがある。

それと、もうひとつ、紙に印刷された自分の写真に、影が落ちることが
楽しいし、美しいなと思う。

洗濯物の影や、樹の影、ガーランドの影など、自分がいる現在の空間の影が、
記憶の印刷物の上に落ちてゆらめく時間を眺めることが何より心地いい。

こうしてBookをつくることで、
わたしの中で、過去になったのだと納得している作業が
ちゃんとうつくしい気がしている。

普段、写真画像を撮り過ぎてはいないだろうか?

今回の能登のBookは、しまうまプリントのフォトブックでA5サイズ(72ページ) プレミアムハード にて制作した。
値段は決して安いとは思わないのだけれど、表紙の質感が何とも言えず、マットなのにすべやかで気に入っている。

背表紙はうす紫の地に白文字をのせた。

撮ることは一瞬のことだから、その情景の記憶と撮った写真画像を、
自分でコントロールして、何度も引っ張り出してあげないと、
やはり深いところに沈んでいってしまうと思う。

写真とは、記憶を補佐してあげるものなのだと思う。
いちばん大事にしてあげるべきは記憶であって、写真という目に見える形に補佐することで、誰かとそれを共有することもたやすい。
写真を撮るということは、そういう事なんじゃないかと感じる。

けれども、、、、、。
分かってはいるが日々が忙しく、そんなに自分に使う時間がないと思うひともいると思う。
そのひとは、もしかしたら写真画像を撮り過ぎてないだろうか?
撮った枚数が膨大であれば、脳内アーカイブから出し入れするのもかなりのエネルギーが必要になってしまう。
わたしの場合は撮り過ぎた時、まとめるための枚数を無理やりにでもパパパっと直感で選ぶ。
今回は72ページのbookをつくるために200枚に絞っている。
後から、他にもあったかもなと思って間違っても、それはそれで楽しい。

そうして自分の作業をしやすくしてあげるのだ。

事務的な作業に聞こえるかもしれないけれど
きっと、それは自分を大切にする作業でもあるかなと、そう思う。

■Canon EOS R8 + RF35mm F1.8 MACRO IS STM
F1.8 1/2500ss ISO200

さいごに

撮ったあとにも作業があると思うと、なんだか面倒に思うかもしれない。
けれども、自分の写真は、記憶を何度も思い起こす手助けをしてくれる相棒であり、自分自身。
それを丁寧にまとめていく作業は、「写真制作」という過程の中で、もっともうつくしい作業だと感じている。
作業をしながらやっと浮かび上がる言葉もある。

能登のBookをつくりながら、写真を見直し、食べてばかりだなと思った。

けれども
食べることは生きること 生きることは食べること。
食が豊かな能登は生きていく場所なのだ、と
その時の情景や記憶から解釈をしたので、この言葉を最後のページに加えたのだ。

■Canon EOS R8 + RF35mm F1.8 MACRO IS STM
■F2.8 1/640ss ISO250

黒い瓦が美しかった

田植えの時期
風が苗をゆらしていた

食べものが豊かで
水も塩も米も酒も
どれもこれもため息が出た

「能登になにがあるの?」
誰かがそう尋ねるけれど

時間がゆっくり未来を見せて
少し切ない過去も教える

食べることは生きること
それがここにあるんだよ
圧倒的な景色と余白
土までやさしいひとの縁

生きて食べて 生きていく

能登の景色をBookにまとめる うつくしい作業のお話でした。

 

 

今回制作のフォトブックについて

今回制作したフォトブック『2026 06 NOTO能登』は、期間限定で開催される「ポストカード博2026」と「アトリエPiccolo」でご覧いただけます。お近くにお越しの際は、ぜひお立ち寄りいただき実物をご覧ください。

■ポストカード博2026
2026年11月7(土)12~18時・8日(日)10~17時 ※最終入場は30分前まで
鎌倉 Garden & Space くるくる
神奈川県鎌倉市由比ガ浜2-7-12

■AtelierPiccolo
神奈川県鎌倉市極楽寺2-1-21
0467-55-5165
江ノ島電鉄極楽寺駅より長谷方面に徒歩2分
定休日:不定休となりますのでInstagramでお知らせ

 

 

■写真家:鈴木さや香
東京造形大学環境計画造形学部卒業。ストロボワークを得意とし、広告から日常まで撮影する写真作家。独自の技術面からコンセプトまでの提案を得意とし、セミナーや講演も多数。本や雑誌での執筆、写真展の開催、アトリエ「AtelierPiccolo」を営みながらの作品の販売など、幅広く活動。近年、マルミ光機と共同開発商品のアルプスパンチ!なついろパンチ!はTVなどに取り上げられ、海外での展開が始まっている。著作に『日常写真が楽しくなるノートブック』など。

 

 

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