話題の富士フイルム X halfを徹底考察|サイズは半分、画質は1/4、楽しさは2倍?

内田ユキオ
話題の富士フイルム X halfを徹底考察|サイズは半分、画質は1/4、楽しさは2倍?

X halfについて語るとき、我々の

「高画質だけが写真の価値ではない」だったか、X halfのコンセプトには共感します。「このボケがたまらないぜ」とうっとりしたり、額縁に入れて飾る立派な写真が撮りたいわけじゃなく、もっと気軽に写真を楽しみたい人がたくさんいるなら、その人たちにフィットするカメラがあっていいはず。

さらにパソコンに置き換えて考えれば、定期的にスペックが向上していくことは必須だとしてもペースは鈍化していて、一般的なユーザーにとってCPUのクロックなんかどうだっていいでしょう。カッコよくて小さいものに興味がシフトして当然です。

X100はいつでも持っていられるサイズで、いつでも持っていたくなるデザインで、大仰な一眼レフの全盛期にカウンターとして登場しました。それも第六世代になってマイノリティではなくなり、画質もサイズも価格もカワイイとは言いづらいものに。X10からの系譜(X10,X20,X30)やXQ2などセンサーサイズの小さなカメラがラインナップされていた時期もありますが、いまは空席です。
これはXシリーズに限ったことではなく、小さく軽くてオシャレで高品質なカメラが手薄で、そういうカメラを使う層はスマートフォン(以下スマホ)に吸収されたことになっています。

自分のことで考えてみると。スマホで音楽を聴くのが好きではないため、移動の際はDAP(デジタルオーディオプレイヤー)を持っています。音楽を聴くときはその世界に没頭したいから、スケジュールやブラウザから切り離したいのです。同じような考えで「スマホで写真を撮るのが好きではないからカメラは別に持ちたい」という人がいても不思議はないです。画面をタップするのではなくシャッターボタンが押したい、とか。
その一方で、今のカメラはコミュニケーションのツールとして不完全だと感じている人もいるでしょう。いつになったらBluetoothは安定するの?と思いませんか。スマートな専用アプリと連携して可能性が広がるカメラがあったらいいのに。

おそらく追い風となったのは、オールドコンデジ人気もあって「高画質には疲れてしまった」「使い切れない多機能はいらない」という意見が増えたこと。先ほど若者たちのスマホ離れが急速に進んでいるという記事も読みました。スマホに支配されている日々から自由になりたいらしいです。
写ルンですまで戻るのは無理でも、新品で買えるかっこいいコンデジが求められる環境は整った。X halfは期待にどれくらい応えられるカメラなのか興味が湧きます。

X halfの仕様については、それで文字数を稼ぐほうが不誠実に思えるので、メーカーのオフィシャルサイトを見てください。発売前にも関わらず、他にレビューもたくさんアップされています。写真との関わりによって感想が違うタイプのカメラだと思いますから、読み比べるのも面白いはずです。

ここからは、ガチのXユーザーでフィルムと青春を過ごした立場から、X halfの感想をまとめます。
※発売前のファームウェアによる評価

デザインとビルドクオリティ

箱の角を削り落としたようなX100に対して、X halfはボディの片側(持つほう)が丸くなっていて手に馴染みます。この曲線とシャッターボタン同軸の露出補正ダイヤルの存在感により、ライカM2に似ているように感じました。みんなの心にあるクラシックの原型。

重厚になるとコンセプトに反し、かといって安っぽくはならないよう配慮が感じられ、エッジは鋭く、トップにある筆記体の文字もプリントではなく刻印。定番のブラック、シルバーに加えてチャコールシルバーの3色展開で、どれかだけ質が落ちて見えることもありません。シチュエーションを作って撮り比べてみたので参考にしてください。

シルバー
チャコールシルバー
ブラック

付属のキャップはいただけないと思います。あえてチープにしてみました、という感じもしなかったです。
ストラップを吊るための輪が丸カンで、コールドシュー(電子接点のないホットシュー)があるなど開かれた仕様になっていて、サードパーティーで多くのアクセサリーが提供されるでしょう。ならば付属品はおまけと考えても、レンズキャップに「このカメラを甘く見ないで」というこだわりが欲しいところ。
アップルの伝説的デザイナーであるジョナサン・アイブはAirPodsについて、充電ケースが閉まるときの音が魅力を高めていると言ったそうです。使うたびにそれを感じて気分が良くなるから。

キャップは撮影ごとに付け外すもので、質感がいい、感触が心地よい、といった魅力があれば「このカメラを買ってよかった」「写真を撮るのが楽しい」といった気持ちをそのたび再確認できると思います。良い写真が撮れるかどうかは運でも、キャップの付け外しは誰にとっても平等なので。

操作性

電源レバーの方向が従来のXシリーズと逆なため、併用すると戸惑います。
タッチの反応、スワイプなどによる操作系は、すんなり馴染めず誤操作を招くことがありました。
再びiPhoneの話になりますが、いちばん苦労したのはマルチタッチで、根強かったキーボード派に対して想像を超える快適さを提供できなければ時代が逆戻りしてしまい、スマホに未来はないと考えたのだと本で読みました。

アプリとの連携はXシリーズでいちばん快適で、すぐ繋がり、説明書がなくても使えました。これがないと成立しない機能もあるためX halfの生命線とも言えます。ボディだけ見て高いと思ってしまうけれどアプリ開発にかなりコストをかけたのでは。
発売前なので街の端末でのプリントなどは試していませんが、そういったことも自由になっていたら楽しみが広がります。2-in-1やLight Leak(光線かぶりエフェクト)はプリントで見るのが楽しそう。

フィルターのいちばん人気はLight Leakと思われるため、ここではミラーを。
アイディアは浮かんでも実写するのが難しい2-in-1。二枚の間に繋がりがないと「アプリでやるほうが楽」となってしまう。

AFに鈍さを感じることがあり、個人的にはこのクラスのカメラならピンボケでもレリーズボタンを押したら撮れて欲しいです。対策としてパンフォーカスモードがあっても良かったのでは。自動的にF8くらいに絞り込まれてISO感度が上がりピントが固定されるような。

あとは以前から画像の削除がメニューにないデジタルカメラがあっていいと考えていて、X halfはチャンスだった気がするので見てみたかったです。その代わりというわけではないでしょうが、ストイックなフィルムカメラモードが搭載されています。

画質

ボケや収差をつついて批評するカメラではないため、「高画質ではないけれどコンパクトに最適化された絵作り」が見られるかもしれないと楽しみでした。実写してみて、各フィルムシミュレーションの個性を感じさせるのはさすがと思う反面、これがASTIAなのか、あのREALA ACEと同じものなのか、という疑問は残ります。

こういった記事でよく「すべてのXでフィルムシミュレーションを揃えているところはすごい」といった書き方をします。放送用機器で培われたレンズ製造技術や、フィルムに携わってきたノウハウが詰まっている、と。それと同じものがここに入っているとは言いづらいです。

かつてX-S1というカメラがあって、レンズ固定式なのに機種名にハイフンが入っていたため「ハイフンなしはレンズ固定式、ハイフンありはレンズ着脱式(ただしX-S1を除く)」と書かなければなりませんでした。これから(X halfは除く)と書きたくはないです。

狙って撮った感じが伝わると恥ずかしいですね。こういう写真はプリントを並べて見たいところ。上の四枚はすべてフィルムシミュレーションが違うのですが、それぞれ何かわかるでしょうか?
フィルム風エフェクトみたいにすることなく、繊細な違いにこだわったのはすごいと思います。

厳しめのことを書きましたが、スマホのようなメリハリのない絵作りではなく、ただのカラーモードほどチープで平面的でもなく、写真的なのは良いです。とくにホワイトバランスの変化など繊細で驚くほど。高画素の上位機種とは別の難しさがあると思うので、じつはこのサイズに落とし込んでいるほうがすごいのかもしれません。

クラシッククロームとベルビアで、ホワイトバランスを電球モードで比較。変化の繊細さと色の深みはさすが。

例えばX20は高性能な光学(レンズもファインダーもすごい)を備えていて、フィルムカメラとしても成立するボディを作り、そこに頑張ってデジタルの機能を押し込んだように見えました。それに対してX halfはクラシックカメラの外観を持ったソフトウェアに見えます。これはいい意味で、ファームアップやスマホとの連動で日ごとに成長するカメラになるなら楽しそうです。

ひと世代前のスマホとどれくらい画質が違うかな…と撮り比べている途中で、ふと「こんなことばかりやってきたから高画質だけが写真の価値じゃないとか言われちゃうんだろうな、高画質ハラスメントだったかも」と猛省。
画素数は近いのに、立体感、コントラスト、質感など、まるで別物。とはいえ過度な期待は禁物。
クラシックネガとグレイン・エフェクトの組み合わせをX halfで縦位置で撮る、という「まさに!」な一枚。

フィルムカメラモード

メニュー画面が変わり違うカメラに変化する感覚は、遊び心に満ちていて好きです。不自由さを楽しむ、うまく撮れなかったシャッターにも意味がある、というのも理解できたつもりです。

ただ枚数が多すぎると感じて、途中でやめたくなることが何度もありました。元々のハーフ判はフィルムが高いから半分にして倍も撮れるようにしたわけで、現代なら少ない枚数しか撮れないほうが豊かに思えます。レコードがCDの半分の時間しか収録できないのに、かえって豊かさを感じさせてくれるように。12枚を2倍にして24枚。6カット×4段でコンタクトシートが作れるくらいだとよかったです。

ちゃんとパーフォレーションとの濃度差があったり、遊びとして楽しい。コンタクトシートはフィルムの醍醐味のひとつだと思います。
最小の36枚撮りでも長く感じられ、一コマずつが小さくなってしまうので右くらいの枚数があってもよかったのでは。

総評として

ROLEXに対するTUDORのような存在をディフュージョンブランドと呼び、身近なところだとUNIQLOに対するGUも似ているかもしれません。価格が抑えられている分だけ品質は最上ではなく、けれども流行の先端にフォーカスした尖ったデザインのものがあります。ブランドが保守的になったとき、挑戦や実験をする場でもある。
X halfが(Xの前というシャレで)W halfといった名前で、六割くらいの価格に抑えられていたら手放しで絶賛します。ハーフ判の代名詞のようなオリンパスのペンは6,800円で、当時としても格安だったそう。フィルムは高いから・・・というハーフ判だからこそ安いところに存在価値が———と、こういう「俺はフィルムと青春を過ごしたのだ」「いい時代を知ってるからモノの違いがわかる」という面倒な世代の意見を、軽くいなしてゲームチェンジャーになって欲しいです。

X100だって理不尽なことをずいぶん言われていました。レンズ交換できないのに1000ドルを超えるなんて信じられない、フラッシュが美観を損ねている、ダイヤルは実用性に欠けた懐古趣味だ・・・。どれもが今では欠かせない魅力。

最初に書いたようにコンセプトに共感しますし、X-Pro2に感動したのと同じ口で褒めたくなかっただけ。「サイズは半分、画質は1/4、楽しさは2倍」かもしれない。2007年のiPhone以降に生まれた人たちが、ちょうどこれから成人になっていきます。その人たちが初めて買うカメラの候補がたくさんあることを願います。高画質を求める人しかわざわざカメラを買わない、というムードを揺さぶってもらいたい。

X100Sの頃まで、街で持っている人を見かけると「もっと安くて、もっとサクサク動いて、もっと売れてるカメラが他にあったでしょ?」と思いながらも、すごく嬉しかったものです。それよりずっと前には、カメラを持っていることがカッコいいとされ、ファッションアイテムとして人気だった時代もあります。あのときのような喜びをふたたび感じることができたなら。

高画質よりも大切なもの

これが2-in-1で撮れたら最高だったのに。
テクニックがどうとか考える前に、まずはシャッターを、と実践するのは意外に難しいもの。

台北の地下鉄の駅前で、友だちに新しいカメラを自慢している女の子がいて、箱に見覚えあると思って近づいたらX-M5でした。いいねと声をかけて写真を撮らせてもらったら「Xダイスキ〜!」だって。X halfを持っていたからかもしれません。
ぼくのバッグにはX100VIが入っていて、それならボケやカスタムされたフィルムシミュレーションを駆使していろんな撮り方ができるのに、いや、それ以前に箱をもうちょっと下げてもらおうか・・・と思いましたが、出会いがあったら余計なことを考える前にまずはシャッターで答えることを大切にしていきたいです。

 

 

■写真家:内田ユキオ
新潟県両津市(現在の佐渡市)生まれ。公務員を経てフリー写真家に。広告写真、タレントやミュージシャンの撮影を経て、映画や文学、音楽から強い影響を受ける。市井の人々や海外の都市のスナップに定評がある。執筆も手がけ、カメラ雑誌や新聞に寄稿。主な著書に「ライカとモノクロの日々」「いつもカメラが」など。自称「最後の文系写真家」であり公称「最初の筋肉写真家」。
富士フイルム公認 X-Photographer・リコー公認 GRist

 

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