ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4|葛原よしひろ

葛原よしひろ
ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4|葛原よしひろ

はじめに

 何年ぶりだろう?カメラにフィルムを詰めるのは。

 防湿庫の一番奥の定位置から本当に久しぶりに取り出したNikon F3とAI Nikkor 50mm f/1.4は、懐かしいのだけれど、良く知った馴染みの顔をしていて、何だか昔の彼女に逢ったみたいな少し照れくさい感覚です。

 そんな昔の彼女に、ありきたりだけど『元気かい?』って尋ねながらシャッターボタンを押してみると、優しく微笑み返してくれた気がしてホッとした。

Nikon F3でフィルムの装填

 何はともあれ、フィルム装填しなくては何も始まらないのだが、SDカードをスロットに差し込む程には容易では無い。裏ブタを開けてフィルムの巻き上げレバーを引き上げて、所定の位置にフィルムを置いてからフィルムを少しずつ引き出してギアに掛けつつ巻き上げの芯に挟んで裏ブタを閉じて……といった具合に煩雑な儀式も昔なら考えるより速く手が勝手に動いたものだが、少し考えながら確認しつつの作業になっていて時の流れを感じてしまう。ただそれ以上に、この儀式の楽しさを思い出して嬉しくなってきた。

Nikon F3で琵琶湖のスナップ撮影

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 さあ何を撮ろうかって考えた時に、僕がF3を一番使っていた当時に撮影していたのは、ブラブラしながらのスナップだったなぁって思い出したので、F3と一緒に近所を歩いてみた。

 麦畑が風に揺れていたのでSS1/15スローシャッターで強風な雰囲気を出して、撮影しようと思ったのだが、いざ撮影しようとファインダーを覗くと軽い違和感が有る。私は比較的早い段階でミラーレス一眼にシフトした事も有りEVF慣れしている事で違和感が有るのだ。これってレフ機からミラーレスに変えた時の逆の違和感だなぁって思うと少し人間の慣れって面白いな、とか考えながらAI Nikkor 50mm f/1.4のフォーカスリングを廻してピント位置を決める。

 ここからが問題で、レフ機でもミラーレスでもデジタルカメラになってからは、撮影した写真をその場で確認出来るのが当たり前になっていて、フィルムカメラの場合、私のイメージに近いシャッタースピードを決めるのには勘が必要になる。もう一つ、SDカードだと少なくても1,000枚は撮れるが今日は27枚しか撮れないのだから。

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 一抹の不安を抱えながら、気持ちを切り替えて歩いていると琵琶湖岸に出た。さっきの小麦スローシャッターで自信が無いから、波もスローシャッターで撮っておこう。完全にヘタレモードでシャッターを切る。

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 うーん、やっぱり自信が出ない。使える写真が無いと困るのでSS1/1000高速シャッターで波と草木を止めて安全な一枚を置きに行くシャッターを切る。自分のヘタレ感と狡さに、少し凹みながらの帰り道で気付いた、『なんか、めちゃ楽しい!!』

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 撮影を始めてもう一つ思い出したこと。F3でバリバリ撮影していたのは、生まれ育った京都の街だったこと。先ずは自宅の隣の神社でパシャリ。

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 何だかんだで『元カノ』じゃなくて『F3』とも、再会?再開?した時よりは、少し会話が自然になってきた感じで、設定ダイヤルやピント合わせも幾分スムーズに出来るように感覚が戻ってきたので、調子に乗って前後ボケを活かした撮影をしてみるが、上手く出来ているのかは少し不安なまま、久方ぶりの巻き上げレバーを楽しみながらシャッターを切る。

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 ここで巻き上げレバーが動かなくなる、27枚終了の合図。えーーまだ高島市の散歩と京都の家の隣の神社しか撮ってないのに、、、。

Nikon F3で京都のスナップ撮影

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 F3に催促されるように、もう一本フィルムを投入して、もう少し京都の街を撮影してみる事にした。

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 京都の街スナップと同時にポートレートも撮影してみた。僕がF3を使っていたころは、このAI Nikkor 50mm f/1.4で撮るポートレートが好きだったなぁって、思い出しながら撮影を始めると、瞳AFの無いカメラでのポートレート撮影は、そんな思い出に浸る余裕など一切与えてくれず、全集中の呼吸で全力投球の撮影に気持ちが引き締められました。

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 足元のアジサイも開放F1.4で撮影してみた。フィルムの緩さって、花や女性のポートレートでは、表現としての優しさみたいなものが滲み出てくる感じが有って、とても好みですが、撮る時の集中力は、デジタルカメラの10倍優しくない。

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 絞り開放付近での全集中の呼吸撮影はさすがに疲れたので、背景に車を入れて絞りF5.6にて撮影。町家のボケが良い感じで満足。

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 かなりフィルム撮影の感覚が戻って来た感じがするので、フィルム残12枚なのですが嵐電で鉄分補給しながら嵯峨野まで散策してみようと思いました。

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 嵐電は京都市内を走る電車ですが、途中何か所か公道を走る路面電車区間も有って魅力的な被写体です。

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 嵐電でシャッターを切りすぎました。嵯峨野到着時点で、フィルムの残り6枚になっていて少し反省。

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4
■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 道すがら目に付いた、竹籠や御地蔵さんの雰囲気が良くてシャッターを切る。

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 フィルムの残りが最後の1枚になった。

 何を撮ろうかと考えながら見上げると、薄日の中の青紅葉が美しくて、少し寂しい気持ちを抑えつつ巻き上げレバーを廻して最後のシャッターを切った。

最後に

 撮影終わりでフィルムを現像に出したのだが、現像が上がるまでのワクワク感はフィルムの醍醐味の一つだと思う。今回の撮影で感じた事、僕のようなフィルム世代の人は、もし未だ昔の愛機が何処かに眠っているなら引っ張り出して、残念ながら無い人は同機種や憧れだったカメラを手に入れて、感傷的なノスタルジーに浸りながら、ゆっくり思い出しながら、丁寧に1枚ずつ撮影してみては如何でしょうか?

 そしてスマホ世代も含めたデジタルカメラ世代の人達にも手に届く範囲のフィルムカメラでフィルム撮影のワクワク感を味わってもらえれば、必ず新しい発見が有ると思います。

■使用機材:ニコン F3 × AI Nikkor 50mm f/1.4

 

■写真家:葛原よしひろ
ジャンルに捉われず何でも撮影するマルチプレイヤースタイルの写真家。カメラメーカー等の写真セミナー講師としても全国的に活動している。大阪芸術大学写真学科卒/滋賀県高島市公認フォトアドバイザー/JPS(日本写真家協会)正会員

 

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