目で見えている世界と違う「赤外線写真」で不思議な世界を撮ってみよう

坂井田富三
目で見えている世界と違う「赤外線写真」で不思議な世界を撮ってみよう

はじめに

今回は「赤外線写真」についてご紹介します。赤外線写真は、絵画の鑑定や天体写真などの用途で使用されているものが多いのですが、今回はミラーレスカメラを使用して風景撮影を撮影する赤外線写真の紹介になります。

筆者が赤外線写真に出会ったのは、高校生の頃で今から40年ほど前です。当時は年1回春の季節だけに発売されていた「サクラ赤外750」という赤外線フイルムを使用して、風景写真を少しだけ撮影していました。当時はなかなか思ったようには撮影できなかった思い出があります。そんな昔を少しだけ思い出しながら撮影してみましたが、デジタル撮影での赤外線写真撮影もずいぶんと簡単にできるようになったと感じ、撮影を楽しんでみました。

デジタルで楽しむ赤外線写真の撮影方法や必要機材、そしてデジタル撮影ならではのカラースワップ処理を紹介します。

赤外線写真ってどんなの?

■撮影機材:SONY α7R V + SAMYANG AF 14-24mm F2.8
■撮影環境:シャッター速度30秒 絞りF8 ISO800 焦点距離16mm
※ケンコーフィルター「PRO1D R72 N」使用

赤外線写真は、目で見える可視光線を捉えるのではなく、可視光線より波長が長く、人の目には見えない近赤外線で写したものになります。そのため赤外線写真を撮影するには、通常は可視光線をカットし近赤外線のみ透過する近赤外線透過フィルターが必要になります。

ここで簡単に光の波長について説明します。可視光線とは太陽の光や人工的な光など、目に入って明るさを感知させる光を意味します。普段の写真はこの可視光線を捉えて画像として表現しています。可視光線以外でよく耳にする言葉には、紫外線や赤外線などがあります。
光は電磁波のひとつで、波長の種類で分類されています。

紫外線  ~約380nm
可視光線 約380nm ~780nm (目に見える光の波長)
近赤外線 約780nm~2500nm
遠赤外線 約2.5μm~

現在発売されているほとんどのデジタルカメラは、ローパスフィルターによって赤外線がカットされています。しかしすべての赤外線がカットされている訳ではなく、わずかな赤外線を感光しているので赤外線透過フィルターを使用することで赤外線写真を撮影する事が可能です。

デジタルになり赤外線写真撮影のハードルは下がりましたが、カメラのメーカーや機種によって赤外線の感光の状況が異なるので、ご自身の機材にあった調整などが必要になってきます。

赤外線写真の特徴は、普段見慣れた風景などを幻想的に表現できるのが特徴の一つです。例えば赤外線を反射する緑の葉などは白く写り、空や水面などは黒く写るため通常のモノクロで撮影した場合とイメージが大きく異なって表現されます。特に緑の葉は雪が積もったように白く写るので「スノー効果」と言われています。

左:赤外線モノクロ写真 右:通常のモノクロ写真

上の写真は、同じ場所でモノクロ撮影したものと赤外線モノクロ写真撮影したものを比較したものになります。赤外線写真は通常のモノクロ撮影とは違って、紫陽花の葉や木々の葉は白く描写され、空は黒く描写されていることが分かります。

赤外線写真撮影に必要な機材

赤外線写真を撮影するには、いくつかのアイテムが必要になってきます。メインは「近赤外線透過フィルター」です。今回撮影に使用したのは、フィルターメーカー大手ケンコー・トキナーのデジタルカメラ用近赤外線透過フィルター「PRO1D R72 N」です。フィルター径は52mm~82mmと幅広くラインナップされています。

ケンコーデジタルカメラ用近赤外線透過フィルター「PRO1D R72 N」

基本このフィルターがあれば赤外線写真を撮影する事は可能なのです。フィルターを見れば分かるのですが、可視光線の多くをカットするのでフィルターは真っ黒に近い状態です。ですので、必然的に日中でも超スローシャッターになってしまいます。そこでブレ防止の為に、ある程度しっかりとした三脚やレリーズなどが必要になってきます。

手に持っているのは、ケンコーデジタルカメラ用近赤外線透過フィルター「PRO1D R72 N」。可視光線の多くをカットしているのがよく分かると思います

あと、あると便利なアイテムが、ねじ込み式フィルターをマグネット式に変換できるリング「マグネティック・マウント・システム ベースリング/コンバージョンリング」です。

撮影に使用する近赤外線透過フィルター「PRO1D R72 N」は、可視光線をカットするフィルターで見ためはほぼ真っ黒です。そのため「PRO1D R72 N」フィルターを装着した状態でピント合わせをするのは困難になります。フィルターをしていない状態でピント合わせをし、ピント位置を固定した状態で「PRO1D R72 N」フィルターを装着します。その際、ねじ込み式のフィルターなので装着の際に、ピント位置がズレる可能性があります。そういったリスクを軽減するためにも、マグネットで簡単に装着できるようにしておくと非常に便利です。

赤外線写真の撮影の仕方

デジタルカメラでの赤外線写真の撮影方法は、最初にカメラの設定をモノクロ撮影モードに変更します。今回紹介するモノクロの赤外線写真はJPEG撮影・保存で大丈夫ですが、デジタル赤外線写真のカラースワップを楽しんでみたい方や撮影後に微調整などする方は、カメラの設定を「RAW+JPEG」にして、RAWデータも保存するようにします。

カメラのファイル保存形式を「RAW+JPEG」にしておくと赤外線カラースワップ写真が楽しめます

1. 撮影場所・構図が決まったら(三脚使用)、フィルターを装着せずに通常のモノクロ撮影をします

■撮影機材:SONY α7R V + SAMYANG AF 14-24mm F2.8
■撮影環境:シャッター速度1/1000秒 絞りF8 ISO200 焦点距離14mm
※クリエイティブルックBWで撮影

通常のモノクロ撮影は必須では無いのですが、赤外線写真とのイメージの違いを把握する為に撮影しておくのがおすすめ。またこの時にカメラの撮影設定を「JPEG+RAW」で撮影しておけば、JPEGで撮影されたデータはモノクロで保存されますが、RAWデータをカラーで現像出力すれば通常のカラー写真にする事も可能です。

上のモノクロモード撮影したRAWデータから現像してカラー出力したデータ

2. 次に1で撮影した状態でピントを固定して、近赤外線透過フィルターを装着します

3. フィルターを装着した状態で、ファインダーや液晶画面で確認しながらシャッター速度、絞り、ISO感度を調整します

4. 絞りは、可視光線と近赤外線ではピント位置が異なるため少し絞って撮影すると安全です

5. シャッター速度は晴天の状態でも数十秒のスローシャッターになります。ISO感度の調整も合わせてシャッター速度の設定を調整します

■撮影機材:SONY α7R V + SAMYANG AF 14-24mm F2.8
■撮影環境:シャッター速度30秒 絞りF8 ISO800 焦点距離14mm
※ケンコーフィルター「PRO1D R72 N」使用

6. 一度撮影したのちにデータを確認し、調整が必要と感じた場合は、絞りやシャッター速度、ISO感度などを変更して再度撮影をします

上の写真で少し明るいと感じたので、ISO感度を下げて露出を調整した写真が下の写真です。

■撮影機材:SONY α7R V + SAMYANG AF 14-24mm F2.8
■撮影環境:シャッター速度30秒 絞りF8 ISO200 焦点距離14mm
※ケンコーフィルター「PRO1D R72 N」使用

赤外線写真撮影は赤外線を反射する植物の葉や雲は白く写り、青空や水面などは黒く写るのがポイントです。その特徴を表現する為に、晴天の少し雲があるような日が撮影におすすめになります。また自然の植物だけでなく人工的なモノも配置したり、赤外線を反射しにくいものを構図内に入れ込む事によって赤外線効果の違いを表現することができます。

モノクロ赤外線写真の世界

■撮影機材:SONY α7R V + SAMYANG AF 14-24mm F2.8
■撮影環境:シャッター速度30秒 絞りF8 ISO800 焦点距離14mm
※ケンコーフィルター「PRO1D R72 N」使用

実際に撮影してみると被写体選びに苦戦します。その日のお天気にも大きく左右されますが、実際に写し出されるモノクロ赤外線写真と頭の中で描いていたものとイメージが乖離している事が多く、結構苦戦しました。

また、撮影の際には三脚のセットからフィルターの脱着、カメラの設定などの撮影前のやることが多いのと、シャッター速度も長秒になるので、1枚撮影するにもそれなりの時間がかかります。効率よく撮影をしたい場合は、モノクロ赤外線撮影の設定をカメラのカスタム設定に事前登録しておいてすぐに設定変更できるようにしたり、先に紹介したフィルターをマグネットで簡単に脱着できるようにするのが良いでしょう。

■撮影機材:SONY α7R V + SAMYANG AF 14-24mm F2.8
■撮影環境:シャッター速度30秒 絞りF8 ISO200 焦点距離19mm
※ケンコーフィルター「PRO1D R72 N」使用
■撮影機材:SONY α7R V + SAMYANG AF 14-24mm F2.8
■撮影環境:シャッター速度30秒 絞りF6.3 ISO800 焦点距離19mm
※ケンコーフィルター「PRO1D R72 N」使用
■撮影機材:SONY α7R V + SAMYANG AF 14-24mm F2.8
■撮影環境:シャッター速度30秒 絞りF7.1 ISO800 焦点距離24mm
※ケンコーフィルター「PRO1D R72 N」使用
■撮影機材:SONY α7R V + SAMYANG AF 14-24mm F2.8
■撮影環境:シャッター速度30秒 絞りF7.1 ISO800 焦点距離24mm
※ケンコーフィルター「PRO1D R72 N」使用
■撮影機材:SONY α7R V + SAMYANG AF 14-24mm F2.8
■撮影環境:シャッター速度30秒 絞りF4 ISO800 焦点距離14mm
※ケンコーフィルター「PRO1D R72 N」使用

目で見えている世界と違うイメージを写し出す赤外線写真は、撮影していてとても楽しい撮影方法のひとつです。最初は少し難しく感じることもあるかもしれませんが、撮影をすればするほど奥深さを感じます。

カラースワップした赤外線写真の世界

■撮影機材:SONY α7R V + SAMYANG AF 14-24mm F2.8
■撮影環境:シャッター速度30秒 絞りF4 ISO800 焦点距離14mm
※ケンコーフィルター「PRO1D R72 N」使用、Adobe Photoshopを使用してカラースワップ処理

ここからはモノクロ赤外線写真撮影したRAWデータで、今回は画像処理ソフト「Photoshop」を使用してカラースワップ処理(色の置き換え)をしたカラー赤外線写真を紹介します。

上の写真は、その前のモノクロ赤外線写真のRAWデータをカラースワップ処理した写真です。どのような色にカラースワップするかは個人の仕上げるイメージの好みによりますが、植物などはピンクっぽく、青空や水面は青っぽい感じに仕上げるものが多く、今回もそれに近い感じで仕上げていますが少し筆者好みにアレンジをしています。

作業手順、方法、調整度合に関しては、様々な方法があり特にこれが正解というものはありませんが、色々な方法を参考にして自分なりの赤外線カラースワップ写真を楽しんでみてください。

■今回のカラースワップ処理の簡単な流れ

1.モノクロ赤外線撮影したRAWデータを「Photoshop」でカラー展開します(プロファイルの変更)。画像が赤い状態で表示されます
2.「Photoshop」のRAW現像で「ホワイトバランス」「カラーミキサー」等で明るい部分が黄色に、暗い部分が茶色になるように調整をします
3.「Photoshop」でカラースワップ処理をします(下記手順参照)

カラースワップの手順
1. メニューから「イメージ」→「モード」→「Lab カラー」を選択
2. チャンネルタブで「a」を選択し、メニューから「イメージ」→「色調補正」→「階調の反転」を選択
3. チャンネル「b」を選択し、同様に行います
4. RGB に戻す 「イメージ」→「モード」→「RGB カラー」を実施 

4.「Photoshop」で最終的にお好みの色合いに調整します(ホワイトバランスや各種色調など)

赤外線カラースワップ写真は、撮影するカメラによって赤外線効果の違いなどがあるので、ご自身のカメラにあったオリジナルの調整が必要になってきます。楽しみながらいろいろと色合いを調整してみてください。

■撮影機材:SONY α7R V + SAMYANG AF 14-24mm F2.8
■撮影環境:シャッター速度30秒 絞りF8 ISO800 焦点距離14mm
※ケンコーフィルター「PRO1D R72 N」使用、Adobe Photoshopを使用してカラースワップ処理
■撮影機材:SONY α7R V + SAMYANG AF 14-24mm F2.8
■撮影環境:シャッター速度30秒 絞りF6.3 ISO800 焦点距離14mm
※ケンコーフィルター「PRO1D R72 N」使用、Adobe Photoshopを使用してカラースワップ処理
■撮影機材:SONY α7R V + SAMYANG AF 14-24mm F2.8
■撮影環境:シャッター速度30秒 絞りF8 ISO800 焦点距離14mm
※ケンコーフィルター「PRO1D R72 N」使用、Adobe Photoshopを使用してカラースワップ処理

赤外線カラースワップ写真は、RAWデータ撮影が必須でなおかつ後画像処理が必要になってきますが、デジタルならでは赤外線写真の楽しみ方の一つです。

まとめ

デジタルカメラ時代になって、赤外線写真撮影も比較的簡単にできるようになりました。実際に目で見えない光を捉えて撮影できる世界は、少し不思議な感じを受ける印象的な写真になります。少し特殊な専用のフィルターが必要になってきますが、オリジナリティ溢れる不思議な世界を演出する事ができるので十分にコストに見合った撮影が楽しめます。特に晴天のコントラストのキツイ夏の撮影には、デジタルカメラ用近赤外線透過フィルター「PRO1D R72 N」は、もってこいの撮影アイテムです。

 

 

■写真家:坂井田富三
写真小売業界で27年勤務したのち独立しフリーランスカメラマンとして活動中。撮影ジャンルは、スポーツ・モータースポーツ・ネイチャー・ペット・動物・風景写真を中心に撮影。第48回キヤノンフォトコンテスト スポーツ/モータースポーツ部門で大賞を受賞。

・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員
・EIZO認定ColorEdgeアンバサダー
・ソニーαアカデミー講師

 

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