堅牢かつ優美、さらにフレンドリーなライカSL3

大門美奈
堅牢かつ優美、さらにフレンドリーなライカSL3

ライカSL3と出会うまでの道のり

ライカSLが発売されたのは2015年。アルミ削り出しボディの堅牢性と直線的なボディデザインが美しく、大いに興味を惹かれたが、普段Mシステムを使用しているとどうしても「巨大」という印象が強く、またレンズを含めた価格を考えるとライカSLシステムを使用することはないだろうと思っていた。

しかしながらその後2018年に発表された「Lマウントアライアンス(ライカ、シグマ、パナソニックの戦略的協業、2024年12月現在8社に拡大)」によって上記の考えは覆されることになる。仕事用にシグマレンズを長らく使用していた身としては願ったり叶ったりである。一旦はLUMIX S5を導入したものの、その後2020年に発売されたライカSL2-Sに買い替えることに。LUMIX S5と比較して重量は200g以上増したものの、無駄のない外観にシンプルな操作性と堅牢性、なによりライカMシステムとライカQシリーズを愛用する身からすれば、もう全部ライカで揃えてしまえ、という勢いのようなものもあったのかもしれない。

数値以上にコンパクトに感じるバランスの良さ

そして2024年3月のライカSL3の発表である。外装がマグネシウム製に変更されたことにより、ライカSL2と比較すると約70gの軽量化に加えて横幅は約5mm縮小されているとのことだが、実際に手にすると数値以上にコンパクトに感じるのはライカSL3のバランスの良さに因る部分も大きいのだろう。凝縮感のあるボディながら収まりが良く、またグリップの安定感が増したため、街中をスナップする際などはグリップを片手でつかんだまま持ち歩くことが多い。

電源スイッチはレバー式からボタンへ変更。正直なところこれには慣れるまで少々時間を有したが、コンデジの電源スイッチはほとんど凸であるのに対してライカSL3は凹。うっかり触れてスイッチが入ってしまうのを防止するためであろう。背面液晶の左上に位置しているのも、構えた瞬間に左指で電源を入れられるためタイムロスがなく、よく練られた結果の押ボタンスイッチだということがよくわかる。スマートフォンへの連携や利便性を考えると今後ボタンタイプへ移行するメーカーも増えるのかもしれないなと思ったり。

無機質な街中でも情緒的な写り

■撮影機材:ライカSL3 + アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH.
■撮影環境:絞りF2.8 1/160秒 ISO250 WB:オート

通りに出て、まずはライカ銀座店のウィンドウを一枚。レンズがライカ アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH.というのもあるが、ぬめりのようなものすら感じさせるなめらかな描写は大幅に画質が向上したことを強く感じさせる。センサーに関してはライカM11やライカQ3にも使用されている6030万画素のフルサイズ裏面照射型CMOSセンサーを採用。新しい画像処理エンジン「MAESTRO IV」を搭載したその描写力はライカM11からの流れを汲んだ、いわゆる「ライカらしい」渋さがありつつ厚みのある、クラシカルなライカのイメージ。SL2からさらに画作りの精度が一段階上がった印象だ。

■撮影機材:ライカSL3 + アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH.
■撮影環境:絞りF3.2 1/2000秒 ISO100 WB:オート

交差点を渡って信号待ちの女性を日中の強い光で写した場面だが、中判カメラと見まごうかのような立体感が出現した。新たに像面位相差AFに対応したということでAFも限りなくスムーズ。狙ったところに即座にピントがくる気持ちよさというのは「ああ、こういうことか」と撮影しながら強く頷いてしまう。コントラストが強い場面でもハイライトの粘りもよく、無機質になりがちな街中でもトーン豊かに表現してくれる。

■撮影機材:ライカSL3 + アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH.
■撮影環境:絞りF3.5 1/160秒 ISO160 WB:オート

このような写真はM型ライカの得意分野だと思っていたら、いやいやどうしてライカSL3ならお手のものですよ、フン、と鼻で笑われているような写り。なんというか、乾いた写りにならないのだ。ガラスなどの硬質な材質を写してもどこか水面を思わせる、硬い面に跳ね返されるのではなく、すっと奥へ引き込まれるような情緒的な写りをしてくれる。無表情であるはずのマネキンも、どこか人間味を感じさせるではないか。

レンズはアポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH.

■撮影機材:ライカSL3 + アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH.
■撮影環境:絞りF3.5 1/640秒 ISO160 WB:オート

先ほどと同じく交差点の信号待ちでもう一枚撮影。銀座はほんの10年前と比べるとだいぶ様変わりしたように感じられるが、やはり大人の街である。今回使用しているライカ アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH.にも言及すると、前ボケはごくごくやわらかく自然、ピント面はピシリと忠実にシャープ、かつ立体感豊かに描写。もちろんアダプターを使用してライカMレンズを装着しても楽しいが、この写りを経験してしまうと、ついこのレンズばかり使ってしまう。

■撮影機材:ライカSL3 + アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH.
■撮影環境:絞りF2 1/160 ISO1600 WB:オート

Ginza Sony Parkの壁面に浮かび上がる夜のシマウマ。ライカSL3に弱点があるとすれば低照度下での撮影だろうか。ISO4000までならまったく問題なく撮影できるが、ISO6400を超えるとややノイズが目立ってくる。とはいえ、銀座は夜でも明るいのがいいところ。

道具として進化したライカSL3

■撮影機材:ライカSL3 + ライカ アポ・ズミクロンSL f2/90mm ASPH.
■撮影環境:絞りF2 1/160 ISO2500 WB:オート

銀座の路地歩きは思わぬ発見があって楽しい。ともすれば背景の街灯の強い光にAFが引っ張られてしまいそうな場面だが、欲しいところにピントが来てくれることに改めてライカSL3の道具としての進化を感じる。デジタルカメラだから性能が進化するのは当たり前のことなのかもしれないが、その上でどう心地よく、使いやすくできるのか。デザインはライカの伝統を踏襲しつつ、シンプルにわかりやすく、操作を容易にすることでより「撮ること」に集中できる。画作りのブラッシュアップは言わずもがな、堅牢かつ優美、さらにフレンドリーであるというのが、わたしがライカSL3を使う理由である。

 

■写真家:大門美奈(Mina Daimon)
横浜出身、茅ヶ崎在住。作家活動のほかアパレルブランド等とのコラボレーション、またカメラメーカー・ショップ主催の講座・イベント等の講師、雑誌・WEBマガジンなどへの寄稿を行っている。個展・グループ展多数開催。代表作に「浜」・「新ばし」、同じく写真集に「浜」(赤々舎)など。

 

 

関連記事

人気記事