【オールドレンズ】しっとりした濃淡の描写が美しい王道標準レンズ「Nikkor-HC Auto 50mm F2」

水咲奈々
【オールドレンズ】しっとりした濃淡の描写が美しい王道標準レンズ「Nikkor-HC Auto 50mm F2」

はじめに

筆者の年季の入った「Nikkor-HC Auto 50mm F2」

 1972年に発売された「Nikkor-HC Auto 50mm F2」は、4群6枚のガウスタイプのレンズ構成で、絞り羽根枚数は6枚、多層膜コーティングされたFマウントのレンズです。比較的手の届きやすい価格で見つけることのできる、お財布に優しいオールドレンズでもあります。今回は、本レンズをスチールとムービーで紹介いたします。

 

ショート・ムービー

撮影機材:Nikon Z fc + Nikkor-HC Auto 50mm F2

 本レンズをマウントアダプターを介してNikon Z fcに装着して、ショート・ムービーを撮影しました。もちろんフォーカスは、ピントリングを回してすべて手動で合わせています。編集はFinal Cut Proで行い、部分的にスローモーションにしています。BGMは編集時につけていますが、随所で鳴り響いている風鈴の音は、外付けマイクでその場で集音しています。

 動画撮影のときはMFで撮影することも多いので、AFが使用できないオールドレンズでの撮影でも、それほど不便を感じませんでした。それよりも、ボケの描写の柔らかさは、撮影しながらでもわかるほどでした。

 特に、ムービーの最初と最後の風鈴のシーンは、ピントが合っている部分の芯を残しながらも、芯を外れるとふわっと一気に柔らかくボケる描写で、シャープな写りが流行りの最近のデジタルレンズでは味わえない、独特の質感を動画内でも表現してくれています。

 また絞りを絞ると、こってりとした色味が全体に乗り、深みと落ち着きがでます。絞り開放の描写は優しいふんわり感を、F4-8くらいの絞りでは、しっとりと湿度を感じる描写の両方を、動画でも楽しめるレンズでした。

 

操作しやすいピントリング形状

【撮影機材】Nikon Z fc + Nikkor-HC Auto 50mm F2
【撮影環境】絞りF5.6 1/500秒 ISO2500 AWB ピクチャーコントロール:スタンダード

 筆者は、通常のスナップ撮影の絞りはF5.6を多用していますので、今回も多くのカットをF5.6で撮影しました。

 絞りトルクはカチッカチッとしっかり止まってくれる形状なので、目視しなくても絞り操作はしやすかったです。ピントリングの滑らかさは個体にもよるでしょうが、筆者の所持している個体は引っかかりもなく、滑らかに操作できましたので、液晶画面を見ながらでも、ファインダーを覗きながらでも、ピント合わせは難なく行えました。

 また、ピントリングの形状は波打つように大きな凹凸が特徴で、指の掛かり具合がちょうど良かったです。
 

 

シャープでこってりとした深みのある描写

【撮影機材】Nikon Z fc + Nikkor-HC Auto 50mm F2
【撮影環境】絞りF4 1/500秒 ISO2500 AWB ピクチャーコントロール:スタンダード

 明るいシーンは真綿のようにふわっと仕上がるのに、夕方から夜にかけての薄暗いシーンは、こってりとした深みのある色合いに仕上げてくれるので、とにかくスナップ撮影がとっても楽しかったです。ピクチャーコントロールのビビッドや風景ではなく、スタンダードでここまでこっくりとした描写になるのは、このレンズの特性と言えるでしょう。

 今ではめずらしい6枚羽根のレンズですが、少し絞ってもきれいな丸ボケが出ます。F4の絞りは、絞り開放と比べると画全体がぐっとシャープになり、被写体のディティールもさらにくっきりとして、その温度まで伝えてくれるかのようです。

 

街に馴染むコンパクトデザイン

【撮影機材】Nikon Z fc + Nikkor-HC Auto 50mm F2
【撮影環境】絞りF8 1/500秒 ISO2500 AWB クリエイティブピクチャーコントロール:ソンバー

 標準画角の単焦点オールドレンズのいい点といえば、サイズがコンパクトなことがまずあげられます。主張の激しくないカメラに、コロンとした大き過ぎないレンズは、小さめのミラーレス機とバランスが良く、手の馴染みもいいのでリズミカルにシャッターが押せます。

 また、本レンズは、ファインダーや背面液晶に映される画が、写欲をくすぐる深めな色合いとコントラストなので、撮影しながらそのこってりとした色合いを楽しめます。今回撮影したスナップはもちろん、風景撮影でも活躍してくれそうです。

 このカットは、クリエイティブピクチャーコントロールのソンバーで仕上げました。スナップはピクチャーコントロールのスタンダードか風景で撮ることが多いのですが、ニコンのクリエイティブピクチャーコントロールは、写真の味付けが楽しくなる風合い、色合いのフィルターが多く、その効果具合も調節できるので、自分のイメージを具現化するためによく使用しています。

 

絞り開放時のムード溢れるボケ味

【撮影機材】Nikon Z fc + Nikkor-HC Auto 50mm F2
【撮影環境】絞りF2 1/500秒 ISO2500 AWB ピクチャーコントロール:スタンダード

 絞り開放時には、角のない丸ボケを楽しむこともできます。このカットは、今は数少なくなってしまった、公衆電話ボックスの外側から撮影しています。ボックスの向こう側の照明は、優しく丸くボケて、光が灯っている看板は、油を塗ったかのように滲んだ表現となっています。

 それでも、ピント面の電話の文字はしっかりとシャープに描かれており、このボケ部分とのジェットコースターのような落差は、筆者の好みとするところです。

 この開放時のボケ具合を、うるさいと感じる方もいらっしゃるかも知れませんが、夜の街なかのイメージには、このボケのムードが似合うと感じました。

 

溶けるようなボケで遠近感を作り出してくれる

【撮影機材】Nikon Z fc + Nikkor-HC Auto 50mm F2
【撮影環境】絞りF2 1/1250秒 ISO5000 AWB ピクチャーコントロール:風景

 お得意の水族館では、魚のアップをポートレートのように撮ってみました。主役の魚の眼にピントを合わせて絞り開放で撮影すると、背景の魚たちは水の色と同化して、ふんわりと溶けるようにボケてくれました。水族館の水槽の中は、遠近感を感じられるような物がないことが多いので、背後の被写体を大きくボカしてくれるレンズはとても重宝します。

 

多層膜コーティングでコントラストの高い画にしてくれる

【撮影機材】Nikon Z fc + Nikkor-HC Auto 50mm F2
【撮影環境】絞りF2 1/500秒 ISO2500 AWB ピクチャーコントロール:ビビッド

 本レンズは多層膜コーディングで、入射面と射出面の反射を減少させてくれています。そのお陰で、さまざまな角度から光が入って来やすい水族館での撮影も、不要なフレアーやゴーストは出にくく、コントラストの低下も起こりにくくなっています。

 今回、本レンズをムービーとスチールの両方で使用してみて、ふんわり感とコントラストの高いシャープな描写が両立している点に、とても魅力を感じました。強い逆光での撮影が多いポートレートや、明暗の差が激しいシーンでのモノクロ撮影など、撮影してみたい被写体やシチュエーションが増えてくるレンズです。

 

 

■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。日本写真家協会(JPS)会員。

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