デジタルカメラの新アプローチ!フィルム&デジタルの融合 富士フイルム X half

鈴木啓太|urban
デジタルカメラの新アプローチ!フィルム&デジタルの融合 富士フイルム X half

はじめに

こんにちは!フォトグラファーの鈴木啓太|urbanです。長年オールドレンズやフィルムを中心にポートレート、スナップ、家族写真を撮影しております。今回は製品発表から発売まで話題をさらい続けた大人気コンデジ、FUJIFILM X halfを紹介していきます。富士フイルムといえば、未だX100VIも根強い人気の中、よりアナログなアプローチで登場したX half。その魅力を紐解いていきたいと思います。

体験型コンパクトデジタルカメラ:X half

まず初めに、FUJIFILM X halfについておさらいしていきましょう。X halfは富士フイルムが2025年6月26日に発売した、フィルム時代のハーフサイズカメラをモチーフとしたコンパクトデジタルカメラです。通常のカメラでは横位置での撮影が基本のところ、ハーフサイズカメラ同様、縦位置での写真(横 3 : 縦 4という縦長フォーマット)を基本スタイルとしています。我々が日常的に使うスマートフォンも同様、基本位置で縦写真が撮れるスタイルなので、違和感なく使いこなすことができるという特徴があります。

また、従来のフィルムカメラの所作を味わえるようなデザインが成されており、巻き上げ機構を模したレバーや露出補正リングなどを取り入れた外観となっています。一方、インターフェースにはタッチ操作を採用しており、従来の十字レバーやファンクションキーなどはありません。ボディ自体非常に小さいため、敢えて採用しなかったと推察しますが、スマートフォンと比較するとタッチ操作の感度が低く、ほとんどの操作にタッチ操作を強いられるためやや使いにくいといった印象を受けます。

機能面ではフィルムシミュレーション、グレインエフェクトと言ったXシリーズの特徴もしっかりと継承されています。新たにライトリークや期限切れフィルムを模したフィルターも内蔵され、日付入りのスタンプを撮影時に入れることも可能であるなど、よりフィルムライクに楽しめるカメラです。後述するレバー操作や2枚の縦構図を組み合わせ1枚の画像として出力する2in1機能、そしてフィルムカメラモードなど、過去のどのXシリーズよりもフィルムカメラを意識した作りとなっています。

■使用フィルター:ライトリーク
■モデル:南条葉月
ライトリークの位置はランダム。偶発的な要素が加わることでよりフィルムライクな表現を得ることができます。
■使用フィルター:期限切れフィルム(ニュートラル)
驚きのフィルターですが、まさに期限切れ感をうまく表現しています。レトロな街並みを撮ることで昭和のような写真となりました。
■フィルムシミュレーション:ACROS
大人気ACROSも健在。日付も入れることができますが、モノクロで撮った日付はモノクロにしてほしいですね!ちょっと惜しい…

1インチセンサーと侮るなかれ!Xシリーズの超新星

■フィルムシミュレーション:REALA ACE

さて、まずはX halfの描写を見ていきましょう。富士フイルムのXシリーズはAPS-Cセンサーをメインとしますが、X halfで採用された1インチセンサーはその半分よりやや大きい程度。センサーサイズが大きいとより多くの光と情報を取り込むことができるため、暗所耐性の向上や豊かな諧調表現が得られるというメリットがあります。

センサーサイズの小ささにより十分な描写が得られないのではないかと心配になるかもしれませんが、作例を見てわかる通り、1インチセンサーとは思えない描写となっています。それもそのはず、X halfは非球面レンズを3枚も使っており、小さなセンサーサイズをカバーするかのような贅沢な構成が魅力です。

■フィルムシミュレーション:ACROS
モノクロの諧調もご覧の通り!なめらかなグラデーションが表現できており、これ1インチ?と衝撃を受けました。

レンズは10.8mm F2.8(フルサイズ換算32mm)というちょっと珍しいタイプのレンズになっています。これは写ルンですと同じ焦点距離となり、日常を写すのにとても収まりの良い画角。AFは決して速いとは言えないものの、素早くスナップするというよりは気になるものを記録するといったテンポで撮影すれば、特に問題になるものではありません。

F値もF2.8~11まで選択できますが、個人的にオススメなのはプログラムオートで撮影するスタイル。プログラムオートは設定をカメラに任せ、撮影にのみ集中できるとても使いやすいもの。その昔CONTAX T2というフィルムカメラがあったのですが、それと同様のスタイルでサクサク撮影することができます。

■フィルムシミュレーション:クラシックネガ
これは最短ではないですが、最短撮影距離は0.1m!かなりの接写もできます。接写時のAFはピントが合いにくいので、MFモードを使った方が良いでしょう。クラシックネガは露出補正+2/3でよりフィルムライクに早変わり!

フィルムシミュレーションは13モード搭載されており、最新となるREALA ACEから人気のクラシックネガ、クラシッククローム、そしてACROSまで十分な種類のシミュレーションが搭載されています。

RAW現像ができないのは賛否両論意見がはっきりと分かれるところではありますが、小さなセンサーサイズの写真をRAW現像するよりもフィルムシミュレーションの撮って出しメインで楽しむ機種だと割り切ったほうが良いでしょう。その場合、自分のRAW現像傾向(例えばRAW現像では露出を少し+にするという方は、撮影時から露出補正を+にしておくなど)を撮影時に設定しておくと、満足する結果が得られると思います。

ここからはスナップ、風景、ポートレート等さまざまな作例をご覧ください。

■フィルムシミュレーション:REALA ACE
■フィルムシミュレーション:REALA ACE
■フィルムシミュレーション:REALA ACE
■フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ
■使用フィルター:ライトリーク
■モデル:とみた
■衣装・スタイリング:_room_no_000
■フィルムシミュレーション:REALA ACE
■モデル:とみた
■衣装・スタイリング:_room_no_000
■フィルムシミュレーション:クラシックネガ

X half最大の特徴 ハーフカメラモード&フィルムカメラモード

まずは本機の特徴でもあるハーフカメラモードを見ていきましょう。このモードは撮影しながら2in1を作る方法と、アプリ側で2in1を作る2つのモードがあります。前者は1ショットしてレバーを倒すことで、組となるもう1枚を撮影することができます。その場その場で組を考える必要があり、やや難易度は高いものの、フィルムカメラと同じ撮影方法となり、組写真の力を鍛えることも可能です!

もちろん後者のように、単写真で撮影してそれを後から組写真としてセレクトするということもできますので、撮って終わりじゃないのが面白いですよね。

RAWファイルが記録されないのもX halfの仕様ですが、RAW現像時間を組写真セレクトに置き換えることができるので、個人的にはアリな仕様と評価しています。

面白いのが、中央の線の太さを変えることができる機能です。フィルムカメラによってコマ感(中央の線)はバラバラですので、それを変えられるのには感心しました。

次は本機のもうひとつの特徴である、背面液晶を使わずにファインダーだけで撮影するフィルムカメラモードを紹介します。こちらは特にフィルムカメラの経験がない方向けで、その所作を疑似体験できる様になっており、撮影時には結果がわからないというワクワクを味わうことができます。デジタルカメラにも関わらず、1枚1枚しっかりと大切にシャッターを切る楽しさはまさにフィルムカメラに近しいものがあります。

筆者は現在もなおフィルムカメラを日常的に使っている為、ファインダーに近距離時の撮影範囲確認枠(パララックス補正枠)がない、レバーの操作時にフィルムカメラ特有の巻き上げ感が無いなど、正直あと2〜3歩足りないと感じる所はあります。しかし、写ルンですで撮るあの感覚をデジタルカメラで楽しめるのは、特筆すべきものです。まさにデジタル写ルンですだと割り切ってしまえば、先述の欠点も許せるかな?と思えてくるので、そのくらいの懐の広さで使った方がストレスなく楽しめるでしょう。

フィルムカメラモード。撮影した後は右肩のレバーを回さないと次の写真を撮ることができません。撮って巻くという行為がフィルムカメラに近しいリズムを運んでくれます。
撮影後はX halfスマートフォンアプリを経由することでフィルムを現像することができます。撮り終えた結果を思い返しながら見るのも楽しいポイントのひとつ。

フィルムカメラモードは途中終了できるものの、基本的に最小36ショットを撮り終わるまで内容を確認することができません。現像に1枚1枚時間がかかるところもスローに楽しむ良さが伝わってきます。

X halfに向いている人、向いていない人

■フィルムシミュレーション:クラシックネガ

X halfは全デジタルカメラの中でもとがった部類のカメラです。この機種をお勧めできる方は次のような方です。

1. フィルムカメラに興味はあるけど、コストもかかるし手軽に疑似体験したい
2. カメラは撮影に加えて、撮るまでの所作も楽しみたい

 
本機のメインターゲットは1と考えられ、特にコスト面でフィルムを断念している方には非常に刺さる機種といえます。X halfを買うためのイニシャルコストはかかるものの、フィルムを買うためのランニングコストはかからない為、フィルム1本2000円換算とすれば50本分程度で購入できてしまいます。また、2の方にも刺さるカメラでしょう。

富士フイルムのカメラに見られる物理ダイヤルでの細かな操作をするのが好きな方、フィルムカメラの操作性が好きな方は非常に楽しめる機種だと思います。

逆に不向きと考えるのは次の様な方です。

3. フィルムカメラと全く同じ感覚でデジタルカメラを使いたい
4. 撮った写真は常にRAW現像で仕上げたい

人にもよりますが3に該当する、今もフィルムカメラを使っているこだわり派の方には、残念ながら本機種の体験度は本物と比べ2〜3歩足りないと感じてしまいます。寄った場合のフレームはアバウト、レバーの感覚がフィルムカメラとは異なるなど、高性能のフィルムカメラを使っている方こそ、気になってしまう項目が多いと感じます。逆に写ルンです程度の使用感で良ければ十分満足できる体験になると考えます。

4の方は、GRやRXシリーズなど高級コンデジ路線を使った方が納得感はあるでしょう。JPEGでも現像は可能ですが、スマホアプリ等で現像してしまうとX halfアプリで写真を読み込めなくなってしまうなど、制約が発生するのも悩ましいポイントです。

■フィルムシミュレーション:REALA ACE
■フィルムシミュレーション:REALA ACE
■フィルムシミュレーション:Velvia
■フィルムシミュレーション:ノスタルジックネガ

フィルムカメラのように全てをX halfで完結させるというのが主たる使い方ですので、肩肘を張らず身を委ね、日常をスケッチするくらいの感覚で使用してみましょう。

まとめ

■フィルムシミュレーション:Velvia

デジタルハーフカメラが発売される?と噂になっていた当初は、全く想像もできないカメラでしたが、製品がリリースされてからはそう来たか!と納得の機種となりました。フィルムカメラさながらの操作に重きを置く本機は、フィルムカメラの操作体験には及ばないものの、撮影の楽しさを享受できる体験型のカメラです。

現在のデジタルカメラは体験よりも高画素、高性能化に重きを置かれることが多く、こういった撮影体験にアプローチする機種は長年フィルムカメラを製造してきた富士フイルムならではの発想だなと考えさせられました。ロングセラーとなり、第2弾、第3弾とよりフィルムカメラの体験に近い機種が出てくれれば、もっともっと面白くなると思います。ぜひ買って応援しましょう!

実際にフィルムカメラを体験したい方は、僕が講師を務めるワークショップ「フィルムさんぽ」にもご参加いただければ嬉しいです!ではまた、次の記事でお会いしましょう!

 

 

■モデル:
・南条葉月(@nanjo_hazuki
・とみた(@158.cat

■衣装・スタイリング:_room_no_000

■フォトグラファー:鈴木啓太|urban
カメラ及びレンズメーカーでのセミナー講師をする傍ら、Web、雑誌、書籍での執筆、人物及びカタログ撮影等に加えフィルムやオールドレンズを使った写真をメインに活動。2017年より開始した「フィルムさんぽ/フランジバック」は月間延べ60人ほどの参加者を有する、関東最大のフィルム&オールドレンズワークショップに成長している。著書に「ポートレートのためのオールドレンズ入門」「ポートレートのためのオールドレンズ撮影マニュアル」がある。リコーフォトアカデミー講師。

 

関連記事

人気記事