富士フイルム X-M5と巡るアラブ首長国連邦|三田崇博 海外撮影記

三田崇博
富士フイルム X-M5と巡るアラブ首長国連邦|三田崇博 海外撮影記

はじめに

こんにちは。旅写真家の三田崇博です。2024年11月に発売された富士フイルム X-M5ですが、人気で発売当初から品薄状態が続いていました。私もようやくこのカメラを手に入れ、1か月にわたり中東・ヨーロッパへ撮影旅行に行ってきました。

このカメラの魅力は、何と言っても「小ささ」「軽さ」「手に入れやすい価格」の三拍子が揃っていることです。現地での作例をお見せしながら、この軽量ボディがどのように旅の撮影スタイルを変えたか、その実力に迫っていきたいと思います。

X-M5の特徴

X-M5は最新のXシリーズの技術を搭載しながら、徹底した小型化・軽量化が図られています。

1. シリーズ最軽量ボディ
EVF(電子ビューファインダー)やボディ内手ブレ補正機構、内蔵フラッシュを非搭載とすることで、質量約355gのシリーズ最軽量を実現。「常に持ち歩ける」機動力の源です。

2. 高画質エンジン
有効約2610万画素の裏面照射型「X-Trans CMOS 4」センサーと、高速画像処理エンジン「X-Processor 5」を搭載。コンパクトボディながら他のXシリーズに引けを取らない高解像度で美しい画質を実現しています。

3. 高性能AF
ディープラーニング技術を用いて開発された被写体検出AF機能を搭載。人物、動物、乗り物などを高精度で検出・追尾し、ストリートスナップでの決定的瞬間を逃しません。

4. 充実の動画機能
6.2K/30P 4:2:2 10bitのカメラ内記録や、3つの内蔵マイクによる高音質録音など、Vlogにも最適な機能が充実しています。

やはり、このカメラの最大の魅力は、小型軽量と高い画質を両立し、手に取りやすい価格設定を実現している点に尽きるでしょう。

サイズ比較

私のメイン機であるGFX50S IIと比較すると大きさの差は歴然です。最近発売されたX-E5もかなりコンパクトに仕上がっていますので、価格差が許せばX-E5もいい選択肢になってくると思います。参考までに主要機種のサイズを表にしてみました。

左:GFX50S II 右:X-M5
機種名 センサーサイズ EVF (電子ビューファインダー) IBIS (ボディ内手ブレ補正) 幅 x 高さ x 奥行き 重さ (バッテリー・SDカード含む)
FUJIFILM X-M5 APS-C 非搭載 非搭載 111.9 × 66.6 × 38mm 約355g
FUJIFILM X-E5 APS-C 搭載 搭載 124.9 x 72.9 x 39.1mm 約445g
FUJIFILM X-T5 APS-C 搭載 搭載 129.5 × 91 × 63.8mm 約557g
FUJIFILM GFX50S II ラージフォーマット 搭載 搭載 150.0 x 104.2 x 87.2mm 約900g

作例

1か月にわたり訪れた中東・ヨーロッパの中から、今回はアラブ首長国連邦(UAE)のドバイとアブダビで撮影した作品をご覧いただきながら、このカメラの使い勝手を見ていきたいと思います。

いつも現地に向かう飛行機内から撮影は始まります。パンケーキレンズ(XF27mmF2.8)をつけたX-M5は、シートポケットにも入ってしまうサイズ感。撮りたい景色が現れたときに、ゴソゴソとバッグを探る必要がなく、パッと取り出して撮影に臨むことができました。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF27mmF2.8
■撮影環境:F8 SS1/680秒 ISO200 焦点距離27mm
■撮影地:上海上空(機内より)

サウジアラビア上空を飛行中、砂漠の中に不思議な穴がたくさん現れました。見た時にビックリして慌てて撮影しましたが、後で調べると地下水を利用した「円形農業」だそうです。予期せぬシャッターチャンスにも、小型軽量なX-M5は素早く対応できました。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF27mmF2.8
■撮影環境:F9 SS1/1700秒 ISO320 焦点距離27mm
■撮影地:サウジアラビア上空(機内より)

最初の目的地、ドバイに到着。宿にチェックインして早速夕食がてらX-M5一台で散策に出かけました。最新の画像処理エンジンを搭載しているので、ノイズを気にせず夜も綺麗に撮影できます。ドバイは高層ビル群のイメージがありましたが、こんな下町のようなところもありました。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF27mmF2.8
■撮影環境:F4 SS1/240秒 ISO400 焦点距離27mm
■撮影地:デイラ地区(ドバイ)

翌朝も日の出前から散策に。真っ赤に染まった空が印象的でした。フィルムシミュレーションをベルビアに設定して撮影しましたが、本体上面に専用のフィルムシミュレーションダイヤルがついているので、メニュー画面を開くことなく瞬時に変更することができ、光の状況に応じた色表現をすぐに試せるのがとても便利です。また、ISO3200で撮影しましたが十分に質感の高い描写が得られています。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF27mmF2.8
■撮影環境:F5 SS1/58秒 ISO3200 焦点距離27mm
■撮影地:ドバイ・クリーク(ドバイ)

通勤の人々に交じり川を渡る船に乗って対岸のインド人街へ渡りました。なんと料金はわずか1ディラハム(約40円)。物価の高い印象のドバイでしたが、海外からの出稼ぎ労働者のために公共交通は安価に設定されています。白と赤の装飾が施されたガネーシャ像がF2.8の明るい単焦点レンズとX-Trans CMOSセンサーの描写力が組み合わさることで、像を囲むジャスミンの花飾りや、台座に置かれたコイン、供え物といった繊細なディテール、そして鮮やかな色彩が際立ちました。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF27mmF2.8
■撮影環境:F2.8 SS1/100秒 ISO400 焦点距離27mm
■撮影地:ドバイ旧市街(ドバイ)

途中で見つけた子猫です。コンパクトなX-M5は、大きなカメラを構えるよりも警戒心を与えにくく、自然な表情を捉えやすいというメリットがあります。また、動物検出AFのおかげで、素早く正確に瞳にピントを合わせることができました。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF27mmF2.8
■撮影環境:F3.6 SS1/70秒 ISO3200 焦点距離27mm
■撮影地:ドバイ旧市街(ドバイ)

いよいよドバイの象徴ともいえる世界で最も高いビル「ブルジュ・ハリファ」(828m)にやってきました。刻々と変わるライトアップは、まさに近未来の都市を連想させます。この時は、広角で迫力を出すために広角ズームレンズを使用しました。X-M5はコンパクトですが、Xマウントの豊富なレンズ資産を活かせるのが大きな強みです。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF10-24mmF4 R OIS
■撮影環境:F4.5 SS1/38秒 ISO1250 焦点距離10mm
■撮影地:ブルジュ・ハリファ(ドバイ)

そして、ブルジュ・ハリファの展望台から見下ろすドバイの夜景です。宝石を散りばめたような街の光がどこまでも広がり、その壮大さに息を飲みました。手持ちでの夜景撮影は難しいものですが、軽量なX-M5と光学手ブレ補正付きのXF10-24mmF4 R OISレンズの組み合わせにより、SS1/6秒という低速シャッターでも、クリアに夜景を捉えることができました。高感度ISO1250でもノイズを抑えた描写は、X-Processor 5の処理性能の高さを示しています。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF10-24mmF4 R OIS
■撮影環境:F4 SS1/6秒 ISO1250 焦点距離10mm
■撮影地:ブルジュ・ハリファ展望台(アラブ首長国連邦)

展望台に上がるためのチケットも、旅の貴重な記録です。小型軽量なX-M5は、片手でサッと構えて撮れるため、チケットのような何気ないスナップも、大きなカメラを持ち出す煩わしさなく、ボケを活かした高画質で残すことができました。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF27mmF2.8
■撮影環境:F2.8 SS1/100秒 ISO640 焦点距離27mm
■撮影地:ブルジュ・ハリファ(ドバイ)

人気のアラブ料理のレストランに行きました。軽装で出かけたいこんな時でも、X-M5とパンケーキレンズの組み合わせは「持って行こう」という気にさせてくれる、絶妙なサイズ感です。またこのように料理を俯瞰で撮影する際にバリアングル式の液晶モニターはとても役に立ちます。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF27mmF2.8
■撮影環境:F5.6 SS1/90秒 ISO320 焦点距離27mm
■撮影地:ドバイ旧市街(アラブ首長国連邦)

アラブ首長国連邦唯一の世界遺産「アル・アインの考古遺跡」です。その中にあるアル・アイン・オアシスは約1,200ヘクタール(東京ドーム約250個分)の広大な敷地に、14万本以上のナツメヤシの木が茂り、その他にも約100種類の作物が栽培されています。広い敷地内を歩かなくてはいけませんでしたが、X-M5なら長時間首にかけていても苦になりませんでした。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF27mmF2.8
■撮影環境:F8 SS1/85秒 ISO400 焦点距離27mm
■撮影地:アル・アイン・オアシス(アブダビ)

同じくアル・アインにあるアル・ジャヒリ要塞で捉えた、日の出の瞬間です。1890年代にザイード1世の指示のもと、アル・ナヒヤーン家の居住地として建設されました。小型軽量のX-M5だからこそ、光が刻一刻と変化する中で、慌てず最適なポジションを探して撮影できます。F値をF14まで絞り込み、太陽の光を光芒として表現することができました。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF27mmF2.8
■撮影環境:F14 SS1/800秒 ISO160 焦点距離27mm
■撮影地:アル・ジャヒリ要塞(アブダビ)

活気あふれるマーケットでの一コマです。人物を撮るときにもこのカメラは大活躍してくれました。

普段はファインダーを覗いて撮ることが多い私ですが、X-M5はそもそもファインダーがないため液晶モニターで撮影することになります。しかし、あえてそうすることで、被写体である相手と会話しながらシャッターを切ることができ、結果的に(相手との)距離感がぐっと近くなるというメリットを実感しました。また、最新の被写体検出AFが笑顔を逃さず、迅速にピントを合わせてくれます。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF27mmF2.8
■撮影環境:F3.2 SS1/40秒 ISO400 焦点距離27mm
■撮影地:アル・アイン市場(アブダビ)

鮮やかに並べられたフルーツの色再現性の高さは富士フイルムのカメラが最も得意とするところだと思います。特にベルビアなどのフィルムシミュレーションを使えば、旅先の記憶をより鮮明に残すことができます。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF27mmF2.8
■撮影環境:F3.2 SS1/125秒 ISO400 焦点距離27mm
■撮影地:アル・アイン市場(アブダビ)

アブダビにあるとても美しいモスク「シェイク・ザイード・グランド・モスク」です。巨額の建設費を投入して建てられ、世界最大のペルシャ絨毯とスワロフスキーのシャンデリアなど、東西の建築様式と最高級の贅を尽くした白亜のモスクです。夕暮れ時、空の色が刻々と変わる壮大なモスクの外観を捉えました。夕日に照らされた白亜のドームとミナレットの美しい色が際立っています。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF27mmF2.8
■撮影環境:F3.2 SS1/900秒 ISO320 焦点距離27mm
■撮影地:シェイク・ザイード・グランド・モスク(アブダビ)

手ブレ補正が非搭載の状態で、SS1/38秒という手持ちギリギリのシャッタースピードでしたが、軽量なX-M5は驚くほど安定して構えられクリアに描写することができました。最新のX-Processor 5による高いノイズ処理能力と相まって、「手ブレ補正がない」という弱点を小型軽量化されたボディーが補ってくれることを実証してくれました。

■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF27mmF2.8
■撮影環境:F3.2 SS1/38秒 ISO400 焦点距離27mm
■撮影地:シェイク・ザイード・グランド・モスク(アブダビ)
■撮影機材:FUJIFILM X-M5 + XF27mmF2.8
■撮影環境:F3.2 SS1/750秒 ISO2000 焦点距離27mm
■撮影地:シェイク・ザイード・グランド・モスク(アブダビ)

このモスクの美しさをX-M5を使って動画も撮りましたのでご覧ください。バリアングル液晶により自由度の高い撮影が可能です。

まとめ

電子ビューファインダー(EVF)やボディ内手ブレ補正などの機能が削られている分、メインのカメラとしては少し物足りなさを感じる方もいるかもしれません。しかし、その「削ぎ落とし」のおかげで実現した軽快さとリーズナブルな価格は、私にとってX-M5を最強のサブ機に変えてくれました。

普段なら「スマホでいいか」と思うような場面でも、このカメラなら気軽に取り出して撮影できますし、その画質は他のXシリーズに何ら引けを取りません。

「常に持ち歩ける」という機動性が、街中でふと撮影したスナップを作品に変えるという可能性を秘めたカメラです。旅や日常のスナップをより豊かにしたいすべての方におすすめできます。

 

 

■写真家:三田崇博
1975年奈良県生駒市生まれ。世界遺産撮影をライフワークとし現在までに100を超える国と地域で400か所以上の世界遺産を撮影。定期的に全国各地で開催している写真展は100回を超える。各種雑誌やカレンダーへの作品掲載も多数。主な著書に「世界三十六景」「生駒の火祭り」がある。
日本写真家協会(JPS)会員・FUJIFILM X-Photographer

 

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