X-T5と巡るカンボジアの世界遺産|三田崇博 海外撮影記

三田崇博
X-T5と巡るカンボジアの世界遺産|三田崇博 海外撮影記

はじめに

こんにちは。旅写真家の三田崇博です。今年4月から5月にかけてタイとカンボジアに撮影に行ってきました。日本の夏もとても暑いですがこの時期はカンボジアでも一番暑い季節となります。カンボジアは二度目の訪問でしたが、今回はカンボジアにある世界遺産3か所すべてを撮影することができたので、カンボジアを中心に撮影記をお届けしたいと思います。

海外旅行の現状について(2023年8月現在)

昨年ヨーロッパの記事を執筆してから約1年が経ちますが、海外に出かける方も増えてきましたね。円安の影響が続いているのでヨーロッパやアメリカ方面はどうしても割高感が否めませんが、アジア方面だとまだ日本より物価が安いので行きやすいのではないかと思います。航空会社の選択肢も去年に比べて増えてきたので、LCCなどを利用すれば費用を抑えた旅行も可能です。

持参した機材

今回は富士フイルム X-T5とラージフォーマットのGFX50S IIの二台を使って撮影を行いました。X-T5はAPS-Cフォーマットでありながら4020万画素の高解像度を誇るカメラです。トリミング耐性が強いので望遠レンズを使う機会が減りました。レンズはX-T5には主にXF16-80mmF4 R OIS WRを、GFX50S IIにはGF20-35mmF4 R WRを使い、広角から中望遠までの撮影を中心に行いました。

バンコクからカンボジアへ

タイの首都バンコクからカンボジアまではもちろん飛行機がありますが、国境まで行く鉄道があるので今回はそちらを使っていくことにしました。一日2本しかない鉄道に乗る予定でしたが、スマホで調べた駅には止まらないことが駅に着いてから分かり、始発駅まで戻る事態に。スマホ検索はとても便利ですが、海外では時々間違っていることもあるので注意が必要です。

結局予定していた鉄道には乗れず、途中の町まで行く鉄道に乗ることになりました。その代わりたっぷりと待ち時間ができたので駅構内を撮影してみました。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F8 SS1/125秒 ISO800 焦点距離16mm

鉄道に乗れたのは午後3時半。そこから終点のカビンブリという町まで約2時間半の鉄道の旅です。一番安い3等車両ですが、窓を開けることができるので写真を撮るには案外良かったりします。車内からの撮影ではシャッター速度を速めるために感度を少し高めに設定して、手前の木などが入らないタイミングで撮影します。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F4.5 SS1/4700秒 ISO800 焦点距離76mm

東南アジアではよくあることですが、鉄道の到着が予定より大幅に遅れました。レストランもほとんど閉まっていたので駅前の屋台で麺を食べました。これで50バーツ(約200円)です。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F6.4 SS1/105秒 ISO800 焦点距離24mm

翌朝再び国境に向かう鉄道に乗り込みました。鉄道がホームに入ってくるときはシャッターチャンスです。連写していい位置に鉄道が入ったものを選びました。X-T5は15コマ/秒の連写が可能なのでこういったシーンも撮り逃しが少なくなります。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F6.4 SS1/1000秒 ISO400 焦点距離16mm

国境の駅に到着するとそこからは徒歩でカンボジアに入国することができました。なんとバンコクからここまでかかった鉄道の費用はたった300円ほどでした・・・。

世界遺産アンコール遺跡へ

カンボジアでは呼び込みに誘われたバスで3時間揺られ、有名なアンコールワットのあるシェムリアップの町に無事に到着することができました。すると、バスを降りた目の前をお祭りらしきパレードが通りすぎていきました。慌てて走って追いかけて撮影できました。咄嗟の判断でした。後で聞いたところによると、その日は仏誕節という祝日で、カンボジア全土でお祭りが開催されていたそうです。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F7.1 SS1/420秒 ISO250 焦点距離18mm

カンボジアを訪れた5月は1年の内でも最も暑い季節にあたり、気温が40度くらいまで上がるのですが、湿気が少ないので木陰に入ると温度ほどの暑さは感じません。南国らしい赤い火炎樹と呼ばれる花が咲き、緑との対比が綺麗でした。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F7.1 SS1/320秒 ISO400 焦点距離80mm

そしていよいよアンコール遺跡へ。ちなみに世界遺産には「アンコール遺跡群」として登録されていて、アンコールワットはその構成資産のひとつです。遺跡に入るには入場券が必要で、これがカンボジアの物価を考えるととても高いのです。1日券37ドル、2日券62ドル、7日券72ドルとなっています。ちなみにカンボジアではアメリカドルをそのまま使うことができます。

日の出撮影で定番のアンコールワットの西側に位置する池ですが、北側と南側の2か所があります。以前に訪れたときは北池から撮影したのですが、今回は北池がフェンスに囲まれていて撮影に適さなかったので南池からの撮影にしました。日の出の撮影は暗い中で位置を決めないといけないので事前のロケハンはとても重要です。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F8 SS1/140秒 ISO200 焦点距離86mm

それでもうまくいかないこともあります。翌日朝5時に行くとすでに人だかりができていました。仕方なく翌日に再度チャレンジ。アンコールワットの入場ゲートは5時に開くのですが、4時半から待機して開門と同時に走って撮影場所に向かいました。

実はこの木と木の間に寺院が見えるベストポイントは1人か2人しか三脚を立てるスペースがないのです。なんとか場所を確保し、その後はじっと日の出の時を待ちます。この日の日の出時間は5時半ごろでした。ちなみに日本と比べると季節による日の出時間の変化は緯度の関係で少ないです。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F10 SS1/950秒 ISO250 焦点距離20mm

ラージフォーマットのGFXで撮影すると、日の出前の明暗差の激しいシーンでも黒つぶれすることなく撮影できます。実際には撮影するときには暗く写るのですが、その中にしっかりと諧調が残っているので、後から画像を調整して遺跡の細部を出すことができます。これがラージフォーマットカメラを使う理由のひとつです。

■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + GF100-200mmF5.6 R LM OIS WR
■撮影環境:F18 SS0.62秒 ISO200 焦点距離70mm

アンコール遺跡群の中でアンコールワットの次に有名なのが、バイヨン寺院のあるアンコール・トムです。残念ながらバイヨン寺院の人面像付近は立ち入り禁止になっていたので寺院全体を中心に撮影しました。偶然通りかかったオレンジの袈裟を着た僧侶をワンポイントに画面構成してみました。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F10 SS1/125秒 ISO320 焦点距離29mm

アンコール遺跡群の夕日スポットと言えば、まず候補にあがるのがプノン・バケンです。アンコールワットよりも古い時代に作られたこの寺院は高さ65mの丘の上に建っているので、ここまでは30分ほど坂を登らなくてはいけません。しかし登り切ったその先には遠くジャングルに沈む夕日の姿が。皆さんは夕日だけ撮影していましたが、やはりここでは遺跡と一緒に撮影することに拘りました。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F7.1 SS1/640秒 ISO640 焦点距離54mm

ここは日が沈むと係員に帰るように促されます。ふと後ろを振り返ると満月が昇っていました。係員が退場を促している中で一枚だけ撮影することができました。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F7.1 SS1/75秒 ISO2500 焦点距離63mm

翌朝は昔撮影した北池からの撮影にチャレンジしました。フェンスに覆われているので三脚を手で持ち上げての非常に不安定な位置からの撮影です。セルフタイマーにして液晶モニターを見ながら水平を合わせて撮影します。軽量のミラーレスカメラだからこその撮影手法です。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F10 SS1/350秒 ISO400 焦点距離20mm

世界遺産プレアヴィヒア寺院へ

タイとカンボジアの国境付近にある世界遺産プレアヴィヒア寺院。ここは長らく治安的な理由で行くのが困難な場所でした。現在は安定しているとのことで初めて訪れることができました。アンコール遺跡から車で約3時間、公共の交通手段はありませんので訪れる旅行者はまだ少ない印象です。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F8 SS1/150秒 ISO200 焦点距離18mm

この遺跡は「天空の寺院」と呼ばれ山の頂上に位置するのですが、入口から登りの階段が延々と続きます。炎天下で遮るものがなくカメラも時折高温警告が出るくらいの気温でした。日本の夏も近年はとても暑いですがカンボジアはそれ以上です。

■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + GF20-35mmF4 R WR
■撮影環境:F18 SS1/15秒 ISO200 焦点距離26mm

寺院の内部では法要が営まれていました。撮影させてもらうことができましたが、X-T5の強力な手ブレ補正に助けられスローシャッターでもブレのない写真を撮ることができました。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F8 SS1/10秒 ISO800 焦点距離16mm

途中、子供たちが無邪気に話かけてきます。カンボジアの子供たちは純朴で写真撮影にも気軽に応じてくれる印象でした。撮らせてもらったお礼に持っていたお菓子を渡すと満面の笑みで喜んでくれました。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F7.1 SS1/210秒 ISO200 焦点距離26mm

世界遺産サンボー・プレイ・クック遺跡群へ

最後の世界遺産は2017年に登録されたばかりのサンボー・プレイ・クック遺跡群です。場所はアンコール遺跡のあるシェムリアップと首都プノンペンのちょうど中間にあり、コンポントムという町が遺跡に行く起点となります。

コンポントムの街中で見かけた移動販売車です。こんなに大きな荷車をスクーターで・・・びっくりしました。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F8 SS1/400秒 ISO400 焦点距離70mm

世界遺産の遺跡までは町から車で1時間ほどかかります。まだ世界遺産になって間もなく、まだまだ整備されていないように感じました。その分訪れる人も少なくゆっくりと撮影して回ることができました。降雨でできた水たまりがあったのでカメラを水面ギリギリに構えて撮影してみました。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F7.1 SS1/85秒 ISO400 焦点距離16mm

一瞬巨大な木に見えますが、張り巡らされた根の中に遺跡があります。どのようにしてこうなったのか想像がつきませんが、植物の生命力を感じさせる場面でした。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F8 SS1/52秒 ISO800 焦点距離34mm

構造物の中はどうなっているのかというと、天井に向かってすぼんでいて天の部分に明かり窓が設けられています。明暗差の大きなシーンですが、しっかりと暗部の諧調も出てくれました。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F8 SS1/5秒 ISO800 焦点距離16mm

遺跡内には他に人の姿がほとんどありませんでしたが、唯一出会った少年僧を遺跡と一緒に撮らせてもらいました。カンボジア人のほとんどが仏教徒で若いうちに多くの人が出家します。

■撮影機材:FUJIFILM GFX50S II + GF20-35mmF4 R WR
■撮影環境:F13 SS1/42秒 ISO200 焦点距離35mm

首都プノンペンへ

一通り世界遺産の撮影を終え、最後に首都のプノンペンに行きました。さすがに首都だけあって高層ビルが立ち並び、昼も夜もとても賑やかです。感度を上げて手持ち夜景スナップをしてみましたが、ノイズも少なく4020万画素機としてはとても優秀な高感度の描写です。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F7.1 SS1/14秒 ISO2500 焦点距離45mm

川沿いにある寺院を訪れてみました。市民の憩いの場となっていて朝早くから多くの人で賑わっていましたが、とりわけ鳩に餌をやる人が多くその様子を撮影しました。X-T5は被写体認識機能が搭載されているので、高速で飛ぶ鳩にもうまくピントを合わせてくれました。

■撮影機材:FUJIFILM X-T5 + XF16-80mmF4 R OIS WR
■撮影環境:F8 SS1/350秒 ISO800 焦点距離80mm

まとめ

カンボジアの世界遺産はアンコールワットが有名ですが、他の二か所の遺産はアクセスが不便ということもあり観光地化され過ぎていない素朴な雰囲気が楽しめるのが魅力です。カンボジアには日本からの直行便はありませんが、タイのバンコクやベトナムのホーチミンから空路や陸路で簡単に行くことができます。ぜひ皆さんも機会があれば訪れてみてください。

今回はX-T5にはXF16-80mmF4 R OIS WRをほとんどつけっぱなしにしていましたが、多少の望遠はデジタルテレコンを使うことによって撮影できてしまうので、ほとんどの撮影をこの組み合わせですることができました。また、GFX50S IIはGF20-35mmF4 R WRとの組み合わせで主に広角系の撮影に使用しました。海外の撮影でもこれら2台のカメラと2本のレンズでかなりの部分をこなせてしまうので、旅行に持っていく機材に悩んだ際はぜひ参考にしてみてくださいね。

【今回撮影した世界遺産】
・アンコールの遺跡群(文化遺産・1992年登録)
・プレアヴィヒア寺院(文化遺産・2008年登録)
・サンボー・プレイ・クック(文化遺産・2017年登録)

 

 

■写真家:三田崇博
1975年奈良県生駒市生まれ。旅好きが高じ、現在までに100を超える国と地域で350か所以上の世界遺産の撮影を行う。作品は各種雑誌やカレンダーへの掲載に加え全国各地で写真展を開催している。
日本写真家協会(JPS)会員・FUJIFILM X-Photographer・アカデミーX講師

 

 

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