リコー GR IV Monochrome レビュー|光の見え方、捉え方が変わるモノクロ専用機
はじめに
GRユーザーにはモノクロ好きな人が多いように思う。カメラのキャラクターやユーザー層を考えれば当然だが、それゆえ2023年4月にリコーイメージングからモノクロ専用の一眼レフ「K-3 Mark III Monochrome」が発売されたとき、「なぜGRではないのか」「次はGRで」という声も聞かれた。
僕もいずれモノクロ専用のGRが発売されるだろうと思っていたが、その通り26年2月「GR IV Monochrome」(以下・本機)が発売された。すでに愛用している方もいるだろうし、なかなか手に入らず悶々としている方も多いと思うが、今一度その実力や魅力をおさらいしようと思う。
外観・仕様


ボディーのデザインはベースとなる「GR IV」(以下ノーマルモデル)と変わらないが、塗装は滑らかなマット仕上げ。ノーマルモデルより高級感がある。GRのロゴもボディーと同色の黒でペイントされ、彫り込まれたロゴが陰影で見える趣向。まさに光と影が織りなすモノクロの世界を体現している。他にも電源ボタンのライトが白く光るなど、細部にもモノクロ専用機としてのこだわりが感じられる。

■撮影環境:シャッター速度1/250秒 絞りF2.8 ISO320
イメージコントロール=スタンダード レッドフィルター=オフ 周辺光量補正=オフ
イメージセンサーは画素数こそノーマルモデルと同じ約2574万画素だが、新たに開発されたモノクロ専用センサーを搭載。ここで少し構造の話をすると、通常のイメージセンサーは前面にカラーフィルターがあり、各画素がR・G・B、3色のいずれかに割り振られる。RとBを捉える画素がそれぞれ1つに対し、Gを捉える画素は2つ。この計4画素が規則的に並ぶ。3色を混ぜ合わせることで、画素単体では再現できないさまざまな色を表現することができる。
対する本機のセンサーはカラーフィルターを取り払い、捉える情報は光の明暗のみ。ゆえにひとつひとつの画素が独立し、明暗だけで像を結んでいる。点画のようなカラーのイメージセンサーよりも、はるかに解像感が高くなるというわけだ。

■撮影環境:シャッター速度1/125秒 絞りF4 ISO800
イメージコントロール=ソリッド レッドフィルター=オフ 周辺光量補正=オフ
ちなみに先に触れた「PENTAX K-3 Mark III Monochrome」とは画素数は近いものの、それともセンサーは異なるという。さまざまな交換レンズを装着する一眼レフと違い、本機はレンズとセンサーを一体で性能が追い込める。これまでもGRシリーズはそうして画質を高めてきたが、本機はさらにそれを突き詰めたのだろう。
18.3mm(フルサイズ換算で28mm)F2.8のレンズはノーマルモデルと変わらないが、本機はさらにシャープで精細感がある。言い方を変えれば、本機はレンズ本来の性能をノーマルモデル以上に引き出したともいえる。今回はすべて28mm相当の画角で撮っているが、これだけシャープなら35mm相当や50mm相当のクロップも安心して使えそうだ。

■撮影環境:シャッター速度1/125秒 絞りF2.8 ISO3200
イメージコントロール=スタンダード レッドフィルター=オフ 周辺光量補正=オン
白の中の白、黒の中の黒の再現
ノーマルモデルもイメージコントロールに「モノトーン」「ソフトモノトーン」「ハードモノトーン」「ハイコントラスト白黒」と4つものモノクロモードを備えている。これらも美しいモノクロ画像を仕上げ、とりわけ個人的には「ハードモノトーン」が秀逸だと思っていた。やや軟調な「モノトーン」に比べて、メリハリがありながら、中間調もしっかり残るのだ。
本機のイメージコントロールでデフォルトに設定されている「スタンダード」もこれに近いのだが、決してコントラストが強いわけではない。“白の中の白”や“黒の中の黒”といった、モノクロ写真のキモとなる部分がしっかりと再現されており、それがトーンの深みや厚みにつながっているのだ。

■撮影環境:シャッター速度1/125秒 絞りF2.8 ISO1000
イメージコントロール=ソリッド レッドフィルター=オフ 周辺光量補正=オフ
本機のイメージコントロールは「スタンダード」を含めて6種類。「スタンダード」より、ほんのわずかにコントラストが上がるのが「ソリッド」だ。僕はGRシリーズで「ポジフィルム調」を常用してきたが、まさにそのモノクロ版といった趣き。黒がキリッと締まって立体感がある。もし僕が本機を購入したらこれを常用するだろう。

■撮影環境:シャッター速度1/400秒 絞りF4.5 ISO160
イメージコントロール=ソリッド レッドフィルター=オン 周辺光量補正=オフ
さらに今回試して印象がアップしたのが「ソフト」。ノーマルモデルにもある設定だが、本機では中間調に厚みがあり、光や露出が当たればオールドレンズのような味わいもある。
また「ハイコントラスト」は文字通りの仕上がりだが、「グレイニー」はそれよりもハイライトやシャドーの階調が豊か。ザラっとした粒子も乗り、銀塩のモノクロプリントのような仕上がりになる。ちなみに各設定とも仕上がりを細かくカスタマイズできるのは、さすがGRといったところだ。

■撮影環境:シャッター速度1/1000秒 絞りF2.8 ISO320
イメージコントロール=ソフト レッドフィルター=オン 周辺光量補正=オフ

■撮影環境:シャッター速度1/400秒 絞りF4 ISO320
イメージコントロール=グレイニー レッドフィルター=オフ 周辺光量補正=オフ
その他の基本的な機能やハードはノーマルモデルと同じだが、本機でより恩恵を感じたのは5軸6段の手ブレ補正だ。ノーマルモデル以上に際立つシャープネスも、手ブレ補正が効いているからこそ。またカラーフィルターがないため感度は下限がISO160、上限がISO409600と、ノーマルモデルのISO100~204800より高め。しかもカラーノイズというものが存在せず、感度を上げたときのノイズは粒子のような視覚効果になる。

■撮影環境:シャッター速度1/400秒 絞りF4 ISO320
イメージコントロール=ハイコントラスト レッドフィルター=オフ 周辺光量補正=オフ

■撮影環境:シャッター速度1/1000秒 絞りF4.5 ISO320
イメージコントロール=HDR調 レッドフィルター=オフ 周辺光量補正=オフ
個人的にもっとも重要な機能「Red Filter」
モノクロになじみがない人にはわかりにくいかもしれないが、本機の重要な、個人的には有無がもっとも重要と思う機能が一等地のFnボタンに割り当てられた「Red Filter」だ。

僕は同じリコーイメージングから発売されている「K-3 Mark III Monochrome」を使っていた。購入当初はとても気に入っていたのだが、唯一にして最大の不満が、青空がイメージよりも白っぽく再現されてしまうことだった。これが一般的なデジタルカメラでのモノクロ撮影なら、フィルター効果でイエローやオレンジを選ぶと、補色にあたる青空が濃く再現される。しかし色情報のない「K-3 Mark III Monochrome」で同様の効果を得るには、まさにレンズ先端へイエローやオレンジのフィルターを装着する必要がある。それはそれで撮影行為としておもしろいし、さまざまなレンズやフィルターを組み合わせる楽しさは本機にはない。ただあえてモノクロ専用機で撮る理由が乏しく、結局手放してしまった。
なので本機が発表された時、まず気になったのは「そもそもフィルターを着けにくいGRで、どうやって美しいモノクロに仕上がるのか」だった。その答えは従来のNDフィルターを、モノクロ用のレッドフィルターに置き換えること。イエローやオレンジよりもさらに濃いレッドというので、効果が強すぎて大丈夫かと思ったが、実際に使ってみると実に自然。青空の落ち方は本来のレッドフィルターほどではないものの、沈みがちな赤みを持ち上げて、いい具合にトーンが整う。人物のスナップやポートレートでは効果が顕著だろう。リコーイメージングの担当者に聞いたところ、名称は機能を連想しやすいよう「Red」としたものの、中身はオレンジに近いとのこと。自然な効果で常用できる機能を目指したそうだ。屋外や人物の撮影では常時オンでもいいと思う。
▼フィルター機能ON/OFF比較
レッドフィルターのオフ(左)とオン(右)を比較。オフでは濃いグレーに再現された赤茶色のレンガが、オンでは明るめになっているのがわかる。一方で青みを帯びた遠くのビルや空は、わずかに濃くなった。
暗室で現像する気分が味わえる
GRシリーズの伝統ともいえる、カメラ内RAW現像ももちろん搭載。モノクロがカラーになる、ということはもちろんないが、イメージコントロールや露出、コントラストなどさまざまな調整が、撮影後にゆっくり行える。
今回掲載している写真も、そのようにして後からレタッチしているのだが、とりわけ重宝したのが「周辺光量補正」のオンオフ。デフォルトではオンになっており、とくに気にせず撮影したのだが、モノクロ作品は周辺を少し暗く落としたほうが映える。レンズはそもそも周辺光量の低下が少ないので、オフにしても激しく落ちることはないのだが、それゆえに常時オフでもよいように感じた。

■撮影環境:シャッター速度1/320秒 絞りF4 ISO160
イメージコントロール=スタンダード レッドフィルター=オフ 周辺光量補正=オフ

■撮影環境:シャッター速度1/125秒 絞りF4 ISO2500
イメージコントロール=グレイニー レッドフィルター=オフ 周辺光量補正=オン
僕自身、高校生の頃にモノクロフィルムで写真を撮り始め、現像もプリントも自分自身で行なってきた。暗室作業は難しさ以上に楽しさがあり、いつかまた本気で取り組もうと、今も道具はすべて残している。実際にはそんな余裕などないのだが、モノクロ専用機はその楽しさを思い出させてくれる。
今回掲載した写真は撮って出し、あるいはカメラ内RAW現像で仕上げているが、個人的にはレタッチソフトで追い込んでいくことを強くおすすめしたい。インクジェットで上質なバライタ紙にプリントすれば、暗室でお気に入りのコマを焼いていく感覚が味わえる。

■撮影環境:シャッター速度1/125秒 絞りF2.8 ISO2500
イメージコントロール=グレイニー レッドフィルター=オフ 周辺光量補正=オン

■撮影環境:シャッター速度1/320秒 絞りF4 ISO160
イメージコントロール=グレイニー レッドフィルター=オフ 周辺光量補正=オフ
まとめ
モノクロは物の見え方が肉眼と違い、たとえば鮮やかで色彩豊かな被写体が、グレー一色に写ってしまうこともある。また色という要素がないぶん、露出や構図がカラー以上に印象を左右する。そういった難しさもあるが、見る人の想像を膨らませることができるのはモノクロの醍醐味。コツは視界からまず色の情報を捨てること。さらにモノをかたちや明暗だけで捉えることができれば、自然と美しいモノクロ写真が撮れるはずだ。
もっとも本機の液晶モニターに映るライブビューはすでにモノクロ。一眼レフで必要な脳内変換をせずに済む。しかもコンパクトでいつでもどこでも撮影できるのだ。そしてモノクロに慣れ親しんだ頃カラーに戻ると、光の見え方が変わったことに気付くかもしれない。
■写真家:鹿野貴司
1974年東京都生まれ。多摩美術大学美術学部二部映像コース卒。さまざまな職業を経て、広告や雑誌の撮影を手掛ける。著書『いい写真を取る100の方法』が玄光社から発売中。公益社団法人日本写真家協会会員。

















